第1話・消滅してもなお残存《のこ》る~決意を込めて切望す~
第4章 眩いからこそ深くなる
第1話・消滅してもなお残存る~決意を込めて切望す~
あの水の聖霊は、どこまで面倒なのか……
インスは内心で呪いの言葉を零しつつ、少し前に出てきたばかりの神官長室へと向かう。
アインがインスに話したのは、肩の怪我に残る魔力の痕跡に関して。
この怪我は三日前に、皇都の西にある旧都の廃離宮に見回りに行った際、西の塔の池で水の聖霊によって負わされたもの。
生まれたての水の聖霊は無邪気なまでに残酷で、インスの神経をこれでもかと逆なでて来た。
聖霊自身が、塔の中に残る、呪いに使われ、命を落とした子供たちの残した汚れか、火の神剣の残滓である魔力の、どちらか片方なら消せると言い出したので、存在を保つための力もすべて、根こそぎ使わせて両方を洗い流した。
当然、聖霊は消滅し、その寸前に、最期の力でインスに不満をぶつけるように反撃してきて……極小の水の球に右肩を貫かれてしまったと言う訳だ。
聖霊というのは、自然現象を司っている精霊の中でも最高位の存在。
神族に近しい純度の高位精霊の通称で、本来ならば人前に姿を現すようなことなど滅多にない。
また、力が強すぎて術者が制御しきれないことが多いため、基本的には精霊魔法に力を貸すこともないのだが、まだ生まれたてで幼かったことと、その誕生のプロセスにインスの血も使われていたため、インスの魔力との親和性が高く、もっと寄こせと絡んできた。
もちろん、インス自身がそれを許して、望んで提供したわけではない。
だから、まだ世を知らぬ聖霊を利用して、塔内の汚れと火の神剣の力の残滓を洗い流す魔法に使った。
それ自体は一切悔いはないのだが、問題は水の聖霊の誕生のプロセスにはアインの血も使われていた。ということ。
更に想定外だったのは、アインの血には、その体内に潜り込んでいる水の神剣の力まで含まれていて……結果、インスの肩の怪我には水の神剣の魔力がごく僅かに残っているらしい。
(……神剣の魔力が残る怪我は治らない……)
そのことは、アインの左腕の怪我が証明していた。
アインの左腕は、魔族が絡む大事件の際に、風の神剣から放たれた光る刃が掠めたことでできた怪我がある。
そこには強い魔力が残り、回復を妨げていた。
何しろ、縫合手術をしてあるのに、一切治る様子はなく、今も滲むような出血を続けていて、日に何度も包帯を変えざるを得ない。
インスの肩の怪我に残る魔力は、水の聖霊の残滓によるものなので、霞のようにごく僅か。
そのおかげで回復には殆ど影響を与えていないのだが、このままでは完治もしない可能性が高くなってしまった。
それに何より気に入らないのは、残っている魔力の残滓に、自分の魔力が混ざっていることに気付いてしまったアインが動揺してしまったこと。
あの水の聖霊が余計なことをせずに素直に消滅してくれていれば、アインが気に病むことなど何も起こらなかったというのに……
(……本当に、余計なことをしてくれましたね……!)
思わず舌打ちしてしまい、警備をしている神殿護衛官に睨まれる。
軽く頭を下げて謝意を示し、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
それから、漸くたどり着いた神官長室の扉をノックし、訪問を告げる。
病室に戻ったばかりのインスの訪問に訝りながらも招き入れられて、先ほどアインから聞いた話……インスの肩の怪我に、水の神剣の魔力がごく微量含まれていることを医務殿総括の医呪神官長・シリウムに伝えた。
「皇宮への報告前ですので、詳しいことは言えませんが、先の事件で流された血に魔力が残留していて、それを利用した者が居たのは確かです」
水の聖霊の存在自体は明かせない。
だから、利用した者の存在だけを伝える。
「……血に、魔力が残留するのか……?」
「私も詳しいことはわかりません。ですが、呪師の家柄の子供たちのことも『魔力を持った子』と言っていましたから、呪師の血筋の者には多かれ少なかれ血にも魔力が宿っているのかもしれませんね……同時に、体の外に出てしまった血に、ずっと残っているわけでもないのだろうと思います」
話を聞いて難しい顔をしたシリウムに、インスもすべてが分かっているわけではないので、考えられる可能性を言えるだけ。
「……ただ。アイン君が私と接触している時に落ち着きやすいのは、そのせいなのかもしれません」
「……どういう意味だ……?」
少し考えて続きを話し出したインスに訝る。
「あの場所にいたのは、私の血とアイン君の血……そこに宿っていた魔力を利用して生まれたものでした……つまり、そのせいで魔力的な繋がりが生じている。ということです」
「……なるほど……確かに、そう考えれば辻褄は合うな……」
説明にシリウムは腕を組んで頷く。
利用していた存在自体はもう消えているが、その残滓とでもいうべきものがまだインスの怪我にあるということ。
「アイン君の意図したものではありませんが、それに気づいてずいぶん落ち込んでいました」
言われて「だろうな……」と思う。
「問題はこの後です」
溜め息混じりにインスが言えば、
「……まだあるのか……」
シリウムも若干顔を顰めて先を促す。
「どちらかと言えば、こちらが本題ですね」
もう一度、インスが溜め息を漏らした。
「……アイン君が、治療をしたいそうです」
「はあ!?」
困ったように告げたインスに、思わずシリウムは声をひっくり返す。
「ですから私の怪我の治療に、アイン君が回復魔法をかけたいのだと言われました……理には、適っているんですよ……」
そう。インスが言う通り、アインの提案は理には適っているのだ。
魔法は使い手の魔力と、力を借りる対象……起こしたい現象を起こせる存在……の魔力とで構成される。
だからインスの怪我に残る、アインの魔力に働きかけるのはアイン自身が一番向いている。
けれどアインはまだ『見習い』だ。
勝手に魔法を使うことは禁止されている立場で、指導役、監督役なしに使うことは許されない。
更に今回使おうと考えているのは白魔法。
神官呪師にしか使えない魔法なので、インスが監督役になることもできない。
もし、アインに回復魔法を使わせるのならば、万が一失敗した時に備えて監督する神官呪師の同席が必要になる。
そしてその相手となると、医呪神官長であるシリウムが最適だ。
だからインスは「相談してからしか、どうするかを決められない。」とアインに告げて神官長室を訪ねたのだった。
第4章第1話をお読みいただきありがとうございます。
前回の緊迫した内緒話から一転、今回はインスの内心のぼやき(舌打ち付き!)から始まりました。
いつも冷静な彼をここまで苛立たせる原因と、アインとの間に生じていた不思議な繋がりの可能性が判明します。
インスにとっては「とんだ災難」から始まった今回の騒動ですが、アインにとっては自分の存在が誰かを傷つけているという、見過ごせない事態。
神剣の魔力が絡む「治らない怪我」という絶望的な状況に対し、アインが提示したあまりにも真っ直ぐな提案。
果たしてシリウムが下した決断は!?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




