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第5話・純粋なる善意の贈物《かたち》~囁き告げる言の葉の~

第3章 因果に舞いて堕つるのは



      第5話・純粋なる善意の贈物かたち~囁き告げる言の葉の~



 朝の早い時間から病室を出て、どこかに行ってしまったインスを待つ間、アインは本を読んでいた。



 運び込まれた当初は心肺停止の状態で、助かるかどうかは正直微妙。


 それでも……と医務殿の医師たちが総動員で処置に当たり、一命を取り留めた後も長く意識が戻らず……漸く退院までの目途がついて一般病棟に移ったのが半月ほど前。



 移った直後にまた体調が悪化してしまい、退院が延び延びになってしまっている。



 体力が回復しないと魔法での治療はできないし、魔法をかけても治りそうもない怪我もあって、本当に退院できるのかという不安もあった、



 特に、インスが先に退院して、数日一人で過ごしていた期間がとてもしんどくて……初めは「どうして食事が喉を通らないのか?」とか、「ちゃんと寝ている筈なのになぜ疲れが取れないどころか、どんどんしんどくなっていくのか?」とか一人でずっと考えていたりもした。



 一度様子を見に来てくれた、呪師寮で面倒を見てくれている先輩が帰った後、呪師学校の先生である神官からだといって何冊か絵本が届けられたけれど、全然開くこともできなくて、せっかくの好意に応えられないことがつらかった。



 その後、インスが夜間の世話役だと言って毎日来てくれるようになって、漸く日中も元気に過ごせるようになったことで、本も読めるようになった。



 読み終わると、それを知っているかのように新しいものが届くので、きっと部屋付きの神官が知らせているのだろう。



 今読んでいる本は建国神話の一説を取り上げたもの。



 ここ、エスパルダ聖皇国は、かつて女神の巫女とその騎士が、女神から授けられた神剣を用いて赤毛の魔女が率いる魔族と戦い、打ち勝って興された国。



 初代皇帝はその女神の巫女本人で、伴侶となった……皇配も神剣を授けられた騎士の一人。


 さらに、他の神剣の騎士たちも協力し合って国を発展させてきた。



 特にこの、今アインが読んでいる本に描かれている逸話は、その高潔な精神がよく現れている。



「……ライラ様……か……すごい方だなぁ……」


「ライラさん?」


「え!?」



 読み終わった本をぱたりと閉じてほうっと息を吐いていると、急にインスの声が聞こえて驚く。



 振り返ると、ちょうど戻って来たばかりのインスが病室の扉を閉め、窓際のテーブルセットに向かって歩いてくるところだった。



「……ああ。水の乙女の逸話ですか……」



 ひょっこりとアインの後ろから覗き込んだインスが、手元の本を見て目を細めた。



「……? インス様……?」



 その声や表情が、何となくいつものインスとは違って感じて、アインは首を傾げる。



 アインが座っている椅子の隣に腰を下ろして、インスは左手の指でタイトルをなぞった。



「……『浄化の巫女と闇の終焉』……水の乙女・ライラが命を賭して、闇に染められ、堕ちた()()を清め、多くの人を救うことになる……この二人の犠牲で沢山の人が生き延びることができ、女神の巫女は彼らを悼んでその魂の安寧を祈る……」



 インスが言うように、この本で取り扱われているのは、水の乙女と呼ばれる巫女が、その浄化の力で、赤毛の魔女によって闇に染められ、堕ちて、魔族と化してしまった友人を助ける話。



 魔族になってしまった友人は、善悪の判断も何もつかず、魔女に唆されるままに闇を撒いて、沢山の人を苦しめ、悲しませ、命を奪っていった。



 その状況を憂えたライラが、自分の命と引き換えにして友人を染める闇を浄化し、自分を取り戻した友人はライラの犠牲や、多くの人を手にかけてしまった事を悔い、嘆いて、自身を闇に染めた原因となったものを、女神の巫女や神剣の騎士たちに頼んで共に封じたのだという。



 こうして……犠牲は出たものの……二人の献身によって、それ以上の被害は防ぐことができた。



「この大陸の守護神である暁の女王(ディエル)()()を司り、その()()を守るため、自ら戦場を駆ける戦女神……ある意味とても()()で、ある意味とても()()です……」



 うっすらと笑みを浮かべて告げるインスの目が、微かに不思議な光を宿す。



「……? ? ?……」



 アインはますます首を傾げて、じっとインスを見つめた。



 なぜだろうか? インスはあまり、この話や、女神さえも好きではなさそうに感じる。



「……あ……れ……?」



 じっと見つめていたからだろうか? 不意に視界に霞のような『魔力』が見えた。



「? アイン君?」



 急に眼を擦って、じっと顔を近づけるようにして見つめてきたアインに、インスも戸惑って首を傾げる。



「……これ……」



 そうっと、アインの手がインスの右肩に翳される。



 そこには三日前に任務先で負った怪我があって、まだ魔法での治療がされていないため、右腕を胸元に沿わせるように固定されていた。



 怪我があることは当然アインにもわかっているので、不用意に触れるような真似はしない。



 けれど、手を翳し、じっと、目を凝らす様にして見つめて……だんだん顔色が悪くなっていった。



「アイン君? 大丈夫ですか?」


「……ぁ……」



 左手でアインの頬に触れると、ハッとしたように顔を上げたアインは、惑うように視線を彷徨わせる。



「……あの……」



 少し迷うように考え込んでいたアインは、ややあって意を決したようにインスを見た。



「二人だけで、お話し、できませんか?」


「……二人きりで……?」



 唐突な要求に、インスは目をしばたたかせて……部屋付きの神官に視線を向ける。



 同じようにアインも神官を見るが、神官は少し困ったように首を横に振った。



 流石に、それはできない。



「……ぁ……」



 言外に却下されて、アインが焦ったように視線を彷徨わせる。



「……それでは、内緒話にしましょうか」


「え? 内緒話?」



 クスリと笑って提案したインスに、今度はアインがパチパチと瞬きを繰り返した。



「はい。私にだけ聞こえるように、小さな声でお話しして下さい」



 軽く、自分の耳を示して告げたインスに……



「あ! ……はい。わかりました……!」



 意図を察して、アインの表情が少しだけ明るくなった。



 アインが囁きやすいように耳を傾けたインスに向かって、そっと、口元を隠すように手を添えたアインが小さな声で話始める。



「あの……」



 アインが話す内容を聞くうちに、インスの表情が強張っていくのを見て、部屋付きの神官も緊張していく。



「……………」


「……インス様……?」



 ややあって、話し終わったらしいアインが不安げにインスを見つめる。



「……少し、相談してきますね……アイン君の提案を受け入れるかどうかは……それからです」



 そっと、息を吐いたインスの言葉に、アインも緊張したように頷いた。


第3章第5話をお読みいただきありがとうございます。


ようやく本を読めるまでに回復したアイン。


自己犠牲の美談として語り継がれる「水の乙女」の神話。


それを語るインスの、どこか冷ややかな眼差しが印象的ですね。


そして後半、アインがインスの怪我に「何か」を見つけ、こっそり伝えた内緒話の内容とは……?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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