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第1話・危険であれど有用な~垣間見せる特別な~

第3章 因果に舞いて堕つるのは



       第1話・危険であれど有用な~垣間見せる特別な~



 診察を終え、怪我の処置も終わらせると、アインとインスは窓辺に移動された椅子に並んで座り、お茶を入れて退院後の授業に関して話をする。



「まず最初に行う授業は私が担当するものになります……知っての通り、魔法は術者の感情に影響されます」



 魔法を使うためには、ただ魔法の名前を言えばよいと言う訳ではない。



 自分の持つ魔力をきちんと感じ取り、使う魔法に必要となる魔力を感じ取ること。


 これがまずはできなければいけない。



 その上で、呪文を唱えて呼びかけ、意図する効果を伝えて構成していく。



 呪印いんの役割は、境界を定めること。


 結んだり、切ったり、描いたりと、使う魔法によって動作は違うが、構成していく段階で境界を定めることで、効果の範囲や影響、継続時間など、様々なことが変わってくる。



 そして最後に、その魔法の名前とも言える『合図の言葉』を告げることで発動できる。



 だから、呪師を無効化する一番早い方法は口を塞ぐこと。


 次に手を封じれば呪印いんも作れないので、準備をしておく事もできなくなる。



 そこまでしておけば、何かの拍子に声を出せるようになったとしても、即座に発動とはならない。



 もちろん、眠らせてしまえればそれが一番で、その上で魔法を使えないようにしておけば脅威にはならないだろう。



 ただし、それは普通の呪師の場合。



 アインに関して言えば、この中では眠らせる……すなわち、意識を奪ってしまわなければ完全に無効化できない。



 理由は、人間の中では唯一、魔力を()()()()()使うことができる、見えざるものを見る目の持ち主であるから。



 見者けんじゃと呼ばれる、呪師とは違う特殊な能力者。



 人間は、魔力を()()()()()では使えない。



 魔法にするか、魔力を溜める性質があるものに注ぎ込むかのどちらか。



 人間の持つ魔力自体には基本的には特徴がなく……強いて言うなら『人間の魔力』というのが特徴……魔法を使うためには自分の魔力を呼び水に、起こしたい『現象の魔力』を持つ相手から力を借りる。



 その、相手がどんな存在なのかによって、白魔法であったり、黒魔法であったり、精霊魔法であったりと変化する。



 だから普通は、魔力が魔力のまま放出されることはない。



 その前提を覆せるのが唯一『見者』である者。



 見者とは、生まれながらに瞳に魔力を宿している者で、見る……すなわち、『視認する』ことで魔力を魔力のまま使うことができる。



 ただし、その保有する魔力量は人によって違うので、ただ霞のように魔力が『見える』だけの者もいれば、魔力を『込めて』見ることで魔法を使わずに魔法のような『現象』を起こせるほどの者もいる。



 どちらにしろ、大変に珍しい存在で、ここ数百年で確認できているのはこの国の中ではたったの二人。



 一人は、この国の皇孫皇子であるジョン。



 そしてもう一人がアインだ。



 しかも、ジョンの魔力保有量は本当に少なくて、時折「お化けがいる。」と見えない何かに怯えていただけ。


 対してアインは、保有する魔力が莫大であるため、感情の制御ができないとその莫大な量の魔力を暴発させる危険があった。



 実際に保護されてすぐに一度、魔力を暴発させて神殿孤児院の一室を破壊してしまったことがある。



 見者ではなくとも、魔力を持ち、その使い方を知っているという意味では、呪師もまた感情の制御は必須。



 心が揺らげば魔法に影響を及ぼしてしまう。



 退院後、普段通り魔法を使えるかの確認も込めて訓練場で慣らしをしたインスが、集中力の乱れが若干見られた結果、幾つか使用不能にしてしまったように。



 特に、魔力保有量の多い呪師は感情の制御が重要になる。



「だから、アイン君が以前と同じように魔法を使えるかを確かめなければいけません」


「……以前と同じように……?」



 こてりと首を傾げたアインの様子を見てインスは、やはり分かっていないようだなと考える。



 けれど、それでいいのだ。



 今は何も気づかないまま、まずは傷を癒し、身体を休め、普段通りの生活に戻る基盤を整えること。



 それこそが重要で、授業の日に……その瞬間まで気づかずにいてくれた方が、心穏やかなまま過ごせる。



 代わりに、気づいたその瞬間にかかる心的負荷はとんでもなく重くなってはしまうけれども、その結果、もしかすると、もう魔法を使うことはできなくなってしまうかもしれないけれど……



 だが、インスが担当するということは、行われるのは皇宮呪師としての魔法の使い方。その実践だ。



 仮に、アインが皇宮呪師としての魔法の使い方ができなくなってしまったとしても、神官呪師としての魔法の使い方であれば問題なく続けられるだろう。



 そして、既に習得している知識はそのまま。



 自分で魔法を使うには心の負担が大きすぎてできなくても、その知識を使ってできることはたくさんある。



「はい。ですから、最初の授業は私です。その結果を見て、カリキュラムの調整を検討することになるでしょう」


「……調整……」



 頷いたインスの言葉に、今度は顔をこわばらせる。



 そういえば……と、不意にインスは気づく。



(アイン君……こんなに色々な表情を見せてくれていましたかね……?)



 インスは、アインが神官呪師としての修業の他に、皇宮呪師としての修業も行うことに決まった当初は関わりがなかった。



 最初は座学しかできないのでそれは当然。



 初期の、本当に基礎の基礎の段階は座学も担当している皇宮呪師が実技の指導にも当たっていて、インスが実技担当の指導役として呼ばれたのは少ししてから。



 いずれは。ということで事前に話は聞いていたけれど、まさかこんなに早く担当するよう言われるとは思わなかった。というのが告げられた当初の素直な感想。



 何しろ、アインが保護されて僅か半月。


 授業を受けるようになってほんの一週間での呼び出しだったのだ。



 呪師学校の最低入学年齢は十三歳。



 実際には、十三歳になってすぐに入学する子供ばかりではないので、初年生は十三歳以上であるというだけで、何歳以下でなければいけない。という決まりはない。



 けれど、どんなに早くても許可されるのは十三歳になってから。


 具体的には十三歳の誕生日を()()()いること。



 アインはせいぜい五歳ほどとされ、この基準を満たしてはいない、特例中の特例。



 だから、初年生の制服でサイズが合うものなどあるはずもなく……一番小さい制服を、折り曲げたり、縛ったりして何とか着れるようにしていた。



 ちなみに、初めて会った時、アインの制服が間違っているのではないか? と思ったのはインスだけではない。



 一見すると黒にしか見えない、深い色の髪と瞳は神秘的な紫。


 それとは対照的に、元々色白の者が多いエスパルダの民と比べてもなお白い、透き通るようななめらかな肌。


 神が丹精を込めてつくり上げた。と言われても納得しかない……どこからどう見ても絶世の美少女。



 なのに、着ていた制服は少年用。



 女の子じゃないのか? と思うのも無理のない美少女ぶりと、そうは言っても教義を考えれば異装を許すはずもない神官呪師見習いの、少年用の制服で……



 え? 男の子なの!? と担当者の間で若干の驚きと混乱が生じた。



 ちなみに、エスパルダ聖皇国のあるインフォース大陸の守護神・ディエルは公正を司り、その秩序を守る為、自ら戦場を駆ける戦女神。



 不正を許さない側面が強く、男性の女装。女性の男装と言った、意図的に性別を『偽る』行為を教義の中で禁じている。



 保護された当初から記憶もなく、自分の名前すら知らず、言葉も通じない中で訳が分からないうちに色々なことが決まっていて、断ることも逃げることもできないまま。


 ただただ、与えられるものを素直に受け入れ続けていたアインは、いつも不安げで、ずっと怖がっていて、俯きがち。



 口癖のように「ごめんなさい。」と「大丈夫です。」を繰り返し、「分かりました。」と受け入れるだけ。



 あまりにも子供らしくなくて心配になったインスは、半ば無理やり「ありがとう。」を言わせるように誘導していたくらいだ。



 それが、ここ最近。具体的には、今回の事件で重傷を負ったアインが意識を取り戻してから……嬉しそうだったり、楽しそうだったり、困っていたり、悩んでいたり……いわゆる感情表現が増えている気がする。



 インスは気づいていない。



 アインが素直に感情を見せるのは、インスがいる時だけだと。



 それ以外の時は、今までと変わらず、常に緊張していて、些細な、それこそ本人さえも気づいていない心の変化にさえ、気を張っていることに。



 それが分かっているからシリウムは「今のアインは、インスに依存し過ぎている。」と告げたのだ。



 そして、アインが回復するためにはインスが必要であると判断した。



 その結果が『皇宮呪師』であるインスの、主神殿・医務殿への出向だった。


第3章第1話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、この世界における魔法の仕組みと、アインが持つ「見者」という特別な力について深掘りしました。


少しずつ感情を見せるようになってきたアインですが、その変化がインスの前だけだという事実に、シリウムの懸念が重なります。


果たして、退院後の実践授業でアインを待っているものとは……?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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