タイトル未定2026/01/15 02:11
私、橋本絵里香、28歳。港区女子。
六本木、麻布、西麻布、赤坂。このあたりが私の主戦場。
週末は高級レストランでディナー、会員制バーでシャンパン、ホテルのラウンジでアフタヌーンティー。
インスタのフォロワーは5000人。ハイブランドのバッグとシャンパンの写真で埋め尽くされた、キラキラの毎日。
私、可愛いと思う。
つけまつげバッチリ、カラコンでデカ目、シェーディングで小顔。毎日のメイクには1時間かける。
だって、私の武器は「見た目」なんだから。
……まあ、実際は商社の一般職で、年収は400万くらいだけど。
服とバッグは全部ローン。GUCCI、PRADA、DIOR、CHANEL。ロゴが見えないと意味がない。
カードの支払いは毎月カツカツ。貯金はほぼゼロ。
でも、見た目への投資を惜しんじゃダメ。
28歳。港区女子としては、正直ギリギリのライン。
この世界、25歳過ぎたら「おばさん」扱いされることもある。
だから、そろそろ本気で「上がり」を決めないといけない。
つまり、結婚。
もちろん、相手は誰でもいいわけじゃない。
年収2000万以上。できれば医者か弁護士か、経営者。
港区に住めるレベルの男じゃないと意味がない。
私くらい可愛ければ、それくらいの男を捕まえて当然でしょ?
◇
同じ会社に、佐藤美咲っていう子がいる。
私と同期で、同い年の28歳。
地味。本当に地味。
黒髪をひとつに結んで、化粧っ気がなくて、服もシンプルなワンピースとか。
「美咲」って名前なのに、全然美しく咲いてない。
私は密かに「地味咲」って呼んでる。
◇
もう一人、中村彩音っていう後輩がいる。
私の3年下、25歳。同じ一般職。
「橋本先輩、今日も素敵ですね」
「ありがと、彩音」
彩音は私のことを慕ってくれている。港区女子仲間にも誘ってあげた。
「先輩みたいになりたいです」
「彩音もセンスいいから、すぐなれるよ」
後輩に慕われてる私。悪くない。
◇
「佐藤さん、もっとメイクしたら?せっかくの顔がもったいないよ」
私は親切心で言ってあげる。
「え、うん……でも私、あんまりメイク得意じゃなくて……」
「つけまとか、カラコンとか、やってみなよ。全然変わるから」
「うーん、肌荒れしそうで怖いかな……」
肌荒れ?
確かに、佐藤さんの肌はやたら綺麗だ。毛穴が見えない。
「何使ってるの?高い美容液とか?」
「ううん、特に何も……普通のドラッグストアのやつ」
「え、そんな安いので?」
信じられない。私なんて毎月美容代に5万はかけてるのに。
まあ、どうせ元が良くないと意味ないけど。
◇
佐藤さんは便利だった。
「佐藤さん、この資料まとめといて。私、今日早く上がらなきゃいけないから」
「え、でも橋本さんの担当じゃ……」
「お願い。今日大事な予定があるの」
大事な予定っていうのは、六本木のパーティ。でも、そんなこと言わない。
「……分かった」
佐藤さんは渋々引き受ける。いつもそう。断れない性格なのだ。
「ありがと〜。じゃ、お先に〜」
私は颯爽と会社を出る。佐藤さんは残業確定。
隣で彩音が見ていた。
「先輩、佐藤さんによく頼んでますね」
「だって、私がやるより佐藤さんの方が丁寧だし。適材適所でしょ」
「なるほど〜。さすが先輩です」
彩音は感心したように頷いた。
まあ、私がやるより佐藤さんがやった方が丁寧だし。適材適所ってやつ。
◇
ある日、佐藤さんがいい匂いのハンドクリームを塗っていた。
「それ、いい匂い。何?」
「あ、これ?イソップっていう……」
「へー。ちょうだい」
「え、でもこれ……」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
私は佐藤さんからハンドクリームを受け取って、たっぷり塗った。
「ありがと〜」
イソップ?聞いたことないけど、まあドラッグストアのやつでしょ。
彩音が横で見ていた。
◇
別の日、雨が降ってきた。私は傘を持っていなかった。
「佐藤さん、傘貸して」
「え、でも私も……」
「佐藤さん、駅近いでしょ?私、遠いから」
「……うん、分かった」
佐藤さんは渋々、傘を渡してくれた。
紺色の、シンプルな傘。地味だな、佐藤さんらしい。
「ありがと。明日返すね」
私はそう言って、傘をさして帰った。
◇
翌日。
「佐藤さん、ごめん。傘、電車に忘れちゃった」
「え……」
「ごめんね〜。でも、どうせ安い傘でしょ?また買えばいいじゃん」
佐藤さんは何か言いたそうだったけど、結局「うん……」と頷いただけだった。
本当、この子はチョロい。
彩音が後で言った。
「先輩、あの傘……」
「ん?」
「いえ、何でもないです」
◇
「佐藤さん、充電器貸して。私の忘れちゃった」
「あ、うん……」
「ありがと〜」
その充電器、結局返してない。まあ、安いやつでしょ。
◇
ある日、同期の男子たちと話していた。
「橋本さんと佐藤さん、同期なのに全然タイプ違うよね」
「でしょ?私は港区女子だから」
「佐藤さんは地味だけど、なんか雰囲気あるよね」
「え、どこが?」
「なんか、清潔感あるっていうか……肌綺麗だし」
私はイラッとした。
「佐藤さん、化粧もしないし、服も地味だし。女子力ないよね」
「そうかな……俺は嫌いじゃないけど」
は?何言ってんの。
私の方が絶対可愛いのに。
◇
私はその日、いつもより気合いを入れてメイクした。
つけまつげを2枚重ねにして、シェーディングを濃くして、リップは真っ赤。
「橋本さん、今日メイク濃くない?」
「え、そう?これくらい普通でしょ」
「なんか……顔が怖い」
……は?
◇
週末、合コンがあった。
相手は広告代理店の男子。なかなかのスペック。
私は佐藤さんと彩音を誘った。佐藤さんは数合わせで。
「え、私も行くの?」
「いいじゃん。人数合わせたいの」
「でも、私そういうの苦手で……」
「大丈夫大丈夫。佐藤さんは横にいてくれればいいから」
彩音にも声をかけた。
「彩音も来なよ。勉強になるから」
「はい、先輩!」
会場は西麻布のダイニングバー。
私は完璧なコーディネートで臨んだ。GUCCIのワンピース、CHANELのバッグ、DIORのピアス。
佐藤さんは……相変わらず地味。
ベージュのニットに、シンプルなスカート。ブランドロゴは一切見えない。
「佐藤さん、もうちょっと気合い入れてきてよ」
「え、これじゃダメかな……」
「だって、ブランド物一個も着けてないじゃん」
「うーん、私、あんまりロゴが目立つの好きじゃなくて……」
ロゴが目立たないと意味ないでしょ。
彩音が横で見ていた。
◇
合コンが始まった。
私は一番イケメンの男子に狙いを定めた。
「お仕事は何されてるんですか?」
「クリエイティブディレクターです」
「すごーい!かっこいい!」
私は最高の笑顔を振りまいた。
隣で佐藤さんは大人しく座っている。
私がいい男を独占している間、佐藤さんは残り物の男子と話していた。
お通夜みたいなテンション低い男。あれは明らかにハズレ。
まあ、佐藤さんにはお似合いでしょ。
彩音は空気を読んで、私の邪魔にならないようにしていた。
◇
「ねえ橋本さん、あの佐藤さんって子、どんな子?」
イケメンの男子が、佐藤さんのことを聞いてきた。
「え、なんで?」
「いや、なんか雰囲気あるなと思って」
私はイラッとした。
「佐藤さん?うーん、あんまりお勧めしないかな」
「そうなの?」
「なんか、ちょっと変わってる子で……男癖悪いって噂だよ」
「えっ、そうなんだ……」
「あくまで噂だけどね。私は関わらない方がいいと思う」
嘘だけど、まあいいでしょ。
イケメンは佐藤さんへの興味を失ったみたいだった。
よし。
彩音が横で聞いていた。
◇
結局、その合コンで私はイケメンの連絡先をゲットした。
佐藤さんは、残り物の男とも連絡先を交換しなかったみたい。
まあ、そうでしょうね。
「今日はありがとね、佐藤さん」
「うん……」
「次も誘うね」
佐藤さんは微妙な顔をしていたけど、断らなかった。
本当、便利な子。
◇
帰り道、彩音と二人になった。
「先輩、今日もすごかったです。一番いい人ゲットしてましたね」
「まあね。彩音も学んどいてよ」
「はい!」
彩音は素直に頷いた。
◇
ある日、佐藤さんが言い出した。
「私も婚活パーティ、行ってみようかな」
は?あんたが?
「え、佐藤さん、婚活するの?」
「うん、そろそろ真剣に考えようかなって」
「へー。どんな人がタイプなの?」
「優しい人がいいな。価値観が合う人」
「年収は?」
「そんなに気にしてないかな……普通に生活できれば……」
私は呆れた。
年収を気にしない?
この子、婚活なめてるでしょ。
「佐藤さんが婚活かあ。頑張ってね」
「うん、ありがとう」
まあ、佐藤さんのスペックじゃ、高望みできないよね。
◇
彩音に報告した。
「佐藤さんも婚活始めるんだって」
「え、そうなんですか」
「年収は気にしないとか言ってた。甘いよね」
「そうですね〜」
彩音は同意した。
◇
ある週末、ハイスペック限定の婚活パーティに行った。
彩音も連れて行った。「勉強になるから」と。
会場は六本木の高級ホテル。参加費は女性1万円。
男性の参加条件は「年収1000万以上」。
私はいつも通り、完璧なコーディネートで来た。
ワンピースはCELINE、バッグはDior、靴はJimmy Choo。
メイクもバッチリ。つけま、カラコン、シェーディング、ハイライト。
会場に入ると、驚いた。
佐藤さんがいた。
しかも、いつも通りの地味な格好。
紺色のシンプルなワンピース。ブランドロゴは見えない。バッグも小さくてシンプル。
髪は一つに結んで、メイクは薄い。
場違いにもほどがある。
「先輩、佐藤さんもいますね」
彩音が言った。
「ほんとだ。あの格好で来たんだ」
◇
私は近づいていった。
「佐藤さん、このパーティ来てたんだ」
「あ、橋本さん!うん、ちょっと奮発して……」
「へー。でも、もうちょっとお洒落してきた方がよかったんじゃない?」
「え、そうかな……」
「だって周り見てよ。みんなブランド物着てるでしょ?」
「私、あんまりブランドとか詳しくなくて……」
「それじゃあ男の人に相手にされないよ?第一印象が大事なんだから」
私は親切心で言ってあげた。
実際、こんな地味な格好でハイスペ男性に相手にされるわけがない。
◇
パーティが始まった。
最初は全員と短時間ずつ話す、回転式のトークタイム。
私は完璧な営業スマイルで、男性たちと会話した。
「お仕事は何されてるんですか?」
「年収はおいくらですか?」
「どこにお住まいですか?」
「港区なんですか!素敵!私も港区に住むのが夢なんです〜」
こういうのは慣れてる。
男は単純だから、笑顔で褒めておけばいい。
◇
フリータイムになった。
一人の男性が、佐藤さんに話しかけていた。
見た目が地味な男だった。
背は普通、顔も普通、スーツも普通。
プロフィールカードを見ると「IT企業勤務」とだけ書いてあった。
年収の欄は「記載なし」。
……ハズレじゃん。
私は佐藤さんを引っ張って、離れた場所に連れて行った。
「ねえ、あの人やめといた方がいいよ」
「え、どうして?」
「だって見るからにハズレでしょ。スーツも安物だし、時計もダサいし」
「そうかな……私は話してて楽しかったけど……」
「年収だって記載なしだよ?書けないってことは、大したことないってこと」
「でも、年収が全てじゃないし……」
「甘いよ、佐藤さん。結婚は現実なんだから。あんな地味な男と結婚しても苦労するだけだよ」
私は親切心で忠告してあげた。
だって、本当のことだし。
佐藤さんは困った顔をしていた。
「でも、まだ話してみないと分からないし……」
「いいから。私、男を見る目あるから。あの人は絶対ハズレ」
彩音が横で聞いていた。
◇
私は会場に戻って、他の男性陣にも声をかけた。
「あの紺色のワンピースの子いるでしょ?あの子、ちょっとメンヘラっぽいんですよね」
「え、そうなんですか?」
「会社の同僚なんですけど、ちょっと変わった子で……あんまり関わらない方がいいかもですよ」
男性は困った顔で頷いた。
別の男性にも。
「あの地味な女の子?うーん、男癖悪いって噂ですよ」
「え、本当ですか?」
「元カレをストーカーしたとか……あくまで噂ですけど。気をつけた方がいいかも」
嘘だけど、まあいいでしょ。
だって、佐藤さんみたいな地味な子がハイスペ男性と付き合っても、うまくいくわけないし。
私は親切心で、男性陣を危険から守ってあげたのだ。
彩音が近くで見ていた。
◇
パーティの終わり、私に声をかけてきた男性がいた。
すごくイケメンだった。
身長180cmくらい、細身でスーツの着こなしが完璧。髪型もお洒落。
時計はロレックス。靴はベルルッティ。
私の全身チェックレーダーが反応した。この人、絶対金持ち。
「さっきから気になってたんですが、お話しできますか?」
「あ、はい!もちろんです!」
私は最高の笑顔で答えた。
「橋本さん、でしたよね。すごく素敵ですね」
「ありがとうございます!あの、お名前は……」
「高梨と言います。医療関係の仕事をしています」
医療関係。医者ってこと?
キタ。キタキタキタ。
「お医者さんなんですか?」
「まあ、そうですね」
高梨さんは謙虚に笑った。
完璧じゃない?
イケメン、高身長、医者、お金持ち。
私の求めていた理想の男性。
「良かったら、この後お茶でもどうですか?」
「はい、ぜひ!」
私は二つ返事で答えた。
彩音に目配せした。
「先輩、すごいです!」
彩音は感心していた。
◇
帰り際、佐藤さんとすれ違った。
「あ、橋本さん。帰るの?」
「うん。ちょっと用事できて」
私は高梨さんをチラッと見せた。佐藤さんの目が丸くなった。
「あの人と?」
「うん。お茶に誘われちゃって」
「そうなんだ……すごいね」
「佐藤さんは?あの地味な人と、まだ話してたの?」
「うん……連絡先、交換したよ」
「え、マジで?私あれだけやめとけって言ったのに」
「うん、でも……話してみたら、すごくいい人だったから……」
佐藤さんは照れたように笑った。
本当に見る目がないな、この子。
「じゃあね、佐藤さん。頑張って」
私は高梨さんと一緒に、会場を後にした。
彩音が後ろから「先輩、お幸せに〜」と手を振っていた。
◇
それから、私と高梨さんは付き合い始めた。
佐藤さんも、あの地味な男——山田さんと付き合い始めたらしい。
私たちは、よく会社で彼氏の話をした。
「昨日、高梨さんと青山のフレンチに行ったの」
「へー、いいな」
「コース2万円だったよ。高梨さんが全部出してくれた」
「すごいね」
「佐藤さんは?山田さんとどこ行ったの?」
「えっと……駅前のカフェで、ご飯食べた」
「カフェ?」
「うん、すごく美味しかったよ。隠れ家みたいなお店で」
……インスタ映えしなさそう。
「ていうか、佐藤さん、もうちょっといいとこ連れてってもらいなよ。彼氏なんでしょ?」
「でも、私はあそこ好きだよ。落ち着くし」
「カフェでデートとか、学生かよ」
私は呆れた。
◇
彩音に報告した。
「佐藤さん、カフェでデートだって」
「え、それはちょっと……」
「でしょ?私は青山のフレンチだったのに」
「さすが先輩です!」
◇
週末、高梨さんとドライブに行った。
車はポルシェ。真っ赤なやつ。
「わあ、すごい!ポルシェ!」
「気に入ってくれた?」
「うん!インスタに載せていい?」
「もちろん」
私はポルシェの写真を撮りまくった。
「彼氏のポルシェでドライブ❤️」
投稿したら、すぐにいいねがたくさんついた。
港区女子仲間からも「すごい!」「羨ましい!」とコメントが来た。
彩音も「先輩すごいです!!」とコメントしてくれた。
最高。
◇
翌週、佐藤さんに聞いた。
「山田さんって、車何乗ってるの?」
「えっと……普通の国産車だよ。何だったかな……」
「え、国産車?」
「うん。でも、運転丁寧で安心するよ」
国産車て。
「佐藤さん、彼氏に車くらい買い替えさせなよ。デートでダサい車とか恥ずかしくない?」
「え、私は気にならないけど……」
「甘いよ。男は見栄張ってなんぼでしょ」
佐藤さんは困った顔をしていた。
◇
彩音に言った。
「山田さん、国産車だって」
「え……」
「ポルシェと国産車じゃ、格が違うよね」
「そうですね……」
彩音は頷いた。
◇
付き合って1ヶ月目。
高梨さんとの2回目のディナーは、銀座の高級寿司屋だった。
「ここ、予約取れないって有名なんだよ」
「えー、すごい!高梨さんって顔広いんだね」
「まあね」
お会計は、たぶん5万円くらい。
でも、最後に高梨さんが言った。
「ごめん、財布忘れちゃった」
「え?」
「今日、俺が出すつもりだったんだけど……立て替えてもらっていい?後で返すから」
「あ、うん……」
私はカードで5万円を払った。
まあ、たまにはいいか。後で返してくれるって言ってたし。
◇
同じ頃、佐藤さんは山田さんとジムでデートしたらしい。
「昨日、彼と一緒にジム行ったんだ」
「ジム?デートで?」
「うん。一緒にトレーニングして、その後プロテイン飲んで」
「……地味すぎない?」
「え、楽しかったよ。彼、体作りに詳しくて、フォーム教えてくれたし」
「デートでジムとか、信じられない」
私は呆れた。
「普通、高級レストランとかでしょ」
「でも、私は楽しかったよ」
佐藤さんはニコニコしていた。
楽しいって、ジムでしょ?
価値観が合わないわ。
◇
彩音に報告した。
「佐藤さん、デートでジムだって」
「え……デートで……?」
「ありえないよね」
「ちょっと……」
彩音は微妙な顔をしていた。
◇
付き合って2ヶ月目。
高梨さんから連絡が来た。
「実は、いい投資の話があるんだ」
「投資?」
「うん。俺の知り合いがやってるやつで、絶対儲かるって言われてて」
「へー」
「でも、ちょっと元手がいるんだよね」
「いくら?」
「30万くらい」
「30万……」
「俺も出すから、一緒にやらない?将来のためだと思って」
将来のため。
私たちの将来。
結婚したら、このお金も二人のものになるし。
「……分かった。出すよ」
「ありがとう。絶対に損はさせないから」
私は30万円を高梨さんに渡した。
◇
彩音に自慢した。
「高梨さんと一緒に投資始めるんだ」
「え、投資ですか?」
「将来のためにね。二人で資産形成」
「すごいですね、先輩……」
彩音は感心していた。
◇
同じ頃、佐藤さんは山田さんと家デートしたらしい。
「昨日、彼の家でご飯作ったの」
「家デート?」
「うん。一緒に料理して、一緒に食べて」
「……それ、デート?」
「うん。すごく楽しかったよ。彼、料理上手なんだ」
「男が料理とか……」
佐藤さんは嬉しそうだった。
家デートで料理って、お金ないの?
「ていうか、もっといいとこ連れてってもらいなよ。彼氏なんでしょ?」
「でも、私は家で一緒に作るの好きだよ。落ち着くし」
「貧乏くさいデートばっかりだね」
私は笑った。
佐藤さんは「そうかな……」と首を傾げていた。
◇
彩音に言った。
「佐藤さん、家デートで料理だって。お金ないのかな」
「そうですね……」
◇
付き合って3ヶ月目。
高梨さんから電話が来た。
「実は、親が入院しちゃって」
「え、大丈夫?」
「うん、大したことないんだけど……ちょっとお金がいるんだよね」
「お金?」
「入院費とか、色々かかって。20万くらい、貸してくれない?」
「20万……」
「すぐ返すから。お願い」
困ってるなら、仕方ない。
私は20万円を高梨さんに渡した。
◇
同じ頃、佐藤さんは山田さんから誕生日プレゼントをもらったらしい。
「彼からプレゼントもらったんだ」
「何?ブランドバッグ?」
「ううん、アクセサリー」
佐藤さんが見せてくれたのは、シンプルなネックレスだった。
小さなダイヤが一粒ついてるだけ。ロゴはない。
「……地味じゃない?」
「え、私は好きだよ。シンプルで」
「ブランドじゃないでしょ、それ」
「うーん、どこのだろ……彼、『君に似合うと思って』って言ってた」
「ロゴもないやつ?ダサ」
私は笑った。
私の彼氏は、ティファニーのネックレスをくれた。ロゴばっちり。インスタに載せた。
彩音が「素敵です先輩!」とコメントしてくれた。
◇
付き合って4ヶ月目。
高梨さんから相談された。
「俺たち、そろそろ一緒に住まない?」
「え、本当?」
「うん。いい物件見つけたんだ。港区のタワマン」
港区のタワマン!
夢みたい!
「でも、頭金がちょっと必要で……」
「頭金?」
「50万くらい。俺も出すから、一緒に出してくれない?」
「50万……」
「同棲の準備だから。将来への投資だと思って」
将来への投資。
一緒に住むんだ。結婚も近いってことでしょ。
「……分かった」
私は50万円を高梨さんに渡した。
◇
彩音に報告した。
「来月から高梨さんと同棲するの。港区のタワマン」
「え、すごい!おめでとうございます先輩!」
「でしょ?夢みたいでしょ」
◇
同じ頃、佐藤さんは山田さんと旅行に行ったらしい。
「箱根に行ってきたの」
「箱根?」
「うん、温泉旅行。すごく良かったよ」
「どこ泊まったの?高級旅館?」
「ううん、こぢんまりした宿。でも、ご飯すごく美味しくて」
「……安い宿?」
「高くはなかったかな。でも、すごく居心地よかった」
安い宿か。
「私だったら、星野リゾートとか行くけどな」
「うーん、私はあそこが好きだったよ」
佐藤さんは幸せそうだった。
格安旅行で幸せって、価値観が違いすぎる。
◇
私は周りに自慢しまくった。
「彼氏、医者なの。年収2000万超えてるって」
「え、すごい!」
「ポルシェ乗ってるし、時計はロレックス。この前は銀座の高級寿司連れてってもらった」
「いいな〜!」
港区女子仲間にも自慢した。
「私の彼氏、マジでハイスペ。港区にタワマン買うって言ってる」
「やばい、勝ち組じゃん!」
「でしょ?私くらい可愛ければ、これくらい当然だけど」
彩音も「先輩、憧れます!」と言ってくれた。
みんなが羨ましがる顔が気持ちよかった。
◇
親にも報告した。
「お母さん、私、医者と付き合ってるの」
「本当?良かったじゃない!」
「来年には結婚するかも」
「やっと安心できるわ。ちゃんとした人見つけて」
お母さんも喜んでた。
近所にも言いふらしてるらしい。「うちの娘は医者と結婚するの」って。
◇
特に、佐藤さんの前で自慢するのが楽しかった。
「私、来月から彼と同棲するんだ。港区のタワマン」
「そうなんだ、すごいね」
「佐藤さんは?山田さんとは進展あった?」
「うん、彼、『結婚を前提に』ってうちの親に挨拶してくれたよ」
「へー。年収も分からないのに、よく親に会わせたね」
「うーん、年収は聞いてないけど……誠実な人だって分かってもらえたみたい」
「誠実ねえ。でも、結婚ってお金も大事だよ?」
「それは分かってるけど……私は彼がいいの」
佐藤さんは照れたように笑った。
本当、この子は甘い。
まあ、山田さんみたいな地味な男と結婚しても、苦労するだけだと思うけど。
◇
ある日の昼休み。
彩音が駆け寄ってきた。
「先輩、これ見ました?」
スマホを見せてきた。
『株式会社ブライトテック、東証グロース市場に上場』
「IT企業が上場したって。社長がめっちゃ若いらしいですよ」
「へー」
ITとか興味ないんだけど。
「それが……この社長の写真、佐藤さんの彼氏に似てません?」
「え?」
私はスマホを奪い取った。
写真には、スーツを着た男性が写っていた。
……山田さん?
「え、待って」
記事を読んだ。
『代表取締役CEO 山田翔太(32)。大学在学中に起業し、10年で東証上場を果たした若き経営者——』
山田翔太。
佐藤さんの彼氏。
あの地味な男が、上場企業のCEO?
「資産100億超えらしいですよ」
彩音が言った。
「嘘でしょ……」
「本当です。この写真、佐藤さんの彼氏ですよね?」
「いや、でも、あの人……スーツも時計も安物で……」
「あ、この記事に『愛用の時計はパテックフィリップ』って書いてありますよ」
「パテック……?」
「高級時計です。1000万以上するやつ」
1000万の時計?
あのロゴもない地味な時計が?
「車も書いてあります。『移動は国産のセダン。派手な車は好まない』だって」
「国産車……」
「あえて国産車らしいです。『無駄なものにお金を使わない主義』って」
私は呆然とした。
あの「ハズレ」だと思った男が、資産100億の経営者?
私が「やめといた方がいい」と言った相手が?
「佐藤さん、大当たりじゃないですか……」
彩音が言った。
◇
その日の夕方。
佐藤さんが会社に来た。
周りがざわついた。
「佐藤さん!ニュース見たよ!」
「彼氏さん、上場企業の社長だったの!?」
「すごいね!おめでとう!」
佐藤さんは困ったように笑っていた。
「あ、うん……ありがとう……」
「結婚するの?」
「うん、来月……」
「きゃー!おめでとう!」
私は遠くから見ていた。
声をかけられなかった。
彩音がこっちを見ていた。
◇
その夜、私のスマホが鳴った。
知らない番号だった。
「もしもし?」
「橋本絵里香さんですか?」
「はい、そうですが」
「突然すみません。高梨隆一さんとお付き合いされている方ですよね?」
「え、はい……どなたですか?」
「私、高梨の妻です」
……妻?
「高梨が、また独身だと偽って女性を騙してるんですね」
「え、ちょっと待って……妻って……」
「あの人、結婚してるんですよ。私と子供が2人います」
頭が真っ白になった。
「そんな……だって、高梨さん、医者で……」
「医者?何言ってるんですか。あの人、無職ですよ」
「無職?ポルシェは……」
「レンタカーでしょ。いつもやる手口です」
「ロレックスも……」
「偽物ですよ。ネットで買った中国製の」
「高級レストランも……」
「カード限度額いっぱいなので、多分あなたが払わされてたんじゃないですか?」
……確かに、最近「財布忘れた」が多かった。
「あの人、借金が500万くらいあるんです。あなたからも色々もらってますよね?」
もらってる。
「投資の話」で30万。
「親が入院」で20万。
「マンション頭金」で50万。
合計100万。
「あの人、結婚詐欺の常習犯なんです。他にも何人も被害者がいます」
「そんな……」
「警察に相談した方がいいですよ」
電話が切れた。
私は、その場に崩れ落ちた。
医者じゃなかった。
独身じゃなかった。
金持ちじゃなかった。
全部、嘘だった。
私が「完璧な男」だと思っていた高梨さんは、詐欺師だった。
既婚で、無職で、借金まみれの。
◇
すぐに高梨さんに連絡した。
電話は繋がらなかった。
LINEも既読にならない。
ブロックされてた。
逃げられた。
渡した100万は、戻ってこない。
◇
私は震える手で、彩音に電話した。
「彩音……高梨さんが……詐欺師だった……」
「え、先輩、どういうことですか?」
「既婚で……無職で……全部嘘だったの……」
「えっ……」
「100万、取られた……」
「そんな……」
彩音は言葉を失っていた。
◇
私は震える手で、インスタを開いた。
高梨さんとの写真がたくさん並んでいる。
「医者の彼氏❤️」
「ポルシェでドライブ❤️」
「港区タワマン同棲準備中❤️」
全部、嘘だった。
◇
翌日。
会社で噂が広まっていた。
「橋本さん、彼氏が詐欺師だったらしいよ」
「え、医者じゃなかったの?」
「無職で、既婚で、借金500万だって」
「やば……」
「100万以上騙し取られたって」
「佐藤さんは100億で、橋本さんは詐欺師……対照的すぎる」
ひそひそ声が聞こえる。
私は俯いて仕事をしていた。
顔を上げられなかった。
彩音がこっちを見ていた。
◇
港区女子仲間のグループLINEが鳴った。
『ねえ、橋本さんの彼氏、詐欺師だったって本当?』
『マジらしいよ。医者じゃなくて無職だって』
『ポルシェはレンタカーで、ロレックスは偽物w』
『やばwww 100万取られたってwww』
『港区女子の末路って感じ〜』
笑われてる。
私が自慢してた相手を、みんなが笑ってる。
『てか橋本さん、同僚の彼氏を「ハズレ」ってバカにしてたんでしょ?』
『その彼氏が100億で、橋本さんの彼氏が詐欺師って』
『ブーメランwww』
『因果応報ってやつ?』
彩音もグループLINEにいた。何も発言してなかった。
私はグループLINEを閉じた。
◇
数日後。
港区女子仲間から、パーティの誘いが来なくなった。
「橋本さん、今度のパーティなんだけど……ごめん、人数いっぱいで」
「あ、そう……」
「また今度ね」
今度は来ない。分かってる。
お金がない女は、港区女子仲間から切り捨てられる。
それがこの世界のルール。
上辺だけの友達だった。
彩音も、最近は距離を置いてるみたいだった。
◇
私のインスタが炎上していた。
高梨さんとの写真に、コメントが殺到していた。
『詐欺師と付き合ってて草』
『ポルシェはレンタカーでしたwww』
『医者(無職)』
『港区女子の末路』
『見る目なさすぎて笑う』
『同僚の彼氏を「ハズレ」って言ってた人が詐欺師に騙されてるの面白すぎ』
誰かが魚拓を取っていた。
まとめサイトに載っていた。
『港区女子が詐欺師に騙された話まとめ』
何千件もコメントがついていた。全部、私を笑う内容。
彩音がLINEしてきた。
『先輩、これ見ました……?』
まとめサイトのURLだった。
私はアカウントを削除した。
◇
親にもバレた。
「絵里香、医者と結婚するって言ってたじゃない!」
「ごめん、お母さん……」
「詐欺師だったって本当なの!?」
「……うん」
「借金もあるんでしょ!?自分で何とかしなさい!」
「……うん」
「だから地に足つけた生活しろって言ったでしょ!ブランドだの港区だの、身の丈に合わないことばっかり!」
「……ごめん」
「近所に何て説明すればいいの!『うちの娘は医者と結婚する』って言っちゃったのよ!」
「……」
「恥ずかしくて外出られないわ!」
電話は一方的に切れた。
実家にも帰りづらくなった。
◇
警察に相談した。
「詐欺被害ですね。お気持ちは分かります」
「お金、戻ってきますか?」
「うーん、難しいですね。民事になるので」
「じゃあ、どうすれば……」
「弁護士に相談することをお勧めします。ただ、相手に資産がないと、回収は難しいかもしれません」
「……」
「他にも被害者がいるみたいなので、情報共有はできるかもしれませんが」
お金は戻ってこない。
100万円。
それと、ブランド品のローンが300万。
合計400万の借金だけが残った。
◇
佐藤さんの結婚式は、帝国ホテルで盛大に行われたらしい。
私は呼ばれなかった。
当然だ。
婚活パーティで、あれだけ悪口を吹き込んだのだから。
彩音からLINEが来た。
『佐藤さんの結婚式、すごかったらしいですよ』
『帝国ホテルで、ドレスはヴェラ・ウォン』
『来賓が大企業の社長とか投資家とかばっかりで、すごい人脈だったって』
『佐藤さん、相変わらずナチュラルメイクで、すごく綺麗だったらしいです』
『旦那さんも、地味だけど穏やかな感じで、すごくお似合いだったって』
『学生時代からの友達がスピーチしてて、泣いてたらしいですよ。「美咲は昔から変わらない」って』
私は既読スルーした。
◇
あれから2年。
会社の給湯室で、中村彩音が別の後輩と話していた。
「ねえ、橋本先輩と佐藤さんって、同期だったんでしょ?」
「そうそう。二人のこと、私ずっと見てたんだよね」
「え、どういうこと?」
「橋本先輩、私のこと後輩として可愛がってくれてたんだけど……正直、途中から色々見えてきちゃって」
「見えてきたって?」
「橋本先輩、佐藤さんのことめちゃくちゃバカにしてたんだよね。『地味咲』って呼んでたし」
「うわ……」
「『ユニクロでしょ?』とか、『もっとメイクしなよ』とか」
「ひど……」
「でもね、佐藤さんの服、実はエルメスとかボッテガとかだったの。ロゴないだけで」
「え、マジ?」
「私、途中で気づいたんだよね。橋本先輩は全身ロゴだらけだったけど、全部ローンだったし」
「うわ……」
「見た目も、橋本先輩は派手メイクだったけど、すっぴん見たら普通だったの」
「佐藤さんは?」
「ナチュラルメイクだけど、素肌がめちゃくちゃ綺麗で。すっぴんでも変わらないの」
「あー、本当の美人ってそうだよね」
「そう。橋本先輩、佐藤さんに『もっとメイクしなよ』とか言ってたけど、それ逆じゃんって」
「ね」
「生活も全然違ったんだよ。橋本先輩は毎晩六本木で飲み歩いて、脂っこい物ばっか食べて」
「佐藤さんは?」
「ヨガとジムで体作って、自炊で健康的な食事。だから肌綺麗だったの」
「お金かけずに綺麗になってたんだ」
「そう。橋本先輩は美容に毎月5万かけてたけど、肌荒れひどかった」
「本末転倒じゃん……」
「しかも橋本先輩、佐藤さんの物借りて返さなかったりしてたんだよね」
「え、サイテー」
「傘とか充電器とか。傘なんか『なくした』で終わり。私、見てたの」
「ひど……」
「その傘、実はフォックスアンブレラの3万円のやつだったんだよ」
「やば……」
「ハンドクリームも『ちょうだい』って取ってたけど、あれイソップの高いやつだったし」
「橋本先輩、気づいてなかったの?」
「ロゴがないと価値が分からない人だから」
「あー……」
「合コンでも、佐藤さんを数合わせで呼んで、いい男は自分が独占してたの。私も一緒に行ってたから見てた」
「マジで?」
「婚活パーティでは、佐藤さんの悪口を男性陣に吹き込んでたんだよね」
「『メンヘラ』とか『男癖悪い』とか」
「私、横で聞いてたの。さすがに引いた」
「サイテーすぎる……」
「でも結局、佐藤さんは100億の社長と結婚して」
「橋本先輩は詐欺師に100万取られた」
「因果応報ってやつだよね」
「ね。橋本先輩、佐藤さんの彼氏を『ハズレ』『スーツも時計も安物』ってバカにしてたんだよ。私に何回も言ってきた」
「その時計、1000万超えのパテックだったんでしょ?」
「そう。ロゴがないから橋本先輩には分からなかったの」
「本物を見る目がなかったんだね」
「橋本先輩はロゴがないと価値が分からないから。自分の彼氏のロレックスは偽物だったのにね」
「それも見抜けなかった」
「見る目なさすぎだよね……」
「ていうか、橋本先輩って今どうしてるの?」
「まだ婚活パーティ通ってるらしいよ」
「え、まだ?」
「『次は年収3000万以上の本物を見つける』って言ってるって」
「……学習しないね」
「港区女子仲間は全員離れたし、インスタは炎上して消したし、親ともギクシャクしてるのに」
「それでもまだ婚活してるんだ」
「生活レベル下げられないんだって」
「32歳で借金持ちで、それでもまだ高望みしてるの?」
「……正直、見てられないんだよね」
「え?」
「周りの女の子どんどん若くなってるのに、本人だけ気づいてないっていうか」
「痛いね……」
「私も昔は先輩として慕ってたけど、今はもう……ちょっと近づきたくないっていうか」
「分かる」
「見てて痛々しいんだよね。本人だけが『私は悪くない』『まだイケる』って思ってて」
「うわ……」
「佐藤さんは何か言ってた?橋本先輩のこと」
「何も言ってないって。悪口も、『可哀想』とかも」
「それが逆にキツいね」
「ね。完全に眼中にないんだろうね」
「結局、本物を見抜けたのは佐藤さんだったってことか」
「橋本先輩はブランドとか年収とか、外側ばっかり見てたから」
「佐藤さんは中身を見てた」
「その差が、今の差になったんだよね」
「ほんとそれ」
「……あ、来た。仕事しよ」
後輩たちは散っていった。
◇
私は聞こえないふりをして、コーヒーを入れた。
全部聞こえてた。
彩音が言ってたこと。全部本当のこと。
でも、私は悪くない。
騙した高梨が悪い。
佐藤さんは、たまたま当たりを引いただけ。
運が良かっただけ。
私の価値は下がってない。
次こそ、本物を見つける。
今夜も婚活パーティがある。
年収3000万以上限定のやつ。
今度こそ、本物の医者か弁護士か経営者を捕まえる。
私は給湯室を出て、化粧直しに向かった。
つけまつげを付け直して、カラコンを確認して、リップを塗り直す。
鏡の中の私は、完璧。
……最近、ちょっと肌荒れがひどいけど。コンシーラーで隠せば大丈夫。
今夜の服は、まだローンが残ってるDiorのワンピース。
靴は、リボ払い中のJimmy Choo。
バッグは、先月やっと払い終わったCHANEL。
完璧なコーディネート。
これで男を落とせないわけがない。
「次は3000万以上の本物を見つけてやる」
私は自分に言い聞かせて、会社を出た。
六本木のパーティ会場へ向かう。
周りの女の子は、どんどん若くなっていく。
22歳、23歳、24歳……。
私を見る男の目が、変わってきてるのは分かってる。
でも、やめられない。
「次こそ」って、思ってしまうから。
◇
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は「ブランドロゴ」にしか価値を見出せない女性が、本物の価値を見抜けずに自滅していく姿を描きました。
主人公・絵里香が最後まで「自分が悪い」と思わず、ボロボロになってもまだパーティへ向かう姿に、人間の執着の怖さを感じていただければ幸いです。
反対に、美咲のように「ロゴに頼らずとも上質なもの」を知っている女性が最後に報われる展開は、書いていてとても爽快でした。
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