冬に幽霊は似合わない
冬に幽霊は似合わない。
冬に出てくる人外のモノなんて雪女くらいだが、それは妖怪だ。
やはり、幽霊は夏に限る。
しかし、それもおかしな話だ。幽霊はセミや蚊じゃあるまいし、夏になったら現れて秋に無くなるモノではない。一年中いたっておかしくはない。
実は、幽霊は冬でも普通に活動している。まあ、死んでいるのに活動なんて言うのも変な話だが、普通にいる。
じゃあ、なぜ冬に幽霊はそぐわないのか。
冬は、隙が無さすぎるのだ。
皆厚着をし、手袋にマフラーに完全防備だ。これでは、不安感を抱きにくい。夏のように、素肌に近い薄着だからこそ心許なく、恐怖を覚える。
また、冬は背を丸め身を縮めている。これなどは、もう緊張状態だ。しかも、皆、周りなんか見ていない。見てるのは足元だけだ。これじゃあ折角出たとしても見てすらもらえない。
もちろん、冬も油断している時はある。例えば、暖かなコタツに入っている時などだ。
コタツでのんびりとしているときに、ふと足にヒヤリとしたものが触れる。はて、何だろうとコタツをめくると、そこにはニヤリと笑った青白い顔の女が――
こう書くと悪くはないように思うが、実際はそう上手くはいかない。日常の中にいきなり飛び込んでくる非日常は衝撃的であるが、コタツはあまりに日常すぎる。
コタツに入り、だらけきった姿で携帯をいじる。テレビからは騒がしいバラエティが流れ、コタツの上にはカゴに入ったミカン。あまつさえ、猫など丸くなっているかもしれない。
そんな中でうらめしやぁと出たところで、驚きはしても怖がってもらえるだろうか。端からみれば滑稽で、これではただのコントだ。
このように、冬は幽霊にとって非常に活動がしにくいのだ。冬は、あまりに寒すぎる。もちろん、幽霊は寒さなど感じはしないが、見る人間のテンションが違う。こう寒くては、頭も冴え、つい冷静になってしまうではないか。
やはり、夏。茹だるような暑さ、脳がとろけるような熱で、現実と異界の区別が曖昧になる。そんなあやふやな世界にこそ、非現実は良く馴染む。
ああ、早く夏にならないだろうか。いや、夏でなくともいい。せめて春になれば、新歓コンパの後でうかれた連中が肝だめしにやってきたりもするだろう。その時には、死ぬほど恐怖を味あわせてやろう。
ここで首をくくった私には、怯え、震え、恐怖に歪む顔を眺めること、それしか楽しみはないのだから。
私は今、誰もいない山中で春の訪れを、文字通り首を長くして待ちわびている。




