遅れてきた新入部員
その日、僕は大山君と一緒に部室に向かっていた。
「そう言えば、この間は入院で居なかったもう1人の新入部員来るらしいよ」
「どんな子なんだろう」
「矢口君の知り合いらしいよ。日直があるから少し遅れるってさ」
部室には2人で楽しそうに雑談している倉野先輩と宮前先輩、男1人でヒマそうにしている佐藤先輩が居た。
「勝志さん、この前の走り込みの事、知っていたからパスしたでしょう」
小さい頃からの付き合いだからか、少し恨めしそうな声色で大山君が問いただす。
「当たり前だろ。俺、頭脳派だし」
「何をするかくらいは教えてくれていてもいいのに」
そんな会話をしていると矢口君ともう1人、知らない声が近付いてきた。
「ここも久しぶりっ」
そう言って彼と共に入って来たのは、どこか小動物を思わせるような雰囲気を持った女の子だった。
「こんにちはっ。高塚 愛純でだよっ、よろしくねっ」
そう言って彼女は既に面識があったらしい倉野先輩達の所へ向かい、雑談に加わっていった。
必然的に残された男同士で矢口君に高塚さんの事を聞いて見る。
「知り合いって聞いたけど、どんな関係なの」
「母親同士が姉妹の従兄妹だよ」
「言われてみれば顔や雰囲気が少し似ているかも」
「フフフ、従兄妹同士の関係もありかも」
⋯⋯何処に居たんだ都築先輩は。
「⋯⋯大体揃っているようね」
少し遅れてきた竹内部長も合流して、あらためて高塚さんの挨拶が始まった。
「あらためて始めまして、高塚 愛純ですっ。ちょっと扁桃腺を腫らしちゃって遅れちゃったけど、今日からお世話になりますっ。よろしくねっ」
病み上がりとは思えないくらいに元気がいいな。
「趣味は星空もだけど、パワースポット巡りかなっ」
「パワースポット?」
「⋯⋯神社や仏閣、霊山などの自然だったり、歴史文化財の事だ」
さすが部長だ、例の高速詠唱が無ければ頼もしいな。
「⋯⋯勿論占星術とパワースポットにも密接な関係がある例えば個人のホロスコープ における天体の配置とアスペクトはこういった地理的な場所のエネルギーと共鳴し⋯⋯⋯⋯」
「部長、今年のGWの予定なんですけど」
高速詠唱をさえぎるように倉野先輩が助け舟を出してくれた。
「⋯⋯失礼、⋯⋯少々取り乱したようだ」
初めて高速詠唱を聞いたらしい他の1年生は、あぜんとしている。
まぁ無理も無いか、僕も初めての時は逃げ出しかけたし。
「フフフ、初めての時」
人の思考を変な風に読むのはやめて下さい、都築先輩。
「⋯⋯以上で説明を終わります」
その後、あらためて説明されたのは、GW中にこの前走った自然公園で、新入部員の歓迎会を兼ねた観測会があるという事。
その為に観測したい春の天体のテーマを、各自来週までに考えてきて欲しいという事だった。
初めての天文部らしい活動だけれど、春の天体ってどんな感じなのかな。
ミーティングが終わった後で、あらためて1年生で集まって少し話を聞く事にしてみた。
「春の天体って、みんなはどうするの」
「僕は勝志さんに昔から色々聞いているけど」
大山君はさすがだな。
「あたし達は近所にプラネタリウムがあって、それでねっ」
矢口君と高塚さんもある程度の事は知っているみたい。
あれっ、もしかして星の事、あまりよくわかっていないの僕だけ?
そういえば、天体部に入ったのは、春休み中に偶然倉野先輩に出会った事がきっかけで、後は成り行きだった。
いまさらながら、自分がこうして天文部に入って良かったのだろうか。
「⋯⋯牧田くん、なにか悩み事かな。⋯⋯占ってあげようか」
竹内部長、帰ったはずだったのでは?!
「⋯⋯困った時は、星に聞くといい」
「すいません、少し予定があるので、失礼しまーす」
そう言って僕は別棟を飛び出したのだった。
やっと天文部らしい話題が出てきましたが、どうなる事やら
次回は、9月19日(金)の21時頃『気分転換に行こう』を投稿予定です
よろしくお願いします




