新天文部員誕生
「すいません、助けてください」
扉の向こうには倉野先輩と、もう1人人影があった。
いきなり助けを求める僕の姿を見て、驚いた様子だったけれど、机の向こうの女性と僕を交互に見て状況を察してくれたようだった。
「竹内部長、またですか」
そう言われて、机の向こうの竹内部長?は我に返ったようだった。
「⋯⋯失礼、⋯⋯少々取り乱した様だ」
(少々?!)
慣れた様子で倉野先輩が説明してくれる。
「ごめんなさいね牧田君。こちらは、3年の竹内部長。面倒見の良い、いい先輩なんだけど、占いに目がなくって」
隣で倉野先輩と入ってきた女性は笑い転げている。少しして、落ち着いたのか自己紹介してくれた。
「あたしは結星と同じ2年の宮前 紗英。あなたは〜」
「すいません、自己紹介が遅れました。新入生の牧田 一輝です。こちらの倉野先輩と少々約束がありまして」
「⋯⋯なるほど、話は解った。⋯⋯倉野くんと約束というのは、2人の相性を占って欲しかったのか」
「「違います」」
思わずハモってしまった。
天然なのか、確信犯なのか、ここは天文部なのか、
それとも実は天文を隠れ蓑にした別の何か⋯⋯。
「落ち着いて、牧田くん」
動揺している僕を落ち着かせるようにそう言うと、倉野先輩は、その場の全員にあらためて関係を説明してくれた。
「春休みの観測会に来る時に、少しお世話になったので、お礼を言いたかっただけなんです」
「結星が遅れたのって、寝坊しただけじゃ無かったの〜?」
「紗英、その件は言わなくて良いじゃないの」
少し顔を赤らめて倉野先輩が反論する。
(やっぱり可愛いな)
不覚にもそんな事を考えていると、またしても変な横槍が。
「⋯⋯ほう、色仕掛けで新入生を捕まえてくるとは。⋯⋯倉野くんもなかなかやるな」
(この人が部長で本当に大丈夫なのか?)
色々不安になってきた僕の様子を感じとったのか、倉野先輩が強引に話をまとめてくれた。
「ごめんなさいね牧田君。あの時は急いでいたから、ちゃんとお礼も言えなくて。あらためてありがとう」
「いいえ、そんな大した事もしていないですから。わざわざ気にして頂いていたなんて。」
あらためてお互い顔を見合わせてホッとした。これだけの言葉を交わす為に、ずいぶんややこしい事になった気もするけれど。
「よくわからないけど、良かったね〜」
「⋯⋯なんだ、つまらん」
ニコニコしながら声をかけてくれた宮前先輩と、こちらに興味を失った感じの竹内部長。
なんだかこのまま帰るのも悪いような気がして話題を変えてみた。
「あの、紹介の時は年間の行事みたいな事を説明されてましたけど、普段は何をされているんですか?星って昼間は見えないですよね」
「そうね、普段は各自で興味のある記事で雑談したり、天体情報を見て次の観測会の計画を立てたり。後は趣味で星やロケットの軌道計算をしている人達もいるわね」
そう言った後で小声で付け加えられた。
「部長の趣味は長くなるから⋯⋯」
すでにさっきの高速詠唱を聞いた後なので、それ以上は僕も聞き返さない事にした。
「他の部員の方はいらっしゃらないのですか?」
「うちは兼部も多いよ〜。あたしもそうだし〜」
なんだかのんびりとした喋り方の宮前先輩の後を倉野先輩が引き継いでくれた。
「普段はさっき言った様に雑談も多いから、何か全体でやる時以外は別の活動している人も多いのよ」
「そうなんですか。結構自由なんですね」
「よかったら、体験入部してみない?」
「えっと、あまり星の事はよくわからないけど、大丈夫ですか」
「じゃあこれから一緒に勉強しましょ」
そう言われて、思わずうなずいてしまった僕は、これからどんな体験をするのだろう。
何となく思ったのは、普通の高校生活とは少し違う体験が出来るかな、くらいの気持ちだった。
「⋯⋯それでは牧田くんの将来を占って」
少し違うで済むのだろうか⋯⋯
やっとタイトル回収出来たかと
次回は『天文部員集合は』29日(金)21時頃投稿予定です
よろしくお願いします




