チケットの行方
「はぁ⋯⋯」
思わずため息をついた僕の目の前には『夏休み特別優待券』と書かれた遊園地のペアチケット。
『縁日の時の特別賞なんだけど、優と行けなくなっちゃったし、良かったら今日のお礼に使ってねっ』
お見舞いの帰りに、高塚さんから譲ってもらったこのチケット、結星先輩への軽いお返しを考えていただけなのに、デートみたいな事は少しハードルが高すぎる。
『真理恵ちゃんを怒らせちゃったみたいだから仲良くねっ』
あの時の高塚さんは、完全に勘違いしていたみたいだけれど、彼女とは本当に何も無いし。
それにしても最近よく変なタイミングで再会するよな⋯⋯。
小さい頃は、友也と3人で兄妹みたいに遊んでいた事もあったけれど、高校受験の頃からは、ほとんど顔を合わせる事も無かった。
進学先は違うけれども、同じ街に住んでいるのだから、別に不思議な事ではないのだけれど。
そういえば、中学時代の連れとも、GW前に遊んだ後はほとんど連絡もとっていないし、同じ学校に入った友也とも、たまには遊ぼうと誘われたままで、それっきりだった。
考えてみれば進学してからは、天文部に入って、結星先輩達と出会って⋯⋯。
「結星先輩か⋯⋯」
最初は偶然川沿いの道ですれ違っただけなのに、まさか同じ部活に入って、親しくなっているだなんて、あの時は思いもしなかった。
そういえば、あの川沿いにある広場で観測会をやろうという話が出ていたっけ。
下見をしながら散歩していれば、お返しの良い考えが浮かぶかも、そう思った僕は、とりあえずチケットをしまい、家を出た。
「結構暑いな⋯⋯」
自転車を走らせている時は風を感じるけれど、交差点で立ち止まるとすぐに汗がにじみだす。
「ちょっと涼んでいこう」
ちょうどコンビニを見つけた僕は、水分補給も兼ねて少し涼んでいく事にした。
「新作スイーツか⋯⋯」
空調の効いている店内に入ると、色とりどりのポップが目に飛び込んでくる。
夏の定番、アイスクリーム系やフルーツ系、パフェ系や少し懐かしさも感じる、わらび餅なんかの和菓子系。
「やっぱり結星先輩も甘い物とか好きなのかな⋯⋯」
ぼんやりとそんな事を考えながら、少し涼んだ僕は、そろそろ用を済ませて出ようと、飲料水コーナーへと向かった。
「あれっ、一輝?」
「真理恵ちゃん?」
2度ある事は3度あるとはいうけれど、そこにいた先客は、まさかの真理恵ちゃんだった。
「この間はごめんね⋯⋯」
「気にしてないよ、ちょっと勘違いしていただけだし」
「でも⋯⋯」
この前の、高塚さんとのやり取りを誤解して、いきなりスポーツバッグで叩いた事を気にしていたらしい。
もしかして、部活があるからと足速に去っていったのも気恥ずかしかったから?
「飲み物買いに来たの?お詫びに奢らせてよ」
「大丈夫だって」
「私の気が済まないから。ほら、早く選んで」
まるで僕が叱られているみたいな感じになっているのは何故だろう。
とりあえず適当にスポーツドリンクを選んで手渡すと、手早く自分の買い物カゴに入れながら、他の商品も選んでいく。
「今日は部活休みなの?」
「体育館をいつでも使える訳じゃ無いからね」
聞けば、バスケ部の専用コートがある訳では無く、他の部活との兼ね合いで、時間帯が決まるのだとか。
「運動部も大変だね」
「好きでやっているから」
間が持たないので、なんとなく近況を聞きながら買い物に付き合っている間に、ふと頭に浮かんだ事を聞いてみる。
「そうだ、真理恵ちゃんだったら、いきなり遊園地のペアチケット渡されたらどう思う?」
「えっ、どういう事?!」
「たまたま貰った物だけど、ちょっとしたお礼というかお返しみたいな感じで」
「相手によるけれど、知っている人からならサプライズ的な感じで嬉しいかもね」
相手によるか⋯⋯。
結星先輩と僕の関係ってどうなんだろう。
「レジに行って来るから、ちょっと待ってて」
そう言われて、先に店を出た僕は、しまってあったチケットを取り出して、眺めてみる。
「やっぱり、重いかな」
「お待たせ⋯⋯。何そのチケット?さっきの話ってもしかして私に?!」
「えっ!?」
あれっ、なんだかやっぱり真理恵ちゃんとは間が悪いのかも。
何やら怪しい雲行きが⋯⋯
次回『どうしてこうなった?!』は4月3日(金)21時頃更新予定です




