高塚さんはお世話したい
「お邪魔します」
「ごめんね、心配かけて」
病室に通された僕と高塚さんは、矢口君と面会していた。
上半身を軽く起こされて、右腕は固定されている。
少し動きにくそうに見えるけれど、思っていたよりは元気そうだ。
「優っ、ちゃんと食べてる? お薬飲んだ? かゆい所は無い?」
「愛純、心配し過ぎだよ」
再び暴走しそうな高塚さんを、あやすようになだめる矢口君。
「喉渇いて無い? アイス買って来ようか?」
「大丈夫だから、ちょっと落ち着いて」
いつもお世話されていた分をお返ししたいとは言っていたけれど、過保護すぎるというか、何というか。
「爪切ってあげようか? 髪の毛大丈夫?」
いや、入院してまだ2日しか経っていないし。
「高塚さん、あまり身体を動かすと怪我にも良くないから」
「だってっ⋯⋯」
頭では理解しているだろうけれど、気持ちが納得していないのは一目瞭然な様子の高塚さん。
「利き腕使えないと不便そうだね」
「うん、本とかも読めないし、スマホで音楽聴いたり、動画を見たりはしているけど、片手だとすぐに疲れちゃって⋯⋯」
結局この2日間はリハビリの時間以外はほとんど寝て過ごしていたらしい。
「明日からは付き添いの人が居れば、軽い散歩ぐらいは出来そうなんだけどね」
「ホントにっ?」
「愛純、無理しなくていいから」
「じゃあ明日また来るねっ」
「いや、無理しなくても⋯⋯」
お世話出来そうな事を見つけて、活き活きとし始めた高塚さんと、さり気なく止めようとする矢口君。
気持ちは嬉しいのだろうけど、連日お見舞いに来てもらうのはちょっと気恥ずかしいのかもしれない。
とりあえず、一旦この流れを切って、落ち着いてもらおう。
「高塚さん、そろそろ面会時間終わりそうだから」
「もう少しだけっ。そうだっ、延長申し込んでくるねっ」
⋯⋯カラオケじゃないんだから無理だってば。
「ごめんね、牧田君。今日は付きあってくれて、ありがとっ」
「早く治るといいね」
まだまだ名残惜しそうな高塚さんを連れて病院を出た僕達は、ひと休みしていこうとカフェに入っていた。
矢口君の怪我は、1週間ほど経過を見て退院出来るそうだけれども、夏休みの期間中は、ほぼ安静が必要なのだとか。
「代わりに優の分の課題もやらなくちゃっ」
高塚さん、それはダメだと思うよ。
「骨折に効く料理ってなんだろう⋯⋯」
いや、カフェのメニューを眺めていてもね。
「そうだっ。紗英先輩に聞いてみよっ」
いつだったかの試食会の悪夢がフラッシュバックしてきたぞ⋯⋯。
「退院祝いは何がいいかなっ」
そこまで大げさに考えなくても⋯⋯。
とにかく何か矢口君の為に出来る事は無いかと、色々なアイデアを思いつく高塚さん、空回りも多いけれど、少しだけ矢口君の事がうらやましいな。
「そういえば、牧田君も何か相談したいって言ってなかったっけっ」
「えっ!?」
急に話題が変わって驚いたけれど、そういえばそうだった。
「あのさ⋯⋯。高塚さんだったら、ちょっとしたお返しにもらって嬉しい物とかあるかな⋯⋯」
結星先輩へのお礼だとは言えなくて、ぼかしながら聞いてみる。
「もしかして、今日会ったあの娘が気になるとかっ?」
「真理恵ちゃんはただの幼馴染だってば」
「ふーん?」
なんだか変な勘違いしていないかな?
「あたしと優みたいな感じなんだねっ」
違わないけれど、ちょっと違う様な⋯⋯。
「そうだっ。良かったら⋯⋯」
そう言って高塚さんは、バッグから何かを取り出した。
「これって⋯⋯」
「縁日の時の特別賞なんだけど、優が行けなくなっちゃったし、良かったら今日のお礼に使ってねっ」
そう言って手渡してくれたのは、遊園地のペアチケットだった。
「真理恵ちゃんを怒らせちゃったみたいだから仲良くねっ」
ニコニコと笑う高塚さんを前にして、お世話好きもいいけれど、早とちりし過ぎとはとても言えなかった僕だった。
次回『チケットの行方』は27日(金)21時頃更新予定です




