高塚さんはお見舞いしたい
「お待たせっ」
待ち合わせ場所にやって来た高塚さんは、午前中のやり取りの時とは違って、いつもと変わらない様子だった。
悩み事を相談出来て、いつもの調子が戻ってきたみたいで良かった、それにしても⋯⋯。
「ずいぶん大きな荷物だね」
自分の上半身と同じくらいの大きなトートバッグを抱えている高塚さん。
「ついでに着替えを持って行ってって、優のママからねっ」
「重かったら手伝おうか?」
「まだ大丈夫だよっ」
⋯⋯まだって、どう言う事なんだろう。
「えっと、差し入れを持って行きたいって言う話だったよね」
「うんっ、まずは栄養とって早く治してもらいたいから⋯⋯」
入院中って、勝手に間食してもいいのかな。
「後はリラックスしてもらいたいから安眠マクラとか⋯⋯」
備品も勝手に変えちゃって大丈夫なのか?
「リラックスといえば、やっぱりアロマかなっ」
いや、他の患者さんに迷惑だと思うけれど⋯⋯。
「とりあえず、1度着替えを置きに行って、矢口君の様子をみてからの方がいいんじゃないかな?」
このまま放っておくと、どこまでも暴走しそうな高塚さんをなんとかしなくては。
「それだとサプライズにならないしっ」
うん、入院中にサプライズはあまり必要無い気がする。
「ちょっと待ってて」
たまたま街で高塚さんに会って、入院しているのを知った事にして、矢口君に連絡をとってみた。
「⋯⋯あれっ、出てくれないな」
「どうしようっ。もしかして悪化してて大変な事に」
いや、鎖骨の骨折は確かに不便そうだけれど、大変な事にはならないんじゃないかな。
「早く行かなくちゃっ」
そう言って一目散に駆け出そうとする高塚さん。
「高塚さん、ちょっと落ち着いて」
「だって、こうして話している間にも優がっ」
「ちょっと一輝。嫌がっている娘に何してるのよ!」
「?!」
どこかで聞いた事のある声と共に、いきなり背後から衝撃が。
「天文部とやらに入って頑張ってると思っていたら、街中でナンパして泣かせているなんて最低!」
なんだか凄い誤解を受けているけれど、この声は⋯⋯。
そう思いながら振り向いた僕の前にスポーツバッグを抱えた見覚えのある少女の姿。
「真理恵ちゃん?!」
どうやら部活に行く途中に、偶然見られていたらしい。
「牧田君の知り合いなの?」
突然目の前で起きた騒ぎで高塚さんも落ち着きを取り戻したみたいだけれど、もらい事故すぎる。
「うん、幼なじみの子なんだけどね」
「この前は部活の先輩と仲良さそうにしてると思ったら、別の女の子にも手を出してるなんて!」
「牧田君、そんな事してたの?」
何もしていないのに、このままではどんどんチャラ男にされていく。
「ちょっとみんな落ち着いて」
「言い訳無用!」
「大丈夫ですっ。私がちょっと慌ててただけでっ」
そう言って再びスポーツバッグを振りかぶろうとした真理恵ちゃんを、高塚さんがなんとか止めてくれた。
「⋯⋯なんだ、そういう訳か」
高塚さんの説明でようやく落ち着いてくれた真理恵ちゃん。
「おかしいと思ったのよ。一輝がそんなにモテる訳無いしね。」
どうやら誤解は解けたみたいだけれども、なんだか納得出来ないな⋯⋯。
「ゴメン。遅れちゃうからまたね」
そう言って走り去っていく真理恵ちゃんを見送っていると、僕のスマホに着信が入った。
「矢口君だ」
「ゴメンね。薬が効いていて、うとうとしていたけれど、何かあった?」
「いや、うん、ちょっとね⋯⋯」
今の一幕をどう説明していいのかわからなくなった僕は、とりあえずお見舞いに行く事だけを告げて、通話を終えた。
「ねえっ。先輩と仲良さそうにしてたって、なになにーっ」
⋯⋯高塚さん、色々と気が早すぎるよ。
結局、病院へ向かいながら、誤解の事や、真理恵ちゃんとの関係を色々と説明する羽目になった僕だった。
果たして無事にお見舞い出来るのでしょうか
次回『高塚さんはお世話したい』は20日(金)21時頃更新予定です




