高塚さんは相談したい
「こんなに暑かったっけ」
合宿から帰って2日後の朝、僕は夏休みの課題を机に広げたままでぼんやりとしていた。
合宿地だった高見原と、自分の部屋では温度差はほとんど無いはずなのに、こちらの方が何故か蒸し暑く感じる。
「みんなは今頃何しているのかな」
普段の部活動では考えられない位の時間を一緒に過ごした合宿の後だと、今までは当たり前だった1人の時間が少し物足りなく感じる。
夏休み後半に都合がつけば、もう1度観測会をしようという話もあったけれども、しばらくはみんなと顔を合わせる予定は無い。
もしもの時の為に、今のうちに余裕を持ってやるべき事はやっておかないと。
午前中の涼しい時間帯に少しでも課題を片づけていこうとした僕の意気込みは、あっさりと夏の暑さの中に溶けていこうとしていた。
「図書館でも行ってみようかな」
環境を変えてみれば、少しははかどるかもしれない。
そう思いながらスマホに手を伸ばしたそのタイミングで、まるで見計らっていたかの様にメッセージが届いた。
「高塚さん?」
普段、あまり直接やり取りした事は無かったのに、どうしたのかな。
『予定空いてる日ないかな?』
普段の明るい感じからは、あまり想像のつかない短いメッセージと、添えられていた申し訳なさそうな絵文字。
『とりあえず今大丈夫だよ』と返すと、早速通話の通知が入ってきた。
「ゴメンね、急に」
「大丈夫だけど、何かあった?」
返事を返しながら、合宿の最終日の事件を思い出す。
「あのね、優の事なんだけど⋯⋯」
落馬して、病院に行ったまでは聞いていたけれど、ひょっとして、大怪我だったとか?
「その事でちょっと相談したくて⋯⋯」
話を聞くと、落馬した時に鎖骨を折ってしまっていたらしく、2週間程入院する事になったのだとか。
「それでお見舞いに行きたいんだけど⋯⋯」
自分が操作を誤ったスマホのフラッシュが原因で起こった事故なので責任を感じているのだとか。
「それにね⋯⋯」
小さい頃からあまり身体が強く無かった高塚さんの面倒をよく見てくれていた矢口君。
不便な入院生活を送っている今こそお返し出来るチャンスなのではと思ったそうなんだけれど⋯⋯。
「どうすれば喜んでくれるかな⋯⋯」
そういえば、僕が天文部に入った頃も高塚さんは入院していたっけ。
「いつもお世話されてばかりで⋯⋯」
いつもと逆の立場になったら、どうして良いのかわからなくなったらしい。
「それで結星先輩達にも聞いてみたんだけど、やっぱり男の子同士の方がわかりやすいかなっていう話になって⋯⋯」
なるほど。いつも一緒だからお互いの事はわかっているかと思ったら、逆に距離感が近すぎても駄目なのか。
そう考えると、いつもさり気なく高塚さんのサポートをしていた矢口君って凄いんだな。
といっても、とっさには良い考えが浮かんでこない。
「色々と長くなりそうだから、高塚さんが良ければ、直接会って話さない?」
「ホントにいいの?」
「僕も出来ればお見舞いに行きたいし」
「じゃあまた後で」
結局午後から待ち合わせて、お見舞いに行こうという約束をして、通話は終わった。
「そういえば⋯⋯」
スマホを置いた手を見て思い出す。僕も結星先輩へのお返しを相談してみようかな。
仕方の無いアクシデントだったとはいえ、アヒルの怪我の手当てだったり、スイカ割りの時に押し倒してしまったり。
思い返すと迷惑ばかりかけていて、嫌われていなければ良いのだけれど⋯⋯。
そんな事を考えだすと、課題はますます手につかなくなっていく。
意識し過ぎではという気持ちと、これを機会にあわよくば、もう少し仲良くなれるのでは、なんて余計な事まで考えてしまう。
ふと我にかえった時には、ノートはすっかり意味不明な落書き帳になっていたのだった。
こんな調子で無事相談は終わるのでしょうか?
次回『高塚さんはお見舞いしたい』は3月13日(金)21時頃更新予定です




