梅雨の空とうわの空
空模様のあやしい日が増えて、なんとなく気分も沈みがちな梅雨時。
天気が悪くて星空の観察もあまり出来ないけれど、逆にこんな時期だからこそ出来る事もある。
そんな訳で、最近の僕はといえば、この間の様に望遠鏡の扱い方を教わったり、この時期の天体関係のイベントなんかを自分でも調べてみたり、わからない事は先輩達や他の1年生達に聞いてみたりと少しずつ勉強をしていた。
「なるほど、ストロベリームーンって本当に赤くなるわけでは無いんですね」
「そうね、昔はイチゴの収穫時期の目安になっていたからそう呼ばれる様になったみたいだけれど、実際に光の加減で赤っぽく見える時もあるのよ」
「本当に色が変わるのですか?」
「時期によるけれどね。近いところだと夏至の頃かな。」
「夏至って言うとなんとなく夏のイメージですけれど、もうすぐなんですね」
たまたま昼休みに図書室で本を探していた結星先輩に会って、そんな会話を交わす。
そういえば再会のきっかけはこの図書室だったけれど、こうして2人だけの会話も久しぶりな気がする。
天文部って、こんな風に星の事を調べて語りあってみたり、静かに夜空を観察する感じだと思っていたけれど、そのイメージはこの2ヶ月と少しですっかりと変わってしまった気がする。
まさかこんなに賑やかで、個性的な人達がいっぱい居るとは思わなかったな。
「そろそろ時間ね。また部活で」
そう言って、結星先輩は教室に戻って行った。
「おーい一輝。今の誰?」
「部活の先輩だよ。」
「だよな。お前にあんな可愛い彼女が出来るはずないよな。」
「うるさいな。そういえば友也、最近何やってるの?」
「まあそれなりに?」
まさか今の会話を聞かれていただなんて。
彼女?なんて聞かれるとつい意識してしまいそうになるけれど、ただの優しい先輩だし。
なんとなく気恥ずかしくなって強引に話題を変えたりしてみたけれど、不自然じゃ無かったかな。
結星先輩ってやっぱり誰から見ても可愛いのかな。
もしかして付き合っている人とかも⋯⋯
「部活もいいけれど、たまには遊ぼうぜ」
「うん、そうだね」
すっかり結星先輩の事が気になって、僕はうわの空で適当に返事をしながら午後からの授業に戻ったのだった。
「今度の週末空いてる人いる〜?」
梅雨空でも明るい宮前先輩の声が部室に響く。
「紗英。もしかして新作?」
「そう、夏に向けてね」
なんの話だろう。もしかして少し前にマルシェで会った時の?
「宮前先輩。この前言っていた試食ですか?」
「そうだよ〜。自信作なんだからね〜」
「楽しみっ。私達絶対行きますっ」
「愛純、私達って僕も入ってるの?」
「当然っ」
矢口君と高塚さんって従兄妹同士とはいえ、本当に仲いいよな、もしかして付き合っていたり⋯⋯
昼休みの会話の流れからどうも考えがそちらの方に行ってしまう。
「えっと、結星と矢口君と愛純ちゃん、牧田君はどうかな〜」
「大丈夫です」
「よかった〜。なるべくいろんな人の意見聞きたいからね~」
またしてもうわの空のままで返事をしてしまったけれど、今度の週末だったかな。
「じゃあみんな。お腹空かして来てね〜」
あれっ、そういえば幸田部長と大山君も居るけれど不参加?
「僕はちょっと胃の調子が⋯⋯」
幸田部長、色々と不憫過ぎて大丈夫なのかな。
「すいません。その日は勝志さんと予定があって」
「気にしなくていいよ~。また機会があったらね~」
そう言ってその日は解散になったのだけれど、帰り際に幸田部長からそっと不思議な忠告を受けたのだった。
「牧田君。胃薬持っていないなら用意しておいた方がいいよ⋯⋯」
相変わらずうわの空だった僕は、その忠告の意味が食べ過ぎに注意するように心配してくれたのかなくらいにしか思わず、試食会の当日を迎えたのだった。
ようやく恋愛ジャンルにふさわしい展開になるのでしょうかね
次回『宮前先輩の試食会』は11月21日(金)21時頃更新予定です




