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成り行き天文部員牧田君の日常 〜愉快なセンパイを添えて〜  作者: 甘木 


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メンテナンスをしよう

「もう6月か⋯⋯」


 早いもので、この間高校生になったと思ったら、あっという間に時間が過ぎていく。


 衣替えも終わって、何となく涼しげな気分でいたけれど、最近空模様があやしかったり、かと思うと日射しの強い日があったりと、夏の始まりを思わせる日々が続いている。


「梅雨もイヤだけど、今年の夏も暑いのかな」


 去年の夏は部活を引退してからしばらくは、暑さを言い訳にしてダラダラと過ごしていた気がする。


 単純に受験勉強から目をそらしていただけの気もするけれど。


 それに比べて今年は、天文部のおかげで色々と思ってもみなかった体験が続いていて、ダラダラとしている時間なんて考えられない気がする。


「そういえば、梅雨の時期ってどんな事をするんだろう」


 雨が降っていれば、星空も観測出来ないよな、そんな事を思いながら部室に向かう。



 

「⋯⋯クシュン」


 部室に入った僕を出迎えたのは派手なくしゃみ。


「どうしたんですか、幸田先輩」


「ちょっと機材のメンテナンス、ハックション」


 そこにいたのはマスクをつけ、涙目で鼻をすする幸田部長の姿があった。


「!?」


 なんでも、梅雨どきで湿気の多くなるこの時期は、望遠鏡にとっての大敵、カビが発生しやすいそうで、観測後の手入れの他にも定期的にしっかりとメンテナンスをしておいた方が良いらしいのだが。


「ハクション!」


 レンズ表面のホコリを吹きとばして、ふき取る作業をしていたら、くしゃみが止まらなくなったらしい。


 なんだか花粉症みたくなっているけれど大丈夫なのかな。


「ハックション」


「全然止まらないね〜。息止めたり、冷たいお水飲むんだっけ〜」


「紗英、それはしゃっくりよ」


 後から来た結星先輩と宮前先輩も困惑気味だ。


「大丈夫、いつもこんな感じックション」


 大丈夫と言われても、幸田部長の事だから色々と大丈夫では無い気がする。


「先輩っ。これ舐めてみてっ」


「むぐっ?!」


 高塚さんが手渡したアメらしいものを含んだ幸田部長の様子が⋯⋯


「酸っぱックション!!」


「愛純、何を渡したのさ」


 慌てて、矢口君が問いただす。


「えーっ。レモンキャンディだよっ。のどが潤ったら良くなるかなと思ってっ」


 どうやら酸っぱさで有名なキャンディを舐めさせたらしい。なんでそんな物持ってるの?


「眠気覚ましとか、気分転換にねっ」


 うん、悪気が無いから何も言えないけれど、かえって悪化しているような。





「おーい!! 夏休みの合宿の事だけど、⋯⋯どうした幸田!?」


 勢いよく扉を開いて入って来た遠山先輩だけれど、立ち尽くす幸田部長の姿に困惑気味だ。


「なるほど!!話は分かった!!」


 事情を説明されて納得したみたいだけれど、何か良い解決策があるのかな?


「任せろ!!」


 そう言って幸田部長の前に立った遠山先輩は、顔面を固定させてから小鼻の周りや眉間のあたりを指で押し始めた。


「イダッ!?」


 何やらもがく幸田部長に構わず、グイグイと指を押し込んで行く。


「我慢だ!!」


「遠山先輩。幸田先輩がもがいていますけど?」


「大丈夫!!くしゃみを止めるツボを押さえているだけだ!!」


「そんなツボあるんですか?」


 ちゃんとした治療らしいけれども新手の拷問のようにも見えるのは何故だろう。


 


 しばらくしてぐったりと動かなくなった幸田部長。


 確かにくしゃみは止まったけれど、その他も色々止まっていませんか?


「これでよーし!!」


 満足気な遠山先輩を前に誰もそれ以上の事は言えなかったのだった。




「仕上げはこの布でやさしく拭いて」


 その後、なんとか息を吹き返した幸田部長からあらためて手入れの仕方を聞き、みんなで分担しながら作業は終わった。


「望遠鏡ってデリケートなんですね」


「そうだね、慣れればそこまで大変じゃないけれど、少しずつ覚えていってくれると嬉しいな」


 優しく教えてくれる幸田部長を見ながら、僕は望遠鏡のメンテナンスと度々不幸に見舞われる幸田部長、どちらの方が取り扱いが難しいかをなんとなく考えてしまったのだった。


梅雨どきの憂鬱ゆううつさも天文部には関係無い?

第21話『梅雨の空とうわの空』は11月14日(金)の21頃投稿予定です

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