GWの観測会(後編)
今回の話に出てくる星空の様子は今年(2025年)のGWの星空を元に描写しています
衛星の位置は毎年異なりますが、北斗七星を目印とした春の大曲線や大三角形の探し方は変わりませんので、よろしければGWの時期にお楽しみください
結局、幸田部長は逃げる時に足を挫いたらしく、相手の両親に付き添われて、病院へと行ってしまった。
何でも小さい頃に近所の犬に追いかけ回されたのがトラウマになっていて、思わず逃げ出してしまったらしい。
「ちょっとしたアクシデントで予定より遅れましたが、本日のメインに移りたいと思います」
代わりに副部長の結星先輩の案内で、セッティングされていた望遠鏡をのぞき込むと、そこには周りの星よりも明るく輝く赤い星が映し出されていた。
「火星ですね」
昔からSF小説の題材としてもよく知られ、あまり詳しくない僕でも、探査機から送られてきた火星の風景の写真を見た事や、物語を読んだ事はある。
望遠鏡に映るその姿は、勿論地表まではっきりと見える訳ではないけれど、確かにそこに有り、初期段階とは言え、人類が探査機を着陸させているかと思うと、なんだかより一層その存在が身近に感じられるようだった。
「今度は、視線を火星から右の方に向けて」
次の人に望遠鏡を譲ると、そう声をかけられて空を見上げる。
「カストルとポルックス。双子座の金星と銀星だよ」
少し明るさは落ちるけれど、確かに一際目立つ星が、2つ。
「冬にはこちらの星座方面からの流星群がよく見える、覚えておくといい」
今まであまり意識した事が無かった夜空の星が、意味を持って語りかけてくるようだ。
「よし、次は、火星を挟んで反対側、ずっと左の方に」
言われるがままに視線を移動させて行く。
「あれがレグルス。しし座にある1等星だ」
「1等星って結構あるんですね」
「いや、21個しか無いぞ。ちなみにレグルスは1等星の中では1番暗い星だ」
松井先輩や佐藤先輩のレクチャーのおかげで、バラバラに輝いている星達が少しずつ線で結ばれ星座となって浮かび上がる
「次はレグルスから左に、獅子の腰の部分を」
そこにはもう少し暗いけど結構目立つ星があった。
「レグルスが1番暗い1等星なら、あれは2等星ですか?」
「そう、デネボラだ。あの星の位置を覚えておいて欲しい」
「少し休憩しましょ」
結星先輩のひとことで我にかえって見ると、最初はまだ少し夕闇の空が残っていた空は、いつの間にか三日月より少し厚みを増した月の光の他は、すっかり闇に包まれて、より一層星の輝きが目立つ様になっていた。
「こんなに沢山の星の1つ1つに名前があって、意味があるんですね」
「星の物語がわかって来ると面白いでしょ」
「素敵ですね」
そう言って微笑む結星先輩、その笑顔になんだか照れくさくなって、僕は少し見当違いの言葉を返してしまったのだった。
「そろそろ、今日のメインの観測だ。牧田、北斗七星はわかるか?」
さすがに僕でも知っている。
さっきのしし座からもう少し上の方にあるひしゃく形、大昔から方角をを確かめる為に多くの人が眺めてきた7つの輝き。
「よし、その柄の部分をもっとカーブに沿って伸ばしていくんだ」
言われるがままに視線を移していくと、そこにも目立つ星があった。
「アルクトゥルス。うしかい座の1等星だ。次は、もっと下にカーブを」
「あれですか?」
「そう、それが乙女座のスピカ。別名真珠星。」
星の違いなんて気にした事も無かったのに、それぞれが個性的な輝きで僕の目に映る。
「本来はさらに下にある、からす座まで続く曲線を『春の大曲線』と言うんだ」
「春の大曲線」
そう呟いて、あらためて北斗七星からたどって見ると、見えないはずの大きなカーブが夜空に浮かび上がる。
「それでは今日の最後の目標、『春の大三角形』だ。さっきのデネボラ、アルクトゥルス、スピカを結んで」
白く輝くアルクトゥルス、青白い光のスピカ、2つの星よりは少し暗いけれど、しっかりと存在を主張するデネボラを結ぶと、少し傾いているけれど、確かにほぼ正三角形に見える景色がそこにはあった。
「星空っていいですね」
そう言って僕達はただひたすらに夜空を見上げていた。
初めての天文部らしい話になりました
次回『迷子の迷子の⋯⋯』は通常どおり17日(金)の21時頃更新予定です
GWが終われば、学生にとっては中間テストの時期ですがはてさて?




