GWの前に
「失礼しまーす」
結局観測会のテーマの考えはまとまらなかったけれど、とりあえず春の代表的な星座は覚えて、僕は翌週のミーティングに出席した。
「GWの計画の前に、まずは今年度の新体制の事を少し」
久しぶりに部室に姿を見せた高木先生から聞かされたのは、3年生から2年生への引き継ぎの話だった。
「部長は幸田君。副部長は倉野君。今年度は以上の2名を中心として、部活動を盛り上げていってもらいたいと思います」
運動部では夏の大会が終わったらとかよく聞くけれど、文化系ってまさかのこんな早い時期に代替わりするのか。
「⋯⋯勿論全く顔を出さない訳ではないけれど、2人ともよろしくね」
普段とあまり変わらない様子の竹内部長を見ていると全然実感がわかない。
「エー、それデハ早速GWノ予定を⋯⋯」
幸田先輩、新部長に任命されて、緊張し過ぎておかしな喋り方だけど、大丈夫なのか。
「はい、GWの観測会について、みんなが出してくれた案ですが、佐藤君にまとめをお願いします」
対照的に落ち着いて、役目を割り振る結星先輩。
「めんどくさいけど、仕方ないか。信満、お前も手伝え。」
ぶつぶつ言いながらも、普段から衛星やロケットなんかの軌道計算も大山君と語っている佐藤先輩。
「次に夕食についてですが」
「アウトドアなら任せろ!!」
妙な張り切りを見せる遠山先輩。
「ちゃんとみんなの意見も聞かなきゃダメよ〜」
マイペースだけれど、言うべき事はしっかりと言う、宮前先輩。
「⋯⋯1年のみんなも、それぞれお手伝いしながら覚えていってね。来年はあなた達の番よ」
竹内先輩の言葉にハッとする。
僕は、責任感を持つ事の大事さを少しわかったような気がした。
「まぁそんなに気を張らなくてもいい。僕はGWの後は受験に専念するつもりだけれど、困った時は連絡してもらって構わないし、夏の合宿にも少しは顔を出したいと思っている」
松井先輩は写真について、もっと勉強したいらしく、進学準備に専念するそうだ。
「フフフ、大人への階段を1歩登るのよ」
言っている事はまともなはずでも、何故か不穏に聞こえる都築先輩。
「ソレデハ、次ニ、当日ノ、予定時刻、デスガ⋯⋯」
緊張し過ぎてAIみたいな喋り方になっているけれど、観測機材については誰よりも詳しい幸田新部長。
僕に何が出来るかは、わからない。
他の1年生3人も、ただの新入生歓迎会だと思っていたらしく、実感のわかない顔をしている。
「そんなに悩まなくていいよ~。あたしもまだよくわかってない所あるし〜」
「これからあらためて、よろしくね。先輩達を安心して送り出してあげましょう」
のんびりした宮前先輩と、ニコニコしている結星先輩の笑顔を見ていると、なんだか頑張れそうな気がしてきた。
「メスティン!!シェラカップ!!スキレット!!」
呪文のような言葉をぶつぶつと呟いている遠山先輩、自分達の世代が主役になり、気合いが暴走しているようだ。
「オヤツニツイテデスガバナナハコンカイ⋯⋯」
幸田部長は再起動すればなんとかなるかな。
と言うか、なって欲しい。
「おい信満、ちょっと付き合え」
ひとまず、ミーティングが終わり、早速佐藤先輩に引っ張られて情報処理部の方に連れていかれた大山君を置いて、僕達残りの1年生も部室を出る。
「ビックリしたねっ」
「僕達に何か出来るかなぁ」
高塚さんと矢口君も僕よりは天体についてよく知っていたけれど、正直あまり変わらないレベルだ。
「前に聞いた事あるけれど、大山君は、昔から佐藤先輩から色々教わっていたらしいよ。」
「じゃあ来年の部長は決まりだねっ」
「それはまだ分からないけどさ、少しずつでも僕達にやれる事やって行こうよ」
今までは、どこかまだ、お互い遠慮しがちな感じだったけれど、3年生の引退を前に僕達1年生の結束が少し強まった、そう感じた1日だった。
降って湧いた急展開、果たして新体制は大丈夫なのでしょうか?
次回『相談してみよう』は10月3日(金)21時頃更新予定です




