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5 発見された娘(ディアミド視点)

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

『ああ、雲が横を通り過ぎた』

『人があんなに小さく見える!』

『高い山も一っ飛びとはこういうことか!!』


 興奮気味のデュラッハを何とか落ち着かせようと火の精霊がたしなめているが、デュラッハはお構いなしに思ったことを全て口に出している。


『なぜ精霊教会に龍がいないのだ? これほど素晴らしい生き物なのに』

『デュラッハ、落ち着け。龍はただの生き物ではない。人の血がどれほど混じろうと、龍は神の使いであり、世界の守護者なのだから』


 今頃、箱の中では騎士たちがのんびり寝ているだろう。せめてデュラッハくらい興奮するなり感謝するなりしてくれれば良いものを、と思いながら、ディアミドは南東に向かって飛んでいく。


『針が大きくなってきた! もう近いぞ』


 突然、目的地に黒雲が湧いてきた。不自然な雲に、火の精霊も違和感を覚えたようだ。


『まるで、我らの接近を拒もうとするような気配だな』

「奇遇だな、俺もそう感じた」

『来て欲しくないということは、後ろめたいことがあるということだ』


 3人でそんなことを言いながら、手前の森の中に一度身を潜めた。箱から騎士たちがぞろぞろと出てきて、野営の準備を始めた。人化したディアミドの元に、副官のコルムが走ってきた。コルムは窓から外を確認し、現在地を常に把握している。


「シアル内の、フィーンヒール領です。ここから4キロメートルほど先の所に、フィーンヒールの邸があります。先ほどの雲はその邸の辺りから発生していました」

「フィーンヒール家か」


 ワインの醸造に成功したことで、トマス・フィーンヒールは国王からも一目置かれるようになった人物だ。子供の頃に見たトマス・フィーンヒールはこぢんまりとしたおじさんだったが、最近王宮で見た時には、でっぷりと肥え太って、横柄な態度だったことを思い出す。


「デュラッハ、盗み出された聖道具とはどのようなものなのか?」

『精霊の指輪と、精霊の足輪だ』

「それはどんな力を持っているのだ?」

『共に、悪い精霊を捕らえるための道具だ。指輪は精霊の力を封じたり、指輪を持つ者の命令を聞かせたりすることで、精霊を捕縛するのに使われる。足輪は、捕らえられた精霊を、精霊王が迎えに来るまでの間、逃れられないようにするためのものだ』

「まさか、精霊を誘拐していたのか?」

『可能性はある。風の精霊の子以外にも、いなくなった者がいるからな』


 斥候に邸の周辺の様子を探らせると、邸の周辺から無数の異様な気配を感じたという報告が上がった。一緒に行ったデュラッハも、聖道具がここにあることは間違いないと判断したようだ。


『隠されているが、精霊の気配を感じた。精霊の指輪で捕らえたにちがいない』


 火の精霊の目が怒っている。


「では今晩、突入するために、作戦会議だ」


 火の精霊は今にも飛び出しそうだったが、ディアミドはそんな火の精霊を留めた。


「やつらは精霊の指輪を持っており、精霊を捉えることができる。火の精霊殿まで捕らえられるわけにはいかないのだ」


 火の精霊ははっとした。そして。確かに龍の子の言うとおりだと、冷静さを取り戻したようだった。


 斥候が調べた範囲で、建物の配置図が騎士たちに表示された。


『最も強い反応を示したのは、この小屋だ。おそらくここに、聖道具がある』

「ならば、俺とデュラッハはこの小屋に突入する。他の者は邸に突入し、トマス・フィーンヒールとその家族を重要参考人として捉えよ。また、使用人から証言を集めるんだ」


 夕方までは晴れていたのに、夜。雷鳴がとどろいた。人間に取っては不都合かも知れないが、こちらが近づくのも雨音と雷の音で気づかれにくい。ディアミドは「騎士入りの箱」を邸の庭に置くと、自分は小屋に向かった。そして屋根に体当たりすると、その中にあるものを上空から眺めた。そして、見つけたものに戸惑った。


 娘?


 痩せた娘が、ディアミドを呆然と見上げている。ディアミドは人化すると、娘に「フィーンヒール家の者か」と尋ねた。だが、答えはない。参考人として引きずり出そうとすると、鎖に繋がれた足輪が嵌められているのに気づいた。デュラッハが『足輪だ!』と叫んでいる。聖道具の位置を示す道具をしまうと、ペンダントの先にあった鍵のようなものを押し当てて、娘を足輪から解放した。歩けるか尋ねたが、歩けないようで、ディアミドは仕方なく抱き上げた。鎖がクリスタルにつなげられていたのに気づくと、そのクリスタルが最近「フィーンヒールクリスタル」の名で高額売買されている土地浄化・肥沃化剤だと思い当たった。


「これは、もしかして例のクリスタルか? 待て、お前、このクリスタルに力を吸い上げられていたのか?」


 コクコクと娘が頷いた。ディアミドは、この娘は人ではなく「精霊の指輪」で捕らえられた精霊だろうと当たりを付けた。


「お前も虐げられていたのだな。それに首輪? ……まさか、話せないようにされているのか?」


 娘が再び頷いた。ディアミドが笛を吹くと、騎士が何人か走ってきた。


「そこにあるクリスタルを掘り出し、この娘とともに王宮へ運べ。ああ、罪人ではない、保護対象の証人だ、話もできないようだからそのあたりも配慮しろ」


 不安そうに自分を見つめる娘に、ディアミドは初めて会った筈なのに、妙な既視感を思えた。


「いい、寝ていろ。疲れているんだろう?」

 

 眠りに落ちた娘を抱き上げて、ディアミドは邸に入った。


「指輪は見つかったか?」

「いいえ、まだですが、全員拘束しました」

「よし、王都に連行する。全員箱に入れ」

『だめだ、指輪がまだ見つかっていない。すぐ近くにあるのは間違いないんだ』

「では騎士を半分置いていくので、一緒に捜索するといい。火の精霊殿、彼らとデュラッハの意思疎通を頼めるか」

『よかろう』


 ディアミドはフィーンヒール家の女性使用人に娘の世話をするように命じた。


「彼女に傷1つつけようものなら、お前に10倍の傷を付ける。騎士が見張っているからな」


 箱に参考人たちと騎士を乗せると、ディアミドは再び龍化し、王都目指して空を飛び始めた。


読んでくださってありがとうございました。

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