39 アシュリーン、説教する
読みに来てくださってありがとうございます。
次回でいったん区切りにします。
よろしくお願いいたします。
べヴァンが気づいた時、自分がどこにいるのか全く分からなかった。ただ、そこに鉄格子があり、見張りの兵が何人もいるのが見えた。
なぜ、牢にいるのだろう?
目が暗さに慣れてくると、見張りが着ている服に見覚えがあるのに気づく。その瞬間、ぼうっとしていた頭が一気に覚醒した。
なぜ、ドレイギーツの兵がここにいるんだ?
べヴァンは、枢機卿と火の精霊に連れられて精霊教会に入り、話を聞かれ、食事をふるまわれたことは覚えている。だがそのあとのことは何一つ覚えていない。
まさか、精霊教会に国が入り込んでいたというのか?
だが、それはあり得ないということは、ほんの少し前まで文官だったべヴァンは知っている。
「おい、ここはどこだ?」
震えそうになりながらべヴァンが見張りに声をかけると、見張りは王城の地下牢だといった。
「王城?」
「あんた、自分がどこの国にいるのかも忘れたのか?」
「まさか」
「あんたの故郷だよ。精霊教会から、わけの変わらないことを言っている奴がいるから引き取ってくれと。火の精霊と水の精霊に迷惑をかけてまで何をしたかったんだ?」
「この国の民のために!」
「ああ、そういうのは裁判で言ってくれ」
もう誰も耳を貸そうとはしてくれなかった。
・・・・・・・・・・
数日後、べヴァンは牢から出された。
「裁判をするそうだ」
取り調べもなく一方的に裁判をするとは、この国も本当に腐ったものだ、とべヴァンは憤りを隠せない。
「入れ」
べヴァンが入れられた部屋は、裁判用の部屋というよりは、王城内の会議室のようなところだった。国王、宰相、産業部長、それに龍の騎士団長がギロリとべヴァンを睨んでいる。
負けない! 私は正義を貫くのだ!
「べヴァン。お前には失望した」
国王の言葉に、べヴァンは「私こそ陛下には失望しました」と言い放った。
「フィーンヒールクリスタルが、精霊への虐待によって作られていたものだということは、以前話したから知っているのだよな?」
「ええ、もちろんです」
「ならば、どうしてお前はまたその精霊から力を奪おうとするのか」
「人間の生活にはなくてはならないものだからです」
「まだお前はそう思っているのか」
国王が頭を抱えている。
「ドラガン家の花嫁を救うために、王家とドラガン家は精霊から力を奪ったのでしょう? ならば、フィーンヒール家の者たちとどう違うのですか?」
「ん? 花嫁を救うために精霊から力を奪った?」
「そうでしょう?」
国王と龍の騎士団長が顔を見合わせている。産業部長は瀕死の顔色だ。その時だった。
「遅くなりました!」
ピンク色の髪に鮮やかな黄色の瞳のかわいらしい女性が入って来た。龍の騎士団長の隣に座ると、あの恐ろし気な龍の騎士団長の表情が柔らかくなる。
「アシュリーン、ネイリウスは?」
「『隠蔽』しているだけ。そばにいるわ」
「それならいい」
べヴァンは火の精霊を思い出した。真っ赤な髪に真っ赤な瞳の火の精霊。それは人の持つ色ではなかった。同様に、この女性の色も、人間が持つ色ではない。
「え……精霊?」
「ええ、そうよ」
屈託なく答えたアシュリーンに、べヴァンは心を射抜かれた。
かわいい。可愛すぎる。
「あの、どうしてここに?」
「当事者だからって呼ばれたのよ」
「当事者?」
「あなた、私から力を搾り取っていたトマスたちと同じようなことを考えていたそうね」
「力を……搾り取る?」
「だって、農業の発展のために、私に命じてクリスタルに力を籠めさせようとしていたんでしょう?」
「え……力を搾り取られていた精霊って」
「ええ、私よ。幼い時につかまって、ずっと苦しんできたわ。それなのに、あなたは私から、以前と同じように限界まで力を搾り取ろうと考えていたそうね」
「ち、ちがう、こんなかわいい人だなんて思わなかったんだ!」
「あら、じゃ私が不細工だったら、力を奪ったってことね?」
「そういうわけじゃなくて!」
顔を赤らめているべヴァンに腹が立ったのだろう、ディアミドが口をはさんだ。
「お前は精霊の力を無理やり奪って俺の花嫁が死なないようにしたと言っていたな。だが、アシュリーンは俺の花嫁だ。自分が生き延びるために自分の力を使って何が悪いんだ?」
「え? このかわいい人が、龍の騎士団長の花嫁?」
「何が言いたい?」
ディアミドの感情が高ぶったせいだろうか、アシュリーンの額に黒龍の紋が浮かび上がった。ディアミドの執着を見せられたべヴァンは、だからこそ勇気を振り絞って言った。
「精霊様。悪いことは言いません。どうか私の手をお取りください。何か弱みを握られて無理やり花嫁にされたのでしょうが、私が必ずあなたをお守りします」
アシュリーンはきょとんとした表情をした。次いでディアミドの顔を見た。
「あなたが何を勘違いしているのかわからないけれど、私は私を助け出してくれたディーのことが好きなの。好きだから、どうやったら花嫁としての役目を果たしつつ生きられるか、必死になってその手段を探したわ。そして、世界樹の知識と精霊王様のお助けがあって、私は今、こうして生きているわ。私は私の力を使うために、クリスタルを用意してもらった。そして、その力のおかげで死なずに済んだ。それは、あなたにとって許しがたいことなの? 私が自分のために力をつかったことが許しがたいというのなら、あなたは私に死ねばよかったと言っているのと同じだということがわからないのかしら?」
「え……」
べヴァンは自分の発言を振り返った。精霊の力を龍の騎士団の花嫁のために使うなど許せないと、確かに言った。
「同一人物だと思わなくて」
「違ったら、花嫁が死んでもかまわなかったってことよね」
「いやそれは……」
「一人を救えない人が、どうして数千数万の人を助けられるというの?」
「あ……」
アシュリーンは心底軽蔑した表情でべヴァンに告げた。
「あなたは、数十人の村で恐ろしい伝染病が発生したという知らせを聞いたらどうする?」
べヴァンは考えた。伝染病を封じ込めるために、村を封鎖し、場合によっては火を放って住民を全員……
「あなたなら、殺すでしょうね」
読んでくださってありがとうございました。
明日、一旦完結設定します。
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