38 精霊教会に飛び込んだ男
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べヴァンは馬をひた走らせた。そして国境の検問所を避けて精霊教会領に入ると、精霊教会の前で大声を上げた。
「精霊のことで、申し上げたいことがございます! どうかお取次ぎください!」
あまりにも騒いでうるさいからと教皇に話を聞くように命じられたデュラッハは、フランと一緒に精霊教会の扉を開けた。教会の前で土下座し、額を石畳につけた男がいる。
「紹介状も持たずに直訴とは何事でしょうか?」
「ドレイギーツ国内で、精霊が搾取されているようなのです! どうかお調べください!」
「搾取されているとは?」
「ここでは……」
そう言って周りを見まわす。教会に仕える宗教関係者がこちらを見ている。デュラッハはにこやかに言った。
「ここでお話しください。他人に聞かせられないような話を、我々は嘘偽りと判断します」
「あなた様のお立場が分かりませんので、不用意なことは言えません」
「枢機卿の一人ですが。そうでなければ、火の上位精霊が私の守護になどついてくれませんよ」
べヴァンは赤い髪色のフランを見た。火の精霊を初めて見たべヴァンは、自分がドレイギーツにいる精霊が何の精霊なのかも知らずに来たことを公開した。それにまさか枢機卿が出てくるとは思っていなかった。だが、これはラッキーだ。声があまり大きくならないように注意しながら、デュラッハに告げた。
「ドレイギーツの国王とドラガン家が共謀し、精霊の力を搾取しているようなのです」
「ドレイギーツの王家とドラガン家? それで?」
「それでって、精霊の力を奪ってその力を占有しているのですよ? 本来その力は国民全体に使われるべきだというのに!」
「んん?」
デュラッハとフランは顔を見合わせた。論が破綻していることに、この男は気づいていないようだ。
『デュラッハ。これはダメな奴かもしれぬぞ』
「『別室』で話を聞いたほうがいいだろうか?」
「ああ、『別室』がいいだろうな」
べヴァンはやった! と心の中で叫んだ。これでフィーンヒールクリスタルを作っていた精霊を開放できる。そして、国のために働いてもらえる。
連れていかれる「別室」が、危険人物を収容するために「牢」であるとも知らず、べヴァンは機嫌よく2人についていったのだった。
・・・・・・・・・
『ん?』
ブライアンに授乳した後うとうととまどろみかけていたアシュリーンの耳に、ネイリウスの不穏な声が飛び込んできた。
「ネイリウス?」
『フランが呼んでいる』
「フランが? 精霊教会で何かあったのかしら?」
『そのようだ。龍の子の父と交代しなければ』
「行ってくるの?」
『ああ』
ネイリウスは廊下にいた龍の騎士団の団員に、アルヴィンを呼んでくるようにと頼んだ。アルヴィンはすぐさまやって来た。
『精霊教会で何かあったらしく、呼ばれている。ここを離れるので、龍の子の父に引き継ぎたい』
「儂のことはアルヴィンと呼べばよいと言っているのに。龍の子の父など、長くて舌を噛みそうだ」
『その気になったらそう呼ぼう』
ネイリウスは姿を消した。水差しの中から「ちゃぽん」という水の音がした。この水を通して精霊教会に向かったのだろう。
「何があったのかはわからないのだな?」
「はい。とりあえず呼ばれているとしか」
「ふむ。一応ディアミドにも伝えておくか」
廊下の団員にそう告げると、5分ほどで馬が邸から駆け出していくのが見えた。動きが速い人たちだとアシュリーンはいつも感心する。
「ふみゃ?」
ブライアンがアシュリーンを見ている。
「ブライアンには何があったかわかる?」
首を横に振ったブライアンの頭をなでながら、アシュリーンは悪いことじゃなければいいのだけれど、とつぶやいた。
・・・・・・・・・・
『つまり、アシュリーンを王家とドラガン家が隠し、その力を占有していると言っているのか?』
「精霊が誰なのかということまでは全く分かっていないようだ。クリスタルの購入記録から、王家とドラガン家に目星をつけたと言っている」
『だからネイリウス、お前はこの男をドレイギーツに連れて行ってくれないか? 精霊教会としては迷惑千万だ』
『都合よく使ってくれるものだ』
「ですがネイリウス、ことはほかならぬアシュリーンのことです。ほかに知られる前に、そちらの国王と龍の騎士団長に知らせたほうが良いと思うのです」
ネイリウスは心底から嫌そうな顔をして牢の中で伸びている男をみた。あまりにもうるさいので、睡眠薬入りの食事を与えて眠らせているのだ。
『この男は、東の国の使節団にクリスタルのことを漏らした。東の国から、クリスタルを分けてほしいという話はそう遠からず来ることになるだろう。平和的に解決できればいいが、クリスタルに力を籠められるのがアシュリーンだと知られれば、アシュリーンの身が危ない。だから今は龍の子、龍の子の父、そして自分の3人でアシュリーンとブライアンを守っているのだ』
『そうだったのか、すまない』
「お手数をかけますが、この男、ドレイギーツの国民のようですからねえ。お願いしますね」
ちっと舌打ちしながら、ネイリウスは牢に入った。そして男をつまみ上げ、フランから調査報告を受け取ると、姿を消した。
『まったく、短気な奴だ』
「しかたがないですよ、ネイリウスはアシュリーンのことになると、本当にただの兄になるのだから」
『まあそうなのだが』
「悪いほうにはいかないでしょう」
『そう信じよう』
・・・・・・・・・・
ネイリウスは龍の騎士団に直行すると、ディアミドの前にべヴァンを置いた。精霊教会から国王あての報告書と手紙を預けると、「あとは何とかしろ」と言って姿を消した。
国王に報告すると、すぐに近衛兵がべヴァンを拾いに来た。
「さて、東の国とどんな話をしたのかな?」
ディアミドの目が座っている。面倒なことになったものだ、と国王と宰相はただため息をつくほかなかった。
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