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龍の騎士団長の花嫁は、1年後に死ぬことになっている【連載版】  作者: 香田紗季


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30 男の心構えはかくあるべき?

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 ベッドサイドの大きなクリスタルは、内側から金色の光を放っている。夜はまぶしいので布を掛けねば眠れぬほどだ。それ以外にも、握りやすい大きさのクリスタル表面がなめらかになるように加工したものを大量に取り寄せて力を込めてある。準備は整った。


 先ほどから繰り返す痛みに、アシュリーンは「陣痛が来たかもしれない」とエーファに伝えた。エーファは「準備しましょうね」と落ち着いた様子で言うと、サーシャに命じて邸内をいつ出産となってもいいように整えさせた。布を大量に用意し、大きな盥を準備させ、いつでも湯を沸かせるようにする。


 邸内へは蟻一匹さえ入り込めないほどの監視態勢が敷かれた。ディアミドの元に、国王の諜報機関から情報がもたらされたからだ。


「花嫁殿の出産に乗じて、侵入を計画している者がいるようだ」


 その日から邸の警備態勢を見直し、龍の騎士団の私的利用を国王に認められた。龍の騎士団は、国王ではなくドラガン家に忠誠を誓っている。国王を退位させると龍の子が決めた時には、国王よりも龍の子たるドラガン家の命令に従うと定められている。とはいえ、1つの家がこれだけの強力な騎士団を持っているのは宝の持ち腐れだからと、平時は国王が使用権を持っている。その平時の利用権を一時的にドラガン家に戻したというのが正確なところである。


 アルヴィンも、古株たちとの再会を喜びつつ、張り切って警備に回っている。執務室で指示を出していたディアミドのもとに、アルヴィンがやってきた。


「父さん、何かあったのか?」

「ディアミド。お前、アシュリーンの傍にいてやりなさい」

「だが、男は出産時役に立てないと」

「ああ、何もしなければな。だが、アシュリーンを勇気づけ、支えることはできる。立ち会い出産をするんだ」

「アシュリーンに」

「アシュリーンは傍にいてほしいそうだ」

「父さん……」

「何よりもな、狙われているのが誰かはっきりしない以上、お前がアシュリーンと子どもの傍にいた方がいい」


 確かにアルヴィンの言うとおりである。


「心配するな、この一ヶ月で儂も体を鍛え直した。少しは動ける。龍化すればそんじょそこらの奴には負けない。まあ、今のお前ほどではないがな」

「分かった。父さん。俺がアシュリーンの部屋から出てくるまでは、父さんに指揮権を預けるよ」

「任せろ」


 アシュリーンの部屋に近づくと、アシュリーンの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。慌てて部屋に入ろうとしたディアミドに、アルヴィンは言った。


「絶対に、アシュリーンを守れ。儂にできなかったことをお前に託すのは苦しいが、お前なら、いやお前とアシュリーンにならできるはずだ」

「わかっている」


 ディアミドの背には、既に父親の自覚が見えるようだとアルヴィンは思った。


・・・・・・・・・・・


 出産が大変だという話は、いろんな人から聞いていた。だが、最初に出会った時ほどではないとはいえ普通体型よりも痩せているアシュリーンは、引きちぎれてしまいそうに苦しんでいた。


「エーファ。こんなに苦しむものなのか?」

「個人差がございますし、お腹の子は少々大きく育っているようだと医師も言っていましたからね、難産になるかもしれません」

「俺は、何をすればいい?」

「花嫁様の手を握り、汗を拭き、水を飲ませ、それから」

「それから?」

「どんな罵声でも受け止めてください」

「罵声……」

「これも人に寄りますが、あまりの痛みに、本人の自覚なく周囲の人間に八つ当たりをし、医師にまで罵声を浴びせる女性もいると聞きました。花嫁様がどうなのかは、もちろん初産ですからわかりません。もし罵声を浴びせられても怒らず、そうしなければ精神が狂いそうなほど苦しいのだと思って、罵声を受け止めてください」

「わ、分かった……」


 アシュリーンから罵声。


 想像もできないが、そういうものらしい。ディアミドはアシュリーンがうんうん唸っているベッドに近づくと、クリスタルを置いた方に椅子を持っていって座り、アシュリーン、と声を掛けた。


「ディー?」

「生まれるまで、ずっとここにいるから」

「お義父様が言ってくれたのね。ありがとう」

「してほしいことがあったら言うんだぞ」

「うん」

 

 ディアミドは間隔を開けながら泣き叫ぶアシュリーンの手を握り、しがみつくアシュリーンを支え、水を飲ませ、汗を拭いた。あまりの声にディアミドはオロオロしたが、エーファや医師たちはキビキビと働き、アシュリーンに声を掛けている。


「いったーい!」

「大丈夫か!?」

「痛い、痛い!」


 ディアミドの甲斐甲斐しさに、エーファが思わずつぶやいた。


「若様が立ち会い出産までして、こんなに花嫁様に尽くすとは思いませんでしたよ」

「何を言っているんだ。俺には産めない、俺の子を産んでくれているのだぞ? それも命がけで! そんなアシュリーンを放っておくことはできないし、俺にできることは何でもするさ」


 エーファは頷いた。世の男たちに聞かせたい。医師が感動している。


「このようなお考えの方だったのですね、龍の騎士団長様は」

「ええ、世の模範になる男ですよ」


 扉の外で待機していた騎士たちの中には、既婚者も、いや子持ちもいる。聞こえてきた言葉に、彼らの顔色が変わった。


「なあ、お前たち、そういえば子どもが生まれた時って……」

「俺、暇だからって外に飲みに出ていた」

「オレは生まれたら連絡くれって言って、出勤した」

「前祝いだっていろんな人から酒を驕られて、ぐでんぐでんに酔って帰ってさ。もう子どもは生まれていてさ。『酒臭い男なんて、家の中に入るな!』って産婆に雷落とされた。あれ、理不尽だと思っていたんだが、俺が間違っていたのかな」

「一週間経っても寝込んでいるから、オレ、『いつになったら家事してくれるの?』って聞いたら、汚い物を見るような目で見られたんだよな。こんなに苦しみながら産んでいるってことは、本当に苦しみながら産むんだな」

「ええ、そうですよ」


 軽食を運んできた年嵩の使用人が怒った様子で騎士たちを睨み付けた。


「出産前後、特に子どもがまだ小さい内に蔑ろにされたと感じた妻の恨みは深く深―く根を張って、いずれは離婚を突きつけられますよ」

「「「離婚……」」」

「かく言うあたしも、子育ても家事もしない旦那に見切りを付けて、この家に子どもと一緒に雇っていただいた身の上ですからね」

「「「見切りを付ける……」」」


 騎士たちは、この話を騎士団に広めようと誓い合った。同時に、家に帰ったら妻子を大切にし、妻の負担を減らさねばならないことに気づいた。


 後に、龍の騎士団の騎士たちは妻の出産に必ず立ち会い、子どもの世話をするようになるのだが、そのきっかけとなったのがディアミドの行動だったことは言うまでもない。


読んでくださってありがとうございました。

明日生まれますよ。

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