29 本当の愛と、偽りの愛と
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ディアミドが帰ってきたことに気づいたアシュリーンは、ディアミドを出迎えようとゆっくり立ち上がった。
「花嫁様、少しお待ちください。どうやらご当主様もいらっしゃるようです」
「ディーがうまく話してくれたのね!」
「花嫁様がお呼びに?」
「そうよ、ディーのお母様がご出産の時、エーファは女性側の視点で見ていたでしょう? でも、ディーのためにも私のためにも、夫・父親の立場の視点でどう見ていたか、お話を聞きたいってお願いしたの」
「それで、絶対にもう王都には出てこないとおっしゃったご当主様を引っ張り出したと」
「え、そんなことをおっしゃっていたの?」
「そうですよ、月に1度、王都とドラガン家の状況について報告をまとめてお送りしていましたが、それも目を通していらっしゃったのかどうか」
エーファはふっと遠い目をした。
「前の花嫁様とご当主様は、ドラガン家でも滅多にない恋愛結婚でしたからね。花嫁様を失ってからのご当主様は、一時期廃人のようになっていらっしゃったのですよ」
「私を見たお義父様が、フラッシュバックを起こしてしまわれたらどうしよう」
「その時は、若様がなんとかしてくださいますよ、ご心配なく」
エーファににこりと微笑まれれば、その通りだと思ってしまう。そう言えばエーファはディアミドの乳母だった。乳母子は誰なんだろう。そして、アシュリーンも乳母を探さなければならないのだろうか。
確認しなければならないことがまたできたわ。
やる気満々のアシュリーンは、小さく気合いを入れると玄関に向かった。草地から歩いてきたなら、ちょうどディアミドたちが到着する頃合いだ。
玄関の扉が開かれた。
「お帰りなさいませ」
使用人たちと一緒に、アシュリーンはディアミドとアルヴィンを出迎えた。頭を上げると、ディアミドが柔らかく笑い、小さく頷いた。隣には、精悍なディアミドとは余り似ていない、妖精のような細い中年男性が立っている。義父のアルヴィンに違いない。
はち切れそうにふくれ上がったお腹を抱えて「よいしょ、よいしょ」といいながらアルヴィンの前に行くと、アシュリーンはにこりと微笑んで挨拶した。
「初めまして、お義父様。アシュリーンです」
アルヴィンは顔を紅潮させてぷるぷると震えている。訝しげにアルヴィンを見たディアミドは、聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「可愛い娘ではないか! ディアミド、これはしっかり守ってやらねばならぬな! ディアミドがいない時には、この義父を頼るとよい!」
そうして、アシュリーンの手をガシリと掴んだ。
「父さん、それ以上アシュリーンに触れないでくれ。俺の花嫁だ」
「ああ、すまん。ティーガンによく似た雰囲気だったのでな、つい……」
「つい、では許されぬ事もあると教えてくれたのは父さんでは?」
「ああ、すまなかった」
その日から、親子3人の生活が始まった。昼間、ディアミドが龍の騎士団に出勤すると、アルヴィンがディアミドの母ティーガンの思い出話をしてくれる。アルヴィンがどれほどティーガンを愛していたのかを聞く度に、アシュリーンは「ドラガン家の男の愛は重い」と国王が言っていたことを思いだした。
「お嬢ちゃん。儂は、お嬢ちゃんが無事に生き残れるよう、儂ができることをしてやりたい。もし生き延びてくれたら……あんな辛い思いをするドラガンの男が2度と出ないようになったら、こんなうれしいことはない」
「お義父様……」
「生き延びてくれたら、孫のためにもしっかり生きねばならないな」
「大丈夫です。私、死にませんから」
アルヴィンが目を潤ませている。
「絶対に。そのために、いろいろ準備しているんです。お義父様から教えていただいた話もディーと共有して、出産するその時に役立てるつもりです」
「ああ、そうだったな。聞いておるか、我が孫よ。絶対に母様の命を奪うでないぞ」
腹の内側からいつのようにポンポンと蹴りが入る。
「ここから見ても、腹の形が分かるほどに蹴るとは、腹の子の力も強そうだな」
「ええ、元気いっぱいです。みんなでこの子を育てましょうね、お義父さん」
その夜、アルヴィンは懐中時計を開いた。湖の家では一日中眺めていたが、今は自分の体を鍛え直し、アシュリーンに昔の話をすることで忙しい。
「なあ、ティーガン。ディアミドは素敵な花嫁をもらったようだ。あの花嫁がそちらに生きそうになったら、追い返してくれないか? ディアミドまで儂のようになったら、かわいそうだろう?」
懐中時計の内側に描かれた亡き妻の肖像画。ドラガン家では花嫁の肖像画を決して残さないと分かっていたから、交際している時にこっそりと描いてもらったものだ。まだ十代のティーガンがそこで微笑んでいる。
「なあ、頼むよ、ティーガン」
肖像画の中のティーガンが一瞬、頷いたように見えた。驚いて目をこすり、もう一度見たが、もう肖像画は変わらなかった。
・・・・・・・・・・
「ねえ、もう一人生きている龍の子が王都に戻ってきたって、本当なの?」
「はい、間違いありません。邸の敷地内を、黒龍が2体飛んでいるところを確認しました」
「素敵ねえ、わたくしも飛んでいる所を見たかったわ」
「一瞬でしたので、王女様にお伝えできず残念でした」
「やっぱり生で見るのが一番だもの、遠眼鏡でしか見えないのなら仕方がないわ」
グラディス王女はうっとりと言った。
「研究対象としてはここから先も長く生きられる若い方がいいけれど、若い方が言うこと聞かないなら……少し年上でもよしとしましょうか」
「ご冗談を」
「冗談じゃないわ。お父様の命令は、黒龍の子を連れてくること。この国の王も黒龍の子を手放さないなら、もう一体が北の国に来ればいい。それだけのことなのよ。その時
、わたくしが伴侶になれたなら最高なのだけれど」
「時々王女様の審美眼を疑うことがあります」
「あら、そう? わたくしは黒龍を傍で研究することができればいいの。研究者としては、やはり文献だけではなく、実物に触れてみたいものなのよ」
「この研究バカ」
「あ~ら、そういうキースは腹黒よね。宰相さえ手玉に取るほどの、超腹黒」
「王女様ほどのトラブルメーカーの前では、それほどでも」
「どういう意味?」
「最後は解剖までしようとしている王女様の願望と、黒龍の力を軍事的に利用したい陛下との思惑はかみ合いません。下手をしたら陛下に殺されますよ」
「そうよね~、だから、わたくしが妻になって、手綱を握らねばならないのよ」
「つまり、この私はお払い箱ということですか?」
「まさか。人間で一番いい男はキースよ。黒龍の子は人間ではないのだから」
グラディス王女とキースは、生まれたままの姿で同じベッドにいる。王女がキースに口づけると、キースもそれに応える。
「わたくしが黒龍の妻になりたいのは、その生態を知るためよ。男として愛しているのは、キースただ1人。キースもそうでしょう?」
「ああ、もちろんだよ、グラディス」
キースの言葉遣いが変わった。完全なるプライベートタイムに入った2人の関係は、侍女たちさえ知らない。
「とにかく一体、連れて帰りましょうね」
(研究材料として、ね)
(王たちを排除し、グラディスを女王にして権力をこの手にするためにな)
グラディスはキースを利用しているつもりだが、キースに利用されていることに気づかない。
(愚かな王女。だが、その方が御しやすい)
王女が眠った後、キースはそろりとベッドから抜け出した。庭に出ると、斥候がどこからともなく姿を現した。
「報告を」
「花嫁が出産に入りました」
「そうか。では、例の計画を進めるように」
「承知しました」
キースは夜空を見上げた。もう少しで、自分の言いなりになる黒龍の子が手に入りそうだ。
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