24 アシュリーンの願い
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その日の夜。ディアミドはご機嫌斜めの状態で帰ってきた。
「ねえ、どうしたの、ディアミド」
「……」
「黙っていたら分からないよ?」
「……」
「そう、私とはもう話もしたくないのね」
「……」
「分かりました、出ていきます!」
「駄目だ!」
ディアミドは部屋から出て行こうと背を向けたアシュリーンを、後ろから捕まえた。
「駄目だ、どこにも行くな」
「話もできない関係なんて、私がいる意味ないじゃない!」
「……ネイリウス」
「ネイリウスがどうかしたの?」
「今日、アシュリーンに近づいただろう?」
「ああ、お別れの時ね」
「お別れ?」
「うん。世界中を久しぶりに旅してくるって。ああ、あと、子どもが生まれる時には呼べって」
「やっと保護者の目が離れたか」
「え、なあに?」
「何でもない」
ディアミドの機嫌が急によくなったことに首を傾げながら、アシュリーンはディアミドを見た。
「ごめん、ネイリウスがまたアシュリーンを連れていく気だったんじゃないかと思って、心配だったんだ」
あの黒龍の紋を通じてアシュリーンの近くにネイリウスの気配を感知していたディアミドは、いつでもアシュリーンの元に駆けつけられるようにしなければと焦っていたのだと、ようやく教えてくれた。
「もう、言ってくれれば誤解だってすぐに分かったことじゃない」
「嫉妬深いと思われるのが嫌だったんだよ」
「今更?」
「え?」
「今更よ。ディアミドが焼き餅焼きさんだって、知らない人は誰もいないと思うわ」
「うう……」
ディアミドが顔を真っ赤にしている。
「なあ、アシュリーン。俺たちは、もう夫婦なんだよな?」
「そうね」
「クリスタルにまだ何もしていないが」
「したわよ」
「え?」
「モーガンから聞かなかった? 今日、モーガンが用意してくれたクリスタルに力を込めて、どのくらいの反応があるか実験したの。ネイリウスはそれを手伝ってくれていたのよ」
「そうだったのか。で、どうだった?」
「芽はすぐに出るけれども花が咲くまで4年かかる福寿草を、種の状態から花が咲くところまで持って行けたわ」
「そんなに力を使って大丈夫なのか!」
「それほど込めていないのよ。力を込めたいと思って込めるのと、力を吸い出されたくないと思っていたのとでも違うし。それにネイリウスの話では、力そのものがフィーンヒールクリスタルと呼ばれていたものよりも強いんだって。多分私の精神状態が影響しているんだろうって言っていたわ」
「つまり、今のアシュリーンの精神状態はよいということだな」
「そうね」
「ならば、アシュリーンの力を信じて……龍の血を継ぐ、俺の子を産んでくれるか?」
「ええ、もちろん」
翌日から、アシュリーンは昼頃まで起き上がれない日々を送ることになった。ディアミドは過去の記録を調べ、早ければすぐに、遅くとも3ヶ月以内には花嫁が妊娠することを知っていた。妊娠のためによいこと、悪いことを調べ上げ、出産経験を持つ使用人から話を聞き、妊娠と出産について勉強した。
モーガンとアシュリーンに頼まれてクリスタルの採掘場に出向き、大きなクリスタルをアシュリーンの部屋に運んだ。アシュリーンは毎日少しずつその大きなクリスタルに力を込めると共に、小さなクリスタルにも力を込め、まずはディアミドに、ついでまだ顔も知らないディアミドの父に、そして邸の使用人たちに、お守りとして渡した。更に、自分の力を生かすためにと、小さなクリスタルに力を込めて、農作物がうまく育たない土地で使うように手配して欲しいとディアミドに頼んだ。
「ただで配っては駄目よ。人はただでもらえると思うと、それを手に入れられなくなった時に最も不満も持つようになるから。力を込めたクリスタルを売ったお金で次のクリスタルを買う、そういうサイクルを作りたいの」
ディアミドは力を使いすぎだと言ったが、精霊としての力の使い方を練習しているのだと説明して、「クリスタル作りを頑張り過ぎない」ことを条件に、認めてもらった。
ディアミドは、甘々な日々を過ごすよう心がけた。アシュリーンが幸福を感じられるよう、ディアミドは食べる物、着る物、見る物、何もかもに注意した。
アシュリーンは、ディアミドが最大限配慮してくれることがうれしくてならなかった。それ以上に、大切な存在として扱われることがくすぐったくもあり、これがディアミドの、いやドラガン家の男たちが示す愛なのだと思うと、たとえ1年限りの命であっても、誰一人として過去の花嫁たちがドラガン家を恨むこともなく、幸福の中で死んでいったのだろうと理解できた。アシュリーン自身、たとえあの金色の龍の示した過去のようにはならなかったとしても、この幸福の中にいられたならば十分だと思えるほどだった。
翌月、アシュリーンに妊娠の兆候があると知ると、ディアミドは神経質なほどにアシュリーンを守ろうとした。エーファとサーシャとモーガン以外の使用人さえ、アシュリーンの傍に寄ろうとすると威嚇するようになった。さすがにそれではアシュリーンのお世話ができない。アシュリーンに説得されて、ディアミドは渋々使用人たちが近づくことを許した。
更に翌月になると、医師はアシュリーンの妊娠を確実なものとして報告した。つわりの症状も始まり、アシュリーンは食べられず、食べても吐く日々が続いた。ディアミドは「これではアシュリーンが死んでしまう」と慌てたが、以前に力を込めておいた小さなクリスタルから力を取り込むと、苦しさが軽減した。
この頃になると、ディアミドはアシュリーンがどこかへ移動する度に抱き上げて、歩かせないようにした。医師から「運動不足は妊婦の体によくない」と言われて、仕方なくアシュリーンを下ろした。繋いだ手は、絶対に離さなかったが。
ベッドサイドに置かれた大きなクリスタルに力を込めながら、お腹の中の子どもにアシュリーンは呼びかける。
「お母さんは、あなたの顔を見て話をしたいし、あなたが大きくなる姿を、お父さんと一緒に見ていたい。だから、お母さんから全てを奪わないでね」
お腹の内側からトン、と衝撃があった。子どもがお腹を蹴ったようだ。
「いいお返事ね」
過保護なまでに妊婦のアシュリーンを守るディアミドと生まれてくる子、そのどちらもこれからの長い時間、寂しさを感じずにすむようにとアシュリーンは今日も願いながらクリスタルに力を注いでいった。
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