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龍の騎士団長の花嫁は、1年後に死ぬことになっている【連載版】  作者: 香田紗季


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22 龍の秘密と、辿り着いた答え

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 世界樹に導かれるまま、アシュリーンは自分が世界樹の道管の中を、泡のような膜に包まれながら水の流れに逆らって進んでいることに気づいた。この根の先には何があるのだろう。世界樹はどんな答えを教えてくれるのか。


 お願いです、世界樹さん。せめて子どもが成人するまで、ディアミドと生きる方法はないか、教えてください!


 気泡の移動が止まった。アシュリーンは気泡の外には出られないらしい。そのまま周囲を見ていると、眼前に突然風景が映し出された。


 これは……

 

 アシュリーンは食い入るように見つめた。同じようなピンク色の髪と黄色の瞳を持つ者たちが戯れている。ある者は手を翳し、ある者は息を吹きかけると、大地から芽がポンッと飛び出した。歌いながら成長を促進している者、甕の水に手を入れ、その水をまいて花を咲かせている者もいる。


「春の精霊の力をどう発現させるか、やり方はみんなそれぞれなのね」


 アシュリーンが理解したのを確認したように、風景がふっと消えた。そして、気泡はまた移動を始めた。次に止まった所では、代々ドラガン家の男たちが、花嫁を何とか生かそうと様々な試みをしてきた様子が映し出された。


 ある者は妊娠中から強壮剤を飲ませ、ある者は呪術にすがり、またある者は自分の生命力を出産中から分け与え続けていた。そして、そのどれもが失敗に終わったのを確認した。


 どうしよう、みんなこうやって命を落としていったというの?

 本当に誰も助からなかったの?


 アシュリーンは、やはり1年だけの花嫁であることを受け入れねばならないのかと目を閉じた。目を開いた時、既に気泡は移動を始めていた。


 次は、何を教えてくれるの?


 気泡が止まった。心がざわついた。何か大事なことが映し出される様な気がした。


 真っ暗な雲の中を、金色の龍が駆け抜けていくのが見えた。


 待って、四龍は、北の黒龍・南の赤龍・東の青龍・西の白龍よね? 金色の龍なんて、聞いたことがないわ!


 アシュリーンは重大な秘密が明かされようとしているに違いないと感じた。ここから先のことは、全て記憶していなければならない気がした。


 金色の龍は黒雲の中を駆け抜けながら世界中を飛び回っていた。そして、ある湖に飛び込むと、その水底からじっと水面を見上げ続けている。


 突然、アシュリーンは気泡ごとその風景の中に放り出された。中空から湖に落ちていく。深い湖底に沈みながら、人間界に来た時もこんな風に湖の中に落ちたことを思いだした。だが、泳げないアシュリーンはただ沈む一方。息が苦しい。このまま死ぬのだろうか。


(助けて、ディアミド……)


 朦朧とする意識の中でそう思った時、黒い龍が水面からこちらに潜ってくるのが見えた。


 あれは、ディアミド? それとも、世界樹が見せている幻覚なの?


 黒い龍はアシュリーンをかかえあげると、水面へと浮上した。そしてその勢いのまま湖の上空に飛び上がった。アシュリーンは誰かに抱きかかえられているのに気づいた。それも、優しく抱き上げているのではない。よく言えば絶対に離すまいと言う強い意志が感じられる……悪く言えば酸素を補給したいアシュリーンへの配慮がない、全身全霊でガシッと固めている……そういう抱きしめ方だ。


「アシュリーン、やっと会えた……」

「く、苦しい……」

「! すまない、アシュリーンを落としそうで……」


 はあはあとようやくたっぷりと酸素を体に取り込んだアシュリーンは、2人が湖の上空に浮いていることに気付き、咄嗟にディアミドにしがみついた。そして、どうしてディアミドがここにいるのかと思った。


「ディアミド、私、世界樹の中にいたはずなのに……ここは現実の場所なの?」

「そうだよ。ここは、ドラガン家の男が龍の力を使うための場所なんだ。そう言えば、まだ俺が力を使い始めで上手くコントロールできなかった頃、ここに俺よりも小さな女の子が落ちてきた事があったな」

「女の子?」

「顔も姿も何も覚えていないんだ。だが、さっきのアシュリーンのようにこの湖に落ちた所を見たんだ。何とか助けなきゃって思って、そうしたら今までどれだけ頑張っても龍化できなかったのに、いつの間にか龍化していた」

「ね、その子はどうなったの?」

「誰かが連れて行ってしまったような気がするんだが、よく覚えていないんだ。父曰く、殴られて倒れていたらしいから」


 アシュリーンの中で、ディアミドの話と自分の記憶がぴたりと一致した。


「ディアミド……その女の子、私よ」

「えっ、そうなのか?」

「私、虹の橋に乗って精霊界からこちらに来てしまったの。この湖の上まで来た時、虹が消えてしまって、そのまま湖の中に落ちたのよ」

「虹……確かにあの日、虹が出ていて、程なくして消えた」

「それで、私を迷子だと思って街に連れて行こうとしてくれたんだけど、トマスたちにつかまって、ディアミドは頭を殴られて置き去りにされたの」

「ああ、あれ、フィーンヒールの奴だったのか! 知っていたらもっとやり返してやるんだった」

「待って、そんなことより、どうしてディアミドがここに?」

「アシュリーンにつけた龍の紋が、再び発動したんだ。それで、アシュリーンの居場所が分かったから、急いで来た」

「どういうことなの?」

「アシュリーンは一度俺に見切りを付けただろう? その瞬間に、龍の紋が力を失ってアシュリーンを探せなくなった。龍の紋が復活するには、アシュリーンが心の底から俺を必要として俺を呼んでくれなければならなかったんだ」

「ディアミド……」

「俺を呼んでくれたということは……もう一度、俺を信じようとしてくれたんだな」

「ええ。私、どうしたらディアミドの子を産んでも生き続けられるだろうかって、それを調べている最中なの。そうだ。ねえディアミド、金色の龍って知っている?」

「いや、知らないよ」

「あのね、この湖の底に、金色の龍がいるの。黒い雲を駆け抜けた後、この湖に飛び込んで、今も水面を見続けているはず」

「雲の間を走る、金色の龍……」


 ディアミドはひとしきり思案すると、空を見上げた。


「雷か」


 ディアミドの声に反応するように、金色の光が湖底から上空に向かっていった。そして、黒い雲の間から再び湖に向かって光が放たれた時、その光の中に1人の女性の姿が見えた。金色の龍はその女性を空中に迎えに行くと、ディアイミド同様に人の姿になった。


「精霊王……」

「精霊王ですって?」

「フィーンヒール家の者たちを精霊界に引き渡す時に、精霊王が現れたんだ。その時に見た精霊王と同じ顔をしている」

「ならば、金色の龍は、精霊王? 精霊と龍は関係があるの?」

「まだ分からない、様子を見よう」


 人化した金色の龍は、その女性を慈しんだ。声も聞こえる。


「私、一体どうしてこんな所に来たのかと思ったけれど、あなたが呼んだの?」

「この世界には、我の力を受け止められる者はいない。だから呼んだのだよ、我の力を受け止められるだけの力を持ち、我を愛することができる者を」

「まあ。それでは、私はあなたのお眼鏡に叶ったのかしら?」

「ああ、我の望み通りだ」


 彼女の話を聞く限り、彼女はどこか遠いところから召喚された存在のようだった。やがて金色の龍と女性は夫婦となった。その直後から、女性が力を水晶に込めるようになった。


 何をしているのかしら、とアシュリーンが思った時だった。


「何をしているんだい?」

「これが、私の故郷に伝わるお守り。自分の命が絶たれそうな時には、自分の力を補充すればいい。できるだけたくさん、毎日少しずつためるのよ。そして、自分の力が足りなくなった時に私の体に戻すの。あなたはとても強い力を持っているわ。だから、生まれてくる子どももきっと強大な力を持って生まれてくるでしょう。そういう子はね、母を食い殺すと言われているわ」

「食い殺す?」

「ええ。母親の命まで吸い上げてから生まれてくるって。別にお腹から食い破って出てくるってことではないのよ」


 アシュリーンとディアミドは、互いの手を強く握り合った。


これだ! 間違いない!


やがて女性が子を宿した。女性の予想通り、子は強い力を持つ存在だった。胎児が女性の力を吸い上げていくのを、金色の龍がはらはらと見ている。


ドラガン家に伝わる、妊娠中の花嫁たちと同じだ、とディアミドがつぶやいた。


「大丈夫。この子が生まれる時には、あの水晶を握って、私の体に力を戻すから」


 月満ちて出産の場面に切り変わった。陣痛が始まると、女性はすぐにあの水晶を枕元に持ってくるよう、金色の龍に頼んだ。龍が水晶を握らせると、女性はその水晶から少しずつ力を流していく。やがて子どもが生まれる瞬間に、女性は一気に水晶から全ての力を引き出した。赤ん坊がおぎゃあ、と泣いたが、女性は生きている。


 アシュリーンはディアミドを見上げた。間違いない、これこそ、自分たちが取るべき方法だと確信した。


「この子は……黒龍か」


 金色の龍が、赤子を抱き上げながらそうつぶやいた。


「お前はディー。黒龍のディーだ」


 ディー?


 アシュリーンがディアミドを見ると、ディアミドも驚いている。そして、アシュリーンをみて柔らかく微笑んだ。


 風景は続いた。女性はその後も白龍「グウィン」、赤龍「コフ」、そして青龍「グラス」を産んだ。


「そうか、四龍は、金色の龍の子だったのか……そして、金色の龍は、龍でもあり、精霊でもあったということなのか」


 黒雲の中を走る金色の龍は、雷の化身なのだろう。水と有機物に雷のエネルギーが加えられた時、生命が生まれたという神話がある。生命を生み出した金色の龍こそが、創造主であり、神であり、精霊王なのだ。


 都の西の草原で、精霊王がディアミドを見たのは、もしかしたら自分の子孫であると気づいたからかもしれない。ディアミドは何とも言えない感動を覚えた。だが、アシュリーンの言葉に、ディアミドは固まった。


「フィーンヒールクリスタルを作るのと同じってことね。ならば、やり方は分かるわ」

「まて、だがあれは……」

「同じよ。あの時は無理矢理吸い上げられていたけれど、感覚は覚えているもの」


 フィーンヒールクリスタルと呼ばれた、アシュリーンの精霊としての力を閉じ込めた水晶。その水晶を砕いて大地にすき込むことで、大地は癒やされ、多くの収穫を得た。それをもう一度やれと言うことになることに、ディアミドはようやく気づいた。


「大丈夫。無理矢理搾り取られるのと、少しずつ自分の意志でするのとでは全く違うわ」

「大丈夫なのか?」

「ええ。私、今まで経験してきたことが違う形で生かせるって、初めて知ったの。きっと私が経験した辛いことも嫌なことも、意味があるのね。そして、そこから学べば、私の人生を助けてくれるものになるんだわ」

「アシュリーンは強いな」

「強くなんてないわ。生きたいだけよ、ディアミドと、ずっと」

「ああ、アシュリーン。君を困らせてすまなかった。アシュリーンの気が済むまで、とことんやろう。こんなに可愛くて、優しくて、そして強い花嫁に好かれることに感謝して、ただ1人、アシュリーンだけを見ると誓うよ。一緒に帰ろう」

「はい」


 その瞬間、2人の姿は世界樹の根元に転移していた。


「知りたいことは……ああ、よかったですね」


 ロイド館長がアシュリーンとディアミドを見て微笑んだ。


「ロイド、館長?」


 ディアミドははっとした。


「まさか、精霊王?」

「おやおや、ようやく気づきましたか」


 ロイド館長はそれまでの気配から一変させ、自分の姿も変えた。金色の髪と瞳が、アシュリーンとディアミドを見ている。


「金色の龍でもあったのですね」

「そうですよ。なぜ私が精霊教会の図書館で館長をしているのか、分かりましたか?」


 アシュリーンが頷いた。


「世界の全ての事象を記録する機能もある世界樹を、この世界で一番強い力を持った存在であるあなたが守るためですね」

「そうです。知識は力になる。文明が始まった頃、知識をもった者が人々を導き、やがて王となっていきました。世界樹を通してこの世界の全ての知識を持つからこそ、私は精霊も、人間も、その他の多くの生き物も、守る存在となれるのです。

 アシュリーン、我が眷属よ。そなたが確実に龍の子を産んだ後も生き残れるかどうかは分かりません。ですが、精霊は大地が生み出した力が具現化したもの。人間より遙かに強い。自分を信じなさい。

 そしてディアミド、我が子孫よ。龍の血をひく者として、この世界を悪意から守りなさい。そして何より、アシュリーンと子を守るのです。よいですね」

「「はい」」


 2人で来た道を、3人で戻る。真っ暗な道も、ディアミドと一緒なら怖くない。館長室を過ぎ、司書室を抜けて図書館に戻ると、アシュリーンはふう、と大きな息をついた。


「また会いに来てもいいですか?」


 アシュリーンの問いかけに、ロイド館長は首を横に振った。


「我は必要な時のみ、ロイドに憑依します。それを理解した上で、ロイドは図書館長をしているのですよ。そうでなければ、我は精霊界にもいられなくなってしまうでしょう?」


 たしかに、その通りである。


 ロイド館長=精霊王に別れを告げて図書館を出ると、ネイリウスがふっと現れた。


『手に入れられたようだな』

「はい。頑張ってみます」

「必ず、アシュリーンを守ってみせます」

『次に泣かせたら、我かフランがアシュリーンを迎えに行くぞ。フランなどはデュラッハの妻にアシュリーンをと考えていたようだしな』

「な! それは駄目だ!」

『心配するな、お前がアシュリーンをしっかり正面から見ていればいいだけのことだ』

「約束する」


 ディアミドは龍化した。黒龍の姿に、精霊教会のあちこちからどよめきが上がる。アシュリーンはディアミドの背に乗った。


「みなさん、ありがとうございました!」


 見知った顔が、手を振っている。窓からデュラッハとフランが顔を出し、にこやかに手を振っている。


 ディアミドは上空高く舞い上がると、ドレイギーツ目指して飛び始めた。


「さようなら~!!」


 アシュリーンの声だけが、精霊教会に響いていた。


読んでくださってありがとうございました。

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