14 アシュリーン、泣く
読みに来てくださってありがとうございます。
短めです。
誤字報告、本当にありがとうございます! 感謝申し上げます。
よろしくお願いいたします。
アシュリーンは、ディアミドの言葉が信じられなかった。
精霊界に帰りたければ帰ればいいって、もう私は要らないってこと?
それとも、他に花嫁になって欲しい人でもできたの?
私は1年後に死んでもいいから、今、ディアミドと一緒に笑っていたいのに。
ディアミドがいるから笑えるのに、ディアミドが傍にいなくなっても私が笑っていられると思っているの?
頭の中を、ぐるぐると嫌な考えばかりが占拠していく。ディアミドは龍化すると、俯いて黙ってしまったアシュリーンをその背に乗せ、オーエンは尾で巻いて王都に戻ることにした。
「水の精霊はどうするんだ?」
『我は一度精霊界に帰る。精霊王にも報告せねばならないから』
ディアミドは頷くと、空を飛び始めた。ネイリウスは空を飛んでいく黒い龍が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
指輪の力に抗えず、フィーンヒール家の人間にたちにこき使われたのは非常に不愉快だった。捕らえられた精霊たちを守り切れなかったことへの後悔もあった。何よりも、精霊としてのプライドを傷つけられたことが許しがたかった。
『一度精霊界に帰って、精霊王にも報告せねばなるまい。ああ、お前は連れて行けないから、騎士団に戻りなさい』
ネイリウスが馬の首筋を軽く叩くと、馬は素直に王都に向かって走り出した。
放置された馬車はまだそこにある。しばらく後に、壊れた馬車が放置されているのを見つけた通行人が通報して、強盗事件か、誘拐かと大騒ぎになった。王都に戻ったディアミドが不可解な事件として王都に報告されたその事件の報告書を目にし、自分がやったことだと申し出た結果、国王から「ちゃんと片付けろ」と叱られるのは、2週間後のことである。
・・・・・・・・・・
王都に戻ったディアミドは、オーエンを王に引き渡すともに、「精霊の指輪」をデュラッハに手渡した。デュラッハは押し頂くようにその指輪を確認すると、「精霊の足輪」を入れた袋に指輪も入れた。
『ありがとう。これで精霊教会に戻れる』
「二度となくさないよう、しっかりと保管してくれ」
『ああ、教皇様にも必ずお伝えする。それにしても、指輪を一刻も早く見つけるために一緒に行こうとした我らを置いていくなんて、ディアミドはひどい奴だな』
「すまなかった、我を忘れてしまって」
『それほどに愛しい細君なのだな』
ディアミドの表情が歪んだのに気づいた火の精霊は、ディアミドに尋ねた。
『もしや、迷いが生じたか?』
「愛しいからこそ手放さなければならないものがあるのだと聞いたことはあった。だが、こればかりは……自分でもどうしたいのかまだ分からない」
『もしや、細君のことか』
デュラッハもドラガン家の花嫁について聞いたのだろう。花嫁が必ず助かる方法はないだろうかとディアミドが尋ねたが、役に立てず申し訳ないと謝られた。
『だが、精霊教会は今回のことで龍の騎士団長殿に大きな借りを作ったと考えている。助けられることがあれば、必ず助けよう』
「ありがとう。その言葉だけで十分だ」
ディアミドはデュラッハと火の精霊を精霊教会のあるシェイペルの地に送ろうと思ったが、火の精霊に止められた。
『フィーンヒールの邸に捕らえられていた精霊の内、水の精霊と春の精霊以外は精霊界に連れて行く。姿は見えないだろうが、ここにぞろぞろいるからな。中にはまだ1人で歩けぬほど幼い精霊もいる。彼らはきっと龍の背に乗りたがるだろう、振り落とされたら大変だから、馬車で全員連れて行くことにする』
「もしアシュリーンが精霊界に戻りたいと言ったならば……その時は、精霊教会に連れて行けばいいのだろうか?」
『……そうしてくれ』
名残を惜しみながら、デュラッハと火の精霊に別れを告げたディアミドは、邸に帰りたいような帰りたくないような気持ちになって、自分の執務室に一度立ち寄ってから帰ることにした。
・・・・・・・・・・
(王城に戻る前、ドラガン家の邸にて)
「アシュリーン様! ご無事でしたか?」
「エーファ、ありがとう。かすり傷よ」
「ああ、お声も出るようになったのですね。それにしても、お労しい……恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「そんな……みんな、私を守ろうとしてくれたし、みんながディアミドにすぐに伝えてくれたから、そう遠くないところでディアミドが見つけてくださったのよ? だから気にしないで」
王城に行く前に邸の庭で下ろされたアシュリーンを、エーファたちが泣きながら出迎え、アシュリーンの帰還を喜んだ。ディアミドは、興奮する使用人たちに少し静かにしてやってほしいと告げると、アシュリーンに「少し休んだ方がいい。心も体も緊張していたはずだから」と言った。
「あの、私の証言とか、そういうものは要らないんですか?」
「必要になったらお願いするよ。今は休みなさい」
ディアミドはそれだけ言うと、王城に飛んで行ってしまった。アシュリーンはとぼとぼと部屋に入った。
「若様と何かありましたか?」
エーファに言われて、アシュリーンは小さく頷いた。
「精霊界に帰りたかったら、帰れって」
「ええっ!!」
エーファの声に、他の使用人たちがアシュリーンの部屋になだれ込んだ。
「何事ですか!」
「侵入者ですか!」
だが、元気のないアシュリーンと顔を青くしたエーファを見て、これは引き下がった方が良さそうだと誰もが思った。
「何かあったらお呼びください。すぐに参ります」
モーガンの言葉にアシュリーンとエーファが頷いた。
閉じられたアシュリーンの部屋の扉の前で、使用人たちが額を寄せ合っている。
「若様、何をしたのかしら」
「それとも花嫁様が、あのオーエンって男に何かされたとか?」
「いやいや、それだったらあの男は今頃、八つ裂きにされているはず」
「そうだよねえ」
「じゃあ、一体何があったんだろうね」
「「「「ううん~」」」」
やがて、アシュリーンがすすり泣く声が聞こえてきた。使用人たちはみな、仕事も手に付かず、ただじっと部屋の前で立ち尽くしていた。
読んでくださってありがとうございました。
いいね・評価・ブックマークしていただけるとうれしいです!




