表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の騎士団長の花嫁は、1年後に死ぬことになっている【連載版】  作者: 香田紗季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/42

10 指輪はどこだ

読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 その夜、アシュリーンは大事な話があるからとディアミドの部屋に呼ばれた。


「ドラガン家のことは、エーファから聞いてくれたと思う。それに、陛下がドラガン家の花嫁について話したと言っていた。アシュリーンは全てを理解した上で、俺の花嫁になってくれるということでよいのだな?」

 コクコク。

「ならば、今後のことを話しておくよ。1年限りの結婚となるから、結婚式を挙げないのがドラガン家のしきたりなんだ。精霊も結婚式はしないと聞いているが、どうかそこは理解してほしい」


 アシュリーンはなぜ結婚式というものをしないことについて、ディアミドがそんなに申し訳なさそうなのか分からず、首を傾げた。


「ああ、アシュリーンは結婚式を知らないのか。家族や友人に見守ってもらって、神の前で一生二人が愛し合い助け合うことを誓う儀式のことだよ。そのあとみんなでお祝いのパティーをするんだ」

(パーティー?)

「パーティーも知らないか。みんなで着飾って集まって、食べたり飲んだりおしゃべりをしたりするんだ」


 説明されてもパーティーというものがどのようなものか、全く想像が付かないアシュリーンは、ディアミドの言葉を頼りにパーティーがどのようなものか考え込んだ。


 人がたくさん集まる……食べたり飲んだり、おしゃべりしたり……精霊界にいた時には、いつもみんなでそうしていたけれど……あ、でも着飾るって何?


ディアミドがそっとアシュリーンの右手を握ってきた。


「パーティーは、たくさんの人とおしゃべりしたい人には楽しいものだ。だが、たくさん居ても誰とも話せなかったり、仲間はずれにされたりすることもある。俺は正直に言うと苦手だな」


 ディアミドが嫌なら、そんなものどうでもいい。アシュリーンは自分の右手を包むディアミドの手を、自分の左手でそっと包んだ。


「やらなくていいか? 女性にとっては一世一代の夢の舞台だと聞くが」

(どうせわからないんだから、いらないわ)


 にっこりと微笑めば、それでディアミドには通じたようだ。


「ありがとう。ドラガン家の子だというだけで、俺は小さい頃から女性には悲鳴を上げて逃げられるか、距離を無礼なほどにまで開けることを要求されるか、とにかく邸の使用人以外からは遠巻きにされてきた。だから、乳母だったエーファ以外でこうやって手に触れたのも初めてだ。抱き上げたのもアシュリーンが初めてだ。女性を救出するような場面でも、部下にやってもらっていたからな」


 ならばどうしてあの小屋から自分を連れ出す時、ディアミド自ら抱き上げたのだろうか。


「あの小屋から連れ出す時、自然と体が動いた。今までは命じる言葉が先に出たのにと自分でも驚いた。多分、最初に目が合った時、悲鳴を上げずに俺をじっと見つめて手を伸ばしてきたアシュリーンに一目惚れをしていたのかもしれないな」


 アシュリーンはなぜか、またあの黒髪の少年のことを思いだした。そしてその黒髪と吸い込まれそうなほどの黒い瞳を見ていた時、ようやく気づいた。


 ああ、あの時私を助けてくれた黒髪の男の子は、ディアミド、あなただったのね!


 これまでも、気づくチャンスは何度もあった。人間界に落ちた日にアシュリーンを救ってくれた黒くて長い生き物は今なら黒龍の姿だと分かるし、黒龍と人の両方の姿になる人などディアミドしかアシュリーンは知らない。もちろんディアミドの父にもその力はあるが、ディアミドの父が15年前に少年だったとは思えない。


 あの時湖で溺れていたアシュリーンを助けてくれたことへの感謝と、トマスに騙されたとはいえ、あの場に置き去りにしたことへの謝罪を伝えたいいと思った。だが、アシュリーンは声を封じられ、まだ文字も読み書きも思うままにというレベルには達していない。


 伝えたい! 話したい!


 痛切な思いがアシュリーンの心の中で吹き荒れた。言葉で伝えられないなら、態度で示す他ない。アシュリーンはディアミドに抱きついた。


「アシュリーンは俺に抱きつくのが好きだな」


 うれしそうにディアミドが言った。そして、アシュリーンを愛しげに見つめると、その額にキスをした。


「もう1つ、大事な話がある。あの小屋で、俺の他にも人と精霊がいたのは覚えているか?」

 コクコク。

「彼は精霊教会を守るシェイペルの民でデュラッハ。そして精霊はデュラッハの守護精霊である火の精霊だった」


 アシュリーンは、精霊たちが着ている服と似た服を着ていた男と、その傍に寄りそう火の精霊を思いだした。火の精霊は、髪の毛もその瞳も赤かったな、とも思った。


「デュラッハは、精霊教会から盗み出された聖道具を取り戻すため、このドレイキーツの国にやってきた。そして、聖道具のありかを示す聖道具で『精霊の足輪』を見つけ、アシュリーンがいた小屋に突入したんだ。あの時、デュラッハが足輪を持っていったのはそういうわけだ」

 コクコク。

「だがもう1つ、最も重要なものがまだ見つかっていない。『精霊の指輪』だ」


 ビクリ、と体が自然に震えた。あの指輪に捕らえられたためにトマスに抵抗できず、アシュリーンは力を搾り取られ続けた。「フィーンヒールクリスタル」の秘密を守るために、アシュリーンは秘匿され続けた。そして今も、指輪の力によって声が封じられたままだ。


「アシュリーンのためにも、指輪を一刻も見つけ出し、精霊教会に戻さねばならない。実はその指輪が、この辺りにあるようなんだ。明日の朝一番でデュラッハたちを迎えに行って道具で指輪を探すことになった。明日の朝出発したら、指輪が見つかるまでは邸に帰ってくることができないが、待っていてくれるか?」

 コクコク。

「本当にアシュリーンは可愛いな。誘拐されないか、本当に心配だ。だから今からアシュリーンは俺の妻だという印を付けようと思う」


 そう言うと、ディアミドはアシュリーンの額に再びキスをした、だが、なかなか離そうとしない。アシュリーンはすぐに、ディアミドの口から何か温かいものが流し込まれているのを感じた。うっとりとするような幸福感に包まれて、アシュリーンの意識がぼんやりとしてきた頃、ようやくアシュリーンの額からディアミドの唇が離れた。


 何だかもっとそうしていてほしかった、そんな気分のままディアミドを見上げると、ディアミドがこの上なく満足した顔でアシュリーンの額を見つめ、そして額の中央をその人差し指でなぞるように触れた。


「ここに印を付けた。普段は見えないが、俺が望めば黒龍の紋章が浮き上がる。ほら、こんなふうに」


 ディアミドはアシュリーンを鏡の前に連れて行った。アシュリーンは、自分の額に黒龍がはっきりと浮かび上がっているのに驚き、自分も手で触れてみた。書かれているのでも、彫られているのでもない、体の内側から浮き上がる文様。アシュリーンは何度も手で触れてみた。


「俺が力を流すのを止めれば」


 ふっと文様が消えた。アシュリーンは何度も自分の額を見た。


「不思議だろう? 人生で一度、花嫁にだけ、この印を付けられる。これで俺たちがどれほど離れていようとも、俺が望めばいつでもこの黒龍の文様が浮かび上がるんだよ」


 後ろからアシュリーンを抱きしめたディアミドを、アシュリーンが振り返るように見上げた。そして、にこりと微笑んだ。


 あ・り・が・と・う


 音にはならないが、大きく口を開けて口をそう形作った。アシュリーンが何を言いたかったのか分かったディアミドが、ふっと微笑むとディアミドの腕の中で振り返っているアシュリーンの額にキスをした。


「おやすみ、アシュリーン」


 ディアミドは静かにアシュリーンの部屋を出て行った。ディアミドの体温がまだほのかに残っている。アシュリーンはベッドに入った。すとんと眠りに落ちた。


・・・・・・・・・・


 翌朝早く、ディアミドは出発した。デュラッハと火の精霊を迎えに行くだけなので、邸から出発する。


「花嫁様はまだお休みのようで」

「構わない。まだ夜も明けていないのだから、ゆっくり眠らせてやってくれ」

「かしこまりました」


 普段から夜中や早朝に出発する時は、モーガンとエーファだけが見送りに立ってきた。今日は、朝一番に動き始める料理人でさえようやく起きたかどうかという時間帯だ。朝食の用意はしなくていいと前の晩に伝えてあるので、彼らは通常運転でよいのだ。


「花嫁様の勉強は更に進めておきますよ。お帰りの頃までに、スペルミスがあっても何とか筆談できるレベルまでいくとよいのですが」

「アシュリーンに無理だけはさせないでくれよ」


 行ってくる。


 ディアミドが目を閉じると、体が変化を初めて黒龍に姿を変えた。暗闇の中に、神々しい龍の姿が溶けている。


 ディアミドは静かに上空に舞い上がった。ちらと後ろを振り返り、アシュリーンの部屋を見た。部屋は暗い。眠っているようだ。


 なんとかしてアシュリーンの憂いを取り除きたい。そのためには、「精霊の指輪」をなんとしてでも見つけ、アシュリーンをその支配下から解放しなければならない。上空に到達したディアミドはシアルに向かって一気に加速した。夜明けの頃には、シアルから既に東に向かっているデュラッハたちと合流できるはずだ。


・・・・・・・・・・


『シアルのあの邸から、お前たちと同時に指輪は移動した。あの時捕らえられたフィーンヒール家の誰かが、指輪を持っているはずだ』


 デュラッハと火の精霊は、一刻も早くドレイギーツの都に向かうために龍化したディアミドの背の上で状況を説明させられている。


「指輪を持っている可能性が高いのは当主のトマスだ。だが都でも一騒ぎあった。長男のオーウェンが誰にも気づかれずに脱獄したんだ」

『何だって!』

「トマスは指輪をオーウェンに託して、逃走を実行させたかもしれないと我々は考えている」

『まずは指輪の指す方向に飛んでほしい』

「方向は都なのだろう? ならば都へ行き、トマスが持っていないことを確認しよう。奴が口を割ればよし、割らなければやりようはいくらでもある」

『逃げているのなら、そちらを追った方がよくないか?』

「陽動の可能性もある。トマスたち牢にいる者が持っていないことを確認した上で動いた方が、可能性を潰せる」

『分かった』


 デュラッハから見れば、聖道具が指し示す指輪を追えばいいだけだと思っているだろう。だが、可能性が低いものを着実に潰していくこともまた、重要な作業なのだ。


 朝の市場が始まる時間を少し過ぎた頃に、デュラッハたちとシアルの1つ東の領で合流した。すぐに都にとんぼ返りするのはそれなりに疲れる。巨大な龍の体を維持するために、ディアミドは10人分の食事を必要とするほどなのだ。


 やがて王都が見えてきた。今は丁度昼時。王都を行き交う人々は、突然できた影に上空を見上げ、龍の騎士団長が空を飛んでいると騒いでいる。


 そのまま王城内の着陸地点に到着した。デュラッハたちを下ろすと龍化を解き、出入り口の衛兵に扉を開けさせて、トマスたちが拘束されている地下牢へと下りていった。


読んでくださってありがとうございました。

いいね・評価・ブックマークしていただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ