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1 人間界に落ちたアシュリーン

ネトコン12で最終審査に残った短編を、ネトコン13用に主人公を入れ替えて連載版に書き換えます。

よろしくお願いします。


「見て、虹だわ!」


虹を見つけたアシュリーンは思わず走り出した。虹の端の方に飛び乗ったと同時に、虹が空を移動し始めた。


「アシュリーン! 下りて来なさい!」


 年上の仲間が狂ったように叫んでいるのがかすかに聞こえたが、アシュリーンは初めて乗った虹の橋に興味津々で、そろそろと虹の反り橋の一番高い所へと上っていく。


 虹の橋は、普段は区切られた世界と世界を繋ぐもの。精霊界にいたアシュリーンを乗せた虹の橋はいつしか精霊界を離れ、違う世界へとアシュリーンを連れてきた。怖い物知らずのアシュリーンがわくわくしながら虹の橋に腰掛けて下界を見ていると、人間界が見えてきた。精霊は大人になったら人間界に行って、人間界の自然を守るのだとずっと聞かされてきたが、まだ子どものアシュリーンにはよく分からない。初めて見た人間界の様子に、アシュリーンは興奮した。


あんなに高い塔がある! 人間も作れるのね!

水が溜まっているのは、湖? 海?

ああ、鳥たちがあんなに低いところを飛んでいるわ!

人間たちが大地の上で何かしているけれど、何をしているのかしら?


 アシュリーンは人間界を観察するのに夢中で、虹の橋が少しずつ消え始めたことに気づかなかった。虹の橋の色が薄くなっていたことに気づいた瞬間、アシュリーンの体は虹の橋という支えを失って地面に向かって落下し始めた。


「キャーッ!!」


 アシュリーンはありったけの力を地面に向かって放出した。落下のスピードは落ちたが、それでもそれなりの勢いで湖に落ちたアシュリーンは、水の中では息ができないことを初めて知った。


 苦しい……助けて……


 水面から何かが飛び込んできた。黒く長いその生き物はあっという間にアシュリーンの元にやってきた。


「つかまって!」


アシュリーンは無我夢中で手を伸ばすと、黒くて長いその生き物は、その短い手でアシュリーンをつかみ、一気に水面へ向かって上昇すると、湖の中から飛び出した。


黒くて長い生き物はいつの間にか人の形になり、アシュリーンを横抱きにして地面に着地すると、そっとアシュリーンを地面に寝かせた。


 アシュリーンが飲んだ水を吐き出そうと咳をしていると、背中をトントンと軽く叩いて、水を吐き出す手伝いをしてくれる。


「大丈夫?」


 ようやく一息ついたアシュリーンの目に映ったのは、自分と同じくらいの年齢の少年だった。


「助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。でも、どうしてこんな所にいたの? 普通の人はここまで入ってくることができないはずなのに」

「私、虹の橋に乗ってここまで来たんだけど、虹の橋が急に消えて、落ちてしまったの」

「え? 虹に乗れるの?」

「え? 乗れないの?」

「うん。普通の人は虹なんてすぐに消えるものだと知っているし、実体がないから乗ろうなんて思いもしないよ」

「えぇぇ!」


 どうやら精霊界の常識と人間界の常識は少し違うようだ。


「どうしよう、おうちに帰りたいけれど、帰れないわ」

「どうして?」

「だって、わたしのおうちは……」


 言いよどんだアシュリーンを、少年は心配そうに見ている。


「この山を下りたところに、騎士団の駐屯地があるんだ。そこで探してもらう?」

「うん」


 駐屯地も騎士団もよく分からなかったが、アシュリーンはうなずき、少年と2人手を繋いで山を下り始めた。


「もう少しで街だよ」


突然、目の前にいた男の子が倒れた。


「どうしたの? あっ」


 アシュリーンはいつの間にか傍にいた男の姿に怯えた。


「お嬢ちゃん、おうちに帰りたいなら、私についておいで」

「え、帰れるの?」

「ああ、手伝ってあげるよ。ほら、こっちにおいで」

「行っちゃ、駄目、だ」


 黒髪の男の子が、苦しそうにそう言った。だが、男はそれを否定するように言った。


「大丈夫だよ、おうちに行こう」


 家に帰れると聞いたアシュリーンは、男の子ではなく男に近寄った。


「駄目だ!」


 差し出されていた男の手を取った瞬間、アシュリーンの体に雷が走り、動かせなくなった。


「龍がいるというから様子を見に行こうとしたが、まさかこんなところで妖精をとらえられるとは」

「あの道具を早速試せますな」

「ああ、楽しみだ」


 アシュリーンは忠告してくれた黒髪の少年に心の中で「ごめんね」と謝ると、そのまま意識を失った。


読んでくださってありがとうございました。

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