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第53話:西方戦線⑦

鳴神ナルカミ

ドォォォン!!!!!!

火竜は凄まじい轟音とともに地面に叩きつけられた。

地面にクレーターができるほどの衝撃。

紫電が地上を迸る。


技が炸裂した瞬間、シャーロットの時は停止した。

「リュ、リュウ様!?それに、この技は……‼」

(鳴神は確か、暗闇世界で黒龍が使っていた技よね?あ、思い出した!あの時、私に手を差し伸べてくれたのは……リュウ様だわ!!!)

ずっと胸に引っかかっていたモヤモヤが今ようやく取り払われた。

(リュウ様は一体何者なの……?いや、今はそれどころじゃない!)


「リュウ様!!!」

「シャーロット。無事でよかった」

「さすがにこれほどの衝撃を受ければ、火竜は息絶えましたかね?」

「いや、結構手加減したからまだ生きてると思うぞ」

「え“⁉これで手加減……?」


火竜も隷属魔法によって操られているだけなので、昨日の飛竜同様、どちらかと言えば被害者である。そんな彼等の命を無理に奪うというのはリュウの道義に反する。一般人の場合、Sランクの魔物に慈悲をかける暇などはないのだが、リュウにはそれを考えられる余裕が十分にあるのだ。


「グルルル……」

地に伏していた火竜が顔を上げた。

上位存在である己が、他の生物に転がされるなど生まれて始めての経験。

そのためかなり混乱していたが、目の前の人間を見て瞬時に理解した。

自分を叩き落としたのはコイツだと。

それができるのはコイツしかいないと。


火竜は敵意剝き出しの表情でリュウを睨み、再び戦闘態勢に入った。なぜかはわからないが、今背中に乗っている勇者あるじを命懸けで守らなければならない気がする。理由は不明。身体が勝手にそう動くのだ。


「リュ、リュウ様……後ろ……」

「ん?」

「グルルル!!!」

「Sランクだかなんだか知らんが、火竜如きが何様のつもりだ?」

リュウは視線に少々覇気を乗せ、火竜に睨みを利かせた。

「頭が高いぞ」

「グ……」

火竜は無意識にたじろいだ。

嫌でもわからされる。あれは己より遥か上の存在だと。

戦いたくない。だが戦わなければならない。

本能と隷属魔法がせめぎ合い、魂が悲鳴を上げる。


そして火竜は見てしまった。

リュウの瞳の奥の、またさらに奥に存在する、彼の真実の姿を。

かの龍王に匹敵する体躯を誇り、白銀の鱗で身を包む、美しくも荘厳な龍の姿を見た。

「!?!?!?」

瞬間、バチンと何かが切れた音がした。


どこか虚ろだった火竜の瞳が本来の色を取り戻し、賢く冷静なSランク魔物に戻った。

リュウの覇気により隷属魔法の効果が打ち消されたのだろう。

「……」

火竜は何も言わず、そのままどこかへ飛び去って行った。

その後ろ姿は感謝の意を示しているようにも感じられた。


「……行っちゃいましたね」

「束縛から解放されたようで何よりだ。それよりも……」

火竜の背から落とされ、ようやく意識を取り戻した勇者に、リュウは視線を移した。

「いてて……あ、あれ?俺の下僕かりゅうは?」

「もう飛んで行ったぞ」

リュウが指差す先には、豆粒ほどの大きさになった火竜が。

「まさか俺を裏切ったのか⁉どいつもこいつも使えない愚図ばかりだ……!」

「そもそも初めからお前の仲間じゃないだろうに」


「黙れぇ!!!というかお前は一体誰なんだよ!!!」

「参謀長だ」

「参謀長……?流星を馬車で転ばせた奴か‼絶対に許さんぞ……こい、飛竜!!!」

だが飛竜がここへ来る様子はない。

「なんで来ないんだよ……!馬鹿竜が!」


「日常的に暴行を加えていた挙句、餌すらまともに与えなかったんだ。普通に疲労で動けないだけだろう。かわいそうに」

「魔物は絶対悪なんだ、殺さずに生かしてやっているだけ感謝するべきだろ!」

「これだからエルドラド教は……」


リュウはアクセルという家族を貶されて、黙っているわけにはいかない。

「やはり勇者と侯国・皇国兵は今ここで皆殺しにするべきだな。降伏は受け入れん」

「それはこっちのセリフだ!勝つのは俺達だからな!」

「この状況でよく言えたもんだ」

実は火竜が飛び去ってからすぐに混戦が再開され、クレーターの外では今も兵士達が死闘を繰り広げているのだ。

優勢はもちろん西方戦線軍。


ここでちょうどアクセルが駆けつけてくれた。

「ナイスだ、アクセル。しかし今回は一人で戦おうと思う。だから今だけはシャーロットの足になってやってくれないか?」

「ブルルル」

「お気遣いありがとうございます」

いつもはリュウしか乗せないアクセルだが、今は別。

アクセルに跨ったシャーロットは、戦場に舞い戻った。


瞬間、リュウの右手に迸っていた紫電が青色に変わり、彼の全身を包み込んだ。

「蒼鎧-素戔嗚尊スサノオノミコト

東の島国の伝説に素戔嗚尊という神が登場する。その神は気性が荒く乱暴であったため、天上から追放されてしまったという。リュウが発する、ただただ荒々しいこの蒼雷は、彼の怒りのみを現している。


「さて、お前はどんな死に方がしたい?」

「ひッ……」




そこからは早かった。

話によれば隷属の勇者はとても人には言えないような残酷な死に方をしたらしい。

戦場を一筋の蒼雷が駆け抜ければ百人の兵士の首が飛び、時には晴天から霹靂が落ちた。そのリュウの勇姿は味方を大いに奮い立たせた。そのおかげで敵軍は降伏する暇すら与えられなかったという。情報収集のための数人を残し、それ以外は全滅。その後、直ちに都市の門を開け、内部も制圧された。


リュウが火竜を殴り飛ばした場面を味方の兵士達に見られてしまったのだ。だからもう遠慮する必要はない。いや、火竜の後の戦いに参加しなければ何とか誤魔化せたかもしれないが、それは、それだけはリュウのプライドが許せなかった。自分の信念を曲げるのも嫌だったし、スティングレイに切った啖呵をふいにするのも嫌だった。そしてアクセルの存在を悪とする連中を見て黙ってられなかった。


だが一度冷静になって考えてみてほしい。

今までのリュウであれば、一つ一つを冷静に対処し、上記の全てを上手く隠し通せた筈。ではなぜ今回は失敗してしまったのか。なぜ今回は自分を抑えられなかったのだろうか。


リュウはその理由に一つだけ心当たりがある。

(バハムートがいなくなってから、何かがおかしい……)


「リュウ君、今日はお疲れ様」

「あ、ああ。グレイス候。お疲れさまでした」

「君のおかげでシャーロットも救えたし、西方戦線軍も大勝利を収められた。初めから本気出してくれても良かったんだよ?」

「いえ、あれは充電が必要なんですよ。数年かけて溜めたエネルギーを、あの一戦で大放出しただけです」

「へぇ~、そんな仕組みが……」

「っていうのは全部嘘です」

「なんじゃそりゃ」


「一応緘口令を出しておいたから安心してね」

「ありがとうございます」

「礼には及ばないよ。ほら、帝国は戦力をできるだけ秘匿する方針を掲げているでしょ?だから何もおかしなことじゃない。ごく普通の対応さ」

「それでもありがたいですよ」


「でもここだけの話、リュウ君は将来『蒼雷の魔術師』って呼ばれるかもしれないね」

「嫌ですよ」

「もし魔術師になったら、記念にご飯奢ってくれてもいいんだよ?」

「普通逆でしょう」

「辺境伯家はいつもカツカツだからね〜」

「どの口が言ってるんだか……」

辺境伯はハッハッハと笑いながら去って行った。


その夜、シャーロットにしつこいくらい感謝された後、今日も一緒に寝ると言い張るスティングレイを押しのけ、なんとか一人部屋に泊まることに成功。ちなみに誰も昼間の事について聞いてこなかった。緘口令が敷かれているためだろう。


リュウはベッドで横になりながら呟いた。

「別にそんなに気を使わなくても大丈夫なんだけどな」

(悪いのは全部俺だし)

西方戦線軍を勝利に導けたのは事実だが、どこか釈然としない心持ちであった。


そして、ふと自分の右手の甲を見ると……。

「!?」

半分ほど白銀の鱗で覆われていた。

(これはまさか、あの時バハムートが言っていた……)


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