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第51話:西方戦線⑤

「揃いも揃ってクズだな、勇者共は」

(心底吐き気がする)

リュウは千里馬アクセルという魔物と従魔契約を交わしており、互いを家族のように思っている。それに比べ、隷属の勇者は魔物をゴミのように扱っているのだ。リュウからすれば、そんなの到底許されるような行為ではない。というか一般人から見ても気持ちのいいようなものではないだろう。


魔物には、理性が無く凶暴な生物というイメージが付きものだが、決してそんな事はない。実際、アクセルのように賢く温厚な魔物も存在する。それどころか冒険者協会から無害判定を受けている種類の魔物だってチラホラといるのだ。


(確かエルドラド教では、魔物は絶対悪とされているんだっけか。それも少しは関係しているのだろうが、見たところあの勇者はシンプルに性格が悪い。良さげな勇者がいれば勧誘しようと思っていたのだが……残念ながらお前等は全員殲滅対象だ)

新たな戦力が欲しいというよりは、リュウは異世界の情報に興味があるのだろう。この世界の書物には記されていない未知の情報。それは勇者本人から聞く他ない。


隷属の勇者がようやく飛竜ワイバーンへの暴行をやめた。

「帝国軍め、よくも俺の親友りゅうせいを……!絶対に許さねぇ!今回は温存する予定だったが作戦変更だ。俺の全てを使って奴等を皆殺しにしてやる!おい、行くぞ飛竜。ボサっとしてんじゃねぇ!」


そこへ死霊の勇者がやってきた。

「悠馬、少しは落ち着いた?」

「少しだけな」

「もしかしてアレをここへ連れてくるつもりなの?」

「ああ。帝国軍を全滅させないと腹の虫がおさまらない。明日は心美も頼むぞ。一緒に流星の仇を取ろう」

「ええ、もちろん。皇国から連れてきた最低限のゾンビを使うわ」

「よし、じゃあ行ってくる」

そう言うと、隷属の勇者はどこかへ飛び去って行った。


「はぁ……これだから悠馬は」

(流星が死んだくらいで動揺し過ぎよ。まぁこれで晴れて友達ごっこから卒業できるんだからプラマイゼロね)


「そろそろ寝ようかしら。私を安全な部屋に案内しなさい」

「はっ!」

死霊の勇者は騎士に案内され、近くの建物の中へ入っていった。


『おいトカゲ』

『なんだ小童』

『女でも大丈夫だよな?』

『性別による縛りはない。そもそも我ら龍族に性別という概念は存在せぬ』

『わかった。五分以内に勇者を落とすから準備しとけ』

『ふん……誰に命令をしているつもりだ。我は龍王バハ』

『はいはい。じゃあな』


(よし。そろそろ四年間続いた呪いに終止符を打ちに行くか)

リュウは黒い外套を羽織り、上手く夜の闇に溶け込んだ。


そして、先ほど勇者が入っていった建物へ。

建物の周囲には複数の騎士がおり、特に正面玄関は厳重に警備されている。

(一番楽なのは正面突破だが、騒ぎになったら面倒だ。誰もいない部屋の窓をこじ開けて入るか)

リュウは倶利伽羅で上手く鍵を断ち切り、音を立てず静かに侵入した。


(勇者の魔力は……三階の左から五番目の部屋か。自慢の魔力があだになったな)

勇者の魔力量は豊富だ。植物の勇者が巨人を動かしたり、隷属が高ランク魔物を従えたり、死霊がゾンビ軍団を操れたりするのは、すべてこれのおかげだ。しかしこちらの世界に召喚されてから今までの数か月間、魔法の練習はすれども、魔力を抑える練習はしなかったらしい。いや、一応したのかもしれないが、その練度が足りてないため、リュウから見れば魔力ダダ漏れ状態である。


(皇国はとことん詰めが甘い。このことを女皇に伝えたら鼻で笑われるレベルだぞ)


巡回中の騎士を避けながら進み、三階に到着。

勇者の部屋の前には二体のゾンビが立っていた。

不死騎士アンデッドナイト。わざわざダンジョンまで行って連れてきたのか?ご苦労なこった)

不死騎士はダンジョン内部でしか存在が確認されていない魔物である。


リュウは抜刀し目にも留まらぬ速さで、不死騎士を鎧ごと細切りにした。

(これならもう復活できまい)



「ん?」

(今部屋の外で物音がしたような……。でも敵が来たときはゾンビに大声で叫ぶよう命令してるから、気のせいかしら。Bランクの魔物二体を瞬殺できるわけないし、一応鍵も掛かっているわけだし)


しかし……。

ガチャ。

「え!?」

黒ずくめの男が押し入り、勇者に接近した。

男は勇者の首を掴み、持ち上げる。

「そ、その手を離しなさい……!」

だが離さない。力がどんどん増していき、このままでは窒息してしまう。

(そうだ、魔法でゾンビに変えればいいんだわ。覚悟しなさい!)


だが死霊魔法は対象の肌に触れなければアンデッド化できない。

今勇者は男の腕を掴んでいるわけだが、男は長袖を着ている上に手袋をはめているため、別の露出箇所を探さねばならない。

苦しまぎれで目を付けたのは、

(仮面を着けてないなら、顔に触れば……!)

勇者は手を伸ばす。しかしその先には……。

「残念だったな」

倶利伽羅の刀身が。

「え」

死霊の勇者の意識は深淵世界に吸い込まれた。

全身の力が抜けた彼女を、リュウはベッドに放り投げる。




勇者は暗闇世界に落ちた。

『え、ここはどこ……?』

『異界の勇者よ』

『⁉』

声のする方へ振り返ると、そこには黒龍の姿が。

『あ……あ……』

『貴様の魂、我が喰らってやろうぞ』

『い、いや……』

黒龍の大きな口が勇者に迫る。

だが何もできない。身体が一切動かない。

いくら藻掻いても瞼から涙が溢れ出るだけ。

そして。

『あ』

最後にこれ以上ない絶望を味わいながら、勇者は魂を噛み砕かれた。




現実世界にて。

「お、成功したか」

「ふん……小童が」

勇者……の姿をした龍王バハムートが身を起こした。

「寄生虫がいなくなったおかげで、身体がスッキリするわ。変な世界も閉じたから精神の負担もなくなったし、最高の気分だ」

「貴様……殺されたいのか?」

「その姿で言われてもな」

とはいっても、常人では意識を保てない程の覇気を纏っている。これでもだいぶ抑えているのだが……さすが龍王である。


「そろそろ騎士が騒ぎ始める頃だから、とりあえず脱出するか」

「この都市を破壊しても良いのだがな」

「却下だ。今までの俺の苦労がパーになる」

「ふん……仕方がない」

二人は窓から跳び、そのまま都市の外へ脱出した。


森の中で。

リュウと龍王は向き合う形で会話していた。

「さんざん俺に付きまとったんだから、最後に頭くらい下げてから行けよ」

「黙れ、我が妥協してやったのだ。貴様が感謝を述べよ」

「暴論だろ。これだからトカゲは……」

「地上の虫ケラ如きに言われたくはない」

「その虫ケラに四年間も寄生していたのは一体どこのどいつだ?」

「くっ……生意気な」

「俺を口で負かそうだなんて一億年早い。てか死霊魔法とか使えるようになったのか?」

「使えるわけがなかろう。阿呆が」


「そういえば、この後お前どうするんだ」

「我は本来の姿に変身し、一度浮島へ戻る」

「ああ、そこで配下が待っているとか言ってたもんな」

「今回は同胞を待たせすぎてしまった故、急いで帰らねば」

「せめてもっと離れた場所で変身しろよ?騒ぎになったら面倒だ」

「ふん……」

龍王バハムートはリュウに背を向け、森の奥へ歩き始めた。

「じゃあな、馬鹿トカゲ。二度と俺の前に現れるなよ」

「それはこちらのセリフだ。小童」

「「……」」


リュウは頭をポリポリと掻きながら、

「まぁ、やっぱ一度くらいは顔を見せに来てもいいぞ。どうせ友達いないだろ、お前」

「……貴様が顔を見せに来い。次は同胞としてな」

「嫌なこった」

「ふん……」


それが二人の最後の会話となった。

想像よりもあさっりとした別れだったが、両者にとってはそれが1番なのかもしれない。


その後リュウは自陣に戻り、龍王バハムートは元の姿に変身し浮島へ飛び立った。

またその頃、あまりにもリュウが帰ってこないため天幕は騒ぎになっており、逆に都市では死霊の術が解けたアンデッドが暴れ回り、これまた大騒ぎになっていたという。


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