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第50話:西方戦線④

ブラン伯爵が通る声で指示を飛ばす。

「巨人の腕と頭部を集中攻撃しろ!!!二度と立ち上がらせるな!!!」

「「「「「はっ‼」」」」」

伯爵軍の兵士達は腕と頭部を集中攻撃し、魔法士部隊はそれ以外を狙う。

普段は比較的寡黙な主が声を張り上げているのを見れば、嫌でもやる気が出るのが騎士という生き物だ。


巨人の頭部内では。

「くそッ、くそッ‼なんでこんなことに……‼」

(腕と頭部の補強だけで手一杯なのに、火魔法まで放ってくるなんて卑怯ですよ!鎮火する余裕なんてありません。このままではいずれ僕に刃が届いてしまいます。一体どうすれば……)

植物の勇者がここから自力で挽回する手はないのかもしれない。


防壁の向こう側から大きな黒い影が飛び上がった。

「リュウ君。あれはちょっとマズくない?」

「はい。このタイミングで他二人も動き出すのは予想の範囲内でしたが、まさかあんなものを従えているとは……」

「今回の戦いは悪い意味で長引きそうだねぇ」


その大きな黒い影の正体は……。

飛竜ワイバーンである。

「流星!!!上に飛べ!!!」

「こ、この声は悠馬君⁉わかりました‼」

植物の勇者は一瞬の隙を見て頭部に穴を開け、自分に蔦を巻き付け上空へ投げた。

飛竜は空に投げ出された勇者それを上手くキャッチし、自陣へ引き返す。

「はっはっは!残念だったな、帝国軍!」

「この屈辱、倍にして返してあげますからね!」


内心、勇者一名の討伐を確信していたブラン伯爵とその部下達は、標的を逃してしまった事実に驚きと後悔を隠せなかった。

「な、なんだと……」

「そんなのアリかよ……」

「もう一度あの巨人と戦わなければならないのか……?」


(参謀長殿の作ってくれたチャンスをふいにしてしまった……私はなんという失態を……)


だがその時、左の森の中から“水の槍”が放たれ、飛竜の足に直撃した。

その結果、飛竜は植物の勇者を手放してしまった。

「え?」

「流星ぇぇぇぇ!!!!!」

勇者はそのまま帝国軍の中心に落下。

上手く蔦を使い着地し、なんとか一命は取り留めたものの……。

「植物魔法の勇者だ」

「味方を散々踏み潰していた奴か」

「よくも仲間たちを……!」

そこは敵陣ど真ん中。

「あ、あの……ごめんなさ」

グサッ。


急な出来事が立て続けに起こったことで天幕は混乱気味だったが、何者かの手助けにより、無事勇者一名を仕留めることに成功した。

「やっぱ来てくれたんだね」

「危機一髪のところで手を貸してくれるとは、なかなか洒落てますね」

「あの射程の長さはさすがとしか言いようがないね、絶海の魔術師さん」

「はい。彼女が来てくれたのであれば、ちょっと戦術をいじった方が良さそうですね」

「うん。飛竜というイレギュラーも現れたし、練り直した方がいいと思う」


その日は夕方まで均衡状態が続き、日が暮れると同時に両軍は始めの位置まで撤退した。戻る際はリュウの命令により、戦場に放置されていた兵士の死体に油を注ぎ、すべて火で燃やした。これは死霊魔法の勇者にそれらを利用させないための策である。もちろん、勇者の死体は後々調べる必要があるため、回収させた。


初日の犠牲者はカッサーノ男爵であり、逆に収穫は勇者一人と侯国の副騎士団長である。かなり上々といえよう。


夜、天幕にて。

「勇者の魔法は僕たちの想像の遥か上をいったね」

「はい。植物よりもヤバそうな隷属と死霊がまだ残っているというのが、これまた……」

「今のところ隷属が一番厄介かなぁ。飛竜みたいなAランクの魔物をゴロゴロと従えていると考えると……」

「そうとも言えませんよ。死霊魔法は簡単に言えばアンデッドを作って操る魔法ですから、明日以降不死の軍団が出てくるかもしれません。一度殺せば済む魔物と違って、ゾンビは首を斬り落としても戦い続けるので」

「弱点とかないんだっけ?」

「もし塩が弱点であれば、絶海に海水で押し流してもらえば済むんですけど、皇国はそこまで馬鹿じゃないので、まぁ違うでしょうね」

「絶海の魔術師は帝国で一番有名だからねぇ」


帝国が公表している魔術師は何人か存在するのだが、絶海はその中でも最も名が知られているのだ。ちなみに未だ公表すらされておらず、今も女皇の手足として暗躍している魔術師がいることも忘れてはいけない。


作戦を十分に練り直した後、リュウは勇者の死体を見に行った。

「参謀長殿。こちらが昼間仕留めた植物魔法の勇者でございます」

「ご苦労」

勇者は大体十五~十六歳くらいで、黒髪のマッシュに眼鏡をかけており、いかにも学生といったような風貌をしている。

「何か異世界の道具とかは装着していなかったのか?」

「装備品はすべて皇国産のものでした。おそらく皇国に回収されたのだと思われます」

「そりゃそうだよな。そんな貴重な物を身に付けさせたまま戦場に送るわけがないか」

「はい。異世界の道具はそのすべてが国宝級の価値があるとされておりますので」


「少し考え事がしたいから、一人にしてもらえると助かる」

「承知致しました。では私は警備に戻らせていただきます」

騎士は勇者が保管されている幕から出て行き、リュウは一人になった。


『どうだ?死体でもイケそうか?』

『ふむ……残念ながら器として機能しておらぬようだ』

龍王は今まで生きている人間の魂を喰らい、その肉体を奪ってきたため、死体を器として観察するのは初めてなのだ。


『まぁそんな気はしてた』

『残す勇者は二人。彼奴らが明日の戦いで命を落とせば、今後も貴様が我の宿主となる。覚悟しておけ』

『絶対嫌だわ』

『ではどうするのだ?』


『そりゃあ、今から都市の中に忍び込んで、勇者を生け捕りするに決まっているだろう』

『くっくっく……相も変わらず傲慢な思考回路よ』


リュウは幕から外へ出た。

そして、入り口を警護している先ほどの騎士に声を掛けた。

「少し用事が出来たからここを離れようと思う。もしグレイス候やアードレン部隊の誰かが俺の事を探しに来たら、すぐに戻るから待っていてくれと伝えておいてくれ」

「承知致しました」

(参謀長殿は一体どこへ向かわれるのだろうか……)


リュウは自陣から離れ、そのまま近くの森の中へと姿を消した。


それから数十分後、件の都市の中では。

「クソッ!!!流星がやられるなんて……!この愚図がぁ!なんで流星を放したんだよ!」

隷属の勇者-悠馬は飛竜の顔に何度も蹴りを入れる。飛竜の顔にはいくつもの傷が付いているので、日常的にこのような虐待を受けているのだろう。だが隷属魔法の束縛は圧倒的なので、残念ながら飛竜は痛みに耐える他ない。


周囲の騎士達は勇者には何も言えない。

万が一何か物申そうものなら、次は自分に矛先が向くことを理解しているのだ。

(かわいそうね……)

(いくら魔物だからってそれはないだろう)

(あ~あ、また傷が増えた。せめて治療くらいしてやればいいのに)

(あの時足に力が入らず放してしまったのは、勇者おまえが餌を碌に与えないからだろうが)


その近くでは死霊の勇者-心美が侯国騎士に文句を垂れていた。

「なんでもっと早く死体を回収しなかったのよ!これじゃゾンビ軍団を作れないでしょうが‼︎」

「申し訳ございません……敵幹部に相当鋭い者がいるらしく、撤退と共に火をつけられてしまいまして……」

「はぁぁぁぁぁ、使えない。じゃあ戦ってる最中に回収すればよかったじゃない!」

「そんな無茶を申されましても……」

「そのくらい簡単にやってみなさいよ!これだから馬鹿の相手は疲れるわ」

「誠に申し訳ございません……」

「……あんた達をゾンビに変えてあげてもいいのよ?」

「そ、それだけはご勘弁を」




その現場から数百メートル離れた建物の屋上に、刀を持った男が一人。

「揃いも揃ってクズだな、勇者共は」


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