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第46話:暗殺者

リュウとバハムートが初めて対談を行った日の翌朝。

「おはようございます~」

「おはよう、スティングレイ」

「あれ?今日はリュウ様の顔色がいつもより良い気がしますね」

「護衛が側にいるおかげでぐっすりと眠れたからな。その節は感謝している」

「リュウ様が素直に感謝されるだなんて……感動です」

「俺を一体なんだと思ってんだ」

「ツンデレ男爵」

「おい」


二人は辺境伯、騎士団長と合流した後、直ちに都市の外へ向かった。ちなみに彼等の愛馬も宿屋の厩舎で寝泊りしたため、現在リュウはアクセルに跨っている。


「外の兵達は今ちょうどテントを畳み終わった頃だろうから、合流後すぐに行軍開始だよ」

「やはり大軍を率いる際は、一般兵は野営させるに限りますね。彼等には悪いですけど」

「行軍スピードが段違いだからね~」


五万の兵を毎度都市に出し入れしていれば、手続きだけでかなりの時間が掛かってしまう。そのため結局都市外で野営してもらうのが一番なのだ。もちろん彼等には魔物除けの魔道具を持たせているので、外部からの襲撃はほとんど気にしなくても良い。


「じゃあ昨日と同様、リュウ君は僕と同じ馬車に乗ってね~」

「了解です。今日もダラダラ雑d……作戦会議しましょうか」

「護衛は二人に頼んだよ」

「承知致しました」「はい!お任せを!」


何者かが道化顔男爵の腕を斬り飛ばしたり、シャーロットが深淵世界に吸い込まれたりと、初日から様々なトラブルが起こったが、本日から気を取り直して再び行軍を開始した。


それから約二週間後。

西方戦線軍はついにセル侯国との国境に最も近い場所に位置している都市に到着した。


「いやぁ、ここまで長かったねぇ」

「まぁ我々は馬車に乗ってただけですけど」

「でもお世辞にも道が良いとは言えなかったから、その分お尻が痛い」

「かなり揺れましたもんね」


「閣下」

「ん、どうしたのシャーロット?」

「歩兵の疲労具合が予想を遥かに超えているので、最低でも一日は休息日を設けられた方が良いかと」

「確かにこんな大移動は久々だし、国境へ出陣するのは明後日でも良いか。リュウ君はどう思う?」

「騎士団長の言う通り、少し休みをとった方が良いかと思います。兵士の疲労は軍の士気や、一人一人の戦闘力・判断能力に直結しますから」


「よし、じゃあ今日と明日は休みにしよう。外の兵士達にもそう伝えて。夜は野営してもらう事になるけど、昼間は都市内を散策してもいいということも一緒に」

「はっ!承知致しました!」

辺境伯は馬を走らせた。

またその数分後に防壁の向こう側から、兵士たちの喜びの声が聞こえたという。


「これから自由時間になるけど、あまり遠出したり、怪しい路地に入ったりはしないようにね?まぁリュウ君には余計なお世話だろうけど」

「いえいえ。敵陣に最も近いということは、“つまりそういうこと”ですから。くれぐれも注意した上で行動させてもらいます。それにスティングレイもいますので」

リュウの言うように、この都市には侯国と皇国のスパイが紛れ込んでいる可能性が非常に高いのだ。


辺境伯と騎士団長は都市の外へ向かい、リュウとスティングレイは商店街の方へ向かった。


「じゃあ景気づけに、二人で飯でも食いに行くか。以前約束したろ?」

「え、まだ覚えてくれていたんですか⁉ランチの件」

「大事な部下との約束を忘れるわけないだろう」

「だ、大事な部下……」

「どうかしたか?」

「いえ!なんでもありません!早速行きましょう!」


戦争が近いにもかかわらず、商店街は盛況であった。

「なんか意外だな」

「国境付近の都市だから、そういうのに慣れっこなんですかね?」

「それでも元気すぎないか?」

「後で聞いてみましょうか」

「だな」


商店街を歩けば、高い頻度で西方戦線軍の兵士とすれ違う。彼等はリュウの顔も役職も知っているため、深く頭を下げ挨拶をしてくれる。その度にリュウは片手を上げ、返事を返した。


さすがのリュウも苦笑いである。

「偉いって想像以上に大変なんだな」

「挨拶を返すだけでも一日が終わりそうですよね」

「今回活躍すれば子爵に陞爵されるかもしれないと、この前ノリノリで話したが、今になって面倒になってきた」


「でもレナ様はお喜びになられると思いますよ?」

「じゃあなろう。子爵に」

スティングレイもだんだんリュウの扱いに慣れてきたのである。


その後、商店街のはずれに良さげな飲食店を見つけたので、そこで昼食をとることに。


二人とも店の定番メニューである日替わり定食を注文した。

今日は狂牛のシチューと新鮮野菜のサンドイッチだ。

「狂牛のくせに美味いじゃないか」

「店主の腕が良いんでしょうね」

狂牛は非常に凶暴な上、肉が硬く脂身も少ないため市場価値が低く、冒険者達から嫌われている魔物の筆頭なのだ。


「サンドイッチも最高じゃないか」

「パンはおそらくグレイス産ですね。食べ慣れた味がします」

「グレイス候様様だな」


せっかくなのでお代わりを頼み、楽しく雑談しつつ食事を続けていると……。

(何やら背中に視線を感じるな。それも裏の職業特有の、ナイフのような鋭い視線を)


「食った食った」

「もう食べれません……長居しても他のお客の邪魔になるので、そろそろ帰りますか」

「賛成だ」

リュウは勘定を済ませた後、出口へ向かっている時、一瞬だけ視線を送ってきた者を確認した。

(……顔は覚えたぞ)


本来ならばすぐにスティングレイと情報を共有するところなのだが、相手からは殺気を感じず、どうやら昼間は動くつもりはないようなので、彼女にはまだ何も言わず、そのまま散策を続けた。

(尾行してこないということは、もう泊まっている宿はバレてるっぽいな。どうせだから色々と利用させてもらおうか)


その夜。

今夜ももちろん、スティングレイと同じ部屋に泊まる。

「スティングレイさん。今晩も引き続き、参謀長をよろしく頼むわね」

「はい‼お任せください‼」


リュウはまずベッドに腰を掛け、倶利伽羅の手入れを行った。

「なんか二人旅を思い出すよな」

「私がリュウ様に土下座した日の事を、未だ鮮明に覚えてます。本当に申し訳ございませんでした」

「もうあの件は忘れてもいい。スティングレイは厄介なパパっ子だから、あれは仕方がなかったんだよ」

「激重シスコンの方に言われたくないです」

「俺はシスコンじゃないぞ」

「はいはい」


二人は今日たくさん食べてたくさん歩いたので、就寝は早かった。

「おやすみなさい~」

「ああ、おやすみ」


深夜。

リュウは複数の影が宿屋に近づいてくるのを察知した。

(……来たか)


ベッドから下り、音が出ないよう窓を開ける。

少しでも物音を立てればスティングレイが飛び起きてしまうので、慎重に慎重に。

窓を開けた後、外の縁に乗り、窓をゆっくりと閉める。

そのまま隣の建物の屋根に飛び移り、リュウは夜の闇に消えた。




「目標は?」

「あの宿屋の二階。左から三番目の部屋だ」

「本当に大将には手を出さないのか?」

「あの騎士団長シャーロットが護衛しているのだ。成功確率は1%もない。だから今回は、西方戦線軍の参謀長リュウ・アードレンを狙う」


「参謀長にも護衛が付いているのでは?」

「参謀長の方は大したことはない。昼間この目で確認したところ、Bランク程度の実力であった」

「Bランク一人なら我等でも余裕だな」

「暗殺はいつも通りの手順で行う。出発するぞ」

全員が宿屋に向け動こうとした、その時。


「Bランクがなんだって……?」

「だ、誰だ、貴様‼」

「さぁ。一体誰だと思う?」

その言葉を聞き、敵のリーダーはようやく気が付いた。

「目の前に立っているその男が今回の標的、リュウ・アードレンだ……!」


「じゃあな。俺の暗殺頑張れよ」

「待て!奴を全力で追跡しろ!」

リュウと暗殺部隊のチェイスが始まった。


リュウは彼等がギリギリ追いつけない速度で、屋根をつたっていく。時々後ろから毒ナイフや魔法が飛んでくるが、軽々と避ける。

「くそッ!背中に目でも付いているのか⁉」

「どうぜ偶然だろう。数を撃てばそのうち当たる」


そして防壁を飛び越え、都市の外の森へ。

「あの男は馬鹿か?外は我等にとって最高の狩場だぞ」

「参謀とは名ばかりか」

「気を抜くな、何かを企んでるのかもしれん」


追跡中、急にリュウの姿が煙のように消えた。

「どこへ消えた⁉」

「足跡を探せ!」


追跡を続けようとするが……。

「おい、ちょっと待て、一人足りなくないか?」

「本当だ、いつの間にか一人減っている」

一人消えた。

「あれ?二人いなくなってるぞ」

「さっきまで隣にいたのに……!」

もう一人消えた。


闇に吸い込まれるように、隊員が一人ずつ静かに消えていく。


「一旦固まれ。死角から攻撃されている可能性が高い」

(クソッ、奴は一体どこに潜んでいる……!)



その後も着実に減っていき、気が付けば残りは隊長一人だけになっていた。

「……」

すると、闇の中からスッとリュウが現れた。

「いくつかの問いに答えてくれれば、お前を見逃してやらんでもないぞ」

「……そんな嘘を信じるとでも?」


「お前等の素性はこの際置いといて、とりあえず勇者の事くらいは喋れるだろ?」

「ふむ。勇者の事であれば……」

「はい。勇者について話せるということは皇国の暗部ではない。消去法で侯国の暗部か、侯国が雇った裏組織だな。後者の場合、Bランクを余裕で狩れるレベルの組織はここら辺では限られているから、本気で捜査すればすぐに足がつく。ちなみに今日の昼間、お前の顔もしっかり確認したからな?」


「くそッ……!」

「お前馬鹿なんだから素直に喋っちまえよ。この後尋問されるの嫌だろ?」

「な、舐めやがって!クソガキがぁぁぁ!!!」

「この程度で激情に駆られるなんて、やっぱり馬鹿だな」


隊長が一歩踏み出した瞬間、両の足が切断され、支えを無くした胴体は前のめりに倒れた。

「……!」

そして痛みに悶えながらも、受け身を取ろうと手を伸ばしたその先には……


……倶利伽羅の刀身が。

「え」

隊長の意識は深淵世界に吸い込まれた。




『貴様が最後か……』

『????』

(龍⁉なぜ伝説の魔物がここにいる⁉)

隊長の横には、いくつもの肉塊が転がっていた。

(まさか、これは……)


『勇者の情報を全て吐け』

『あ……あ……』

『さもなければ、貴様もすり潰し肉塊にしてやる。先ほどの虫ケラどもと同様にな』

『わ、わかりました。全部お話し致しますので……どうか、どうか……』

数分後、この世界に肉塊がもう一つ増えた。


『ようやく来たか、小僧』

『死体の処理に時間が掛かってな。んで、情報は絞り出せたか?』

『全員みっともなくペラペラと喋っておったぞ』

『よし。ちなみに俱利伽羅を使って標的を深淵世界に落とす実験も成功した。これならきっと勇者もここに落とせる。これで準備は整ったな』

『ふん……』


情報共有をした後、リュウはすぐに現実世界に戻り、宿屋へ向かった。


(勇者の魔法は想像以上に優秀なようだな。そりゃ列強が挙って召喚するわけだ。……楽しみになってきた)


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