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第26話:治療

アードレン本邸に帰宅したリュウは、早速母の方へ向かった。

しかし一つ問題がある。それは今回の旅の目的、すなわちエリクサーを購入しに行ったことをまだ伝えていないという問題だ。万が一母がその事実を知った場合、『私なんかのために、男爵家の貴重な財産でエリクサーを買うなんて……一体何してるの‼』と叱られるどころか、『絶対に飲まないわ‼返品してお金を返して貰いなさい‼』とか言い出す可能性まである。リュウが頑固なのは彼女譲りなのかもしれない。


現在リュウはセバスと共に廊下を歩いている。

「はてさて、どのように誤魔化しましょうか」

「たまたま知り合った陛下に母の話をしたところ、それに心痛めた陛下が良い薬師を紹介してくれて、安価で特効薬を調合して貰ったというのはどうだ?」

「陛下って……さすがにお戯れが過ぎますぞ」

「本当だぞ。後でスティングレイに聞いてみればわかる」


「ほ、本当にあの女皇陛下とお会いになられたのですか?」

「ああ。戦争の件からずっと俺に目を付けていたらしく、レストランで話しかけてきたんだ。ちなみに絶海の魔術師にも会ったぞ」

「陛下のみならず、帝国魔術師にも……」

とんでもない情報量を前に、セバスは頭を抱えた。


「その話をすれば、きっと薬よりも陛下や絶海などの超ビッグネームに気を取られ、アイリス様は素直にお飲みになって下さるかもしれませんね」

「実際、薬師エステルは陛下とも繋がりがあるから、薬の事以外は全部事実だしな」

「完璧ですね。これでいきましょう」


そのまま母の寝室へ。

すると母だけでなく、そこには偶然妹のレナがいた。

「あら、リュウじゃないの。長旅お疲れ様」

「お兄様‼おかえりなさいです!!!」

レナはリュウに抱き着いた。


リュウは彼女の頭を撫でながら、

「ただいま。レナも母さんも元気そうで何よりだ」

この挨拶を皮切りに、すぐに例の話を始めた。


数分後。

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。イリス陛下に帝国魔術師……それに一流薬師に特効薬……?少し情報量が多すぎるわ」

「陛下、魔術師、薬師、陛下、魔術師、薬師……」

母もレナも、圧倒的な情報量を上手く吞み込めず混乱していた。

作戦通り。今がチャンスである。


「だが早く飲んでくれないと、薬の効果が無くなってしまうかもしれん。それに陛下の紹介で作って貰った薬を無駄にすることはできないだろ?あとで(エステルへ)書簡も送る予定なのに」

と言いながら、リュウは強引にエリクサーをぐいぐいと押し付ける。


「こ、これを全部飲めばいいのね?」

「薬師曰く一滴残らず飲み干せ、とのことだ」

「わかったわ」

ついにその瞬間がやってきた。

「……」ゴクゴクゴク


リュウとレナ、セバスの三名は生唾を吞みながら見守る。

(頼む。治ってくれ)

(お願い‼また元気なお母さんが見たいよ……)

(神よ。アイリス様に、祝福を)


そして。

「あれ?五年間続いていた全身の痛みが一気にひいたわ……しかも身体が信じられないくらい軽い……まるで別人になったみたい」


要するに。

「全快だ。おめでとう、母さん」

「お母さまー!!!!!!」

「アイリス様、御完治おめでとうございます。そして長い長い闘病生活、本当にお疲れさまでした……」


リュウはほっと安堵の息を吐き、

レナは未だ困惑中の母に飛びつき、

セバスはハンカチで涙を拭う。


母も優しい笑顔で礼を述べる。

「ありがとうね、リュウ。そしていつも支えてくれたレナとセバスも」

彼女の頬にも涙が零れた。

それからしばらくは歓喜の声が部屋を木霊した。


数ヵ月続いた計画が今ようやく達成されたのだ。

(とりあえずひと段落か)


その後、健康体を取り戻した母と共に、三人は屋敷内を歩いていた。

「そういえばリュウが不在の間、レナちゃんはずっと一人で魔法の練習に励んでいたのよ?」

「私頑張りました‼あとで練習の成果を見てください‼」

「もちろんだ。何日でも付きっきりで見ようじゃないか」

「やったー!!!」


すると前方からとある女性騎士が、銀色の髪を靡かせながらやってきた。

「あ、リュウ様!それにアイリス様とレナ様もいらっしゃるとは……!」

「おぉ、スティングレイか。さっきぶりだな」

「貴方は確かシルバ団長の娘さんよね?ずいぶん立派になったわねぇ~」


「団長の娘?ふ、ふ~ん……」

(なんかお兄様と仲が良さそうね!)

レナはスティングレイを要注意人物リストに入れた。


そんなスティングレイが突然、

「あ!アイリス様がお元気になさっているという事は、“エリクサーが効いた”ってことですよね!?おめでとうございます、アイリス様!!!」

リュウとセバスは口をポカンと開けた。

「「あ」」


「エ、エリクサー……ですってぇ……?」

母はロボットのように首をギギギギとリュウの方に向けた。

そして、普段から癖で持ち歩いている金属の杖をバキバキに握り潰した。

言い忘れていたが、アイリス・アードレンは泣く子も黙る超武闘派である。

『星砕き』。

これが若かりし頃の彼女に付けられた異名だ。


そのまま貼りつけたような笑みでリュウの襟を掴み、

「少しあちらのお部屋でお話しましょうね。“リュウ君”」

「母さん、違うんだ。これは全部マンテスター男爵の企みで……」


「わ、私は魔法の勉強しに行こ~っと」

「わ、私もやり残した仕事の方を……」

二人はそそくさとその場から立ち去った。


スティングレイはその光景を見て、

「あれ、私なんかやっちゃいました?」



アードレン男爵家の楽しい日々が、再び幕を開けた。



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