空虚な時間
此処はある独つの世界。
そこに2つの人影があった。
平民が着るような質素な服を着た男と、マントを頭からかぶった人影。声帯が高いのできっと女性なのだろう。
「世界は美しい。おまえもそうおもうだろ?」
「そうですね。この世界は私には眩しすぎます。」
此処はその世界で最も美しい景色と醜い景色の見える丘。
北には背の高い山々が聳えたち、
東には青々とした広大な森があり、
西には生き物の駆け回る終わりの見えない草原がある。
「だが人間どもがこの世界も汚している。見ろ、あそこの煙を。ああやって人間が森を焼くから今まさに世界が穢れていくもはや人間はやりすぎた。一刻も早くこの世界から一人残らず消し去らなければいけない。」
しかし南だけは数々の戦で荒野となっていた。
「・・・・・・・救世主であるあなたが言うようなことではないのでは?そんなことは魔王様にでも押し付けてしまえばいいのです。」
「馬鹿を言うな。あのへたれがそんなことできるとは思えん。」
「ええそうでしょうね。滅ぼすべき存在ができないことをあなたがおやりになると?救世主であるのに?」
「救世主だからこそだ。俺は世界を救うもの。その世界を穢しているものを許しておくことはできん。同属だからといってほうっておくわけにはいかん。」
救世主。突然王宮に呼ばれ、突然授かったその称号。
その称号を徐々に受け入れていったこの男は、いまその名を与えた王宮に牙を剥こうとしていた。
「だからといって一人残らず・・・ですか?」
「あぁ・・・俺も含めて・・・な。」
「そうですか・・・・。貴方がそこまで言うのならきっともうやめる気はないのでしょう?」
この男は極力命を大切にする。
そして救おうとする。
それがたとえ極悪人であったとしても、だ。
なぜならば命は世界からの贈り物、そう考えているからだ。
その男から発せられた、大量虐殺宣言。
相当な覚悟の元で言ったであろうことは、マントの女が一番よく分かって言った
「あぁ。」
そして答えも案の定であった。
「ところでお前はどうするともにくるか?」
「いえ、私は他にやることがありますから。」
「そうか・・・。」
「貴方を止めるためにはいろいろと準備が要りますから。」
「・・・・・・。」
それは男の言葉に反対するということ。
男は、今までなかった否定の言葉に戸惑った。そうしている間にも、女は話した。
「あなたはもう少し気長に見るべきなのです。今はまだ彼らを滅ぼすべきではありません。」
「なぜだ?もう充分待ったでだろう。どの道何を言っても無駄だ。」
だからといってその程度で挫ける想いでもないのだが・・。
「だから確認しておく。お前は敵か?それとも味方か?」
「どちらでもありません。わたしは我を通したいだけです。貴方が死ぬというのなら。私はそれを止めてみせる。私の命を代わりにしてでも。」
「・・・・・なぜだ?なぜそこまでして俺の邪魔をしようとする?」
「私は・・・唯一、孤独から私を救ってくれる貴方を失いたくないだけです。もう・・・孤独に逆戻りするのは嫌なんです。」
この男はやることを終えたら死ぬつもりだと言っていた。
女には、それが嫌なことだった。
男は声を荒げた。
「では俺のこの憎悪はどうする!!こんなにもはらわたが煮えくり返っているというのにその原因を無視しろとお前は言うのか!!」
今にも爆発しそうなこの気持ちを、いったいどこにもっていけばいいんだ、と。
「自分勝手ですいません。ですが・・・だからこそ我を通すと、止めると私は言ったのです。」
「もういい、私は帰る。今から起こることを邪魔するというのなら、そのときはお前を殺す。だから・・・・できることなら出てこないでくれ。」
最後に、失いたくないものであるこの女に初めての懇願をした。
きっと憎悪に染まりきった自分は判断する前に人型のモノを斬り捨てていくだろうから。
それが案山子であっても、この女であっても・・・。
「・・・・結局、私の望んだものは無くなっていくのですね・・・・今度こそ逃すまいと思っていたのですが・・・。こんな名ばかりで何も救えない創造神の命でよければいくらでも捧げましょう。貴方がとまるのなら。」
男は知らない。この女がどんな存在であるかを。
女は知らない。自分が死ねばこの世界も死ぬということを。
そして女は、男のいるであろう荒地へと歩を進めた・・・・。
結末は自分で考えてください。
ハッピーエンドになるか、
バッドエンドになるかは、
貴方の想像力しだいです。
誤字、脱字などがございましたら一報をお願いします。