表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

まあまあよくある人生でしたので、二度目はドアマットやめます。

作者: 下菊みこと

まあまあよくある人生だった。


父の浮気からの心の弱った母の病気、段々と弱っていく母と泣く私を罵る父。


母が亡くなると家に転がり込んできた元愛人の継母と隠し子だったはずの異母妹。


虐待され、形見も奪われて、なのに婚約者には信じてもらえず逆に私が異母妹を虐待していると騙される彼に心底絶望して。


自殺したら、何故かまだ母が病に苦しむ前の五歳児の頃に戻っていた。


「…まあ、何が起きたか全然わからないけど本当に戻ってこれたらしい」


ラッキーだ。


そして同じ轍を踏むのはごめんである。


ドアマット扱いはもういらん。


やめろ。


ということで、前回の人生とはガラッと方針転換することにした。


「おほほほほほ!さあ、施して差し上げますわー!」


まず、大人しい男爵令嬢だったのをあえて傲慢に振る舞うことにした。


ええんや、目上の人にさえ気を付けてれば。


大人しくしてると舐められる。


そして、前回はお小遣いをドレスや宝石に使っていたのをやめた。


極力自分にお金は使わずに、人々にばら撒く。


「オルテンシアはいい子ね」


「えへへ」


「お母様の自慢の娘よ。でももうちょっとお淑やかにね」


「はーい!」


幼い頃からノブレスオブリージュをしっかりと意識する娘に母は鼻高々。


しかも前回の人生の記憶のおかげで人より何倍も成長の早い有能な子供扱い。


貴族の中でも神童だと言われている。


傲慢な振る舞いもそれ故に許容されていた。


そして、普段お世話になっている使用人たちや困っている人々にお金をあらゆる形で還元しているので下の者から慕われてもいる。


「お嬢様は素晴らしい」


「慈悲深いし優秀だし」


「将来は婿を取り男爵家を継ぐのだろうな」


ここまで評判になれば父も私に表立っては手を出せまい。


そして母も今回は自慢の娘という精神的支柱がいるので多少は心持ちも違うだろう。


父の浮気が公になっても母を私が支えてみせる。


そうすればあいつらは上がり込んではこれまい。


そう思っていたのだが。


「男爵様が奥様とお嬢様を裏切って別の家庭を持っている…?」


「しっ!…間違いない。俺はこの目と耳でしっかりと確かめたからな」


「しかしそれでは…お嬢様には大恩があるというのに」


「この屋敷の使用人はみんなお嬢様に何かしらの恩があるからな。だから俺たちで解決するんだよ」


「どうやって?」


…この会話を偶然にも耳にして、隠れてやり過ごし素知らぬふりをして過ごした。


少ししてからお父様が目に見えて落ち込んで過ごすようになった。


仕事や人付き合いはきちんとしているようだが、私生活では腑抜けに成り下がっている。


…きっと、使用人たちが愛人と隠し子をどうにかしたのだろう。


ただ、殺してはいないはず。おそらく脅して遠くに夜逃げさせたとかそのあたりか。だってさすがに殺してたら、真っ当な人間なら罪の意識のカケラくらいは見えるはずだもの。それがないから。


「…まあ、それならそれでいいわ」


生きているなら問題ない。


そして目の前に現れないならラッキーというもの。


さらに、今回は超有能な私はこの幼さで爵位継承のための教育を受け始めている。


教養やマナーはオールクリアしているので、領地経営や男爵となった時のための人付き合いなど本当に必要なことを教わっている。


父はクソだが祖父はまともで、私はその祖父に跡取りとして認められたのだ。そして私に難色を示す父をすっ飛ばし、隠居している祖父が直々に英才教育を施してくれている。この祖父は健康に長生きするはずなので安心。


「ここまで覚えれば、いつでも爵位を継承することができるだろう」


「ありがとうございます、お祖父様」


「こうなるなら、息子に早々に爵位を渡さず一足跳びでお前に継がせるべきだったか」


「私は爵位を継承するにはさすがに早すぎますわ」


「ふふ、実力は十分だが幼すぎるか」


十歳になる頃には祖父に認められた。


私は傲慢だが慈悲深い神童としてさらに有名になり誰もが認める存在となり。


父は相変わらず仕事だけに生きる人形となっている。


そして母は実は父の裏切りには段々と感づいたらしいのだが、父の様子を見て色々悟りむしろ人形化してしまったのを陰ながら支えて優しくしてあげている。本人は精神的に全然余裕で元気。


あとの問題である愛人と隠し子。実はこの間、施しの一環で天災に遭った遠くの地域に支援物資を持ってボランティアに行った。ボランティアとして得意の治癒魔術で人を癒し、支援物資を配った。そこで天災の犠牲者の名簿に二人の名前を見つけた。


「後味は悪いけど、こちらとしては穏便に済ませられたのよね…」


あっちからみれば全然穏便じゃないだろうし、最悪の結果だろうけれど。


前回の罪を今回払えというのはおかしいかもしれない。


でも不思議な因果が不思議な形で巡ったのだと思って諦めてほしい。


こんな意地悪なことを思ってごめんなさい、とは謝っておく。


「…残るは、婚約者」


私は前回同様の人と婚約を結んでいる。祖父の決めたことなので拒否権はない。ただ、前回は彼が婿養子となり跡を継ぐはずだった。


今回は婿に来ることは間違いないが、私が跡を継ぎ彼はただ配偶者となるだけ。


私の方が立場は上だ。


妹はもう登場することはないので、上手く仲良くすることはできるだろう。


けれど私は彼を信用できないと思う。なので彼を支配しようと思う。不幸にするつもりはないが、上下関係を明確にするのだ。


「そう思っているのだけど…」


婚約は決まっているのに、彼とは会えない。


何故なら、今回は彼がかなり病弱だから。文通さえ難しい。それでも婚約を祖父が結んだのは、相手の男爵家がそれなりにお金を積んだから。今回の人生では、有能な私の婚約者という立場は色々美味しいらしい。前回はあっち優位だったのに。


ちなみに彼の病は魔力欠乏症らしい。過去に記憶を送る魔術を複数人にかけるとそうなると聞いたことがあるので、もしかしてとは思っているが。だとしたらある意味恩人ではあるがそんなことをした理由はわからない。


「オルテンシア」


「お母様」


「良い知らせよ。ガロファーノ君の病状が回復したそうなの」


お母様は嬉しそうに言う。


婚約者は元気になったのか。


「ずっとベッドの上の生活だったから、元気になるまでまだリハビリとかが必要なのだけど…病気はすっかり良いみたい。リハビリがある程度進んだら、会って欲しいそうよ」


「ありがとう、お母様」


にっこり笑う。


さて、どんな顔で会おうか。















「やあ」


「お久しぶりね」


婚約してからようやく会えるのだからと、会って早々に二人きりにされたので単刀直入に切り込む。


「久しぶり」


「私の記憶を過去に飛ばしたのは貴方ね?」


「そうだよ。魂ではなく記憶だけだから、厳密にはやり直しの人生ではないんだ。あの世界線の君は死んだ」


「そ」


「お気付きの通り、僕は君が死んでから真実に気付いた。君こそが虐待の被害者だと。罪滅ぼしにすらならないと思うけど…」


すらすら言う彼に待ったをかける。


「魔力欠乏症になるのは、魔術をかけた本人。つまりは、本来ならあの世界線の貴方のはず。この貴方がなるのはおかしい」


「だって、僕は魂ごと飛んだからね。生きてたからできたことで、君はすでに天に昇っていたから叶わなかったが」


ほうほう。


クソ野郎が。


「とりあえず一発殴らせなさいよ。リハビリも順調でほぼ健康体でしょ」


「わかってる」


思いっきり腹に重い一撃を入れる。


「ごふっ…」


「顔に、とは言ってないわよ?」


腹は完全にノーガードで油断しまくりだったので緊張していた顔をやられるより痛かろう。


「色々文句はあったのだけど、これで手打ちにしてあげるわ」


「え」


「あの世界線の私のことで、今の私が恨み続けてもしょうがないし。貴方のしたことで、今の私は幸せになったもの」


クソ野郎だとは思うし、信用は一生しないけどね。


私がそう言ってやれば、彼は力なく笑う。


「うん、間違いなくクソ野郎だから大丈夫。信用されないのもわかってる」


「そこは信用されるよう頑張るとか言いなさいよ」


「頑張っても無理なものは無理だろう。けれど、誓うよ。信頼を寄せて欲しいとは思わない。ただ、君に生涯の忠誠を誓う」


愛を誓わない辺り、誠実さは垣間見える。


くそぅ。


「…そ。一生をかけて証明しなさいよね」


「うん」


…結局はこの後、私は無事に女男爵となりガロファーノと結婚することになり。


ガロファーノに忠誠を尽くされた結果子供二人に恵まれて、なんだかんだ円満な家庭を築いて彼をほんのちょっとだけ愛してしまうことになる。


やっぱりなんだかんだ言っても、私は一人の人に尽くされると愛してしまう平凡な女らしかった。

宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました


という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 穏やかなラストで良かったです。 [気になる点] 父親も実際に登場するところを少し読みたかったです。もちろん今回直接登場しなくてもうまく書けていました。 [一言] 死んだけど過去に戻ってやり…
[気になる点] 記憶だけとはいえ過去戻り、過去改変の術なんて禁忌とされてそうな気がしなくもないというか、ほいほい使えてよい術では無いですよね… でも認知度は高い魔術っぽいし、実はパラレルワールド作られ…
[気になる点] 魂ごと飛んだということは、この世界線での本来のガロファーノの魂はどうなったのでしょうか? まさか、消滅したんじゃないですよね!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ