魔王を倒すための冒険に出た勇者ですが、最初の村で村人に話しかけたら冒険は終わりを告げました
「勇者よ、魔王を倒してくれ! 頼んだぞ!」
国王の命を受け、勇者トークスは旅立った。
精悍な顔立ちに青い鎧を身につけたトークスが歩く姿は実に絵になる。
トークスを目にした人は「彼ならばきっと魔王を」を期待せずにはいられない。
そんな彼が王都を離れてから三日ほどで、最初の村に到着した。
ヒアルという、小さくのどかな村である。
村の入り口にはさっそく村人がいた。
中肉中背の、平凡そうな、どこにでもいるような青年であった。
トークスは話しかける。
「こんにちは」
「ここはヒアルの村です」
青年は自分の村を紹介する。よくある光景である。
「ヒアルの村は特に何もありませんが、道具屋ぐらいはあります。ここで薬草や傷薬を買って、敵に備えておくのがセオリーといえますね」
「どうも」
ヒアルの村でどうすべきかまで教えてくれる。親切な青年である。
「ここから北ヘ行くとモーダの町という大きな町がありまして」
「ああ、聞いたことがありますね」
「はい、ここは大きいだけあって有名な武器屋や防具屋が数多く点在します。ここで装備をしっかり整えておけば、後々の冒険がだいぶ楽になるでしょうね」
「なるほど」
トークスはうなずいた。
装備を整えられる町のことまで教えてくれるとは、ますます親切な青年だ。
「モーダの町近くには、ドゥンケル洞窟という洞穴があります。ここに住んでいる魔物ゴールデントロルは、凶悪な魔物で、旅人たちを襲っています。パワーは凄まじいですが、スピードは遅いので、そこをうまく突けば倒すことができます」
「ありがとうございます」
手強い魔物の弱点まで教えてくれる。
トークスとしてはありがたいことである。
「ドゥンケル洞窟を攻略したら、今度はリエール川という大きな川に出くわすはずです。ここは激流で川幅も広く、泳いでもまず溺れます。あなたも鍛えているようですが、泳いで渡るのは不可能でしょう」
「それは大変ですね」
このアドバイスがなかったら、トークスは川で溺れていたかもしれない。
「しかし、近くのヨエンの森にある大樹を橋にすることで、川を渡ることができます。大樹を切り倒すのは心が痛みますが、この木は病に蝕まれており、切株にしてあげた方がかえって寿命を延ばすことに繋がります」
「なるほど」
川を渡る方法まで教えてくれた。
トークスは至れり尽くせりしてくれる青年に感謝の念を忘れない。
「川を越えると、ベルク山という山岳地帯に差し掛かります。ここで恐ろしいのは山賊です。ラモンという首領率いる“ラモン団”が縄張りにしています。彼らの集団戦法は侮れません」
「数で来るのは恐ろしいですね」
「ですが、首領さえ倒せば子分たちは怖気づき、戦意喪失してしまうので、ラモンを集中攻撃するのがベストでしょう」
「参考になります」
トークスは頭を下げる。
「山を抜けると世界中に信徒がいるシガー教の総本山であるシガーポリス神殿があります。ここの長であるラルド司教が魔界へ行く方法を教えてくれます」
「魔王ターナスのいる異世界ですね」
“魔界”。禍々しいその響きに、トークスは思わず息を呑む。
「その方法とは、東西南北に散らばる四つの宝珠を集めるのです」
「ほう」
「それぞれの在り処を説明しましょう。東の宝珠はエスト王国にあります。エスト王国はこの国とも友好関係にある緑豊かな国ですが、魔族が大臣に化け、内側から王国崩壊を企んでいました。大臣に聖水を浴びせることで正体を明かし、これを倒せば、エスト王国の王から“火炎の宝珠”を賜ることができます」
宝珠の説明はまだ続く。
「西にはザフト教の集落があります。土着の精霊を信仰している方々ですが、この精霊の力が弱まり、加護を得られていない状態にあります。理由は精霊が怨念の塊に取りつかれていたからで、この怨念が眠る墓地に入り、強力な怨霊を退治することでこれを鎮めることができます。感謝の印として“大地の宝珠”をもらえます」
「南はユーク島という島があります。普段は温暖な気候の島ですが、海が荒れ、島民は漁にも出られない有様。この島特産の潜水服を着て、海に潜る必要があります。海底には海を荒れさせている張本人・凶悪鯨デビルホエールがおり、熾烈な水中戦の末、これを倒せばユーク島の長から“青海の宝珠”が与えられることとなります」
「北にはノルデン共和国。強力な騎士の国ですが、魔族の軍勢に苦戦しています。しかしプライドは高く、最初は助成を受け入れようとはしません。なので、まずは騎士団長ロンド氏を倒します。実力を見せつけた後、騎士団と協力し、魔族を率いる悪魔騎士を打倒します。さすれば王より“豪雪の宝珠”を託されることとなります」
四つの宝珠を手に入れた後の説明に移っていく。
「魔界への扉が開きますが、ここにはゲートガーディアンがいます。魔王の魔力で動く強力な人形で、門番に相応しい実力の持ち主。ですが、人形ゆえに行動パターンは決まっており、それを見抜くことで倒すことが可能です」
ついに話は魔界に入っていく。
「いきなり魔王城に入ることはできません。なぜなら魔王城にはバリアーが張られているからです。いかなる力でも正面突破は不可能ですが、これはシュフレの笛を吹くことで解除することができます。笛は魔界の奥底で隠遁している魔族の老人モリゴ長老に話しかけることで、入手することができます」
そして、いよいよ――
「魔王城に乗り込み、魔王ターナスとの戦いです」
「魔王ターナス……!」
トークスの顔も強張る。いずれ倒すべき宿敵の情報なので、絶対に聞き漏らしてはならない。
「ターナスは体術、魔術に長けた強敵です。弱点らしい弱点はなく、これまでの旅の成果が試される戦いとなります。ですが、魔王相手に今更小細工は無用。ということで真っ向勝負を挑むしかありません。しかも、ターナスは追い詰められると、その姿を変えます。まるで亡者のような姿になり、攻撃はさらに苛烈となります。ですが、捨て鉢にならず数少ないチャンスを生かせば、ターナスを打ち倒すことができるでしょう」
魔王ターナスの情報も手に入れた。
トークスは青年に礼を言い、旅を続けようとする。
すると――
「そして、どうにか倒すことができました」
「え?」
トークスは目を丸くする。
「魔王を……倒したの?」
「はい、倒しました」
トークスは青年から小さな木箱を渡される。
ちょうど、人間の頭ぐらいの大きさの箱だった。
蓋を開け、中を見ると――
「ああ、これはターナスですね」
「ターナスです」
トークスは納得し、ヒアル村から王都に戻った。
城に戻ったトークスは「もう帰ってきたのか!?」と国王に驚かれるが、こう報告するしかなかった。
「最初に立ち寄った村で村人に話しかけたら、冒険は終わりを告げました」
完
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