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テーマ詩集:化石博物館

アンモナイトのためにいっしょに泣いてくれたひと

作者: 歌川 詩季

 泣くのは難しいことだと思います。

 会ったことさえない

 とっくに滅びちゃったアンモナイトのために

 どんなふうに泣けばいいのか わかんなくて

 ひとりで とほうにくれてた あたしだったけど


 あなたは こんなあたしを笑いもしないで

 声をあげて いっしょに泣いてくれた


 アンモナイトたちのこと

 右巻きか 左巻きか 知らないし

 内巻きか 外巻きかも 答えられないあたしが

 あいつらのために泣いてもいいんだって

 これは あなたは教えてくれたんだよ



 あのね

 べつに悲しいわけじゃないんだ

 会ったことさえないアンモナイトのために

 悲しくなれるほど あたしはやさしい人間じゃない

 じゃあ なんで泣くのかってきかれたら

 きっと くちびるをかんで

 泣くのをやめちゃうあたしなのに


 悲しくなくたって 泣かなきゃなんないときは

 ちゃんと 泣いといたほうがいい

 ちゃんと 泣いとかなくちゃいけないんだって

 これも あなたが教えてくれたんだよ



 だから あたしは

 会ったことさえないアンモナイトのために

 おもいっきり泣いた

 どんなふうに泣けばいいのかなんて

 そんなことどうでもよかったんだ

 あなたもいっしょに泣いてくれたから

 あたしは ちゃんと泣けたの

 アンモナイトぉ なんで滅びちゃったのよぉ



 アンモナイトのことは まだあきらめきれないけど

 あたしは それよりもたいせつなことを

 あのとき あなたから教わった


 だけど ひどいよ


 こんなかたちで あたしを試すなんて

 泣かなきゃいけないとき

 ちゃんと泣けるようになったのか

 あたし ひとりでも泣けるのか

 こんなかたちで あたしを試すみたいに

 あなたから いきなりさよならをくれるなんて


 ひどいよ


 こんな試しかた あんまりだ


 ほんとにひどいよ


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 ねえ

 安心した?


 ちゃんと できてるでしょ

 こんな試しかたしなくてもよかったのにって

 あなたによびかけても

 もうきこえないところにいるんだから

 どうでもいいや


 こんな試しかたをした

 あなたも そうとう薄情者だけど

 あたしだって負けないくらい

 そうとうな薄情者だからさ


 あなたのことなんて すぐに忘れちゃうよ

 だって あなたが教えてくれたとおり

 ちゃんと たくさん泣いといたんだから

 泣きのこしは きっと もうひとつもない



 だから たぶん


 あなたのことは すぐ忘れちゃうだろうけど


 会ったことさえない

 とっくに滅びちゃったアンモナイトのために

 いっしょに泣いてくれたひとがいたことだけは

 あたしは ぜったいに忘れない



 アンモナイトのためにいっしょに泣いてくれたひと

 そんなひとがいたことは ぜったい忘れない

 じょうずに泣けるひとは、いいですね。


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【アンモナイトのはなし】
太陽は海の底
― 新着の感想 ―
[良い点] 命なんて、いつ消えるかわからない。 だから、泣けばいい。 泣いて、向き合って、さよならをして、 すっかり忘れたらいいんだ。 記憶に残らなくても、全ては血肉になって、 あなたを形成してる…
2023/11/07 11:32 退会済み
管理
[良い点] 滅びた動物のために泣くという発想がなかったので、新鮮な感動を抱きました。
[一言] 泣くことに理由が求められてしまうのは何故でしょうね。 ただそこには自分の感情があって、でもその事象としての繋がりの深さや濃さでその涙が肯定も否定もされてしまう。 自分も無意識の内にそう考えて…
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