二話
「アランくん、仕事の話なんだけどさ、私、一晩考えていたことがあって」
翌日、私が泊まっている宿にアランくんが顔を出してきた。
「私、アランくんの仕事を手伝わせてくれない?」
「はっ?」
彼から発せられたのは呆気に取られたような声。
「アランくんってさ、この港町カザムの浄化にきたんでしょ? 聖女としての私の力が役に立てるじゃないかと思うんだけど」
「いや、まてまて。知ってると思うけど、聖女の力を教会の許可なく使うことはできない。そして、港町カザムは教会に寄付金を1リルたりとも収めていない。100%許可出ないぞ?」
ここまでは私の予想通り。
私も無策で提案しているわけではないのだ。
「うん、でもさ、この街って冒険者ギルドあるよね?」
「あるけど、それがどうかしたか?」
「冒険者ギルドってさ、外のルールは関係ないよね?」
「……ああ、まぁな。冒険者は完全なる自己責任の仕事だな。……いや、まてまて、つまり!?」
「そう、私、冒険者として登録しようと思うんだよね。そしたら、教会の許可なく聖女の力を使えるんじゃないかな?」
「マジで言ってんのか!? 冒険者って、おまえ、アレだぞ!? めっちゃ評判悪いぞ!? 貴族と結婚とかマジでできなくなるよ!?」
私は左手の薬指に着いてる指輪を見せた。
「知ってるでしょ、私は男爵家の令嬢だよ? 自分より身分の低い相手から贈られる、中古の婚約者なんて、欲しがる人いると思う?」
「うっ……」
「それに、聖女は生涯で一度しか結婚できないという決まりもある。正式な婚約こそ結んでないからまだセーフなのかもしれないけど、決まりにうるさい教会が、そんな面倒くさい存在を聖女としては認めないと思うんだよね。つまり、私は、政略結婚の道具としての価値は、完全にゼロなんだよね」
私が一晩考えていた事。
それは今後の身の振り方だった。
貴族としても生きられない。聖女としても教会に認めて貰えない。それならば、私は私の好きに生きてもいいんじゃないかなと考えたのだ。
私は父の言いつけを守り、愚直に聖女のお勉強を頑張っていたけど、本当はただそれだけじゃなくて、この力がいつか皆の役に立てたらと、そう言う気持ちもあった。
それも私の頑張る原動力になっていた。なら、その気持ちに従ってもいいんじゃないかなと、私はそう思ったのだ。
「どう? アランくん? これでも聖女養成学校の首席だったから、聖女としてはそれなりに優秀なんじゃないかと思うんだよね」
「領主としては……聖女の力を頼れるのは非常にありがたいのだが……しかし……聖女の冒険者なんて……前例がないぞ……」
そこでアランくんは口を噤む。
およそ30秒ほどの沈黙。
「……本当にいいんだな? 港町カザムの冒険者として登録しても」
この言葉に、私は力強く頷いた。
◇
冒険者ギルド、そこは金さえ払えばどんな依頼でも叶えてくれるという施設だ。組合員として所属した者のことを冒険者と言う。
冒険者には色々と悪名高い噂も多く、私もそれなりの覚悟を持ってなったのだが……。
「ユーリシアさん、これの洗濯お願いしますね!」
「はーい、任せて!」
「ユーリシアさんいますか! 急患です!」
「分かりました!」
「ユーリシアさん!」
「はい、はい、命に別状ないなら後で!」
入ってみたら、仕事がめっちゃくちゃ忙しい!
それ以外は、みんな親切にしてくれて、想像していたのとまったく違う職場だ。
ちなみに、私の本日の仕事内容はこんな感じである。
──浄化魔法
──回復魔法
──光魔法
──洗濯
──灯台の点検
──草刈り
──マッサージ
──ギルドの受付
いくつか、聖女の能力関係ない仕事も混じっている。
というのも、常に街にいる冒険者という存在は珍しいらしく、「ちょっとこれやっといて〜!」みたいなノリで頼まれることも多い。
そのおかげで街にすぐ馴染むことができたし、みんなから「ありがとう!」という一言も貰えるしで、私は毎日が楽しかった。
「ユーリシア」
「今日はむりぃ! ……って、なんだ、アランくんか」
「俺で悪かったな、このあと飯行くか?」
「うん! あと5分ぐらい待ってね」
ギルドでの仕事が終わったあと、私はアランくんとご飯をするのが日課となっていた。
そこで交わすのは、昔話に花が咲いたり、今日あったことの報告をしたりという他愛もない会話だ。
……でも、その時間が、私にとっては一番心地よい時間かもしれない。
「ユーリシアのおかげで助かっているよ。カザムの事業面でかなりの効率化が図れている」
「あ、ほんと? 私は言われるままに仕事をしているだけなんだけど」
「聖女の魔法が効果的に働きそうな事業には俺が宣伝しておいたからな」
「どうりで……なんか仕事の内容が妙に具体的だとは思っていたんだよね」
どうやら私の仕事が妙に忙しかった原因はアランくんによるところが大きいようだ。
そのおかげで、今こうして美味しいお酒と料理が楽しめているのだから文句はない。
ここ数ヶ月、アランくんと色々話してみてわかったのだけど、彼は領主としてとても優れている。
街の発展を第一に考えて、効率化を図ろうとしている姿勢が常に感じられるのだ。
にも関わらず、他の貴族のように領民に偉そうな態度を取ることもない。
彼が領民の方々から気さくに声をかけられるのは、そういった面が大きいのだと思う。常に民のことを考えている姿勢。そこに多くの人は信頼を置いているのだと思う。
「しかし、今日のアランくんは領主様モードだね? なんかあったの?」
それともう一つ。アランくんの口調が少しだけ硬いとき、それは彼が領主として立ち振る舞おうとしているときだ。
もっとわかりやすく言うと、今、私たちの席は消音の魔法で包まれているので、こういうときのアランくんはだいたい領主として頑張ろうとしている。
「……ああ、穢れが見つかった」
──穢れ。それは魔物が産まれやすくなる原因そのもののこと。
穢れを完全に消せるのは聖女の浄化魔法だけ。そのために多くの街は教会に多額の寄付金を収めているという図式になっている。
聖女が聖魔法の行使を封じられているのは、この穢れによるところが大きい。
身も蓋もないことをいうと、教会にとって魔物の存在は大きな収入源となっているってことだ。
「良かったじゃん! これで私もアランくんに恩が返せるよ、浄化に行こう」
「……問題は2つあってな。1つは穢れの近くには大量の魔物が出現するため、ユーリシアに危害が及ぶかもしれないこと」
ふむ、と私は頷いた。
「うん、そこは大丈夫だよ。その為に私も障壁魔法とか習っているわけだし、自分の身を守るぐらいならできると思う」
「もう一つは……穢れを封印したら、俺はこの領主を解任される可能性がある、ということだ」
「えっ?」
それは、予想だにしていなかった事。
「俺は穢れの研究のためにここに来たんだ。魔物と戦いながら穢れの研究を進め、その研究成果で他の領地の穢れを払う。教会に頼らない国造りのために、その一歩目としてこのカザムの地が選ばれた」
彼はそこで、荒くエールをあおる。
「だから……穢れを完全に払える、ユーリシアの力を借りられるのは予定にはないことだった。ここで穢れを消し去ったら、俺がこの地で領主を務める意味はなくなってしまう」
そこまで聞いて、私はようやく彼の気持ちを理解する。
「……なるほどね。領主として、民のことを思って穢れを消したいアランくんと、この地を離れて、元の生活に戻りたくない気持ちのアランくんで、揺れているわけだ」
私の問いかけに、彼は力なく頷く。
その気持ちは、私も痛いほどわかる。
もし私が、元の生活は戻れたとして。
カザムのみんなのために役に立つことをしたら、元の生活に戻らなきゃいけなかったとして。
そしたら私は、その選択を選ぶことはできるだろうか?
……即答はできそうにない。
「うん、分かった。アランくんの好きな方を選んでいいよ。もし穢れを祓わない選択をしても、私は君のことを責めないし、この話を誰かに伝えたりもしない。
……むしろ、ごめんね、私がここに来たせいで、余計な選択肢が生まれてアランくんの負担になっちゃったよね」
これは私の素直な気持ち。やっぱり、アランくんも私も、この6年は似たような境遇だったのだろう。
私の気持ちを聞いた彼は、伏せていた顔を上げる。
そこにあった表情は、鋭い目つきをした、領主としての彼のものだった。
「謝らなきゃいけないのはこちらの方だ。
……穢れを払おう。領主として取るべき選択肢は決まっていた。この選択を与えてくれたユーリシアが、負担であるはずがない」
──ああ、やっぱり彼は凄い人だなと私は思った。
◇
翌日、私とアランくんは早速、穢れの場所へと向かう。
「アランくん、これ、持ってて」
その道中で私は、彼に指輪を手渡した。
「……これは? 誓いの指輪?」
そう、私の左手の薬指にハメられている誓いの指輪。これはペアになっている。
私はその片割れを今の今まで持ち続けていた。
「ああ、身に着けないでね? 外れなくなっちゃうから。持ってるだけでいいからね?」
聖女は婚約の際に、婚約者と共にこの指輪を身に着けるという決まりがある。
ペアの指輪の方にも「一度身に着けたら外れない祝福」が掛けられている。だから、婚約破棄される聖女というものは存在しないことになっているのだ。
たとえ相手方に飽きられようとも、お互いの薬指には婚約指輪がハメられているわけなのだから、捨てられるということはない。
……ただ、腫れ物扱いされる可能性はあるだろうし、実際そういう立場の聖女は多くいると思うけど。
私もグレン様と正式に婚約していたらそうなっていたんだろうなぁ……。
「……ああ、わかったけど、どうしてこれを俺に?」
「うん、その指輪ね。一応祝福が掛けられててさ。持ってるだけで傷の回復が早くなったりするんだよね。身に着けたほうが効果が高くなるんだけど、持ってるだけで効果あるからさ。お守りの代わりにでも持っててよ」
「いいのか? 傷とかつくかもしれないけど」
彼の問に対して、私は頷いた。
それを見たアランくんは、誓いの指輪にチェーンを通して、ネックレスのように首にかける。
「ふふっ、よく似合ってるよ」
「似合うも似合わないもなくないか……?」
せっかくの祝福道具なのだ。
人を守るために役立つほうが、どっかの貴族の指輪で収まっているよりもよっぽど似合っているに決まっている。
それから間もなく、私とアランくんは魔物の巣とも言えるべき場所に到着する。
アランくんは剣と魔法で魔物の数を減らしていき、私はその後ろを障壁魔法を展開しながら付いていく。
そしてついに、穢れそのものと対面する。
「ユーリシアッ! あれだッ!」
私はアランくんの呼びがけにうなずくと、両手を重ねてそこに意識を集中する。
「聖なる浄化!」
私の発した光線に焼かれるようして、穢れは消えていった。
発生源を失った魔物たちは、飛散するかのように消えていった。
ふぅ〜……。
ひさびさに使ったけど、問題なく発動できたことに安堵のため息をついた。
「うまくいったみたいだよ……アランくん?」
私は後ろを振り返る。
そこには彼の喜んでる姿があるかと思ったけど、アランくんはこちらを見てなかった。
彼の視線の先を追ってみると、そこには甲冑を着た人の姿があった。その数は3人。
「ユーリシア=ランページ殿ですね?」
「えっ、私!?」
代表らしき男が私に向かって教会式の敬礼を行う。この人たちは、アランくんではなく私に用があったらしい。
「聖魔法の教会の許可なき行使。これは重罪行為です。ご同行願えますか?」
その一言で私は察する。この人物は教会から依頼を受けた人物だと。
私が言葉に詰まっていると、アランくんが甲冑男の視線から守るように立ちふさがってくれた。
「アンタら、何者だ?」
「察しはついているのでしょう? ならば回答の必要性を感じません」
「教会から依頼を受けて、わざわざここで見張っていたということか?」
「回答の必要性を感じません」
甲冑男がズイと近づいてくるが、その前にアランくんが一歩踏み出して、再度立ちはだかる。
「……カザムの領主よ。我々はあなた達と争うつもりはありません」
「……俺もだよ。ただなぁ、このユーリシアは、俺たちカザムの貴重な冒険者だ」
「存じております」
「なら話はえーわ。冒険者は外のルールに縛られない、その取り決めを破ってるのはそっちだろ?」
「何事にも限度があるということです。だから、カザムの経済が発展していることに我々は口を出さなかったでしょう?」
嘘……そこまでバレているのっ!? この人たちは一体いつから私のことを……!?
「オーオーオー、随分とまぁ、カザムのことを熱心に調べてるじゃあねぇか。すげーだろ。俺たちカザム領民が頑張ったからだぜ? そこのユーリシアの力は関係ねえ」
「……下手な嘘をおつきなさる。何れにせよユーリシア様が、聖なる浄化を使ったところはこの目で確認いたしました。他の魔法は大目に見ようとも、この大魔法だけは見逃すわけには行かないというこちらの見解に相違はありません」
「……チッ!」
アランくんは舌打ちを一つすると、私の方に向き直った。
「ユーリシア、ワリぃ」
ワリぃ? ……そっか、これ以上は教会と敵対しちゃうもんね。
むしろ無理言って冒険者ギルドに入れてもらったのは私だし、これは自己責任の話だ。
冒険者たるもの、自己責任。
教会の原則を破った罰則ってなんだったかなぁ……。
確か、島流しか、斬首だったような……お父さんに迷惑かからないといいけど、難しいだろうなぁ……。
と、私が物思いにふけっていた頃。
アランくんは、首から垂らしていた、あの【誓いの指輪】をチェーンから外して──自身の左の薬指に押し入れた。
──ンンンンンっ!?
「アラン様、あなたは一体……何を、やっているのですか?」
「結婚」
アランくんは差も当然のように言う。
「これで俺とユーリシアは夫婦になりました。ところで、アンタらっておれの正式な名前知ってる?」
甲冑の男は、震えるような声で告げる。
「アラン……ナイトハルト第6王子ですね……」
「そこまで知ってんなら話はえーわ。どうする? 俺、一応王族だけど? 隠し子だから王族内でも扱い低いけど? 揉め事起こすかい?」
「いえ……身を引かせていただきます。失礼いたしました」
甲冑の男たちは、教会式の敬礼を一つすると、そのままどこかへと消えていった。
……いや、私はまだ状況が飲み込めてないんだけど?
アラン=クロフォードというのが偽名というのは分かっていたけど……正式な名前が、アラン=ナイトハルトってことでいいんだよね?
ナイトハルトって、ここらの領地をまとめて管轄している王族の姓だよね?
つまり、アランくんは王族の隠し子だったということになるよね?
その人が、今、私の左手の薬指にバカみたいに輝いている【誓いの指輪】とペアになっている指輪を身に着けたってことでいいんだよね?
だから、私とアランくんは今結婚しましたと。つまり私は、王族の婚約者になったということになるよね?
…………ええぇぇぇ……?
事実を整理してもまだ納得できないんだけど……。
「ワリぃ、ユーリシア。お前を守るためとは言え、許可なく指輪をはめちまった。あれしか解決策が思いつかなかった」
呆然とする私の前に、アランくんは至って平然とした様子で声をかけてきた。
「……いえ、それはいいんですけど……アランくんが王族ってマジ?」
「マジ」
「私……王子様と結婚したことになるの……?」
「まぁ、そういうことになるのか? ……そ、そうか、俺ユーリシアと結婚したことになるのか……やっべぇ……今になって恥ずかしくなってきた」
「えっ? ちょ、ちょちょちょーい! どういうこと!? 何も考えてなかったってこと!?」
「いや……考えてはいたんだけど……急に、実感が……」
「あ〜も〜! まぁいいや! とにかく帰ろ! 詳しい話はご飯食べてからにしよ!」
私は赤面しているアランくんを引っ張るようにして、港町カザムに戻ることにした。
◇
こんにちは、私の名前はユーリシア=ランペルージ(22歳)です。
私は本日、婚約者のアランくんの「なんかしっくり来ない」の一言によってご飯を作り直しています。
「なんかしっくり来ないってなんだよ! ちゃんと言えよ!」
「いや、不味くはないんだけど、なんか違うんだよなぁ。あの酒場で食べた料理はもっと……こう……う〜ん……」
私とアランくんは王都で正式な結婚式を上げるために、一時的に王都で生活しています。
毎日のように食べていた港町カザムの料理。
あの味が恋しくなった私達は、今その再現に勤しんでいるところです。
「もう、わからん! アランくん交代!」
「へいへい」
フライパンを持つ係をアランくんと交代すると、彼はいくつかの調理料を混ぜると、強火でサッと火を通しました。
私はそれを横から摘み。
「あっ、美味しい! すごっ、あの味再現されてるっ!」
「フッ、カザムの味を再現できなくては領主の名折れだからな。ピンと来なかったのは火加減とほんのちょっとの味付け、領主として見抜いてやったぞ」
「はいはい、領主様は今日も有能でえらいですね〜」
そんな他愛もない会話を交わしつつ、私達は食卓に料理を並べると、久々のカザムの料理に舌鼓みを打ちました。
さて、あの後どうなったかという話なんですが、結局のところ……何もありませんでした。
アランくんは王都に戻って一連の流れを報告しましたが、特に何を言われるわけでもなく。
引き続きカザムの領主に精を尽くすように言われたそうです。
私もあの後、教会から何も言われませんでした。
それはナイトハルト家からも同様です。
第6王子の妻となった私に、各領土の穢れの浄化を命じれば可能でしょうけど、そういった命令は一切ありません。
それを実行しないところを見ると、教会とナイトハルト家は『今回の件は互いに不問にする。ただし次に何かあったときは──』みたいな取り決めを交わしたのだと思います。
……はぁ、また侯爵夫人の教育の癖がでて、こういった裏事ばかり推測してしまいます。
あまりいい癖ではないなと思うのですが、そのおかげで、王都内で苦もなく振る舞えているので良しとしましょう。
……あ、そうそう。誓いの指輪をアランくんが着けたあと、やたらめったら赤面していた理由ですが、彼、昔から私に惚れていたみたいです。
……自分でそのこと言うのはっず。
私が聖女養成学校に入った時点で、その想いを振り切ろうとしたみたいですが、結局断ち切れず。
なんでも記憶を消す魔法を習いたくて、王都に来たあとは魔術師として頑張ることにしたのだとか。結局、その魔法は身に着けられなかったみたいですけど。
……なんか、私も、アランくんも、やたら遠回りしている人生のような気がします。
そのおかげで幸せな今があるなら、人生に無駄なことなんてないのかなっていう、ありきたりな結論に私は至るのでした。
「そういえば結婚式って明日じゃん? そろそろ練習しとく?」
「練習ってなんの?」
私はゴホンゴホンと大きな咳払いを2回して、声色を作ると。
『アラン様、ご機嫌麗しゅう。本日はどのようなご予定でございますか?』
と、とびっきりのいい声で言ってました。
「ぐっへぇ〜……二人でいるときは勘弁してくれ……ユーリシアにそれやられると背中が痒くなっちまう……」
「ふふっ、だよね〜! 私達には似合わないよね〜! でも、結婚式当日はあの感じで語りかけるから、アラン様、反応しないように頑張ってくださいねっ!」
「うっへぇ〜……さっさと式を挙げて、カザムに早く帰りてぇなぁ〜……」
結婚式前日だと言うのに、私達はこんな他愛もない会話を続けていた。
それは私達が、自然体の自分でいられる喜びを互いに噛み締めているからなのだろう。
そしてこの関係は、私が、ユーリシア=ナイトハルトになろうとも。
アランくんへの呼び方が、アラン様とか、殿下とかになろうとも。
決して変わらない関係であることを、私は左手の薬指で輝いている指輪に誓うのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
自分なりに異世界恋愛を書いてみたらどうなるかな、と思いたち全力で楽しんで書いてみました!
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