表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
アフターストーリー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/114

70 特急で対処します。

 街を南北に横断する、地下道の存在。


 シルクが指摘した事実に、場の空気が凍り付いた。


「──ロゼさんが誘拐されたと分かったのはどれくらい前ですか?」


 私が話を振ると、オーサンはハッとして視線を巡らす。


「…2時間くらい前だ。『赤い髪の女の子が男に抱えられて南の方へ行った』と市民から通報があった」

「赤い髪の女の子が、ロゼさんだと分かった理由は? 顔を確認していたのですか?」

「いや、頭から袋を被せられてて、顔は見えなかったらしい。袋からはみ出ていた髪の毛が赤かったってだけだ。で、その背格好で赤い髪となるとこの街にはロゼしか居ないんで、タッカーの所に確認に行ったら、案の定買い物に出たまま帰っていなかった」

「なるほど…」


 2時間前に男に抱えられて連れ去られたとなると、もう既に街の外へ出ている可能性がある。


 精霊を誘拐し、オルニトミムスの卵を盗んだ。

 地下道がある事を考えても、まず間違い無く計画的な犯行だ。

 街を脱出したら、徒歩ではなく馬車などを使って逃走するだろう。


(追い付くには…)


 私はシルヴィに声を掛ける。


「シルヴィさん、この街の北、平原地帯に、街から離れる方向へ走っている馬車はありますか?」

「馬車?」

「幌付きもしくは箱型の、荷物が見えないタイプの馬車です。犯人が逃走するとしたら、ロゼさんと卵を中に隠して、相当な速度で走っているはずです」

「…分かったわ」


 シルヴィが目を閉じ、集中し始める。


 ──この世界の移動手段はそれほど多くない。速度を求めるなら、間違い無く馬車を使うはずだ。


 程無く、シルヴィは頷いた。


「──北東方向に進む荷馬車が1台と、北へ向かう大型の箱馬車が1台あるわー。大型の馬車の方は、この街と王都を結ぶ乗合馬車ねー」

(…うん?)


「なら、荷馬車の方か!」


 オーサンが色めき立つが──


「──いえ、怪しいのは大型の馬車の方ね」


 ヴィクトリアが指摘した。


「は!? 乗合馬車だぞ!?」

「良く考えて頂戴オーサン。…この街から王都へ発つ乗合馬車の()()()()って、いつよ?」

「そりゃあ、()()()──あん?」


 オーサンが変な顔で固まった。


 ──そう。この街と王都を結ぶ乗合馬車は、1日1回、朝に出発する。

 今は()()

 この時間に乗合馬車が王都へ向かう事は、有り得ない。


「恐らく乗合馬車の方が正解ですね。ヴィクトリア、私たちが向かいましょう」


 私が言うと、ヴィクトリアは一瞬きょとんとして──私が思い切りロクイチの手綱を握っているのを見て、溜息をついた。


「…あー、そうよね。追い付くならそれが一番よね…」


 悟ったように空を仰いだ後、オーサンへと向き直る。


「オーサン、怪しい乗合馬車の方は私たちが対処するわ。貴方たちは街の中と南の半島、特にこの近くにあるって言う地下道の捜索を継続して頂戴。──あと、シルヴィ。違うとは思うけど、北東方向へ向かってる荷馬車の方を任せても良いかしら?」

「ええ、もちろんよー」

「…いきなり吹き飛ばすとかしちゃダメよ?」


 とてもイイ笑顔で頷いたシルヴィにヴィクトリアが釘を刺すと、ふわりと浮き上がった風精霊は涼しい顔で小首を傾げる。


「そうねぇ、気を付けるわぁ」

(何だろう、このものすごく不安を煽る感じ…)


 シルヴィが飛び去ると、シルクが私の肩に飛び乗る。


《やれやれ、忙しいわね》

「お、おい、ちょっと待て!」


 オーサンが慌てたように声を上げた。


「私たちで対処するって…馬車だぞ? ()()でもなきゃ追い付けるわけ──」


 言っているうちに視線が横にずれ、私を乗せながら既に覚悟を決めた顔をしているロクイチと、ヴィクトリアを乗せて鼻息荒く地面をかいているスピネルを見る。


 …オルニトミムスは、()()()()()()()()()()()()()()、非常に特殊な魔物である。


「……お前ら、まさか」

「ええ。その、まさか」


 ヴィクトリアがにっこりと笑い、手綱を引き絞る。


「お説教は後で聞くわ! 冒険者ギルドとお偉方への連絡、よろしくね! ──良いわよスピネル!」

「はあ!?」

「クルアアアアアア──!」


 オーサンが何事か叫んでいるが、スピネルの雄叫びでかき消される。


「ロクイチ、お願いします!」

「ピルルルルルル!」


 私もロクイチに声を掛けると、高らかな鳴き声が響く。


 あっけにとられるオーサンを尻目に、スピネルとロクイチが同時に地を蹴った。


 すぐにヴィクトリアとシルクが隠蔽魔法を展開する。

 街中をオルニトミムスで突っ切ったら、混乱は必至だ。

 隠蔽魔法を使えば、少なくとも姿は見えなくなるので多少はリスクを下げられる。


 問題は、身体自体が消えるわけでは無いので、何かにぶつかったら丸分かりだという点だが、


「クリス、人通りの少ない道を選ぶから、ついて来て頂戴」

「分かりました」


 声は聞こえるものの、お互いの姿は見えない。


 気配と音でヴィクトリアとスピネルの位置を追い、私たちも裏路地を縫うように走る。

 途中数人とすれ違ったが、大きく跳躍して頭上を跳び越え、そのまま進んだ。


「な、何だ!?」


 風と音は完全には消せないので、何人かに驚かれたが。



 そうこうしているうちに、北門に着いた。


 昼間、門は開け放たれたままだ。

 数人の兵士の頭上を跳躍し、私たちは平原地帯に出た。


 そのまま北に向かって走っていると、滲み出るようにスピネルとヴィクトリアの姿が現れる。

 それを見て、シルクも私たちに掛けた隠蔽魔法を解いた。


「このまま追い掛けるわよ!」

「はい! ──シルク、気配は感知できますか?」

《任せて頂戴》


 シルクが探査魔法を展開し、すぐに叫んだ。


《このまま真っ直ぐ北! 3キロくらい先よ!》

「了解!」

「クルァ──!」

「ピルルルル!」


 スピネルとロクイチが鳴き交わし、ぐんとスピードが上がった。


 オルニトミムスの真骨頂。身体強化を掛けた上での高速走行だ。


 私はぐっと上体を伏せて、出来るだけ風を避ける。


 本気のオルニトミムス──いや、ロードチェイサーの走りは想像以上だった。

 今の速さに比べたら、南の半島で経験した走りはランニング程度。

 風圧で目が開けていられない。


 肩にシルクの爪が食い込んで、ちくりと痛む。

 普段は絶対に爪を立てたりしないが、振り落とされないようになりふり構っていられないのだろう。


(すごい…!)


 恐怖を通り越して、妙な興奮が沸き上がって来る。



 そのまま疾走すること、僅か数分。


「──いたわ!」


 ヴィクトリアの声が響き、オルニトミムスたちの速度が下がり始めた。


 かなり前方に、大型の箱馬車が見えた。

 結構な速度で走っているが、オルニトミムスには敵わない。


「左右から足止めに入るわよ!」

「了解です!」


 スピネルとヴィクトリアが右へ、ロクイチと私、シルクは左へ。


 二手に分かれて馬車の斜め前へ出ると、スピネルとロクイチが同時に鋭く鳴いた。


「クルァ!」

「ピルルルっ!」


「!!」


 驚いた馬が棹立ちになり、足が止まる。


「何だ!?」


 御者台に座っていた男が慌てて手綱を引き絞った。




終わりが見えて来たので、1日に1~2話、連続投稿(と言える頻度か分かりませんが)始めます。

よろしければお付き合いくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ