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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
アフターストーリー

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69 事件発生

 他にも何ヶ所か採取地を回り、クロガネソテツの実をごっそり回収すると、私たちは早々に帰路についた。


「今回は大収穫だわ」


 スピネルの背で、ヴィクトリアが笑う。


 収穫した実はヴィクトリアが持って来たポーチ型の圧縮バッグには入り切らず、私のバッグにも入っている。

 一度にこれだけ大量に採れるのは珍しいそうだ。


「殴って落とすのも勿論だけど、特に拾うのが大変なのよね」

「ああ、なるほど」


 1人では拾える量にも限りがある。人手が多い方が収量が多いのは当然だった。


 ちなみに、一番活躍したのはシルクである。


 他の素材と一緒に袋に入れると変質するほど繊細な実だが、ごく短時間であれば魔力に晒されても大丈夫だそうで、シルクはその場でクロガネソテツの実回収用の魔法を構築し、投網よろしくごっそりと拾い集めていた。

 風魔法かと思ったが、地の魔素を吸着する特殊な力場を発生させるという──制御が繊細過ぎて私はおろか魔力制御に長けた魔法使いすら使えそうにないニッチな魔法だった。


 ヴィクトリアは、習得できないか真剣に悩んでいたが。




 そんな感じで、雑談しながらオルニトミムスの背で揺られる事2時間。


 最外縁の門をくぐり、さらに次の門も通過したところで、兵士たちが慌ただしく行き来しているのを見つけた。


「何かしら…?」


 ヴィクトリアが目を細める。


 兵士の一人がこちらに気付き、真剣な顔で駆け寄って来た。


「帰ったか!」

「オーサン、何かあったの?」


 ヴィクトリアが訊くと、オーサンは険しい表情で首を横に振る。


「誘拐事件だ。お前さんたち、南の半島で不審な連中を見たりしなかったか?」

「いえ、私たちが行動した範囲では、普通の冒険者にしか会いませんでしたが…」

「そうか。となると、南の半島に逃げた線は薄いか…?」


 ぶつぶつ呟くところを見ると、犯人の行方の目星も付いていないらしい。


「オーサン、詳しく説明して頂戴。何か力になれるかも知れないわ」

「あ、ああ。──被害に遭ったのは、火の精霊のロゼだ」

「ロゼさん?」


 私は目を見開いた。

 念話を使っていたから普通の人間ではないとは思っていたが──彼女は精霊だったのか。


 この国では、精霊は『どこに棲んでも良い』とされている。

 精霊が棲む土地は魔素の流れが安定し、人間たちも恩恵に与れるからだ。


 あの阿呆──もとい、ウォルターが風精霊のペリドットと契約を結んでいたのも、元をただせば昔のベレスフォード公爵がペリドットの求めに応じて屋敷に居場所を用意し、丁重にもてなしていたから。

 もっともペリドットは、『何であんな家の連中の言う事信じたんだろうな』と、過去の自分に対して大変な憤りを感じているらしいが──閑話休題。


 とにかく、国によって自由が保障されている精霊が誘拐されたというのは、大変な事件だ。

 兵士たちが緊迫した表情で行き交っているのも頷ける。


「あと──」


 それだけでなかった。



「ついさっき分かったんだが、…ロードランナーたちの卵も、2個、やられた」


『!?』



 途端、


「クルアっ!!」


 スピネルが鋭く鳴き、放牧地の端で縮こまっていたオルニトミムスたちが弾かれたようにこちらへ駆け寄って来た。


「ルッ! ルルルッ!」

「クルァ!」

「ピルルル!」


 鳴き交わす事暫し。


「クルァ──!」


 一際大きな声で鳴いたスピネルが、勢い良く地面を蹴ろうとして、


「ちょっ、待った!」


 ヴィクトリアが慌てて手綱を引き絞り、その場に押し留めた。


「迂闊に動いちゃダメよ! 大体、街の北側には行けないって知ってるでしょ!?」

「クルアっ!」


 スピネルは迷い無く街の北──平原地帯の方へ向かおうとした。多分、卵がそちらにあると何らかの方法で感知しているのだろう。


 ヴィクトリアがスピネルを止めようと奮闘している中、ぶわっと風が吹いた。



「ウチのロゼちゃんが攫われたってホントかしらー?」



 風と共に舞い降りて来たのは、若葉色の髪に空色の瞳が印象的な女性だった。

 平然と空を飛んで来たし、気配も独特だ。見た目通りの一般人ではない。


「シルヴィ、来たのね」


 ヴィクトリアの呼びかけに、女性──シルヴィが肩を竦めた。


「当たり前じゃないのー。大事な大事なウチの子の一大事よー? 黙ってられる訳無いわぁ」


(あ、これヤバいやつだ)


 間延びした声と態度とは裏腹に、纏う魔力が可視化されそうなほどの密度で渦巻いている。


 実体化しているが、彼女も精霊──多分風精霊だろう。

 アンガーミュラー家のメイド、母の腹心である双子の風精霊と気配が似ている。


「シルヴィ、落ち着け」


 オーサンが若干顔を引きつらせながら声を掛ける。


「一応目撃情報があるんだ。今、うちの連中も血眼になって探してる。手掛かりもすぐ見つかるはずだ」


 とは言うものの──


 私はヴィクトリアに囁き掛ける。


「ヴィクトリア、どう思いますか?」

「…難しいわね。こっちに兵士が集中してるって事は、南の半島側に来た可能性が高いんでしょうけど…」

「南の半島は陸の孤島でしょう? 他の街に逃げるなら、北に向かわなければいけないはずですが。スピネルも北に向かおうとしていますし」

「そうなのよね。状況が矛盾してるわ」

「ルルルルル…」


 スピネルが不満そうに喉奥で呻いている。


 落ち着いて頂戴、とスピネルの首筋を叩き、ヴィクトリアは思案する表情のまま顔を上げた。


「シルヴィ、ロゼの行方について、『風に訊ねる』ことは出来るかしら?」

「やってみたんだけど、反応がイマイチなのよー」


 風精霊は情報収集に長けている。

 それは、風が『見ている』光景を共有することが出来るからだ。


 しかし、そちらに手掛かりは無かったらしい。


(…風が、見ていない?)


 風精霊が見付けられない場所。

 南に集中する捜索の手。

 一方で、北へ向かおうとするスピネル。


 その意味するところは──


「──ヴィクトリア」


 私が名を呼ぶと、ヴィクトリアは表情を改めた。


「何? クリス」


「もしかしたら、誘拐犯は──南方向へ来た後、()()()()を逃走したのではありませんか?」


「地面の下だと!?」


 オーサンが目を見開いた。


 シルクがすぐさま地面に飛び降り、魔法を展開する。


振動探査(エコーロケーション)!》


 シルクを中心に、地面にぶわっと魔力が広がる。


 魔力を水中や地面に打ち込み、その反響で探査を行う特殊魔法。

 地下に何らかの構造物があるなら、必ず反応があるはずだ。


《──あったわ。地下道》


 程無く、シルクは鋭い目をして呟いた。



《地下3メートルくらいかしら。この近くから、街の下を経由して──多分北の平原まで続いてるわね》





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