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58 その後の私たち【2023/5/13一部改訂】

2023/5/13 ちょっと処分が甘すぎない? というご指摘をいただきまして、確かに! と思ったのでちょっと内容変えてみました。

 ──こうして、ウォルター・ベレスフォード公爵とその一派による大規模汚職事件はようやく明るみになり、王宮は大変な混乱期を迎える事になった。




 主犯格のウォルターは、恐喝、強姦、業務上横領、規制薬物の違法取引、王宮の爆破テロ未遂と殺人未遂、王族への不敬罪により、王宮文官を懲戒解雇の上、ベレスフォード公爵の地位を剥奪。

 その後、死罪が確定した。


 普通ならそのまま王都の刑務所で刑の執行を待つところだが、王妃殿下の『使えるものは使え』とのお達しにより、特殊な設備のある北方の刑務所に収監。

 処刑までは延々と王宮の魔法道具に使う精製魔石に魔力を充填し続ける事になるらしい。


 なお、奴の私財は賠償金と慰謝料で全て消えたそうだ。




 また、ベレスフォード公爵家自体にも処罰が下った。


 公爵位から、侯爵のさらに下、伯爵家へと降格。領地運営を実質的に担って来たウォルターの弟の息子がベレスフォード伯爵家の初代当主となった。


 それに合わせて、『伯爵家』という家格に合った領地面積になるよう、領地も削減。

 ベレスフォード公爵領の一部が、王族直轄領に編入された後、褒賞としてジェフリーに下賜された。


 実務上はジェフリーの土地と言うよりはアーミテイジ侯爵領の一部という扱いになるが、本来のアーミテイジ侯爵領からは離れた飛び地のため、その土地を治める代官としてジェフリーが就任するらしい。




 ユーフェミアは結婚が決まった。

 お相手は、何とジェフリーだ。


 ジェフリーの母がケヴィンを大変気に入ったから、ケヴィンがアーミテイジ侯爵家の人々に大変懐いたから、ユーフェミアの真摯で真面目な性格がアーミテイジ侯爵夫妻に気に入られたから、ジェフリーが元ベレスフォード公爵領の一部を治める事になったから──理由は色々あるようだが、大変喜ばしい事だ。


 なおジェフリーに下賜された土地は痩せ気味ではあるものの、穀倉地だそうで、『私が全力で収量を上げるサポートをするわ』と一大穀倉地帯出身のユーフェミアが息巻いていた。




 リサはアンガーミュラー領で父親のデリックと涙の再会を果たした。

 その後は約束通り、マーカスの助手として屋敷に住み込みで働いてくれている。


 マーカスと議論したり魔法道具を一緒に作ったりするのがとても楽しいらしく、新型の魔法道具の義足も早々に開発していた。


 …デリックが『娘が全然会いに来てくれない』と嘆いていたので、たまには父親の所に行って親子水入らずの時間を過ごしたらどうかと提案してみたのだが、『義足の開発は父のためなんです』と言われてしまった。

 確かにその通りなので、働き過ぎには気を付けるようにとしか言えなかった。


 ごめん、デリック。




 私がスカウトした元暗殺者ギルドの面々は、一通りうちの家がやっている仕事を体験してもらった後、個別に面談して配属先を決めた。


 大部分は狩人──『祓いの儀』の現場になる北の湿地帯と森林地帯を中心に、主に魔物を狩る仕事を希望したが、一部、それ以外を希望した者も居る。


 例えば、王都からこちらに来るときに御者役をしてくれた者は、御者を希望した。

 ただしうちの御者は、真冬には馬ではなくシルバーウルフと付き合わなくてはならない。

 シルバーウルフが認めてくれるかどうかは彼ら次第なので、まずは顔見知りになれるよう、雪が降るまでは牧場で働く事を提案した。


 その他にも、料理人希望や縫い子希望が居たが、とりあえずは全員、希望通りの配属先に入れる事が出来た。


 今後違う仕事をしたいという声も上がると思うが、その都度調整をしていこうと考えている。

 やりにくい仕事、苦痛な仕事を続ける事ほど、非効率的な事は無いからだ。




 ちなみに、ある意味諸悪の根源ことユリウスからは、5日に1回くらいの頻度で手紙が届いていた。

 曰く、『君が必要なんだ』『今からでも遅くないから、私の求婚を受けて欲しい』『共に国の未来を担って欲しい』…。


 王族特権を使って伝令カラスの速達便で送って来るのだが、運んで来る伝令カラスが徐々にうんざりした空気を纏うようになったので、対策を打つ事にした。


 『こんな手紙5日に1回送って来るんだけど、筆頭文官て暇なの?』『こっちは全然暇じゃないんだけど』『何とかしてくれない?』──というのをお貴族様らしいオブラートに包んだ表現に変換して手紙にしたため、ついでに今までユリウスが送って来た頭の痛くなるような手紙の数々を同封して、国王と王妃に届けてくれと伝令カラスに依頼。


 父が便乗して、『このバカ王子、何とかしないと俺がキレるぞ』と一筆書き加えていたからなのか、国王と王妃の対応は早かった。


 2人の連名で届いた返事には、直筆で『大変申し訳ない』『早急に手を打つ』と書かれており、実際、それ以降ユリウスから手紙が届く事は無かった。


 シルクがボスから入手した情報によると、ユリウスは国王と王妃にこっぴどく叱られ、筆頭文官の地位を剥奪された上で、私に手紙を書くよう唆した阿呆な側近数人と共に隣国の文官養成校の管理職コースに叩き込まれたらしい。


 …隣国の文官養成校と言えば、全寮制で、大変厳しい事でも有名だ。

 全ての科目で一定以上の成績を収めなければ卒業できないため、卒業まで10年以上掛かる者も居るらしい。


 鍛え直すにはうってつけの環境だが──現国王が現役を退くまでに卒業できるのだろうか。


 甚だ疑問だ。




 ユリウスが隣国へ行った事により空いた筆頭文官の席には、王妃が座った。


 国内に残留した『まだマシな方』のユリウスの側近にビシバシ指示を出し、王宮内の腐敗の洗い出しと処分、組織改革を断行しているらしい。


 …深掘りすればするほど膿が出て来て、大変な思いをしているらしいが。

 この際なので全部きれいにすれば良いと思う。


 女性が筆頭を名乗る事について、当初は反発も多かったらしいが、実際に王妃の仕事振りを見て考えを改めた者も一定数居るそうだ。意識改革も進んでいるようで何よりである。




 ウォルターの取り巻きたちには、関わった罪状の重さに応じて処分が下った。


 良ければ数ヶ月の給与削減、悪ければ降格、最悪の場合は懲戒解雇。

 なお大部分は懲戒解雇という異例の事態である。


 ちなみにこれは王宮から下された『王宮文官としての』『取り急ぎの』処分で、個々の犯罪行為に対する刑事罰はまた別に下される予定になっている。


 たとえ刑事罰が軽かったとしても、『ウォルターの取り巻きだった』という事実は一生付いて回る。

 貴族社会では致命的、少なくともまともな結婚は望めないだろう。自業自得だが。


 なお、この取り巻きたちの調査を担当する事になった担当官は、既に発狂し掛けているそうだ。


 近衛部隊が捜査している刑事事件に関与していたかどうか、訴状に名前が載っているかどうか、他に余罪はあるか──ただでさえ人数が多い上、調べることが多すぎるらしい。


 全ての刑事罰が確定するまで、かなりの時間を要するだろう。




 私の元上司、アードルフ・フォルスターは懲戒解雇となった。

 集団強姦には関与していなかったとはいえ、横領と勤務時間中の職務放棄、部下へのパワハラ。当然である。


 刑事罰が確定するのにはまだ少し時間が掛かるので、フォルスター伯爵家で蟄居を命じられている。

 実家だったらまだマシだったのだろうが、奴は入り婿だ。親族に後ろ指さされて、針の筵らしい。

 王宮ケットシー情報網によると、離婚、という単語も囁かれているとのこと。


 …ひょっとして、刑務所の方が居心地が良かったりするんじゃないだろうか。


 なお、懲戒解雇が決まる直前に賞与──所謂ボーナスの支払いがあったのだが、アードルフの賞与はゼロだったそうだ。


 賞与は直近半年間の実績、つまりアードルフの場合は第2統括室長だった頃の仕事振りで金額が決まる。

『部下の残業時間が長ければ長いほど、管理職の賞与は減る』という給与規定の新ルールを把握していなかったのが悪いのだ。


 筆頭文官こと王妃に抗議しに行ったらしいが、『其方、管理職でありながら給与規定を把握していなかったのか?』と言われて撃沈した。


 ボスには大変面白い見世物だったらしい。




 フィオナたちブライトナー一家は、予定通りアンガーミュラー領へ移住して来た。


 フィオナは文官として私の部下に。母アリシアは縫い子たちの指導役に。父ヒューゴは会計部門の仕事の傍ら、依頼に応じて街の商家の相談にも乗っている。


 全員忙しく働いているが、残業は無いし休日も同じなので、きちんと家族の時間も取れているらしい。

 『もうすぐ結婚するので、父と母との時間も大事にしたいんです』と、フィオナは頬を染めて微笑んでいた。


 なおその結婚相手ことジーノ・ベーレンスは、混乱に陥った王宮で必死になって業務をこなす傍ら、それ以上に必死に業務の引継ぎを進めている。


 元総務部の新人が引継ぎ相手なのだが、正直に『結婚相手が地方で待っているから』と話したところ、何やら引継ぎ相手の心に火が点いたらしく、『ロマンですね!』と目を輝かせて仕事に力を入れるようになってくれたらしい。


 何が幸いするか分からないものである。




 そして私は、アンガーミュラー領の日常業務をこなしつつ、次期当主の役割について父に教えを乞う日々を送っている。


 何せ、王都でどさくさに紛れて決まった後継ぎだ。知識も経験もまだまだ足りない。


 父にだって老いは来る。

 『過去』の私のように、ある日突然倒れるかも知れない。


 色々と知っているに越したことは無いのだ。


「父上、この事業についてですが」

「ああ、それはもうお前の方が詳しいだろう?」

「領主が把握しておかなければならないのでは?」

「大丈夫だ。クリスは次期当主なのだから、次期当主が覚えていれば問題な──」


「ち ち う え ?」


「…ハイ」


 …たまに立場が逆転しているように感じるのは気のせいだ、きっと。


 ………多分。





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