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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

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53 テロリストの末路

 時間が無いので、手短に行こう。


 防御壁の向こうで高笑いを上げるウォルターに向かって、私は右拳を振りかぶりつつ踏み出した。


 拳に意識を集中すると、ヴン、と音を立てて高密度の魔力が集まる。

 魔法の繊細な制御はあまり得意ではないが、有り余った魔力を動かすだけなら簡単だ。


「な、何だ、何故こっちに来る!?」


 ウォルターの動揺の声を無視して、踏み込む。


 そして──



「──フンッ!」



 魔力を纏った右ストレートに、防御壁が耐えたのは一瞬。


 バリィン!


 大きな窓ガラスが割れたような音と共に、魔法の壁は粉々に砕け散った。



「なー!?!?」



 白く輝く破片が飛び散り、空中で消えて行く。


 その向こうで、ウォルターが叫んだ。


「き、ききき貴様ぁ! 何をした!?」

「見ての通り、防御壁を砕いただけですが」

「攻城戦級魔法を受け止める防御壁だぞ!?」

「ええ、ですから」


 魔力を纏ったままの右拳を眼前に掲げ、私は頷いた。



()()()()()()()()()()()()()()()を叩き付ければ、壊せます。基本でしょう?」



「はあっ!?」



 当り前のことを言っただけなのに、理解できないという顔をされた。解せぬ。


 実際、攻城戦級魔法は攻撃範囲が広いだけで、魔力密度は『ちょっと威力の高い攻撃魔法』とそれほど変わらない。


 それを受け切れる防御壁は確かにすごいが、多分そのすごさは防御壁の強度そのものと言うより、適切な強度の壁を全方向に満遍なく展開できるという点にあるのだろう。

 普通、防御魔法は自分の正面とか、一方向にしか展開されないのだ。


 よってこの防御魔法、壊すだけなら、実はそれほど難しくない。


 『魔力量がおかしい』と言われる私の魔力付き右ストレートでなくても、例えば一点突破型の高威力魔法──『炎槍(ファイア・ジャベリン)』あたりを叩き付ければ壊せるのではないだろうか。


「も、戻せ! 私を誰だと思っている!」


 ウォルターが無茶を言い出した。

 この手の魔法道具は基本的に使い捨てだ。普通の魔法と違って、再展開は出来ない。


「誰って…積もり積もった罪をこれから清算する予定なのにさらに罪を重ねようとしている、ウォルター・ベレスフォード公爵ですよね?」


 私が落ち着き払って首を傾げると、ウォルターは増々ヒートアップする。


「うるさい! は、早く防御を固めねば、爆弾が──」


(いや、仕掛けたのはお前だろ)


 私が内心で突っ込んでいると、ガチャリと扉が開き、シルクが悠然と入って来た。



《お探しの物はこれかしら?》



 その後ろに、空中に浮かぶ5つの立方体。シルクが浮遊魔法で持って来たのだ。


「そ、それは…!」


 ウォルターが愕然と目を見開いた。


 その形には私も見覚えがある。確か鉄鉱石の鉱山などで発破に使う、遠隔操作型の爆弾だ。

 サイズからは想像も出来ない威力なので、5つもあればこの王宮を根こそぎ破壊できるだろう。


《どうやら当たりみたいね》


 シルクは満足気に呟くと──その立方体を、ウォルターの周囲にドサッと落とした。


 爆弾とは思えない粗雑な扱いに、周囲の人間たちが青い顔でざっと退く。


 一方、爆弾に取り囲まれたウォルターは血走った眼でシルクを睨んだ。


「き、貴様ぁ! ケットシー風情が、何をしているのだ!」

《ケットシー、()()?》


 シルクはぴくりとヒゲを震わせ、金色の目を細めてウォルターを見遣る。



《王宮は、ケットシーの領域(ナワバリ)よ。こんな危険物を持ち込んで、タダで済むわけがないでしょ》



 その通りである。

 ウォルターは、ケットシーを甘く見過ぎていたのだ。


「ああ申し訳ありません、ベレスフォード公爵」


 私は魔力を展開した。


()()()()()()、でしたね。では──」


 私の全力でもって、ウォルターの周囲に防御壁を張る。


 ウォルターと──その周囲の爆弾を、()()()()()()()()形で。



「──はあ!?」



 事態に気付いたウォルターが魔力の壁を叩くが、もう遅い。

 私はにっこりと笑みを浮かべた。



「ご安心ください。全力で防御魔法を展開させていただきましたので、強度は先程の防御壁の比ではありません。発破用爆弾5つが()()()()()()()()()()()()()、余裕で耐えます」



「何が『安心』だ!! 貴様、私を殺す気か!!」


 上下左右、全方向をきっちり魔力壁に囲まれて、ウォルターが絶叫する。


 まあ安心するのは私たちの方であって、奴ではない。



 ピッ……ピッ……



 ウォルターの持つ起爆スイッチの音が、少し早くなってきた。


「あら、私を殺そうとしていた方の言葉とは思えませんね」


 時限装置の終わりが近い中、私はわざとらしく首を傾げる。


「報復されるのも覚悟の上なのでしょう? 何を焦っているのですか?」

「なんっ…!」



 ピッ…ピッ…ピッ…



 どんどんリズムが早くなって行く。



 周囲の人間はウォルターから少しずつ距離を取りながら、固唾を呑んでこちらを見ている。


 ──まさか本当に、爆殺するつもりか?


 そんな心の声が聞こえそうだ。


「い、良いから出せ! あ、謝る! 謝るから!」

「別に私は貴方の事を何とも思っておりませんし、今更謝られましても…」



 ピッピッピッピッピッ…



「出せ! 爆弾を止めろ!!」

「スイッチを押したのは貴方ではないですか」




 ピピピピピピピピピピピピ…



 遠隔操作型の爆弾には、基本的に起動ボタンはあっても停止ボタンは無い。

 起動したら最後、カウントダウンは止まらないのだ。



「嫌だ! 死にたくない!! やめろ──!!」

「残念な人生でしたねぇ…」



 真っ青になる周囲と、それ以上に蒼白な顔で絶叫しながら防御壁を叩き続けるウォルター。


 そして──




 ピ────




「~~~~~…っ!!」




 長く尾を引く音に変わった直後、バターン、と重い音が一つ。




『……………え?』




 爆発音ではないその音に、室内の人々が目を開け──防御壁の中の光景を見てぽかんと口を開ける。



 爆弾は爆発する事無く、先程までと同じように床に転がり。


 ウォルターはその中央で仰向けに倒れ、泡を吹いて気絶していた。




《……爆発しないように細工してから持って来たに決まってるじゃない、馬鹿ね》




 シルクが心底呆れたように目を細め、ぼそりと呟く。


 人間たちが絶句する中、間抜けなアラーム音だけが鳴り続けていた。




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