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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

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47 リサの訴え

 リサは平民ではなく、名誉男爵。


 ウォルターによるリサの拉致監禁は、『貴族が平民を』ではなく、『貴族が貴族を』拉致監禁したという構図になる。


 平民の拉致監禁ももちろん重罪だが、被害者が貴族となると話はさらに重大だ。

 貴族は国を支え、運営する地位。それを害するという事は、国に対する反逆と認識される。


 では具体的どうなるかと言うと、通常の法律で規定されている刑罰に、貴族典礼に記載のある刑罰が加算される。

 今回のリサのように被害者が名誉男爵の場合、禁固刑なら刑期が3倍から5倍、罰金刑なら金額が5倍以上に跳ね上がるのだ。


 ただでさえ余罪の多いウォルターである。これを全て足し合わせたらどうなるか──まあ、『ご愁傷様、自業自得だね』と言っておこう。


「……め、名誉男爵だから何だと言うのだ。私はその女を雇っていた記憶は無い。拉致監禁など、もっと有り得ん」


 ここに至ってもなお、ウォルターは尊大な態度で目を逸らし続ける。


「──私の見た目は、本日ここへ参上するために皆さまが整えてくださいました。ですので、擦り切れた白衣と作業着を着続けて、碌な食事も与えられず、地下室に閉じ込められていた私の姿と一致しないのは当然です」


 リサは強い瞳でウォルターを睨み付けた。

 そのまま一歩前へ出て、唐突にドレスの左袖を捲り上げる。


 それを見た一同が、息を呑んだ。


 露出した左腕は顔よりなお白く、骨と皮だけのような細さで、とても血が通っているように見えない。これでも多少はマシになったのだが、どう見ても栄養失調──餓死寸前のような様相だ。


「外見を取り繕っても、中身はこの有り様です。救出された後にお医者様に診ていただきましたが、『これでよく倒れなかったものだ』と言われました」


 救出直後は助け出された安堵と興奮で血色が良くなっていて、その上オーバーサイズの白衣を羽織っていたので分からなかったが、リサの健康状態は酷いものだった。


 5年に及ぶ地下室での生活は、彼女にとってあまりにも過酷だったのだ。


 食事は日に1回、残飯のようなものが適当な皿に盛られて出されるだけ。

 入浴は出来ず、5日に一度運ばれて来る水とボロ布で体を拭き清める。

 衣類は必要最低限。寝具は真冬でも綿の掛布と毛布1枚。

 暖房器具が一切無い地下室で、そのまま凍死するかも知れないと思った事もあるそうだ。



 ──その状態でどうやって5回も冬を越えたのかというと、支給される魔法道具の材料を流用して超小型の温熱魔法道具を作って寒さをしのいだらしい。


 魔法道具の開発で叙爵されるだけの事はある──閑話休題。



 リサは、父親がウォルターに良いように使われているのも知っていた。


 自分だけではなく、父も死ぬかも知れない。

 年に1度会うたびに、これが最後かもしれないという不安が募る。

 その不安や恐怖を紛らわすために、睡眠時間を削って魔法道具の製作に傾倒して行ったそうだ。


「…」


 国王と王妃はリサの話を真剣な顔で聞いている。

 若手文官たちも真顔だが、監禁当時のリサの暮らしを想像したのか、顔色はとても悪い。


 リサは淡々と話を続けた。


「──つい数ヶ月前、『首輪型の、魔力で起爆する爆弾を作れ』とベレスフォード公爵に強制され、私は魔法道具を製作しました」


 それが何に使われるのか、予想はついていた。


 ウォルターの含みのある笑みと、どうしようもない嫌な予感。

 それまで父の身を案じて我慢し続けていたリサは、とうとう、『義足の動きを補助する魔法道具』と偽って発信機を製作し、父の義足に装着した。


 少なくともその発信機の反応があるうちは、父は生きているはずだと。

 中に仕込んだメッセージに誰かが気付いてくれたら、自分も父も助かるかも知れないと。


 これが最後にならない事を祈りながら。


「メッセージ?」

「こちらです」


 国王が呟くと、マーカスが小型の魔法道具を取り出し、国王の前で蓋を開けた。


 魔法回路に魔力を流すと、『助けて。ベレスフォード公爵邸に居る』と文章が浮かび上がる。


「これは…」


 呻く国王に、マーカスが補足する。


「魔法道具の回路には製作者ごとに癖がありますし、製作者の魔力の残滓が含まれています。王立研究所で調べていただければ、これを作ったのがリサ嬢だと証明できるかと」

「…分かった。預かろう」


 国王が魔法道具を受け取ったのを確認して、リサがホッと息を吐いた。


 途端、またウォルターが騒ぎ始める。


「そんなものは証拠にはならん! 私を陥れるためにお前たちが作らせたんだろう!」


 確かに魔法回路を調べただけでは、製作者は分かっても大元の依頼者は分からない。

 しかしリサは冷静だった。


「では、衛兵部隊の方がベレスフォード公爵邸の別館から押収した魔法道具ならいかがでしょう?」

「何?」


 ウォルターが眉を顰めると、ジェフリーが一歩前に出た。


「覚えておられませんか? この『拘束用魔法道具』です」

「…!!」


 ウォルターが愕然と目を見開いた。


(まさか、忘れてた?)


 ウォルターにとって、この魔法道具がジェフリーの手に渡ってしまったのはかなり致命的だと思うのだが。


 フリーズしているウォルターをよそに、ジェフリーは国王へと向き直る。


()()()()()()()()()()()()()()()()にもある通り、ベレスフォード公爵邸の別館サロンの長椅子に、こちらの魔法道具が仕込まれておりました。効果は、対となる腕輪型魔法道具を引き寄せ、固定すること。我々衛兵部隊が犯罪者の拘束に使うものとほぼ同等の性能です」

「うむ」

「リサ嬢に確認したところ、こちらもベレスフォード公爵の命により、彼女が作成したもので間違い無いそうです」


「その魔法道具の作成者がリサ嬢であると王立研究所で確認できれば、少なくともベレスフォード公爵とリサ嬢は無関係ではなく、何らかの繋がりがあると証明できますよね?」


 私が訊くと、国王は重々しく頷いた。


「そうだな」


「そこの女が作った魔法道具が当家にあったからと言って、繋がりがあるなどと言える訳がなかろう! それは商会を通して購入したもので──」

「リサ嬢は5年も行方不明だったというのに、彼女の作成した魔法道具がその辺の商会で買えるわけが無いでしょう」


 私が即座に反論すると、ジェフリーも冷ややかにウォルターを見遣った。


「そもそも拘束用魔法道具は一般に流通しておりませんし、普通の魔法道具技術者には作成許可が下りません。衛兵部隊でも数を厳正に管理しております。それが貴族のお屋敷にあって、しかもご令嬢方の拘束に利用されていたという事自体が大変な問題なのです」


 何せ誰でも使える拘束用の道具である。作成・流通・使用についてそれぞれ法律で厳密に定められている。

 王都では、基本的に衛兵部隊しか所持が認められていない。


 では何故、そんな物がウォルターの屋敷にあったのか。



 ──それを作成できる人間が、屋敷の中に居たからだ。



「…くっ…」


 痛いところを突かれたのか、ウォルターが歯噛みする。

 …痛いところも何も、もう言動自体がほぼ全部アウトなんだけど。


 ウォルターが大人しくなったのを見て取って、リサが再び話し始めた。


「私がベレスフォード公爵に命じられて作成したのは、首輪型爆弾やこの拘束用魔法道具だけではありません。例えば──」


 すっと視線を横にずらし、一番端に座っている男性文官に目を留める。



「──そちらの方が胸ポケットにさしていらっしゃる万年筆。軸の中に、私が作成した超小型の盗聴器が仕込まれています」



『!?』



 全員が一斉に男性文官を振り返った。


 視線を受けた文官は、恐る恐る万年筆を取り出す。


 いくつかの部品を外すと、中から平たい円筒形の金属が出て来た。


 直径は1センチにも満たないだろうか。

 つるりとした表面には何も書かれていないように見えるが、男性文官がびくつきながら拾い上げた時、光の反射で複雑な文様が浮かび上がった。本当に魔法道具だ。


「…………」


 男性文官が真っ青な顔で小さなパーツを見詰める。

 私は静かに訊いてみた。


「──ちなみにその万年筆、ご自分でご購入されたものですか?」

「………いえ…()()()()()()()()()()()()()()()で……」

「なるほど」


 贈り物と称して、盗聴器を配り歩いていたわけか。


 しかし、これだけではないのだ。



「それから、お隣の方が身に着けていらっしゃるネクタイピン」

「!」


「その隣の隣の方が持っておられます万年筆」

「!?」




「あと、この部屋の置時計と──国王陛下のベストの一番上のボタンも、盗聴器です」




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