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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

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46 ジェフリーの報告

「ユーフェミア・ファーベルク伯爵令嬢とご子息を襲撃した犯人は、元冒険者でした」


 ジェフリーの話は、そんな一言から始まった。


 襲撃犯は、王都のギルドに所属していた元冒険者。素行が悪く、仲間と度重なるトラブルを起こした結果、除名処分となりギルドを追放されたそうだ。

 その後は犯罪行為すれすれ、あるいは完全に犯罪そのものの仕事で食いつないでいたが、ある時身なりの良い男から声を掛けられ、それ以降はその男から受ける仕事に専従するようになった。

 犯人はウォルター本人とは面識が無く、男から主人の名前を聞く事も無かったが、一度だけ男が『ベレスフォード公爵もお喜びになる』と口にしたのを盗み聞きして、大元の依頼人がウォルターだと知ったらしい。


「ファーベルク伯爵令嬢とご子息への襲撃は、厳密にはお二人の殺害が目的でした。王都の中で殺害しては足がつく、それぞれ拉致して王都外の別々の場所で殺害するように、との指示だったそうです」


 だから私が駆け付けた時、ユーフェミアだけが攫われそうになっていたのだ。

 ケヴィンを拉致する役は別に居た。


 王宮ではなかなか聞かないだろうリアルな報告に、男性文官たちの顔が青くなる。

 一方、大元の犯人だと名指しされたウォルターは顔を真っ赤にして怒り出した。


「適当な事を言うな! これは私を陥れようとする陰謀だ! 平民の自白など誰が信じると言うのだ!」


 いや普通、犯罪者の自白は最も有力な証拠なのだが。


「お言葉ですが、証言の信憑性に貴賤は関係ありません。我々衛兵部隊が重視するのは、それが本当か否か、その一点です」


 ジェフリーは至極真面目な顔でウォルターの主張を一蹴し、言葉を続けた。


「我々は、犯人の証言が信用に足ると判断しました。──実行犯に指示していた男を捕らえ、その者から同様の証言を得ましたので」

「何!?」


 ウォルターが顔色を変えた。


「あ奴、最近姿を見ないと思っ──い、いや、何でもない」



『……』



 口を滑らせたウォルターに、周囲の人間がドン引きする。


 …なお、先程からやたらとウォルターの失言が多いのは、シルクやシフォン、そして王宮のケットシーたちの仕業だ。


 今朝、ボスの案内で別の場所に向かうシルクが、『ちょっと口が滑らかになる魔法があるのよね』と、とても楽しそうに尻尾の先を振っていた。

 『ちょっと』だけなので、魔法耐性の高い相手には効かないし、話のネタに関わる隠し事の無い人間には効果が薄い。

 が、ほとんど詐欺のような事しかしていないウォルターには効果てきめんだったようだ。


(こんな奴の『ポロリ』なんて、見苦しいだけで誰も喜ばないだろうけどね…)


 こちらとしてはとてもやりやすいが、とても聞くに堪えない。悩ましい問題である。


「指示役の男からは、別の証言も得ました。──ベレスフォード公爵は、魔法道具の技術者の女性を拉致監禁し、盗聴器や拘束用の魔法道具を作らせていると」

「…!!」


 ウォルターがまた何か叫び掛け、慌てた様子で自分の口を両手で塞いだ。

 貴族のマナーも何もあったものではないが、ほとんどの者はジェフリーの話に聞き入っていて、ウォルターの様子には気付いていない。


「加えて、その女性を人質に取って父親に様々な悪事を行わせ、最後に『クリスティン・アンガーミュラーを標的にした自爆テロ』を行うよう命じたとも申しておりました。全てはベレスフォード公爵の指示であり、自分はその命令に従っただけだと──」

「いい加減にしろ!」


 口を塞いでいても我慢できなかったらしい。ウォルターが再び叫び出した。


「この私が、そのような事を命じるわけがなかろう! これは陰謀だ! 指示役とかいう男の嘘に──」



「嘘ではありません!」



 強い声が会議室に響いた。


 驚いて皆が振り向く先、ジェフリーの背後に隠れるようにして立っていたリサが、決然とした表情で前に出た。


「其方は?」


 ウォルターの耳障りな声が途切れた隙に、国王が静かに問い掛ける。


 リサは蒼白な顔に緊張の色を浮かべ、丁寧に最敬礼する。

 その動きは生まれついての貴族令嬢さながらだ。ユーフェミアとアーミテイジ侯爵夫人の指導と本人の努力の賜物である。


 自分の証言が証拠になるのなら、自分自身できちんと相手に伝えたい──それがリサの決意だった。


 『相手』が国王陛下だと知った時は、しばらく魂が抜けたようになっていたが。


「お初にお目に掛かります。魔法道具技術者の、リサと申します」

「なっ……!?」


 ウォルターが目を剥いた。


 …驚くのも無理もない。公爵家の地下室で監禁されていた時と、まるで見た目が違う。


 ぱさついて埃っぽかった麦わら色の髪は、艶をまとったキャラメルブロンドに。

 くすんで乾燥し切って薄汚れていた肌は、蒼白ながらしっとりと保湿され、さらに化粧を施されてキメも整えられている。

 乱雑に束ねられていた髪を梳き、結い上げ、衣装と化粧を整えたのはアンネマリーだ。貴族家に長く仕える彼女が『化粧し甲斐があります』と笑顔で言い切るほど、リサは素材が良かった。


 つまり──貴族でもちょっと見ないほど、美人なのだ。


 実際この会議室に来るまでの道中、街行く人たちの視線はリサに集中していたし、王宮に入ってからも彼女は注目の的だった。

 ジェフリーのエスコートが無かったら、今頃独身の貴族男性に囲まれて身動きが取れなくなっていたかも知れない。


 そんな劇的ビフォーアフターを遂げたリサが、真剣な表情で国王に奏上する。


「私はおよそ5年前、王立研究所に研究員として招聘された直後にベレスフォード公爵の屋敷に招かれ、そのまま公爵邸本館の地下室に閉じ込められました。それから先日救出されるまで、ベレスフォード公爵の命令に従い、盗聴器や拘束具など、とても真っ当とは言えない魔法道具を作り続けていました」


 リサが1冊のノートを取り出す。それをマーカスが受け取り、国王の前に置いた。


「これは?」


「監禁されていた間に私が作成した魔法道具の設計図です。作成日、機能、個数、素材、魔法回路の仕様などが網羅されています。証拠の一つとしてお持ちください」


 ぱらり、国王がページをめくり、いくつか確認した後にそっと閉じた。


 私も見たから分かる。あれは、魔法道具の技術者──それも相当なベテランでなければ読み解けない。

 マーカスに教わって一応の基礎知識はある私でも早々に匙を投げるのだ、専門知識の無い者には品名と日付と個数くらいしか理解できないだろう。


「これは他の研究者に見せても構わぬか?」

「はい」


 王立研究所の研究員に見せれば、魔法回路の内容も精査できる。

 国王の言葉に、リサはしっかりと頷いた。


 そこでようやく、呆然としていたウォルターが我に返った。


「──ま、待て! リサだと!? どう見ても別人ではないか!」


 散々陰謀だ何だと叫んでいたが、今度は偽者だと言いたいらしい。


「別人な訳が無いでしょう。彼女は正真正銘、ベレスフォード公爵邸から()()された『リサ』ですよ」

「どこがだ! 平民風情が、こんなに美人なわけなかろう!」


(今、『救出』って表現を否定しなかったな)


 このやり取りだけで、最初にウォルターが主張していた『お抱えの魔法道具技術者のリサを、クリスティン・アンガーミュラーが拉致した』という話が嘘だと分かる。

 普通、『拉致』を『救出』とは言わない。


「…」


 それにしても、まるで『一般市民に美人は居ない』と言わんばかりの暴言だ。

 失礼にも程があるが──それとは別に、訂正しておかなければならない事がある。


「リサは平民ではありませんよ」

「…何?」


 私が笑顔で告げると、ウォルターは怯んだように声のトーンを落とした。


「彼女は、()()()()の爵位持ち。れっきとした貴族です」

『!?』


 ウォルターが目を剥き、男性文官たちの間にも大きな動揺が広がった。


「先程リサが、『王立研究所に研究員として招聘された』と言っていたではないですか。招聘されるという事は、既に何らかの素晴らしい実績を持っているという事です」


 実績があるからこそ、王立研究所が『うちで働いてほしい』とリサにオファーしたのだ。


 調べたところ、リサが名誉男爵の叙爵を受けたのは5年と少し前。

 父親のために開発した魔法道具の義足が非常に高く評価され、女性としては史上最年少で叙爵に至った。


「本当かどうか確認したければ、貴族典礼第2章『名誉貴族』の一番最初のページをどうぞ。下から3行目にリサの名前が載っています」


 促すと、男性文官たちが一斉に貴族典礼を開く。


 数秒後、一人、また一人と次々顔色が悪くなっていった。


 私はあくまで笑顔を保ち、告げる。


「先程から散々『平民』『平民』とおっしゃいますが、ベレスフォード公爵が監禁していたのは平民ではなく名誉男爵なのですよ。その意味、きちんと理解しておられますか?」




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