表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/114

45 ユーフェミアの証言

「王宮…監視人…」


 静まり返った会議室に、誰かの声が落ちる。


 世襲制貴族の各家には、それぞれ役割がある。


 例えば、アーミテイジ侯爵家は『王都の番人』。

 衛兵部隊を運営し、率いて、王都の治安を守るのが仕事だ。


 ファーベルク伯爵家は『国の食糧庫』。

 広大な農地を管理し、農耕・畜産技術の改良や農作物の品種改良にも力を注ぐ。


 ウォルターのベレスフォード公爵家は『王宮管理人』──文字通り、王宮の運営を任される家だ。直接的には政治に関わらず、政治に携わる人間の管理を一手に引き受ける──はずなのだが、その立場で不正を働くあたり、もはや脳みそが壊れているとしか思えない。


 ともあれそれと同様に、ダスティン公爵家に課された役割は『王宮監視人』。

 王家や王宮を監視し、何か異変があればそれを王に伝え、問題が深刻化するのを未然に防ぐ──そんな立ち位置のはずだった。


 しかし、腹を探られる事を嫌った王宮勤めの貴族たちと、『監視』を煙たがった歴代の王の利害が一致した結果、『ダスティン公爵家の独身の人間は領地から出てはならない』だの何だの、一族を徹底的に王都・王宮から遠ざけるような約定が王家とうちとの間に結ばれる事になった。


(多分だけど、『王宮の人材、引き抜き禁止』の約定も、王宮の現状をうちに知られないようにするための方策だったんだろうな…)


 まともに仕事をしていれば誰も何も突っ込まないのにわざわざそんなルールを作るとは、ご苦労な事である。


 しかし、王宮から遠ざけられたからと言って『王宮監視人』の役割が消滅したわけではない。

 ウォルター一派の腐敗振りを知った以上、お役目を果たすタテマエで徹底的にしばき倒──ゴホン、お役目は果たさせてもらおう。


「それでは──本題に戻りましょうか」


 私は笑顔で話を続けた。


「まず、恐喝や性的暴行を受けたという訴え。現在訴状が提出されているものだけで、実に40件以上ございます。被害者は主に、有期雇用の王宮文官として働いていた、男爵家・子爵家のご令嬢や平民出身の方々。年齢は概ね20代です。加害者は、ウォルター・ベレスフォード公爵とその派閥の関係者。この場に居る者の名前も挙がっております」


「…!」


 若い男性文官たちが青ざめた。


 恐喝はともかく、性的暴行の被害を実名入りで訴える令嬢はまず居ないと高を括っていたのだろう。

 何せ、被害者は殆ど下位貴族か平民の出。

 加害者の方が社会的地位が上となるとそれだけで訴えるのが難しくなるし、性的暴行などという極めてデリケートかつ精神的苦痛を伴う話は、なかなか公にはできない。


 実際、訴状を提出するのを躊躇った被害者は何人も居た。

 それを説得して回ったのはユーフェミアだ。

 自分の人生は自分で守る、加害者をのさばらせたままでいて良いはずがないと、非常に熱心に被害者を口説き落とした。


 そして、心を決めた被害者たちもすごかった。

 元は王宮文官として働いていた者たちである。書類作成の精度も情報量もすさまじく、何と自分が性的暴行を受けたと分かる医師の診断書まで付けて来た者も居た。


 極めつけは、


「この件に関連して、この場で証言してくれるという者がおります──ユーフェミア・ファーベルク伯爵令嬢」

「はい」


 ユーフェミアがゆっくりと前に進み出ると、ウォルターが目を剥いた。


「お前は…!」


 まさかとは思ったが、ユーフェミアに気付いていなかったらしい。


「国王陛下、王妃殿下、ユリウス殿下。以前王宮にて有期雇用の文官として働いておりました、ユーフェミア・ファーベルクと申します」


 例によって、ウォルターの反応を無視してユーフェミアが王族に最敬礼する。

 少なくともユリウスとは面識があるはずだが、あくまで初対面としての挨拶だ。


 …『殿下の事だもの。多分私のことなど、覚えていないでしょう?』とは、打ち合わせの時のユーフェミアの言である。私も心の底から同意する。


「うむ」


 国王が鷹揚に頷いた。

 先を促す仕草に、ユーフェミアは背筋を伸ばし、静かに語り始める。


「私は5年前、王宮文官として働いていた折、ウォルター・ベレスフォード公爵の屋敷に招かれ、その場で暴行を受けました。それが切っ掛けで王宮文官の職を辞し、実家のファーベルク伯爵領へ戻り、息子、ケヴィンを出産いたしました。ケヴィンの父親はウォルター・ベレスフォード公爵です」


 ユーフェミアが言った瞬間、ウォルターが怒鳴り声を上げた。


「でたらめを言うな!」

「でたらめだと言うのなら、魔力鑑定を受けていただけますか?」

「!?」


 極めて冷静なユーフェミアの切り返しに、ウォルターが目を見開く。


 魔力鑑定は、貴族ではごく一般的な親子関係の証明方法だ。

 親と子の魔力は通常非常によく似ているので、魔力の波長や属性情報を詳細に鑑定することで、血縁関係を証明することができる。『過去の世界』のDNA鑑定に近いか。


 ユーフェミアの瞳に迷いは無い。

 私生児を出産した事を貴族社会の中枢であるこの王宮で堂々と証言し、その上で相手に斬り込んで行く。


「ベレスフォード公爵がケヴィンの父親でないのなら、魔力鑑定で親子関係は否定されるでしょう。──ケヴィンも王都に連れて来ています。今この場で鑑定を受けても良いのですよ」

「ぐっ…!」


 少しだけ低くなったユーフェミアの声に宿るのは、強い怒り。

 抑制されていても分かるその感情に、ウォルターは明らかに怯んでいた。


 ただ──ウォルターは勘違いしているだろうが、ユーフェミアは自分が暴行されたことに対して怒りを抱いているのではない。


「…私は、性的暴行に関してウォルター・ベレスフォード公爵を個人で訴えるつもりはありません」


 犯罪行為は犯罪行為として裁かれるべきだが、個人として賠償を請求するつもりは無いとユーフェミアは言う。


「なに…?」


「──ですが」


 毅然とした表情で前を向き、



「ケヴィンの身の安全を盾に私を利用し、クリスティン・アンガーミュラー・ダスティン様、並びにマーカス・アンガーミュラー・ダスティン様殺害を目論んだ事。そして、今回の一連の事件の情報をクリスティン様に提供するため王都へ出向いた私とケヴィンを殺害しようとした事──これらに関して、ベレスフォード公爵の責任を訴求します」



『!?』


「な──…!?」



 ユーフェミアの発言に、激しい動揺が広がった。


(…まあ、いくら性的暴行とか恐喝とか横領とかやってても、本気で人を殺そうとしてたとは思わないよね…)


 先程私も『自爆テロ未遂』と言ったのだが、数ある罪状の中の一つだったので聞き流されていたのだろう。


 なお、ユーフェミアの言った2件のほか、つい先日の暗殺者ギルド員による襲撃もウォルターが首謀者だ。

 王都に戻って来ていた冒険者のラフェットとレオン協力のもと、暗殺者ギルドに乗り込んでギルド長に確認したから間違い無い。


 …ついでに暗殺者ギルド全員に対して、狩人とか護衛とか好きな職を斡旋するからうちの領地に来ないかと勧誘を掛けたら、ラフェットに爆笑されたが。


 ──閑話休題。


「殺害だと…?」


 ユリウスが困惑を滲ませて呟く。

 一方国王は、眉間に深いしわを寄せた。


「──ファーベルク伯爵令嬢。その2件について、証拠はあるか?」


「はい。自爆テロ未遂に関する書類の中に、私がベレスフォード公爵とやり取りをしていた手紙が一式。この中に、『ファーベルク伯爵家の別荘にクリスティン・アンガーミュラーを呼ぶように』と名指しでの指示がございます。私がその指示に従ってクリスティン様とマーカス様を別荘に招き、その帰りに、お二人は自爆テロに遭いました」


 結局、シルクとシフォン、それにマーカスの活躍でテロは未遂に終わったが、実行犯から外した首輪型の爆弾はあっさりと補強入りの馬車を粉砕した。どう考えても殺害目的の破壊力だ。


「王都で私と息子が襲撃を受けた件に関しては、衛兵部隊に捕縛された犯人が、ベレスフォード公爵の依頼で動いていた事を証言しております」


 ユーフェミアがそう述べると、ジェフリーが一歩前に出た。


「国王陛下、衛兵部隊中隊長を務めております、ジェフリー・アーミテイジです。発言をお許しください」

「良い。述べよ」

「はっ」


 ユーフェミアが一歩退き、ジェフリーが背筋を伸ばす。


 ここまでは概ね筋書き通り。

 さらに畳み掛けるとしよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ