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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

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40 成果

 ジェフリー率いる衛兵部隊と共に悠々とベレスフォード公爵邸を出て、私たちはアーミテイジ侯爵家に()()()()()


「お疲れさまでした、姉上」


 作戦拠点になっている応接間に入ると、マーカスたちが出迎えてくれる。


「ええマーカス、貴方たちも」


 既に一息ついたところだったようで、テーブルには人数分の紅茶が出されていた。

 そして、一番奥のソファで縮こまっている女性が一人。


「…それで、そちらが…?」

「はい。彼女がリサ嬢です」


 マーカスの言葉に、女性がびくっと肩を揺らした。

 おどおどと視線を彷徨わせながらこちらを向き、えっと、と言葉を探す。


「その…り、リサです! 初めまして!」

「ええ、初めまして。マーカスの姉の、クリスティン・アンガーミュラーと申します。よろしければ『クリス』と呼んでください」

「は、はいっ!」


 流れるように挨拶すると、リサが緊張気味に頷いた。


 見ず知らずの人間に囲まれていれば緊張もするだろう。それでなくとも、ベレスフォード公爵邸に4年も監禁され、ろくに他人と交流していなかったのだから。


「無事に助け出せて何よりでしたね、マーカス」

「無事にも何も、こちらには一切妨害が入りませんでしたよ。今頃騒ぎになっているかも知れませんが」

「それは仕方ありません」


 肩を竦める。


 マーカスとアンネローゼ、そしてシフォンは、私が『懇親会』に参加しているのと同じ時間帯に、隠形魔法を駆使してベレスフォード公爵邸に潜入していた。

 探査魔法も併用した結果、本館の地下室でリサを発見し、こうして連れて帰って来たわけだ。


 恐らく既に、リサが公爵邸を抜け出した事はあちらにバレているだろう。

 私が一枚噛んでいるという推測もしているはずだ。


 リサを捜すか、私に接触を図って来るか、私を人攫いに仕立て上げて騒ぎ立てるか──どのような手段を使って来るにせよ、望むところだ。


 それはともかく。


「リサ、夕食は済んでいますか?」

「あ、その、先程サンドイッチをいただきました」


 リサは少しだけ表情を緩めた。美味しかったらしい。

 私は頷き、言葉を続けた。


「今日はもう夜も遅いですし、リサの話は明日、詳しく聞かせてください。今日のところは──ジェフリー、予定通り本館に泊まっていただいても?」

「無論だ。客間の用意も出来ている」


 リサの救出は今回の主目的だ。保護した後の事もジェフリーたちと綿密に打ち合わせた。


 私たちが確保している宿に泊まってもらう事も考えたのだが、セキュリティーレベルの高いアーミテイジ侯爵家で保護するのが妥当だろうという結論に至った。


 なおアーミテイジ侯爵家を強く推したのは、現在本館に滞在しているユーフェミアである。

 侯爵夫人と意気投合したらしく、リサの泊まる客間も2人で熱心に打ち合わせて準備していた。


「──という事ですので、今日はゆっくり休んでください」


 私が促すと、リサを案内するためにアーミテイジ侯爵家のメイドが進み出る。

 立ち上がったリサは少し不安そうに周囲を見渡し、マーカスに頷かれてわずかに肩の力を抜いた。


「あの、本当にありがとうございました!」


 全員に向けて大きく頭を下げた後、リサはメイドに連れられて部屋を出た。


 扉が閉まると、私は小さく息をつく。


 これで、目的の一つは達成された。

 後始末はこれからだが、山場を一つ越えたのは間違いない。


 後は──



《ああっ! お前!》



 奥の部屋から出て来た緑色の髪の少年──の姿をした精霊が、こちらの姿を見るなり天井付近まで飛び上がる。


 リサの父、デリックが私たちを自爆テロに巻き込もうとした際、見張りとして付いていた風精霊だ。

 あの時は契約主が誰だか分からなかったが、状況とユーフェミアの証言から、十中八九ウォルターもしくはその関係者が使役しているのだろうと踏んでいた。


 何故そんな精霊が、ここに居るのか。

 それは当然、マーカスたちが連れて帰って来たからだ。


《何でお前まで居るんだよー!》


 嫌そうに顔を顰める風精霊に、アンネローゼが小さく溜息をついた。


「ペリドット、控えなさい。クリスティン様は私のお仕えする家の後継者です」

《合点承知──って後継者ぁ!?》


 ビシッと敬礼したかと思えば、思い切り目を剥く。とてもせわしない。


「ペリドット、というのですね」

「はい。()()()()()()()際、私が名付けました」


 以前の名は使いたくないと言ったものですから。

 涼しい顔でアンネローゼが頷く。


《何でこいつが後継者なんだよ! 普通は男が継ぐもんだろー!?》


 少年の姿の風精霊──ペリドットは、こちらのやり取りを無視して叫んだ。


「貴族の一般論をよくご存知ですね」

《当たり前だろ! 俺はずーっとずーっとあのいけ好かない公爵家の当主に縛られて来たんだからな!》


 どうやら、契約主はウォルター本人だったらしい。


 …いけ好かないなら胸を張るべきではないと思う。


《先代が出来の悪い息子をどうしても後継者にしたくて、優秀な娘を王家に嫁がせたってのも知ってるぞ!》

「ああ、そういえば現王妃はウォルターの姉君でしたね。どう考えても適任ではない男がどうして当主として威張りくさっているのかと思えば、そんな裏事情があったのですか」


 現王陛下の妃は、ベレスフォード公爵家出身。ウォルターの実の姉である。

 ウォルターとは似ても似つかない怜悧な美貌の持ち主で、国際情勢に明るく、下手な文官よりよほど政治手腕に長けたお方だ。


 なるほど、能力だけを考えれば、ウォルターよりもその姉君の方が公爵家当主に相応しい。


 しかし、先代公爵は娘ではなく息子を当主にしたかった。

 で、最も角が立たない方法として、娘を王家に差し出したわけだ。


 『女性活躍』を掲げる王家としても、政治に長けた女性を一族に迎えられて万々歳といったところか。


「…うっわー。お貴族社会の闇を見た気分ですね」


 ぼそり、マーカスが呟く。


「ベレスフォード公爵家当主が女性だったら、王宮文官の女性たちの扱いもかなり違ったんじゃないですか? あの家、当主は自動的に王宮文官の役職持ちになるじゃないですか」

「どうでしょうね。王妃様が王家に嫁がずに公爵家当主になっていたとしても、『彼女は極めて稀な例外』と言われるだけで、他は大して変わらない気がしますが」

「辛辣ですね、姉上」

「凝り固まった社会に、柔軟な変化を期待してはいけないのですよ」


 特に、伝統と格式を重んじる王宮では価値観も早々変わらない。

 既得権益にしがみつく老害──コホン、頭の固いご老人ばかりなのだ。


「それはそれとして──契約が更新できたという事は、ペリドットは『こちら側』になったと解釈してもよろしいですか?」


 精霊との契約には様々な制約があるが、一つだけ、他のどんなルールより優先される法則がある。


 人間ではなく、自分より上位の精霊と契約を結んでその傘下に入った場合、それまでに人間と結んで来た全ての契約は強制的に解除される。

 人間と精霊との契約より、精霊同士の契約の方が結び付きが強いためだ。


 この風精霊が、もしもアンネローゼやアンネマリーより下位の風精霊であれば、彼女らのどちらかと契約を結ぶことで人間の支配から逃れさせることが出来るし、ついでに『あちら側』の情報も手に入る。

 私はそう踏んで、『自爆テロ未遂で見張り役をしていた風精霊を連れて帰って来ること』をマーカスたちにお願いしていた。

 このタイミングで風精霊がベレスフォード公爵邸に居るかは正直賭けだったが、私たちは無事、賭けに勝ったようだ。


「はい。事態が終息次第、契約を解除して解放する代わり、この一件に関しては全面協力するという約束になっております」


 アンネローゼが頷く。

 大変心強い。


 私はペリドットに向き直ると、では、と切り出した。


「ペリドット。あの男が主導で行った犯罪行為の証拠が必要です。必要な情報をいただけますか?」

《お前、あいつを訴えるつもりなのか?》

「訴えると言うと語弊がありますが…犯罪行為を一通り明らかにして、社会的に抹殺するつもりではあります」


 私が言うと、ペリドットはにやりと口の端を吊り上げた。


《面白そうだな。──必要な情報って、具体的には何だ?》

「そうですね、例えば──」


 私がいくつか例を挙げると、ペリドットは床付近までゆっくり降りて来ながら顎に手を当て、頷いた。


《そういう感じのなら、俺も知ってるぜー。場所とかまで詳細にって言うなら、調べてやっても良い》


 ペリドットも風精霊だから、姿を消してあちこち探るのは得意だという。


「それは助かります。よろしくお願いしますね、ペリドット」

《おう!》

「くれぐれも、無理はしないように。必要なら私やアンネマリーも力を貸します」


 アンネローゼが釘を刺すと、ペリドットはぱあっと顔を輝かせた。


《合点です! 任せてください、姐御!》



 …うちの女性陣は、『姐御』とか『姐さん』とか呼ばれなきゃいけないルールでもあるんだろうか。





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