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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
本編

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17 飛んで火に入る夏の虫

《ところで…》


 馬車に揺られて雑談していると、唐突にシルクが呟いた。


《この馬車、跡を付けられてるわよ》

「尾行?」


 シルクは今回のファーベルク領訪問中、ずっと索敵魔法を展開してくれている。それに引っ掛かったらしい。


「アンガーミュラー領に向かう冒険者か誰かでは?」

《それならこんなにコソコソしないわよ。こちらから見えない距離を保って、ずーっと付いて来てるのよ? ()()()()()()3人。こっちは馬車で移動してるって言うのに》


 それほどスピードを出していないとはいえ、こちらは馬車。

 生身の人間が一定の距離を保って付いて来るのなら、身体強化魔法を掛けた上で走る必要がある。

 何の目的も無く、そんなことをするとは考えにくい。


「…」


 まだ道中は半ば。ファーベルク伯爵領内だ。

 私は少し考え、御者の居る側の壁を独特のリズムでノックした。


 ──『尾行有り』『速度を上げよ』『橋を渡ったら停車』


 壁を叩くリズムで3つの指示を出すと、一度だけ、コン、と外から壁を叩く音が響いた。

 御者からの了承の合図だ。


 速度を上げ、街道をひた走ること暫し。


 川に掛かる橋を渡ると、草原は唐突に湿原へと姿を変える。

 砂利や石畳が敷かれた街道部分以外は、水苔や湿原植物が芽吹き、緑に染まった柔らかな大地だ。所々に白や黄色の色彩が見えるのは、気の早い初夏の花々だろう。


「さて…」


 街道脇、商隊がすれ違う時などのために準備されたちょっとした広場で、私たちは馬車を降りた。


 確かにシルクの言う通り、少し離れた所に人の気配があった。

 停車したこちらを警戒しているのか、3人とも橋向こうで足を止めている。


 そのまま橋の方をじっと見詰めていると、根負けしたのか、3つの人影が橋を渡ってやって来た。


「…」


 男性が3人。

 先頭の1人は父と同じくらいの外見年齢で、眼光鋭くこちらを睨み付けているのが印象的だ。

 残りの2人はもう少し若く、その視線には若干の戸惑いが含まれている。


「こんにちは。アンガーミュラー領へのご旅行ですか?」


 敢えて笑顔で問い掛けてみると、先頭の男性は顔を歪めて悪態を吐いた。


「分かっているくせに、どんな質問だ」

「あら、確認は必要でしょう?」


 殺気立つ先頭の男性は、冒険者崩れだろうか。

 農作業者のような簡素な服を着ている割に、構えや気配に無駄が無い。


「では改めまして、ご用向きは?」


 私たちに用があるのだろう、と訊ねる。


 後の2人は迷うように先頭の男性に視線を投げるが、男性は振り返らず、首元のチョーカーらしきものに手を掛けた。

 後の2人が顔色を変え、チリ、と、魔力の気配が膨れ上がる。



 瞬間──



妨害(ジャミング・)工作(フィールド)!》

強制停止(シャット・ダウン)!》


 シルクとシフォンの魔法が展開し、辺り一帯を魔法陣が包み込む。

 途端、魔力が霧散し、バランスを崩したらしい先頭の男性がガクンとその場に崩れ落ちた。


 シルクが使ったのは、周囲からのあらゆる魔力干渉を軽減する魔法。

 魔法攻撃にも魔法道具を使った攻撃にも有効な、緩衝材のような効果の魔法だ。


 一方シフォンが使ったのは、魔法道具を強制的に停止させる彼女独自の魔法。

 魔法道具に集中して周囲が見えなくなるマーカスの意識を強制的に『こちら側』に戻すために編み出したという、ある種とても残念な魔法だが、魔法道具自体を封じる事が出来るため、こういう時には非常に役に立つ。


「ありがとうございます、マダム・シルク、シフォン」

《当然よ》

《は、はい!》


 シルクは自信満々に胸を張り、シフォンは緊張気味に姿勢を正す。

 親子だが、こういうところは対照的だ。


「さて…マーカス。あれは魔法道具で間違いありませんか?」


 男たちの首に嵌まったチョーカーのようなものを目線で示して問うと、マーカスは即座に頷いた。


「ええ」

「解除は?」

「恐らく可能です」

「では、よろしくお願いしますね」

「はい、姉上」


 マーカスはどこからともなく精密工具を取り出した。

 何故そんな物を持ち歩いているのかといつも思うが、今回は役に立ちそうだ。


 マーカスとシフォンはその場にへたり込んでいる若い2人の方へ駆け寄り、首に装着されたチョーカーのようなものへ手を伸ばした。


「や、やめろ、それに触るな!」

「良いから任せとけ。今なら魔法道具は動かなくなってるから、解除も解体も思いのままだぞ」


「…………へ?」


 1人がぽかんと口を開けている間に、マーカスはさっさとチョーカー型の魔法道具を分解する。

 ガシャンと音を立ててチョーカーが外れると、青年は呆然と自分の首元に触れ、やがてゆっくりと目に涙を浮かべた。


「──助かった………?」

「ほら、大丈夫だったろ」


 マーカスが得意気に口の端を上げる。

 これなら問題無いだろうと確信し、私は先頭の男性に近寄った。


「……何が起きている……?」


 崩れ落ちた姿勢のまま、男性は呆然と後ろの2人を見詰めている。


 ──そりゃあそうだろう。

 自分たちが()()()()に巻き込もうとした相手が自爆用の魔法道具を強制停止させた上、それを次々解除しているなんて、理解が追い付かなくて当然だ。


 誰が仕組んだのか知らないが、今回は相手が悪かった。

 魔法道具の兵器など、マーカスとシフォンの前ではおもちゃも同然なのだ。


「貴方のチョーカーが、()()()()()()を兼ねているようですね」

「!」


 私が指摘すると、男性は顔色を変えて体勢を立て直し──立ち上がろうとして、左足を持ち上げられずに尻もちをついた。

 地面に投げ出された左足が、ガシャン、と生身らしからぬ音を立てる。


「姉上、あっちの2人の方は終わりました。後は彼だけです」

「そうですか。では、お願いします」


 マーカスが駆け寄って来たので、私は場所を空ける。


 男性の前に膝をついたマーカスは、あっという間にチョーカーを解体して見せた。

 相変わらず、手品のような鮮やかな手際だ。


「これで良しっと…」


 満足気に頷いたマーカスが、ふと男性の左足を見遣る。


 ズボンの裾がめくれ、隙間から金属質の光沢が見えていた。

 靴ではなく、戦闘職の者が身に着ける防御用の装具でもない。これは、


「ちょっと失礼」

「お、おい!」


 マーカスが男性のズボンの裾をめくり上げると、そこにあったのは金属の足──義足だった。


 それも、ただの義足ではない。

 流麗な曲線と緻密に組まれたパーツ、所々に見える魔法回路の線。

 本人の魔力を糧に動作する、魔法道具の義足だ。


 かなり完成度が高いのだろう。マーカスが目を輝かせている。


「これはすごいな…──うん?」


 ふとマーカスがある1点に目を留め、眉を寄せた。


「どうしました? マーカス」

「いや、これ…この義足の部品じゃ無いなと」



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