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スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
おまけ小話

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おまけ⑳【ユーフェミア視点】次世代のアンガーミュラー(4)

「突然でごめんなさい、ユーフェ。先程のオリヴィアの話ですが…」

「本気でうちに来ようと…?」


 まだ信じられずに首を傾げると、クリスティンは真面目な顔で頷いた。


「ええ、あの子は本気です」


 アンガーミュラー領で育てられる稲を作るために、住み込みで稲の育て方を学ぼうとしている。


「でも、オリヴィアはまだ8歳でしょう? 親元を離れるのには早過ぎるわ」

「離れると言っても、ずっとではありませんから。それに私たちは、あの子なら他領に出しても問題無いと思っています」

「問題無い?」

「ええ。家事は自分で出来ますし、農耕や畜産に関しても、うちで学べる分は一通り学び終えました。護身術と魔法は私とヴィクトリアが叩き込んだので、そこらの一般の成人男性には負けないくらいの実力はあります」


 …それは本当に8歳のご令嬢のことなのかしら…?


 信じ難いが──アンガーミュラー家だから十分有り得る。


「それから、読み書き計算は一通り。帳簿も読めますし、書けます。乗馬は、体高の低い北方種では経験済みです」

「……ええと……一応聞くけど、オリヴィアのことよね? それ」

「ええ」


 クリスティンが真顔で頷く横で、ヴィクトリアが苦笑する。


「ちょっと信じられないでしょ? でもホントなのよ。稲の育て方を学びたいなら、まずうちで勉強できることを一通り習得しなさいって言ったら、あっという間だったわ」

「あっという間…」

「流石に家畜の屠殺と解体を経験した時は色々考えたみたいだけど、やめるとは言わなかったわね」

「お米への情熱が迸っていましたね」


 情熱とは。


 クリスティンとヴィクトリアが平然としているので、何だか大した話ではないように思えてしまう。


 しかし、問題はもう一つある。


「…アンガーミュラー家の未婚の直系一族は、基本的に自領から出てはいけないのではなかったかしら…?」


 子どもの頃クリスティンが教えてくれた、アンガーミュラー家と王家の間で結ばれた約定。

 私に教えてくれたのはごく一部だというが、その中にそんな一文があった。


 私が訊くと、クリスティンはとてもイイ笑顔になった。


「例の約定は、2年前に全部()()()()()()()


 破棄した、ではなく、破棄させた。


 …誰にさせたのかは…聞かない方が良いんでしょうね…。


「オリヴィアとテオドールとリネットの人生を縛るような約定など、今の時代には不要ですから」

「そ、そう。それなら…良い、のかしら…」


 挙動不審になってしまったが、クリスティンもヴィクトリアも笑顔で流してくれる。


《問題は、あの王家が黙って見てるかってことよね》


 椅子の上で寛いでいたシルクが身を起こし、半眼になった。


《オリヴィアとテオドールが生まれた時、すっごいうるさかったもの。オリヴィアがこの歳で他領に勉強しに行くって知られたら、口を出して来るんじゃないの?》


 9年前、ヴィクトリアは『アンガーミュラー領生まれのヴィクトリア』という戸籍を使い、『ヴィクトル・ヴァイゼンホルン殿下』ではなく、平民としてクリスティンと結婚した。


 なおその戸籍は、ハロルド様が領主の特権を最大限活用して作ったものだ。


 貴族を平民として扱うために作るのは珍しいが、戸籍を後出しで作ること自体はそれほど難しくない。


 そんなわけで、オリヴィアとテオドールは、公的な書類上は王家と縁もゆかりも無いのだが──王家にとってはそうではないのだろう。


 双子が生まれた直後、国王陛下は何かと理由をつけてアンガーミュラー領に来ようとして、ハロルド様とクリスティンにすげなく断られていたらしい。


「ああ、それは大丈夫ですよ」


 クリスティンは笑顔でシルクの懸念を否定した。


「あちら──ユリウス殿下も4年前に結婚して、3年前に第1子が生まれたでしょう? それ以来、国王陛下はそちらにべったりですから」


 …仮にも一国の王に、べったりって表現はどうかと思う。


「…まあ、国王陛下の溺愛っぷりは、貴族の間では有名ね」


 そこは敢えて突っ込まずに肯定だけ返すと、ヴィクトリアが肩を竦めた。


「こっちに構ってる暇なんてなくなったんでしょ。すっごく有り難いけど……溺愛し過ぎて()2()()()()()()を作りそうでちょっと怖いわよね」


 ぼそり、少々洒落にならない事を言う。



 ユリウス殿下は、5年前に隣国の文官養成校を卒業して帰国した。

 その時に連れて帰って来たのが、ユリウス殿下の結婚相手──隣国の第7王女だ。


 文官養成校を優秀な成績で卒業した才媛で、王妃殿下のもとでこちらの国の文官仕事を学んだ後、筆頭文官を務める王妃殿下の片腕として働き始めた。


 ユリウス殿下と結婚後、出産の時は休業したが、その1年後に文官として復帰、我が国初の『出産育児休業』制度の利用者となった。


 一度だけお会いしたことがあるが、どことなく王妃殿下やクリスティンに似た雰囲気の、美しい女性だ。

 ユリウス殿下が文官養成校で一目惚れしたというのも頷ける。


 …恐らく殿下は、彼女に振り向いて欲しいがために文官養成校で勉学に励んだのだろう。

 やるべき事に関心を持てば、優秀な方なのだ。


 今でも王宮で文官仕事に打ち込んでいると聞く。

 妻が文官として働いているから、良いところを見せたいのだと思う。



 …クリスティンからユリウス殿下の現実を漏れ聞いていたので、色々と斜めから想像してしまうわね。


「国王陛下の溺愛は王妃殿下が止めるでしょう。…とにかく、最近は平和なものですよ。まあ──」


 クリスティンは凄みのある笑みを浮かべた。


「今後もしオリヴィアたちの人生を邪魔するようなら、一度じっくりとオハナシアイをする必要があるとは思っていますが」

「顔が怖いわよ、クリスティン」


 ヴィクトリアが突っ込むが、クリスティンは平然と肩を竦める。


「オリヴィアもテオドールも、王族になるのは嫌だと言っていましたからね。本人たちの意向を最大限尊重するのが、親の役目というものです」


 そのためなら、王家と敵対するのもやぶさかではないらしい。


「…子どもたちは、ヴィクトリアの出自を知っているの?」

「ええ。あの子たちは、もう自分で考えられるようでしたから。少し前に話しました」


 ヴィクトリアの事情はかなり特殊だ。


 幼い子どもたちに説明するには複雑すぎると思うのだが、2人はきちんと理解した上で、王族になる気は無いと言い切ったらしい。


「勿論、これから成長して気が変わったら、その時はその選択を尊重するつもりです。…多分無いとは思いますが」

「そうでしょうね」


 私は苦笑する。


 アンガーミュラー領で伸び伸びと成長しているオリヴィアやテオドールが、堅苦しい王宮で生きるのは想像できない。


 聞けば、テオドールは冒険者になりたいと主張しているのだという。


 アンガーミュラー領でお米を栽培するために邁進するオリヴィアと、冒険者になって各地を旅したいテオドール。そして、魔法道具に夢中なリネット。


 三者三様で、将来がとても楽しみだ。



「……分かったわ」


 私は一つ頷いた。


「オリヴィアの件、一旦私に預からせて頂戴。ジェフリー様に訊いてみるわ」

「ありがとうございます、ユーフェ」

「ありがと、ユーフェ。…ああそうだ、良かったら新型の耕作機、持って行く? 確か予備機があるわよね、マーカス?」


 ヴィクトリアが笑顔で話を振ると、マーカスが即座に頷いた。


「ありますよ。初期型の半分以下のサイズになってるんで、運ぶのもそれほど苦労しないと思います。後で運送業者を手配しておきますよ」

「良いの? 貴重なものでしょう?」

「大丈夫です、ユーフェミア様。その代わり…まだ試作機なので、いつも通り農夫の皆さんに感想を聞いて、書面にして送ってください」

「ええ、分かったわ」


 私は笑顔で頷いた。





 ──満面の笑みを湛えたオリヴィアが、メイドのアンネローゼと、シフォンの娘、ケットシーのオランジェを連れて我が家の扉を叩くのは、それから半年後のことだった。






…な、長かった…!

すみません、主人公たちの子ども世代を書こうとしたら予想外に長くなってしまいました…。


オリヴィア → 米狂い

テオドール → 冒険狂い

リネット  → 魔法道具狂い


…とまあ、見事にイロモノなお子様が揃ったわけですが……どうしてこうなった…?


ちなみに蛇足ですが、お子様の中でリネットだけは転生者ではありません。

転生者ではありませんが、両親がアレなのである意味一番尖った才能の持ち主です。



これでひとまず、おまけ小話も終了となります。


だらだらと続けてしまいましたが、お付き合いいただいたみなさま、本当にありがとうございました。

またしれっと追加の話を入れ始めるかも知れません。

その時は生温かい目で見守ってください。


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