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おまけ⑱【ユーフェミア視点】次世代のアンガーミュラー(2)

2023/11/25修正:前話と同じく、マーカスとリサの子どもの名前を間違えてたので変えました(酷い)。

誤:アリシア

正:リネット

どうやったらこんな間違いを……(2回目)。

 今回はオリヴィアがお茶会の主催者らしい。

 頬の紅潮したオリヴィアに案内されて、私たちは席に着いた。


「本日のお茶は、南の崖壁都市メランジ近郊で採れるハーブで香り付けした紅茶です」

「まあ、とても良い香りですね」


 メイドの給仕で並べられたのは、ティーカップとソーサーではなく、どこか温かみのあるマグカップ。

 湯気を立てる紅茶は、普通とは少し違う、爽やかな香りを含んでいる。


 オリヴィアが嬉しそうに笑った。


「ハーブは、お父さまとお母さまのお友だちの、ミラベル様がくださいました。この配合に辿り着くまでにはかなり時間が掛かりましたけど」


(……配合?)


 今、とても引っ掛かる言葉が聞こえた気がした。


 が、それについては説明の無いまま、目の前に果物とクリームで美しく飾られたバターケーキが並べられる。


「どうぞそのまま、バターケーキと一緒にお召し上がりください」


 勧められるまま、マグカップを手に取る。


 紅茶は深い色をしているが、意外に渋みが少なかった。

 ハーブが入っているから、というだけではなく、紅茶自体の味が普通と違う。


「…美味しい」


 隣でケヴィンが驚いている。


 ケヴィンは苦いものが苦手だから、紅茶もコーヒーも砂糖とミルクを多めに入れて飲む。

 初めてのストレートティーがこれでは、これからケヴィンの中の紅茶の基準が上がりそうだ。


 …後で茶葉を貰えないか訊いてみよう…。


「美味しいでしょう?」


 クリスティンが微笑み、オリヴィアが得意げに頷いた。


「この紅茶の本領発揮は、お菓子と一緒に飲んだ時です。どうぞ、味わってください」

「では、お言葉に甘えて」


 バターケーキは、私が知っているのよりずっと柔らかかった。

 かなりしっとりしているのに、バターケーキにありがちなえぐ味も無い。


 見た目が同じだけで、王都などで食べられるものとはまるで別物だ。


 ケーキを一口味わった後、紅茶を口に含んで、私はオリヴィアの発言の意味を理解した。


「これは…すごいわね」


 口の中の油分と甘味があっさりと消え、残るのは紅茶とハーブの香り。

 それも後を引かず、スッと消える。後味がとても爽やかだ。


 バターケーキの次の一口が素直に楽しめる。とても相性が良い。


「お気に召していただけましたか?」

「ええ。これは素晴らしいですね」


 私が褒めると、オリヴィアは嬉しそうに笑った。


 テオドールは早々にケーキを食べ切り、何やらそわそわとケヴィンに視線を送っている。

 ケヴィンは幸せそうにバターケーキを食べていて、その視線に気付いていない。


 リネットはケーキよりも手に持った魔法道具の方が気になるらしい。

 バターケーキを半分ほど残し、テーブルの影に隠すようにして膝の上で魔法道具をいじっている。


 隣のマーカスがリネットから魔法道具を取り上げようとこっそり手を伸ばしているが、微妙に届かない位置に居る。

 あの位置に椅子を持っていったのが計算尽くだとしたら、まだ6歳なのにすごい判断力だ。


「リネット、後にしなさい」


 私の視線に気付いたリサが、焦った様子で囁く。

 が、リネットはムスッと唇を引き結び、手を止めない。


 私は微笑んだ。


「構いませんよ。本当にマーカスそっくりですね」

「うぐ」

「リサも子どもの頃は同じような感じだったそうですよ。以前リサの父君が言っていました」

「う」


 私とクリスティンの言葉に両親が揃って固まり、リネットが不思議そうな顔で視線を上げた。


「…父さまと母さまも?」

「ええ。リネットと同じように、子どもの頃から魔法道具に夢中でした」

「…おんなじ…」


 リネットが照れたように微笑んだ。


 とても可愛らしいが、両隣のマーカスとリサが非常に居たたまれない顔をしている。


 …分かるわ。お父さまがケヴィンに私の子どもの頃のヤンチャ振りを話してしまった事があって、私も大変だったもの…。


 私は内心でマーカスたちに同情して、リネットに微笑み掛ける。


 要はリネットが会話に参加していれば良いのだ。

 それなら、話はそれほど難しくない。


「リネット、今日持って来た魔法道具はどのような効果のあるものなのですか?」


 訊ねると、リネットは目を見開いた後、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑った。


「…まだ、分かりません。どんな魔法道具なのか、調べて、ます」


 お父さまに課題をもらいました、と、にこにこしながら言うのだが…


「…これはマーカスが悪いですね」


 クリスティンが溜息をついた。

 私も静かに同意する。


「…そうね」


「え」


 当のマーカスは、どういう事か分かっていないようだ。


 ヴィクトリアが首を横に振った。


「マーカス、来客がある時にそれ以上に興味を引かれる物を与えられたら、そっちに集中しちゃうに決まってるでしょ? 貴方とリサの娘なんだから」

「え、いやでも、私は来客があった時は魔法道具には触っていませんでしたよ?」

「それは父上が予め取り上げていたからですよ」

「手元に魔法道具があったら、今のリネットと同じ状況になるでしょう? 私の所に遊びに来た時、何度かそうなっていたわよね?」

「うぐ」


 指摘したら、マーカスは見事に言葉に詰まった。

 一応、覚えてはいたらしい。


 大人たちのやり取りを見て、リネットがそっと魔法道具をリサに渡した。


「リネット?」

「……お客さまが居るときは、ちゃんと、お話、します」


 言って、椅子の上で居住まいを正す。


 …下手な大人より、よっぽど大人だわ…。


 マーカスが地味にダメージを受けているようだけれど…これは仕方ない。


「…ユーフェミア様の住んでいる所は、農業が盛んだって、聞きました」


 リネットが真面目な顔でこちらを見る。


「農作業で、魔法道具は、使うのですか?」


 …うん、流石はマーカスとリサの娘ね。


 話題は魔法道具一択なのね…。


 とはいえ、折角話題を提供してくれたのだ。

 私は笑顔で頷いた。


「ええ。畑を耕す時は耕作機を使っているし、麦や稲の脱穀──採れた作物から実を外す時は、脱穀機という専用の魔法道具を使っているわ。どちらも、数年前にアンガーミュラー魔法道具研究所で開発された物よね」


 私が言うと、リネットは嬉しそうに頷いた。


「はい。オリヴィアが『こういうのが欲しい』って言い出して、お父さまとお母さまが作りました」


(……え?)


 今、発案者はオリヴィアと言った?


 驚いてオリヴィアを見ると、本人は誇らしげに胸を張った。


「はい、私が発案しました。…と言っても、ホントに『こういう事が魔法道具で出来ないか』って言っただけですけど」


 後半、ちょっと恥ずかしそうに付け足す。


 しかし、農耕用魔法道具が世に出たお陰で作業の効率は劇的に上がったし、重労働で身体を痛める農夫も減った。

 うちの領地の農夫たちは、開発者を崇め奉っている。


「発案できるのがすごいわ。私も穀倉地帯の領主の娘だけれど、畑を耕すのにあんな規模の魔法道具を作ろうだなんて思い付かなかったもの」


 そういえば、アンガーミュラーの一族には変わった能力や思考を持つ者が生まれやすいと聞いている。


 文官としての能力が突出しているクリスティンや、魔法道具の改造に掛けては右に出る者が居ないマーカスもそうだろう。


 その子どもであるオリヴィアやテオドール、リネットも、普通とは少し違う能力を持っていてもおかしくない。


 …何せ、配偶者もそれぞれちょっと特殊だし、そういう面子に囲まれて育っているわけだから…。




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