表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~  作者: 晩夏ノ空
おまけ小話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/114

おまけ⑰【ユーフェミア視点】次世代のアンガーミュラー(1)

2023/11/25修正:マーカスとリサの子どもの名前を間違えてたので変えました(酷い)。

誤:アリシア

正:リネット

どうやったらこんな間違いを……。

 ファーベルク伯爵領に帰省しないか、と提案してくれたのは、夫──ジェフリー様だった。


 結婚してから10年。

 節目の年に、アーミテイジ侯爵家ではなく私の実家に行こうという心遣いがとても嬉しい。


 アーミテイジ侯爵家の皆さまもとても良くしてくださるけれど、父の事が心配だったのだ。


 久方ぶりに会った父は年を取り、そろそろ代替わりを考えていると言っていた。

 兄夫婦の子どもももう成人間近。跡継ぎの兄本人はまだ早いと渋っていたが、私ももう良いのではないかと思う。



 そうして、実家での歓談を楽しんだ翌日。


 私はアンガーミュラー家を訪れていた。


 ジェフリー様は畜産について相談したいからと、私の実家に残っている。

 来たのは私と息子のケヴィンだけだ。


「お久しぶりです、ユーフェ」

《久しぶり、ユーフェミア。元気そうね》


 アンガーミュラー家に着くと、クリスティンとシルクが笑顔で出迎えてくれた。


 もう30代半ばのはずだが、顔も体格も若い頃とほとんど変わらない。

 シルクは本当に昔のままだ。

 そう言ったら、ユーフェこそ、と指摘された。


「むしろ昔より美人になっているのではありませんか? ジェフリーは気が気でないでしょうね」

「もう。相変わらずお世辞が上手いわね」


 私が苦笑すると、お世辞ではありませんよ、と大真面目に返される。


 その背後から、ぽん、と大きな手がクリスティンの肩を叩いた。


「こーら。なに他所(よそ)の奥さん口説いてるのよ」

「ヴィクトリア」


 クリスティンが振り向く先、大柄で華やかな人物が渋面を作っている。

 話には聞いていたが、本当に彼──いや、()()だ。


「お久しぶりです、ヴィクトリア様。またお会いできたこと、嬉しく思います」

「ええ、久し振り、ユーフェ。アタシのことは呼び捨てで良いわよ。…それにしても、ホントに綺麗になったわね。昔から美人だったけど」


 ヴィクトリアが笑みを浮かべる横で、クリスティンが肩を竦めた。


「他所の奥さんを口説いてるのはどちらでしょうね」

「やーね、良いじゃない。減るもんじゃないし」


 昔とは少し違う、痴話喧嘩のようなやり取りに、私は思わず笑い声を漏らした。


 ヴィクトリア──ヴィクトル殿下とは、殿下がアンガーミュラー家に滞在していた折、何度かお会いしたことがある。

 どことなく女性的な方だなと思っていたら、ある日クリスティンに『ヴィクトル改め、ヴィクトリアです』と紹介されて驚いた。


 ヴィクトリアという呼び名はクリスティンがつけたそうだ。


 恥ずかしそうに、けれどとても嬉しそうに笑っていたヴィクトリアの姿を、今でもよく覚えている。


「…あの、母上」


 私の背後で、ケヴィンが居心地悪そうに身じろぎした。


「クリスは会ったことがあるわよね。ヴィクトリア、こちらは私の息子のケヴィンです」

「大きくなりましたね」


 クリスティンが微笑んだ。


 ケヴィンも覚えているらしい。お久しぶりです、と頭を下げる。


 最近、私にもジェフリー様にも反発することが多いから、素直な態度は新鮮だ。


 お義母さまは『反抗期ね。ジェフリーもすごかったわ』と笑っていたが、こういう態度を普段から私たちにも見せて欲しいと思ってしまう。


 ヴィクトリアが楽しそうに笑った。


「目元がユーフェにそっくりね。──アタシはヴィクトリア。クリスのパートナーよ。貴方のお母さまとは幼馴染みたいなものなの。よろしくね」

「ケヴィンです。よろしくお願いします」


 ケヴィンは少々緊張気味に、ヴィクトリアと握手を交わす。

 ジェフリー様に近い大柄な体格なのにとても華やかなのだ。気圧されているのだろう。


 そういえば、と、私は周囲に視線を走らせる。


「マーカスたちは、お仕事かしら?」


 事前に連絡した時点では、マーカス一家も会えるのを楽しみにしていると言っていた。


 しかし今ここに居るのは、クリスティンとヴィクトリアだけだ。


 マーカスとその妻であるリサは数年前に新設されたアンガーミュラー魔法道具研究所の責任者だから、何かトラブルでもあったのかと心配になる。


 しかし、クリスティンは若干疲れた様子で首を横に振った。


「いえ…趣味の方の改造作業が佳境だそうで、キリの良いところまで終わらせてから来るそうです」

「趣味の方…」


 趣味とは言っても、要するに魔法道具の改良だ。

 趣味と仕事が完全一致する2人だから、やり出したら止まらないのは分かる。


 私が苦笑していると、慌ただしく扉が開いた。


「遅れてすみません!」


 マーカスもリサも、作業着のままだった。


 マーカスの肩に乗っている長毛の三毛のケットシー──シフォンは、何だか魂が抜けたような顔をしている。


 私とケヴィンがぽかんとしていると、クリスティンがこめかみを手で押さえた。


「…せめて服装くらい取り繕ってから来なさい。あとマーカス、シフォンの背中に魔力吸収材が貼り付いています」


「えっ…? ──うわすまん、シフォン!」


 マーカスがシフォンを床に降ろし、リサと2人で背中に貼り付く粘土のようなものを必死に剥がす。

 大方綺麗になると、シフォンがのろのろと立ち上がった。


《…うう、ひどいですよ、マーカス》

「す、すまん。見落としてた…」


 先程シフォンがぐったりしていたのは、特殊な素材に魔力を吸われていたかららしい。

 シフォンは何度か顔を洗い、私たちに向き直った。


《お久しぶりです、ユーフェミア様。それから、はじめまして、ケヴィン様。マーカスの相棒の、シフォンと申します》


 丁寧に頭を下げる姿は、とても愛らしい。


「ケヴィン、です。よろしく、シフォン」


 ケヴィンがそわそわしている。

 うちにも牧羊犬やケットシーは同居しているが、こんなに見事な長毛の子は居ない。触ってみたくてたまらないのだろう。


 内心を読んだようにシフォンはケヴィンに歩み寄り、フワッと尻尾をケヴィンの足に絡ませた。

 人間に対する親愛の挨拶だ。


 ケヴィンが躊躇いがちに手を伸ばすと、シフォンは後ろ脚で立ち上がってケヴィンの手に頭を擦り寄せてくれる。

 ケヴィンの顔が緩んだ。



 その後、着替えを済ませたマーカスとリサも加わり、お茶会の会場へと移動する。


 と言っても、場所はお屋敷の前庭、使用人たちも下がらせた、ごく内輪の歓談の場だ。


 その場には、可愛らしい主催者が待っていた。



「アンガーミュラー家へようこそいらっしゃいました、ユーフェミア様、ケヴィン様。クリスティン・アンガーミュラーならびにヴィクトリア・アンガーミュラーが第一子、オリヴィア・アンガーミュラーと申します」


「同じく、オリヴィアの双子の弟の、テオドール・アンガーミュラーと申します。本日お会いできましたこと、大変嬉しく思います」


「…マーカス・アンガーミュラーとリサ・アンガーミュラーの娘の、リネット…です」



 オリヴィアは、クリスティンの母、ジャスティーン様のような穏やかな顔立ち。

 目や髪の色はヴィクトリア譲りだろうか。


 テオドールは全体の雰囲気がクリスティンに似ているが、よく見るとヴィクトリア似の目が好奇心で輝いている。

 多分、本来はかなり活発な性格だろう。小さい頃のケヴィンを思い出させる。


 オリヴィアとテオドールは双子。

 手紙などで知ってはいたが、実際会うと何だかとても感慨深い。


 一方リネットは、リサとマーカスの子どもだけあって、かなり可愛らしい。

 但し、目は自分が手にした魔法道具に釘付けで、その意味でも流石は2人の娘という感じだ。


 三者三様の子どもたちに、私は笑顔で返礼する。


「丁寧なご挨拶をありがとうございます。ユーフェミア・アーミテイジと申します」

「ケヴィン・アーミテイジです。よろしくお願いします」


 ケヴィンも丁寧に頭を下げる。


 年齢身分関係無く、相手には敬意を払うこと。

 ジェフリー様の教えを実践するケヴィンの姿に、私は内心で微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ