自由都市
ん・・・?なんだ?どうなってる?
体が動かない・・・?いや
動くけどなんか力が入らないというか
もっさりしているんだけど・・・
目もぼやけてる。
え~と・・・思い出せ・・・
たしか、学校の帰り道でコンビニに
寄ってから・・・あ~アイスうめぇ
まで覚えてる・・・それから・・・
???そこからどうした???
うまく思い出せない・・・
俺はどうなったんだ?
うわっ!!!
急に体が浮いた!!!
と思ったら誰かに抱きかかえられて
連れてかれる!
おいっ!誰だか知らないがやめろ!
「フギャァア!フンギャァ!」
なんだこれ!喋ろうとすると
泣くことしかできない!
ちょっとまて!これってまさか!
・・・・・
いやいや・・・それはないだろ~
だって・・・ねぇ?
こんなんで冒頭始まるとか
どんな異世界小説だって話だよ
ないない
ないわぁ~
・・・思い出してきた・・・
俺は車にはねられて死んだんだ
そのあと光の中で神様って人に
会って異世界なら生き返らせて
あげるよって言われて「よろこ
んで行きます!」って言ったら
さっきの状況だ。
神様ももうちょっと説明とか融通
してくれてもいいんじゃないかね?
あぁ記憶があるだけでも
マシなほうなのかな・・・?
まじかぁー
生まれたてからスタートかぁ
今抱えてる人が父親か母親かな?
目がぼやけててさっぱりわかんないわ
まぁ憧れの異世界に生まれ変わったん
だからそこは良しとして、
これからどうしようかな?
とりあえず少しでも成長が早くなる事
を祈って委ねよう。
「この子が神のおっしゃった子供なのか?」
「あたりまえさね!こんな魔の森に赤子が
居るわけないじゃないかい!馬鹿な事言っ
てないで、さっさと家に帰ってこの子の
ご飯をなんとかしなきゃ死んじまうよ!」
「馬鹿とはなんじゃ!馬鹿とは!
そんなことわかっとる!」
月日は流れ。5年後・・・
「てぃ!やぁ!たぁ!」
「ほれほれ!もっと腰をいれて振らんか!」
この人は俺のじーちゃん。
俺を拾ってくれて育ててくれてる人。
ばーちゃんから聞いた話だと、
剣の腕前は元世界一だとかなんとか。
ほんとかな?
でもじーちゃんに剣を教えてって
言ったらうれしそうに教えてくれる
から大好きなじいちゃんだ。
超スパルタだけど・・・
剣を振れるようになったらゴブリンの
巣に放り込まれて死ぬかと思った。
なんでゴブリンは俺ばっかり狙うんだ?
と思ったら殺気だけでゴブリン殺してたよ
俺がやられそうになったらでっかい声
だけでゴブリンを失神させてた。
俺も失神してた。さらに失禁・・・
「これウォード!勉強の時間だよ!」
「はーい。水浴びてきていい?」
「さっさと浴びておいで。」
これはばーちゃん。
じーちゃんと一緒に俺を育ててくれる人
じーちゃんに言わせると魔法の腕前は
元世界一だって言ってた。
あと怒らせると怖い。
ばーちゃんには魔法や勉強を習っている。
勉強と言っても文字を書いたり計算したり
だけじゃない。国語、数学、魔法学、薬学、
魔道具学。生きていく為の知識を教えて
くれている。
「ウォードももう5歳か・・・
そろそろ話さなければいかんな」
「まだ早いんじゃ・・・」
「いや・・・こういう事は早い
ほうがええ」
「ウォード、こっちに来なさい」
「何?じーちゃん、ばーちゃんも」
「いいかい?よくお聞き?」
「私たち夫婦はな、実は一度死んだんじゃ」
「・・・へー」
「へーってこの子は!!もう!!」
「驚かんのか?」
「だって・・・俺も?だもん」
「なんじゃと?!どういう事じゃ!」
「えっと別の世界?で死んで神様に
こっちで生き返らせてもらったんだ」
「なんと!ではお前も神様に会った
のじゃな?」
「会ったっていうか?聞こえた?
っていうか?」
「はぁ・・・まぁええわい
それでな、わし等夫婦は神様にお前を
育てるように言われ10年間生き
延ばさせてもらったんじゃ」
「えっ?!じゃああと5年で
じーちゃんもばーちゃんも
死んじゃうって事じゃん!」
「そうなるのぉ」
ちょっとまってよ・・・それはないよ
そんなこと言われても嫌だよ
「それってどうにかできないの?!」
「それは無理な事なんだ
私たちも覚悟を決めている。
だからお前も覚悟を決めてしっかりと
鍛錬と勉強をしな!」
「・・・わかった。だから・・・あと5年!
・・・がんばってじーちゃんに勝つ!!
そしてばーちゃんにも勝つ!!」
「ほっほっほ。大きく出たのぉ」
「あーっはっは!私たちに勝とうなんざ
100年あっても足りないよ!」
さらに五年後
「さてっと・・・いくか!」
「ガゥ!」
俺は10歳になった。
数日前にじーちゃんとばーちゃんは
別れを告げ、文字通り消えていった。
じーちゃんからの遺言は
旅に出て世界の広さを知りなさい
ばーちゃんからの遺言は
旅に出て世界の楽しさを知りなさい
二人とも俺とは血が繋がってはいないけど
大切な家族だと言ってくれた。
もちろん俺もそう思っているし
じーちゃんもばーちゃんも大好きだ
二人がいなくなってから落ち込んだりもしたけど、身の回りの整理を済ませ二人の遺言通りに世界を旅しようと思う。
冒険が俺を待っている!
「ガウゥ!!」
あぁ一人じゃなかった!こいつは
俺の友達。フェンリルの子供だ。
子供といっても体は大型犬の倍くらい
で真っ黒い毛並みだからクロって名前に
した。安直な名前だけど本人は(本犬?)
気に入ってるみたいだから言わない。
体の大きさは小さくなったりもできる
一度ばーちゃんに怒られてヘコんでいる時
に小さくなることをマスターした。
俺が6歳位の時に母フェンリルが森で
倒れていた。母フェンリルは虫の息状態で
俺に子供を頼むって言って死んだ。
じーちゃんは魔獣の子供を育てるのは難しい、生かしておいてもしょうがないって
言っていたけど、俺が面倒を見ることを
条件に育てることを許可してもらった。
今では兄弟みたいな存在だ。
「よし!クロ!魔の森を抜けるまで
超特急で頼むな!」
「ガゥ!」
クロの背中に跨り、木々の間をすり抜け
魔物もスルーして街道を目指す
この辺のテリトリーで俺とクロの
コンビに敵う魔物は居ない
むしろ俺たちがボスみたいな?
たまに襲ってくるけど返り討ちにして
ご飯の材料になっている
数刻、魔の森を駆け抜け
街道までもう少しって所で
戦ってる気配に気がついた。
「ガゥガゥ!」
「うん、誰かが戦ってるみたいだけど
どうしようか?モンスター?じゃないな
人同士で戦ってる。助ける?どっちを?」
困った
ばーちゃんから人には優しく、親切にしなさいって言われているけど、人同士で戦ってるときはどうしたらいいんだ?
じーちゃんならどうするだろ?
・・・うん、じーちゃんならこういう時は
両方倒せっていうな絶対!だめだろ…
「とりあえず、両方が見える位置まで移動して様子を見よう」
「ガゥ」
「くっ!!!貴様ら、卑怯な・・・!」
「へっへっへ、俺たちゃ盗賊だぜ?卑怯もへったくれもね~よ~。そろそろ毒もまわってきた頃だろ?そのまま死んじまいな!」
「きゃぁ!嫌!!離して!!」
「こいつは金になりそうなお譲ちゃんだ!
おい!さっさとそいつらを始末しちまえ!」
「お嬢様!!」
うん。絶対こいつらが悪だわ
盗賊とか言ってたし
黒い鎧の騎士さんも強そうだけど
毒で動けなくされてるみたいだな
近くで黒い鎧の騎士さんが何人か
倒れているけど生きてるかな?
「毒で苦しみながら死ぬ瞬間がおもしれ~のにな、もったいね~がお頭の命令だ。しょうがねぇ。死ね!」
盗賊は持っていたショートソードを
目の前の黒騎士に振り下ろす。瞬間!
「クロ!!」
「ガゥ!!」
クロが猛スピードで走りその勢いを利用して
盗賊の顔にダイビングキック!
「ぶへぇ・・・」
盗賊はそのまま鼻血を拭きながら吹っ飛んだ。
「ふぅよかった、間に合った」
「えっ?な・・・君は・・・?」
「その前に・・・ヒール、アンチポイズン」
手のひらから暖かい光を放ち、黒騎士の体から傷と毒を癒す。
「これは!?助かった・・・!ありがとう!」
よかった俺の魔法でなんとかなったな
「動くんじゃねぇ!!このお嬢様が
見えねぇのか!てめぇいきなり何者だ!!」
「え?おれ?俺の名前はウォードです!
10歳です!!はじめまして!」
「名前をきいてるんじゃねぇ!いきなり現れやがって何様だって言ってるんだよ!」
「なんだよ、何者だって言うから答えたのに。なんか大変そぉだなぁ~って思って助けに入りました、10歳の普通の男の子です」
「ふざけんな!普通の男の子が盗賊の顔面を蹴ったりはしねぇんだよ!動くとこのお嬢様がどうなってもしらねぇぞ!」
「お嬢様!!」
黒騎士さんはお嬢様の護衛なのかな?
さくっと助けて他の倒れてる騎士さんたちも回復させてあげないと
「ねぇ騎士さん、こういう場合ってあの盗賊を殺したら罪になるのかな?」
「えっ、あぁ通常盗賊を殺しても罪にはならないし、ちゃんと褒賞金も出る。だがお譲様を人質に取られてしまっては動きようがない。くそっ!」
「そうか!罪にならないならよかっ・・た!」
「なにをごちゃごちゃ言っ・・・」ドサッ
一瞬だった。盗賊は頭からナイフを突き立て絶命していた。
「もう大丈夫だよ!」
「えっ?!」
俺は盗賊を倒したあとお嬢様が倒れないように支えた、図らずもお姫様抱っこの形で。
女の子って良い匂いするよね
恥ずかしいから言わないけど
「お譲様!!お怪我はございませんか?!」
「私は大丈夫です。ですが・・・護衛の騎士の方々が・・・私の為に・・・」
「みんなまだ息があるから大丈夫だよっと」
俺は騎士を一箇所に集め一気に回復させる
「エリアヒール!エリアアンチドート!」
自分を中心に半径3メートルくらいのサークルが生まれ、その中にいる全員を癒した。
「これでもう大丈夫だよ、流れ出た血は戻らないけど安静にしてればすぐに良くなる」
「重ね重ね・・・本当に助けてくれてありがとう、君が居なかったら我々だけではなくお嬢様も危なかった。だが・・・君は一体何者なんだい?」
「あの・・・もう一度お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
黒騎士とお譲様が俺に聞いてくる。
かなり警戒されてる。困った。
そりゃいきなり現れた奴に警戒しても
おかしくないよな~
「えっと~はじめまして!旅をしている
ウォードと言います!あっちでゴロゴロして
遊んでるのはクロって言います!魔獣だけど
友達です!」
「旅をしている!?さっきも言っていたが君は10歳なのだろう?一人でかい?しかも魔獣が友達?!」
「マシューさん!そんなに質問しては失礼ですよ!申し訳ありません。私はエリアル・エッジワースと申します。この度は助けていただきありがとうございました!」
「あぁ、申し訳ない!わたしはグリム•マシュー。お譲様の護衛をしている。今回は助けてくれてありがとう!」
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですし気にしないでください。それよりも俺も聞いてもいいですか?」
「ん?なんだい?」
「グリムさんって結構強そうだけどなんで倒されてたの?」
「あぁ・・・不覚だった。街道を進んでいると甘い匂いがしたと思ったら体の自由が利かなくなり、まともに動けなくなってしまったんだ」
「あぁ。甘い匂いで体が動かないって言ったらインセクトモスの毒燐粉だね。それでみんなやられちゃったのか」
「ウォード様が助けに入ってくださなければどうなっていたか・・・本当にありがとうございました」
お譲様は何度も何度も頭を下げ感謝していた
「ウォード様って、俺に様はいらないよ///」
「そんなわけには行きません!そうだ!お礼もしたいですし、ぜひ屋敷においでください!お父様にもきちんと説明しなければいけませんし。ぜひそうしましょう!」
「お礼なんていらないですよ、偶然通りかかっただけなんだし・・・」
屋敷とかお父様とか面倒そうだし
さっさと逃げようかな
「お礼にご馳走もご用意させますから!!」
「ご馳走!?行きましょう!すぐ行きましょう!!」
エリアルとグリムはご馳走と聞き目を輝かせる男の子を見て、盗賊を倒した本人とは到底思えないと思いつつも屋敷へ招待できたことを喜んだ。
馬車に倒れていた騎士達を運び入れ街道を進み街へと急いでいた。
「グリムさん、このまま進めば街があるんだよね?」
「あぁそうだよ。このまましばらく進むと自由都市国家ローレルだ、すごく大きくて活気がある街だよ」
「俺、街とか初めてだからすっごい楽しみだ!なっクロ!」
「ガゥ!」
「そういえばウォード様はどうして旅をしていらっしゃるんですか?」
「ん?あぁじーちゃんとばーちゃんの遺言でね。男は10歳になったら旅をしろって言われてさ。俺もいろいろ見てまわりたいから旅をしてるんだ!」
今日から旅をしているとは言えないな。
「なら冒険者になられるんですか?」
「そう冒険者!じいちゃんも元冒険者だって言ってた!冒険者になれって!」
「なるほど、冒険者ギルドがないような田舎だったんだな」
「もうグリムさん!失礼ですよ!」
「魔物を倒してもお金がもらえるんだよね!俺も冒険者になれるかな!?」
「ウォード君くらい強ければ問題ないだろう、街に着いたら冒険者ギルドに行ってみるといい」
「そうします!!」
やったぁ冒険者だよ冒険者!
まじかっこいいわぁ~。
「ほら!街の城壁が見えてきましたわ!」
街道のずっと向こう。あと数キロはあるだろう距離でも確認できるほどの大きさの城壁が見えてきた。
「でっか!!!」
近くで見ると余計にでかい。
城門だけで10メートルはあるだろう。開いてないけど。
「クスクスwウォードさん、そっちの城門はよほどの事がないと開きませんよ。あっちの列が中に入る一般門、その横にあるのが貴族門です、さぁ行きましょうw」
長い行列の横に馬車が通れるほどの大きさの門があり、恐らくこっちが貴族門なんだろうこっちは並ばなくていいが一般の人達は長い行列で結構入るのが面倒なんだな。欠伸をしながらそんな事考えていると
「普段はこんなに並ばなくてもすぐに入れるのだが、最近は物騒な話も聞くから警戒が厳重なんだよ。」
あぁ盗賊に襲われたりするしなぁ。
「次の馬車!前へ!」
「さぁ私たちの番ですよ行きましょう」
「エリアル様、グリムさん
おかえりなさい!一応身分証を
確認させて頂いてもよろしいですか?」
「はい。これが私たちの身分証です。」
「はい、たしかに・・・そちらの子は?」
やべぇ。身分証?
そんなの持ってないよ。
「すいません。俺身分証とか持ってないんだけど・・・」
「ウォード様、大丈夫ですよ。
こちらの方はエッジワース家が身分を保障致します」
「かしこまりました。では確認の為こちらの水晶球に手をかざして頂いてもよろしいですか?」
手に持っていた野球ボール位の
水晶球を俺の前に差し出してきた
「大丈夫だよ、これは犯罪歴がないかどうかを確認する為だけの物だから」
ビビッてるとグリムさんがポンっと背中を叩いてくれた。
恐る恐る手をかざすと、
水晶球はなにも反応しなかった?
あれ?
「この水晶球は犯罪者だけに反応するんだ、反応しなければ問題ないようですね」
なるほど。反応なしが正解なのね
「あぁそれと、馬車の後ろに盗賊の死体がある。盗賊の確認がとれたら連絡をもらえるかな?」
門番の横にある詰め所にて
慌しく衛兵が出てきて確認をする
「こいつらは・・・!!最近この辺りを縄張りにしているヘルク兄弟!こいつらを倒すとは・・・グリムさんお手柄ですね!!」
「いやいや、こいつらを倒したのは俺じゃなく、このウォード君だよ、確認が取れたら褒賞金の受け取りはウォード君に頼むよ?」
「へっ?またまたwこんな子供に
ヘルク兄弟が倒せるわけないじゃ
ないですかw冗談きついですよw」
衛兵もウォードが倒す姿を見た訳じゃない。見た目は10歳の子供だ。信じられないのも無理はない。
「まぁ信じる信じないはいいからよろしく頼むよ」
「はぁ、わかりました。それと・・・
そこのウルフですけど、タグが付いてないようですがどなたの従魔でしょう?」
現在、クロは周りを驚かせないように大型犬くらいの大きさまで小さくなっているため、見た目は従魔ウルフのように見えるようだ。
「あぁこいつは俺の従魔です、それとタグってなに?」
「従魔にはタグを付けるのが常識でしょう、タグが付いていなければ魔物と勘違いされて攻撃されても文句は言えないんですよ?」
なるほど。
街ではタグをつけるのが常識なのか。
「それってここでつける事もできる?」
「あぁ銀貨一枚必要だができますよ」
金?またしてもやべぇ
俺、金持ってないわ。
「えっと・・・お金持ってないんだけどそういう場合はどうしたらいいの?」
「ウォード君?お金を持ってなくてどうやって旅をしていたんだい?」
グリムさんが心配そうに聞いてくるが今までお金がなくても問題はなかった
大抵の物はばーちゃんが作っちゃうしどうしても必要な場合はじーちゃんがどこからか持ってきた。あとから聞いたら、近くの街で物々交換をしているらしい。
「お金がなくても森でご飯は調達できたし、問題ないもんだよ?」
「そういえば街にくるのも初めてって言ってたから、お金も初めてなのか?!」
「だ、だいじょうぶです!クロちゃんにも助けてもらったんですからお金は私が出します!」
エリアルが衛兵に銀貨一枚払うと小屋からタグを持ってきた。
タグといっても銀のネックレスにドッグタグをつけたような簡単な物だった。魔道具のようで大きさも自在に変えられる優れものだ。
体の大きさを変えられるクロにも
安心の作りになっている。
「お譲様ありがとう!お金はあとで稼いで絶対返すよ!」
「いいんですよ。こちらにお誘いしたのも私なんですから、お礼の一部だと思ってください」
笑顔でそう答えるお嬢様。
借りっぱなしは悪いと思ったけど
お礼の一部って言われると
どうしたもんかと考えてしまう
クロにタグをつけてやると
嫌がるかと思ったけど、尻尾が
思いっきり振れてるから
何気に喜んでるみたいだ。
「さてお嬢様、ウォード君そろそろ街に入りましょう旦那様も待ちかねているだろう。」
グリムが二人を急かすように
促すと、馬車はゆっくりと街の
中に入っていった。
「すっげぇー!人がわんさか居るんだね
あっ人族以外も居る!
あのお店はなに?うまそう!
めちゃくちゃいい匂いがする!」
「がう!がうがう!がうわう!」
ウォードとクロはこんなに人が
集まっている所は初めての経験だ。
見るものすべてが珍しく、嗅ぐものすべてがおいしそうに見える。
「ふふふ。ウォード様。そんなに
いろいろ見てたら目が回ってしまいますよ。今日は屋敷でくつろいで頂いて、明日にでもゆっくりとご案内しますから」
お嬢様が先にお屋敷へ行きましょうと促してくる。本来ならこのまま観光したい所だけど、馬車の中には怪我人もいるから今日は諦めよう。
街中をゆっくりではあるが
30分ほど進むとだんだんと
喧騒も聞こえてこなくなり、
大きな建物が立ち並ぶ住宅街に出た。
「あそこの門番のところを過ぎるとそこから貴族屋敷の通りになるんだ。一般人はなかなか入れない所だから人通りも少なくなるんだよ」
グリムさんはここの出身らしく
親切に教えてくれた。
グリムさんは貴族の人だったのか。
「あの屋敷がわたしの住んでるお屋敷になりますわ」
ほぇ~。でっけ~。
これが貴族さまのお屋敷か~
お屋敷をきょろきょろ見回していると中から叫んだような声と共に
メイドの格好をしたおばちゃんが
ぱたぱたと出てきた
「おじょぉぉおさまぁあああ!!
ご無事でしたか!!!」
「えぇボリス。私は大丈夫よ。
盗賊に襲われたところ、こちらの
ウォード様に助けて頂いたのよ」
「盗賊!!お嬢様!お怪我は!
お怪我はありませんか?!」
「ボリス。少し落ち着きなさい。
先ほども大丈夫だと言ったじゃない。それよりも先にお父様へご報告差し上げなければ。きっとご心配されてるわ」
「お嬢様。私は怪我をした騎士達
を連れて下がらせて頂きます
後ほど旦那様へはご報告致しますとお伝えください。クロくんは中に入れないが私たちの小屋の横に厩舎があるからそこに案内しよう。ごはんも用意するよ。」
そうグリムは言うと
馬車の中にいる怪我をした騎士を連れて別の場所に移動していった。
あとでお嬢様に聞いたら、敷地内に
騎士専用の施設があるみたいだ。
クロもグリムさんの事を信用してる
みたいで大人しく付いていった
「さぁウォード様。中に入りましょう」
お嬢様は俺の手を引っ張るようにして玄関を入っていく
玄関から中に入ってからもすごい
正面真ん中には階段があり、さらに
奥で左右に分かれる階段だ。
宛ら豪勢なホテルを彷彿させる豪華さだな。
「エリアル!」
階段の上からお嬢様を呼ぶ声が聞こえてきた。あの人がお嬢様のお父さんかな?
髪の毛がシルバーグレイであごひげを
生やしてるおじさんだ。
格好はあんまり豪華ではなくどちらかというと質素な洋服だ。
「帰りが遅いから心配したぞ。ん?
そちらの子はどうしたんだい?」
「お父様。ご心配おかけしました。
帰りの道中に盗賊に襲われまして
騎士の方々も倒されてしまい、危ない
所をこちらのウォード様にお助け
頂いたのです。とてもお強いんですよ?」
お父さんはとても驚いた顔をして
こちらを見ている。
まぁ疑うのも無理はないよね~
「えっとはじめまして。ウォードと
いいます。10歳です。」
「おぉそうか。私はカイゼル・エッジワース公爵家当主だ。娘が世話になったようだね。今日は疲れただろうが、食事を用意させるから少し話を聞かせてもらえるかな?」
「はい。わかりました。ただその前に
井戸をかしてもらえますか?
ちょっと体が埃っぽいので水浴びを
したいんですけど」
「その心配には及ばないよ。風呂もあるから浴びてくるといい。誰か!ウォード君を部屋に案内しなさい」
「かしこまりました」
ススっとメイドさんが前に出てきた
メイドさんって神話のお話じゃなくて
本物が存在してたんだね
「えっ?!お風呂あるの?!
入っていいんですか?!」
めっちゃうれしい!
家ではじーちゃんが掘った温泉が
あったけど、街でお風呂に入るのは
当分無理だろうと諦めていた
「ふふふw大浴場もありますけど
お部屋にも小さいですがお風呂が
付いていますから、お好きに入ってくださって大丈夫ですよ」
「お譲様!ありがとう!行ってくるよ!」
俺はメイドさんに連れられて
部屋に案内された。
部屋もすごく広く、この部屋だけで
前に住んでいた家以上の広さだった
「お風呂の使い方はご存知でしょうか?お背中はお流しいたしますか?」
「えっ?いいです!大丈夫です!
一人で入れますから!
使い方だけ教えてください!」
こんなメイドさんと一緒にお風呂なんてどんなギャルゲーだよ。小心者の俺には絶対無理だわ
湯船だけでも人一人が足を伸ばして
入れるくらいの大きさで、無理に大浴場に行くことも無かった。使い方を聞いたところ
魔石がふんだんに使われているらしく
一回入るだけで銀貨一枚相当の
お金がかかるそうだ。
やっぱり貴族ってお金持ちが多いんだろうなぁ・・・
お風呂から上がり着替えようと思ったら着ていた服がない?あれ?どこやったっけ?
「着てらっしゃったお召し物は
汚れてらっしゃったので洗濯させて
いただきました。代えのお召し物を
ご用意させていただきましたので
こちらをお使いください」
「そんなに汚れてたかな・・・」
「えぇかなり」
一応魔法で毎日きれいにしている
つもりなんだけど、本場のメイドさん
からみたら汚れてるように
見えるんだなぁ
用意されていた洋服はシャツにズボンと簡素な作りだが、生地にいいものを使ってるようで肌触りがかなり良い
汚して弁償とかになったら嫌だから気をつけよう。お金なんて持ってないし
「それではお食事のご用意もできております。旦那様もお待ちですのでご案内いたします」
「お嬢様がご馳走を用意して
くれるって言ってたから楽しみだ!」
「はい。当家のシェフも腕によりをかけて作ったと申しておりましたのでご堪能いただければ幸いです」
ほんとに楽しみだ!
ばーちゃんの料理ってまずくはないん
だけど、なんか足りないんだよな!
焼く!以上!って感じだしね
おいしいんだけどね
調味料とかスパイスが圧倒的に
足りないんだよな~
大部屋に通されると中から旦那様
の声とお嬢様の声が聞こえてきた
「おぉ来たか!さぁ座ってくれ!」
「ウォード様!お風呂はどうでしたか?それとお洋服もよくお似合いですよ!」
笑顔で旦那様と一緒に迎えてくれた
「ありがとうございます!お風呂はすごく気持ちが良かったです!」
「よろこんで貰えたようで何よりだ!
さぁさぁ、お腹も空いただろう今日はいっぱい作らせたからな存分に堪能してくれ」
縦に長い机の上には
豪華な食事が並べられていた
どれから食べればいいのか迷うくらい
それはもういっぱいの料理だ
「いただきます!」
「?いただきます?」
「ウォード様?いただきますってなんでしょう?」
そっか、国によって食べ方とか作法とか違うのかな?じーちゃんとばーちゃんは神に感謝いたします。って言ってたし俺がいただきますって言い始めてからは二人ともいただきますって言ってたから普通なのかと思ってた
「えっと、いただきますってのは食材や作ってくれた人に感謝しますって意味で
食べ終わりには、ごちそうさまでしたって言って感謝の意味があるんだよ
俺が住んでいたところの慣わしです」
「ほぉう面白い言い方があるもんだね」
「えぇそうですね私も使ってみてもいいですか?」
「はい!田舎の慣わしですから
気兼ねなく使ってください!」
「では」
「「「いただきます」」」
「ふふふw」
「はっはっは」
「あはは」
やっぱり食事は一人よりも
みんなで食べるほうが楽しいな
豪華な食事はすっごくおいしかった
ふんだんに使ったスパイス
技巧を凝らした料理
やっぱり料理人には敵わないな
今度教えて貰えないかな?
「さて、食事も大体終わった所で
ウォード君の事を聞いてもいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ?」
「うん。大方のところはエリアルに聞いて把握した。今回はウォード君に助けられた。本当にありがとう」
「いえ、お嬢様にも言いましたがたまたまそこを通っただけですし、こうしておいしいご飯も食べられましたから満足です」
「いや、たまたまでもウォード君が通ってくれなければ今頃どうなっていたことか・・・感謝をしてもしきれない。失礼だとは思ったが、これを受け取ってはもらえないか?」
机の上にドサッと皮袋が置かれた。
「これは??」
「中に金貨50枚が入ってる。
ぜひ受け取ってほしい」
金貨50枚!?
えーとー・・・
銀貨が100枚で金貨1枚だから?
銀貨5000枚!!
どんだけだよ!!
「いやいやいや!!こんなに貰えませんよ!!ご飯だってご馳走してもらったのに、お金までいらないです!」
「いいんだ。ぜひ受け取ってくれ。
エリアルの母親は今病気でいつ死んでもおかしくない状態だ。その上エリアルまで居なくなったら私は生きていけなくなるところだった・・・」
病気?
「お嬢様のお母さんは病気なんですか?」
「えぇ・・・体がだんだんと石に変わってしまう病気で、今も部屋で寝ています。この街の医師様も治し方がわからなくて、途方にくれていた所、港町クリハルに戦神様がいらっしゃったと噂になり、その奥方様の魔神様ならもしや治せるのではと思い馬車を走らせたのですが、もう港町にはいらっしゃらなかったのです」
お嬢様が目に涙を浮かべ悲しい顔で下を向いてしまった
戦神?魔神?
どっかで聞いたような?
「その戦神様と魔神様って?」
「ウォード様はご存知ないのですね、戦神様と魔神様は祖父の時代に活躍されていたすごい冒険者様のことです
戦神様はウィリアム・エンフィールド様
魔神様はオリーブ・エンフィールド様
お二人とも生きてらっしゃれば
90歳とご高齢ですがとてもお若い方たちだと聞いております、オリーブ様ならば治療方法もご存知なのではと思ったのですが」
「あぁ、じーちゃんとばーちゃんの事か」
「!!!」
「ウォード様!?今なんておっしゃいました!?おじいさまとおばあさまと!?」
「うん。俺の名前はウォード・エンフィールド、その二人は俺のじーちゃんとばーちゃんの事だね」
「なんと!!これも神の起こした奇跡なのか!!してお二人は今どちらに!?」
「えっと・・・一週間くらい前に亡くなったんだ・・・期待させてごめんなさい」
「そ・・・そんな・・・もうお二人しか希望はなかったというのに・・・あぁぁぁああお母さまぁぁあああ」
お嬢様はその場で泣き崩れてしまった
悪いことしたなぁ・・・
「そうか・・・もうお二人は亡くなっておられたか・・・くっ・・・これで助かる見込み潰えたか・・・」
う~ん、でも、たしかばーちゃんが書いた本の中にそういう病気の対処法とか書いてあったはず?だめもとで試してみるか?
「あのぉ・・・確信があるわけじゃないんだけど、俺でも治せるかも?」
「!!本当かい!?」
旦那様に肩を抱かれてぶんぶんと前後にゆすられている
うぇ〜やめて~めがまわる〜
「ウォード様!?」
「はぁ〜うん俺はじーちゃんとばーちゃんに鍛えられたから、そういう知識も覚えさせられたんだ。治療の本も持ってるし、駄目もとで診て見たいと思うんですけど・・・どうですか?」
「ウォード様!!ぜひ!お願いします!こちらです!さぁ早く!!」
「お嬢様!そんなに引っ張らなくても逃げないからや~め~て~~」
屋敷の一室。
そこにはとてもきれいな女性がベッドの上でメイドに寝ながら食事をされていた。見たところ、もう腕も足も動かせないようだった
「あらエリアル、あなた、お友達かしら?こんばんわ。こんな格好でごめんなさいね?」
「お母様!こちらはウォード様です!お母様の病気を見てくださるとおっしゃってくれた方ですわ!」
「あら?病気を?ふふふwありがとうwでも大丈夫よ。今日はとても気分がいいのよ?」
「はじめまして。ウォードといいます。失礼だとは思ったんですけど、治せるかもしれないので診せてもらえませんか?」
「ウォード君を信じて一度みてもらおう。なっ?」
旦那様もわらにすがる思いなんだろうな
半信半疑でも10歳の子供に診せようとしてくれている
ベットに横たわる奥方様の頭に手を置いて診療を始めてみる
まずは身体の状態確認からだ
右手からは水色の暖かい光が出ており
そのまま奥方様の体全体を包み込む
やがてゆっくりと光は収まり
ウォードはふぅっと息を吐いて深呼吸をした
「うん。やっぱり石表条奇病だね」
鞄から一冊の本を取り出し、中を確認し症状と治療法を確認する。
「治るんでしょうか?!」
「うん。大丈夫だと思うよ?そんなに難しい病気じゃないからね。今から薬を作るからちょっとまっ!?」
「ウォード様ぁあああ!!!」
お嬢様がいきなり抱きついて泣き出した。女の子に抱きつかれた経験なんて、しかも、泣かれながらなんて初めてだ
「ちょ、ちょっと落ち着いてよお嬢様!じゃないと薬が作れないよ!」
「ウォード君!!本当に?本当に治るのかい!?」
旦那様も肩を揺らすのやめて~。
うぇおぇ・・・
「だっい・・じょうっぶですから離してくださいぃ~~~」
「す、すまん!!つい興奮してしまってな!!」
「ぐすん、はい、申し訳ありません。わたし、うれしくて・・・くすん」
ふぅ、やっと薬が作れるよ
えっと~材料はっと・・・
綺麗な水
マンドラゴラ
ジャイアントバットの羽
アカイモリの爪
竜の肝
...etc
「竜の肝だと!!そんなものこの街でも手に入るかどうかわからんぞ!?」
「あぁ大丈夫ですよ。全部持ってるから。竜ならなんでもいいんで、持ってるのは地竜の肝だけどね」
「まさかそんな・・・そんな物まで持っているなんて、君は一体何者なんだ?」
「俺?ただの10歳の男の子ですけど何か?」
夜も遅くなりつつあるけど
薬を奥様に作る
ばーちゃんに薬学と錬金術を叩き込まれてるから薬を作るのもそう難しくはないけど
作ってる最中は興味津々なギャラリーでいっぱいになって集中するのが大変だった
次の日の朝、作った薬を奥様に飲んでもらいしばらくすると手足の感覚が少しづつ戻ってきたようだった
「奥様、元気になりそうでよかったなぁ~」
「がぅわぅ」
俺はクロと一緒に庭でひなたぼっこをしていた。クロと一緒に観光でもしてきてもいいかなとは思ったんだけど、ここ自由都市国家ローレルはかなり広い。一度外に出たら迷いそうだしなぁ〜うーん
ガキィン
キィン
ヒカキィン
ん?なんだろう?剣を打ち合う音?
「そんなんだから盗賊なんぞに後れを取るんだ!気合を入れんかぁあ!」
おぉ黒騎士の人たちが鍛錬してる
いいなぁ。楽しそうだなぁ
「うん?ウォード君じゃないか、そんな所でどうしたんだい?」
こちらに気がついたグリムさんが
汗を拭きながらこちらに声をかけてくれた
「やぁグリムさん。剣を打ち合う音が気になって見に来たんだ。みんなで鍛錬してるの?」
「ああ。そうだよ。我々は騎士団だからね
常に鍛錬を怠らないようにしているんだよ
そうだ!団長に紹介するよ!君の事を話したら会ってみたいって言っていたからね」
そう言うと先ほど鍛錬を指導していた男の人になにやら話しをしている
あの人が団長さんなのかな?
上半身は鎧をつけていないから
よく分かるけど、すごい鍛えられた体つきをしている
年齢は40歳くらいかな?
あっ。こっちくる。
「やぁ君が噂のウォード君か
はじめまして。私は黒騎士団の団長
を任されているグランツ・ハイルだ
よろしく」
「はじめましてウォードです
俺の噂?」
「ふむ、君が昨日、黒騎士団でも
苦戦した盗賊を一瞬で倒したと聞いてね?」
「あぁ、あの盗賊?だってあれは相手の策略で騎士さん達を毒を使って動けなくしてたから不覚を取っただけでしょ?俺は毒をやられなかったから動けただけだよ」
まぁそれでも俺には毒は効かないけどね
ばーちゃんから毒の耐性修練を受けてるてるし、それで何回死にかけたかわからないけど・・・
「謙遜だな、グリムから話を聞いた限りでは、班長クラスのグリムでも目で追うことができない速さだったとね」
団長さんは俺の事を観察しているようだったが決心したようにうなづいた
「よし!ウォード君!ひとつ私と腕試しをしないか?」
「腕試し?」
「そう、使うのはこの木剣だ!
どちらかがまいったと言うまでが勝負
どうだい?やってみないか?」
「なにそれ!おもしろそう!!やるやる!」
じーちゃん以外と勝負なんてはじめてだ!見た感じグランツさんはかなり強い!おれの剣技がどこまで通じるのか試すいい機会だ!
「ちょ、、、団長!相手は10歳の
子供ですよ?!木剣とはいえ団長相手では敵うわけないじゃないですか?!」
「グリム・・・お前もまだまだだな
ウォード君を10歳の子供だと思ってる時点でお前に勝ち目はない
この子は相当鍛えてるぞ、俺が勝てるかどうか怪しいくらいにな」
「えっ?!」
グリムは驚愕した。
団長はこの国でも3本の指に入る
ほどの強い武人だ。その団長ですら
勝つことが危ういと言っているのだ。
「よし!ウォード君!はじめよう!」
「はい!よろしくおねがいします!」
「ルールは簡単だ。魔法なし。身体強化もなし。純粋に剣のみで戦う勝負だ!勝敗はどちらかがまいったといった時点で決着とするいいかな?」
「わかりました!」
「よし!グリム!合図を出せ!」
「はい!ではいきます。
・・・はじめ!!」
ウォードは木剣を斜に構え相手の出方を観察している。グランツがどういう戦い方をするのか分からない以上、下手に前に出ては返り討ちにされるだろう。
一方グランツは正眼に構えジリジリと
ウォードとの距離を詰めようとしている
「来ないのか?ならば、こちらから行かせてもらおう!!」
グランツは一気に間合いを詰め
木剣を突き出すようにウォードの顔面めがけて突いた。
ウォードもそれを見切っており、首をひねる事もなく体重移動だけでなんなくかわすとその勢いを殺さないように横薙ぎに振ろうとする。が!グランツの木剣が顔の横をすり抜ける瞬間に軌道が変わり、突きから横薙ぎに変化しウォードの顔をさらに狙ってきた
「やばっ!・・・」
ウォードは木剣の腹を使い、グランツの攻撃を受けると、体格とパワーの差でそのまま吹き飛ばされてしまった
「ウォード君!!」
グリムが心配そうな声をあげるが
吹き飛ばされたウォードはそのまま
立ち並ぶ木箱に突っ込んでしまった。
ドガシャーーン
「私の二の太刀を初見で破るとはなかなかすごい子だな」
「団長!やりすぎですよ!相手は子供なんですから!!」
「馬鹿を言うな。ウォード君を子供と思って油断していたらこっちがやられてしまう」
そう言いつつ吹き飛んだウォードの方向から目を離さず構えも解かずに応えた
「ちぇっ・・・油断してたらこっちから攻撃したんだけどな」
ウォードはグランツが隙を見せたらそのまま攻撃してやろうと木箱から様子を伺っていたのだ
「ふっふっふ。まだやるかね?」
「もちろん!まだ、まいったって言ってないしね!」
「はっはっは!ではいくぞ!」
「今度はこっちの番だよ!」
ウォードは低い姿勢のままに
グランツへ迫った。
その勢いで足を狙って横薙ぎに振るうがグランツの剣に阻まれ足に当たることはなかった
「なんの!これしきの攻撃ではやられんぞ!」
「まだまだこれからさっ!」
ウォードの剣を止めたが勢いは止まらず後ろを取られたと思い振り返ったが
さらにウォードはスピードを上げて
グランツの死角に入った
「しまった!」
ウォードはグランツの死角から飛び出し全体重を木剣に込めて振り下ろす
グランツも下から振り上げるように
木剣でウォードの攻撃を受け止めた
・・・が
二つの木剣が重なり合うと同時に
木剣が音を立てて砕けてしまった
ガカガァーン
「引き分け・・・かな?」
「そのようだな・・・?」
二人が会話を交わすと
周りで見ていた黒騎士団面々が
歓声をあげた。
「すっげ~戦いだった!!」
「俺早すぎて見えなかったよ!」
「木剣じゃなかったらどっちが勝っていたんだ?!」
「そりゃ団長に決まっているだろう!」
「いやいやウォード君のスピードも
捨てたもんじゃないぞ!」
わいわい
がやがや
「ウォード君!怪我はないかい?!
団長もやりすぎですよ!」
「あはは!グリムさん。大丈夫だよ
団長さんも手加減してくれてたし、怪我しても自分で治せるしね」
「いやぁウォード君の強さは本物だな
なんでもありの勝負ならおそらく負けていたのは私のほうだろうな」
「いやいや、じーちゃんも言ってました。経験に勝るものはないって。団長さんの強さはこんなもんじゃないと思うしね」
ウォードとグランツは握手をしながら
健闘を称えあった。
いやぁ~楽しかったなぁ~!
やっぱり世の中は広いや!
こんなに強い人がいるなんて
思ってもいなかったよ
「ウォードさま~?」
「あれ?お嬢様?どうしたの?」
「あっ!ウォード様!こちらにいらっしゃったのですね」
「うん。団長さんに手ほどきを受けてたんだ。どうしたの?なにか用事?」
「そうですわ!お母様がベッドから起きられるようになったのでご一緒に昼食はいかがでしょうかとおっしゃっておりまして」
「へぇ。もう起きられるようになったんだね。それはよかった!じゃぁお昼ごはんをご馳走になろうかな!」
「はい!いきましょうw」
「ウォード君。10歳であの強さか。
今後が楽しみでもあるが・・・危うい強さでもあるな。」
「団長・・・?」
グランツはウォードを見ながらそう呟いた
今後の成長でどう変化するのか、楽しみでもあり心配でもあるのだ
「お母様!ウォード様をお連れしました」
「こんにちわ!元気になったみたでよかったねですね」
「ちゃんとした挨拶もせず、申し訳ありませんでした。私はカイゼル・エッジワースが妻、ミレーヌ・エッジワースと申します。さぁ、こちらにお座りくださいませ」
屋敷の一室。
簡単に挨拶をしながらテーブルに腰掛けた
奥様の顔色を見る限り、経過は良好のようだ。旦那様に支えられながらもきちんと立って挨拶してくれた
昼食はサンドイッチやコーンスープと軽食だったがおいしかった
俺のためにがっつりと食べられるようサンドイッチの中身は何種類かあり、シャキシャキの野菜やがっつり肉系を挟んだものまであった。全部はさんだBLTのようなものまであったのですごく満足だ。
食後には紅茶をだしてもらい、テラスでのんびりと会話をしながら楽しんだ。
「ウォード様この度はなんとお礼を申したらよいか、本当にありがとうございました。しかも貴重な材料を薬に使って頂いたとの事。このお礼はどのようにしたらよいか、想像もできません」
「いやいや。元気になったんならそれでいいですよ。材料はもともと持っていた物だし気にしないでください。」
クロと一緒に魔の森で鍛錬してる時に集めてた物だから、鞄の中にまだまだ大量に持ってるんだよね。俺にとって貴重でもなんでもないんだよなぁ
「ウォード君には本当に感謝している
エリアルを助けてもらい、あまつさえ妻も助けてもらったのだ。これも神の奇跡としかいいようがない。本当にありがとう!」
貴族であるカイゼル公爵が一般市民に頭を下げることはないが、命の恩人であるウォードに対して頭を下げることを厭わない
「もう頭をあげてください。俺は偶々お嬢様を助けて、偶々奥様を助けられただけです
こうしておいしいご飯も食べられたし、お嬢様の元気な笑顔も見れて満足してますから
気にしないでください」
「欲がないのだな・・・だが今回のお礼として、こちらを用意させてもらった」
カイゼルが机の上に1枚のコインとカイゼル公爵家の紋章が入っているナイフを置いた
「白金貨とカイゼル家証だ」
「白金貨?証?・・・えっと白金貨ってなんですか?あと証ってなに?」
「まぁ知らないのも無理はないな、一般にはあまり流通しておらんしな。白金貨は金貨100枚分の価値で、証はカイゼル家が後ろ盾になっているという事を示す事ができる。貴族の、しかも公爵家の後ろ盾など不要かとも思ったが、今後ウォード君の助けになるやもしれんと思ってな。なにかあったらこれを見せれば大抵の問題は解決できるだろう」
「金貨100枚分!?えっと?金貨が銀貨100枚だから?銀貨1万枚?!そんなにもらえないよ!」
「いや、むしろ少なくて申し訳ないくらいだ。公爵家と言っても湯水の如く金が使えるわけではないのでな、その代わりと言ってはなんだが、我が公爵家の証を用意させてもらったのだ。ぜひ受け取ってくれ!」
「でも・・・」
「ウォード様。お金は今後、旅をしていれば必要な場面も出てくるでしょう。その時に後悔しない為にも持っておくべきです。剣証もそのひとつです。使わないにこした事はありませんがいざと言うときにお使いください」
ミレーヌが諭すようにやさしく答えてくれた。たしかにお金も剣証も持っていて損にはならない物だ。
「わかりました、ありがたく頂戴します」
「受け取ってくれるか!そうか!よかった
これで断られたらどうやってお礼をしたらよいか頭を悩ませるところだったわ!はっはっは」
「もうあなた!はしたないですよ!」
「いやいや!すまんすまん。はっはっは」
「これで断られたらエリアルをお嫁にでも差し出すしかありませんしね。エリアルもまんざらでは無さそうですし」
「おぉ!それはいいな!どうだウォード君!エリアルと結婚しないか?」」
なっ!・・・おいおいこの夫婦はいきなり何を言い出してるんだよ!
俺はまだ10歳だよ?結婚なんてまだまだ先の話でしょうが!
「ちょっ!!お父様!お母様!!いきなり何を言い出すんですか!ウォード様も困ってらっしゃるではありませんか!!」
「はっはっは!冗談だ。冗談!はっはっは」
「ふふふw私は冗談じゃないですけどね・・・ボソッ」
なんか奥様の目が怖いんですけど・・・ギラッって光ったような気がするんですけど・・・
「ま、、、まぁ冗談はさておき、ウォード君は今後どうするんだ?旅を続けるのか?この国に留まってやっていくのか?」
「う~んまだ決めてはいないんだけど、しばらくはこの国でやって行こうと思ってますね冒険者にもなりたいし、この国にはまだまだ強そうな人がいるみたいだし」
「そうか!ならばいつまでもこの家に住んでいてよいからな!ウォード君はこの家の恩人なのだ、放り出すことなど出来んよ!はっはっは。」
「そんな!悪いですよ!お金も貰ったんだし、どこか安めの宿でも探してみますよ」
こんなにお世話になってるんだ、これ以上迷惑をかけられないよね
「そんなさびしい事をおっしゃらずに、ここを我が家だと思って使ってください。なんなら私の事はミレーヌおばさんと呼んでくださいませ!」
「なら私はカイゼルおじさんだな!」
「でしたら私の事は呼び捨てでエリアルと呼んでくださいませ!」
なにを言ってるんだこの家族は・・・
「そんなこと言えるわk・・・」
「ミレーヌお・ば・さ・ん!!」
「はいっ!ミレーヌおばさん!」
「よろしいw」
まじこえぇー。あの目やべぇー
逆らったらなにされるかわからない
ばーじゃんと同じ目してたわー
まじでやべぇー
「はっはっは!・・・ミレーヌには逆らわないほうが身のためだぞ・・・ボソッ」
「うん、気をつけるよ。カイゼルおじさん」
「あっ!ずるいですわ!わたしの事も呼んでくださいませ!」
「わかったよエリアル。これでいい?」
「はいっ!ふふふw」
こうして、自由都市国家ローレルでの
日常ははじまった。
翌朝。
「あら?ウォード様?どちらに行かれるんですか?」
「おはよう。エリアル。朝ごはんも食べたから街に行こうと思ってね。エリアルも一緒に行く?」
「あぅ・・・申し訳ありません。行きたいのはやまやまなのですが、今日から学校が始まるのでそちらに行かなければいけないのです」
エリアルは貴族学校の休みを利用して母の病気を治そうと行動してたようだ
「そっか。それならしょうがないね。じゃぁクロと一緒に行って来るよ」
「次のお休みには絶対にご一緒しますので!」
「そんなに気にしないでいいよ。じゃあ行って来まーす。」
「はい、行ってらっしゃいませ」
貴族街を出てからメインストリートを目指して歩いていると、朝早くでも店の開店準備に働く人や露店のお店がいい匂いをさせていたりと人通りがだんだんと多くなって来た
「まずは冒険者ギルドに行って登録をしなくちゃな〜、ギルドカードを作れば身分証になるって聞いたからね。そういえば冒険者ギルドの場所ってどこなんだろ?しまったな、聞いてくれば良かった」
「ガゥガゥ!」
「ん?どうした?」
メインストリートに出る前にクロが何かを見つけたようだ。
「ガゥ〜」
クロが1つの露天の前で尻尾を千切れんばかりに振りまくってる。
「おいおい。ちゃんと朝飯は食って来ただろうが、、、もう、しょうがないな・・・おじさん!2個ちょうだい!」
「あいよ!あつあつを出すからちょっとまってくれよ〜!」
作っている所を見ると、薄い生地に野菜と鶏肉に似たような肉にタレを絡ませて挟んでいる。ケバブに似たような食べ物だった
「はいよ!おまち!!」
「おぉうまそう!!ほら熱いから気おつけて食べろよ」
「ガゥガゥ」
クロに食べさせながら俺も一口食べてみるとジューシーな肉汁がタレと絡まって野菜の甘みと混ざり合いすごく美味しかった
「これすごく美味しいね!なっクロ!」
「ガゥ〜!」
「おっ!嬉しいこと言ってくれるね!この秘伝のタレの味にはちょっと自信があってな!」
おじさんは嬉しそうににこにこ笑いながら教えてくれた
「そうだ。ちょっと道を教えてくれない?冒険者ギルドに行きたいんだけどどうやっていけばいいの?」
「冒険者ギルド?それならこの道をまっすぐ行くとメインストリートに出るからそこを左に曲がって少し行った所に大きい建物が見えたらそこが冒険者ギルドだ」
「おっ結構近いんだね。ありがとう!」
「おう!また来てくれよな!」
愛想のいいおじさんだったなぁ
あのケバブもどきも美味しかったし、今度エリアルも連れてきてあげよう!
露天のおじさんが教えてくれた道順でしばらく歩いていると、この辺では珍しいほどに大きい建物が建っており、看板には剣と盾と杖が描かれ冒険者ギルドと書いてあった
ここが冒険者ギルドかぁ。朝早いけど、人の出入りが結構頻繁にあるんだなぁ
扉を開け中に入ると手前に長いカウンターと奥には酒場のような施設があり、この時間でもお酒を飲んでいる人たちがガヤガヤとしていた。
このカウンターで聞いてみようかな
「あのすいません」
「はい。冒険者ギルドへようこそ。ご依頼でしょうか?」
おぉ頭に長い耳が生えてる!
兎獣人の人かな?
「いや、冒険者登録をしたいんだけどどうしたらいいの?」
「えっ!?冒険者登録!?失礼ですがおいくつですか?」
「俺?10歳」
「10歳ならば登録は可能ですが、冒険者は危険な仕事ですのでやめておいた方が・・・」
「あぁ大丈夫だよ!俺、鍛えてるからね!」
兎獣人のお姉さんは困った顔をしているが、それもそうだろう。ウォードの見た目はまだまだ子供なのだ。心配するのは当然である。
「おいおい!坊ちゃんよぉ〜。ここは遊ぶ場所じゃねぇんだよ!!さっさとお家へ帰りな!ミミルさんが困ってるだろが!!」
先ほどまで酒場で飲んでいた冒険者の1人がこちらにやって来て絡んで来た。
ウォードはこの受付のお姉さんはミミルさんっていうのか。と的外れな事を考えていた。
「別に遊びで冒険者になろうとは思ってないよ?面白そぉとは思ったけどね?」
「なんだとこのガキ!!ぶっ殺されてぇのか!!」
「ちょ…ダイルさん!相手は子供なんですから!!」
ミミルが止めようとした瞬間、ミミルの後ろから凄い殺気を感じたと同時に怒号が聞こえて来た。その殺気はウォードとクロが身構えてしまうほどに強かった
「うるせぇぞ!!何を騒いでやがる!!」
「ま、マスター!」
マスター?この人がギルドマスターなのかな?やばい程の殺気だったからつい臨戦態勢取っちゃったよ
クロの頭を撫でながら落ち着けと声をかける。だんだんと普段通りになってきたけど、尻尾はまだぴーんってなってるな
「おいミミル、説明しろ」
「は、はい!こちらの子が冒険者登録をしたいといらっしゃったのですが年齢を確認したところまだ10歳との事だったので冒険者は危険もあるからと断ろうとしたんですが大丈夫と。そこで私が困っているのを見てダイルさんが・・・」
「あぁもういい。大体わかった。おいダイル、ミミルも聞いとけ。こいつはお前らが思っているような10歳の子供じゃねーぞ。その位もわからねぇんじゃ話にもならんな」
「えっ?このガキが!?」
「うそっ!?」
「ったく、だから万年Cランクなんだよ。このガキはお前よりも強いって言ってるんだ、おいミミル、このガキの登録をしてやれ!それと今回の責任を取って今後はお前が担当しろ!」
「で、でも!私は担当を持つのは・・・」
「これは命令だ。いいな!」
「・・・わかりました」
「それからそこのガキ!」
「はぁ〜さっきからみんなでガキガキって俺にはウォードって名前がちゃんとあるんだけどね!」
「くっくっく。俺の殺気に身構える奴はガキで十分なんだよ」
むっとしつつも身構えたのは事実なので言い返すこともできない
さっきはちょっとビックリしただけだもんね。殺気なだけに・・・ごめんなさい
「グランツのやつからお前の事は聞いている。ここは生き死にがある現場だ、半端な気持ちでやりやがったら承知しねぇぞ」
そう言うとギルドマスターは笑いながら二階への階段を上がっていった
団長の知り合いなのかな?どうりで・・・
この数日で強い人に2人も会っている事に戸惑いもあるが嬉しさのようなものの方が勝っていると感じ、俺もじーちゃんの孫なんだなと実感していた
「そ、それでは改めましてウォードくんの登録をします。私はミミルといいます。よろしくお願いしますね。」
「はい!ウォードです。よろしくお願いします」
「ではまずこちらの水晶に触れてください」
これは街に入るときに触った水晶と同じかなのかな?
ウォードは二回目というのもあり、水晶に驚く事もなく触れると水晶が光りだした
「えっ?俺、犯罪なんかしてないよ!!」
街に入るときに触れた水晶は光らなければ犯罪者ではないと判断する水晶だったが、今回は光ってしまった。
「ウォードくん!落ち着いてください
この水晶は城門に設置してある水晶とは別物です。触れた本人の能力をカードに映し出す水晶になるんです」
ミミルが簡単に説明してくれると、水晶から一枚のカードが現れた
「これがウォード君のギルドカードになります。書いてあるのは本人の名前、ランク、
ステータス、魔法スキル、加護が自動で反映されます、そちらの従魔のステータスも反映されますのでご確認ください。それと見せたくない事はカードに触れながら考えるだけで隠せますのでご活用ください。さらにギルドカードはお金を保管できる機能も付いています。こちらも触れながら考えるだけで簡単にできるようになっております。」
「ふ~んすごいねー」
俺はばーちゃんから俺専用の魔法鞄<マジックバック>をもらったからイマイチすごさがわかんないなぁ。でもお金だけでも入れといたほうが便利かな?
どれどれ?ギルドカードを確認してみよう。
ウォード・エンフィールド
ギルドランク:G
種族:人間
体力:A
筋力:B
敏捷:S
物耐:A
魔耐:A
魔力:S
《魔法》
・火魔法
・水魔法
・風魔法
・土魔法
・光魔法
・闇魔法
・身体強化魔法
・空間魔法
《加護》
戦神の加護
魔神の加護
《従魔》
クロ
種族:フェンリル(幼体)
体力:A
筋力:A
敏捷:S
物耐:B
魔耐:B
魔力:A
おぉ~!ステータスがひと目でわかるって
簡単でいいね。あぁでもじーちゃんがそういうのに頼らないできちんと鍛錬していれば関係ないって言ってたな。俺もちゃんと鍛錬して頼らないようにしよっと
「どこか問題でもありますか?」
「うん。大丈夫だとおもうよ?」
「そうですか。では依頼クエストの説明に入らさせていただきますね。ウォード様の現在のギルドランクはGランクになります。これは冒険者ギルドに登録されるとGランクからのスタートになります。あそこの依頼クエストボードに張られているGランクの依頼クエストであれば受ける事が可能ですが、ご自身のランク以上の依頼クエストをお受けになる場合にはギルドマスターの承認が必要になりますのでご了承ください。通常はボードに張られている依頼クエストをこちらのカウンターで承認を受けてからクエストへ出発となります。依頼が完了した場合もこちらのカウンターにて完了報告をしていただき、依頼料のお支払いとなります。クエストにて魔物を討伐した場合はその魔物の討伐部位をもってきていただければ確認終了となります。そのほかにも依頼内容とは別の魔物の素材や討伐部位を持ってきていただければお隣の換金カウンターにてお支払いすることも可能です。お支払いは現金かカードへの振込みを選ぶことが可能ですが、ギルドカードへの振込みを推奨しております。不正を防ぐためですね。以上で依頼クエストについての説明を終わりますが何かご質問ありますか?」
なっげぇ~・・・覚えられないよ。
ばーちゃんの授業でも覚えられないことがいっぱいあったのに、こんなに一気に無理だよ
「えっと・・・まず・・・」
「はい。どうぞご遠慮なさらずに聞いてください」
「じゃぁ、その敬語をやめてもらってもいい?」
「えっ?!」
「いやぁ俺が敬語って苦手だからさ
ミミルさんもそうしてくれるとありがたいかなぁって・・・」
「ふふふwお言葉に甘えてそうしようかな?w」
「うん!それがいいよ!それとクエストの事とかはわからなくなったら聞くから教えてくれるとありがたいかなぁ~」
「わかったわ。それならいつでも聞いてね」
「そうだ!魔物の素材を買い取ってくれるって言ってたよね?今からでも大丈夫?」
そういえばマジックバックの中にいらない魔物がわんさかいるから換金してもらえたらありがたいなぁ。
「えぇもちろん!それで素材?討伐部位かな?ここに出して貰ってもいいかしら?」
「えっと・・・ここじゃいっぱいになっちゃうかな~?」
「えっ?じゃあ隣の換金カウンターで出して貰える?」
「わかった、出すよ~?」
ウォードはマジックバックから魔物の素材や討伐部位ではなく、魔物そのものを出していく
まずは~ゴブリンからかな、こいつって弱いくせにやたらと多いから回収するのが面倒なんだよね、えっと~1体、2体、3体、4体~・・・32体、33体
「・・・ウォード君?なにやってるの?」
「えっ?出せっていうから出してるんだけど?」
「それマジックバックだったの?!」
「そうだけど?」
「ちょ...まって!!だめ!ちょっとこっちにきなさい!!」
ミミルはウォードの腕を引っ張り換金カウンターから横に入った大きめの倉庫へ移動していった。
「ミミルさんどうしたの?」
「はぁ~・・・ウォード君。あんな所でマジックバックなんて使っちゃだめよ!マジックはそれでなくても高級なんだから、誰かから狙われるかわかったもんじゃないのよ?そりゃ高ランクの冒険者には必須アイテムだけど、あなたのような冒険者なりたての初心者がそんな物をあからさまに使っていたら何が起きるかわかったもんじゃないわ!!」
「えぇ~?でもこれって俺専用だから取っても使えないよ?マジックバックってそういうもんじゃないの?」
「それでもよ!!」
う~んわからん。取っても使えないものを犯罪までして取ろうとするかな?まぁもし?そんな人が来たら返り討ちにするけどね
「う~ん・・・まぁいいか。ミミルさんがそう言うならそうしようか」
「はぁ・・・わかってもらえたらいいのよ。それじゃあそのマジックバックに魔物がどれ位入ってるのか教えてもらえる?」
「えっと~・・・さっきゴブリンを30体くらい出したから・・・あとゴブリンが60体くらいと~オークが70体くらいと~ハーピーが40体くらい?処分したいのはそんくらいかな?」
「・・・そのマジックバックってどんだけの容量があるのよ・・・」
「あぁこれはばーちゃんが作ってくれた特別性だから容量がいっぱいになった事ないかな?」
ミミルは愕然としていた。今言った魔物の数が入るマジックバックでも金貨数百枚はくだらない値段になるのだ。だがそれ以上入るとなるともう想像もできない。
「ウォード君!いい?!そのことは一切他言無用とします!誰にも容量の事を言ってはダメよ!」
鬼気迫るミミルの表情にうなずくしかなかった。
そんな大変なものなのかな?ばーちゃんはそんな事ぜんぜん言ってなかったけど・・・
「とりあえず、今言った数を全部ここにだしてもらえるかしら?換金にも時間がかかるだろうし、その間にGランクの依頼でも受けてくれば終わってると思うわ」
「は~い」
ミミルの指導どおりにGランクの常設依頼<薬草採取×10>を受け西の平原へ行くことにした。薬草ならマジックバックに入ってるのだが、西の平原へは行ったことがないため、これも経験と思い自分の足で向かった
「まだお昼前だから、お昼過ぎには終わりそうだな!」
「がぅ!」
西の平原には薬草が生えており、クロと手分けして薬草を採取する。クロは鼻を使い場所を見つけ、それをウォードが丁寧に採取する。
クロの鼻ならば広い平原でもすぐに薬草を見つける事ができるようだ。
2時間後
「よ~し!こんなもんでいいんじゃないかな?お腹も空いてきたし帰ろうか?」
ウォードが採取した薬草は全部で150本。
常人が2時間で採取できるのは30本が限界だろう
「がぅがぅ」
昼過ぎになり街へ帰ろうとクロに伝えたが不穏な気配を感じた
「ねぇ本当にやるの?!」
「しっ!静かに!バレちまうだろうが!」
「やめておいた方がいいって!こんな事がギルマスにバレたら!」
「うるせぇ!奴はミミルさんの前で俺様をコケにしやがったんだ!なーに、ちょっと痛めつけて教育してやるだけだって!そう!これは新人の教育なんだ!」
これでもダイルはCランク冒険者だ。普通の新人冒険者に遅れをとるような強さではない。
普通の新人冒険者ならば・・・
「ガゥガゥ!」
「うん。わかってるよ、気配がダダ漏れ出しね」
ウォードは気がついていた
こんなだだっ広い平原で気配を隠す事なく姿だけ隠していればよからぬ連中だとすぐにわかってしまう
まったく
なにがしたいんだか・・・
「おーい、そこに居るのはわかってるから出てきなよ」
向こうから動かないのでこちらから声をかけてみる
「ちっ!気づいてやがったか!俺様を覚えているな!Cランク冒険者のダイルだ!先輩冒険者として貴様に教育をしてやろうと来てやったんだ!ありがたく思え!!」
「あぁ万年Cランクのおじさんね」
「てめぇ!ふざけてやがるのか!俺様が直々に教育してやろうって言ってんだ!」
「あぁ・・・えっと?そういうのは間に合ってるのでいいです?」
「ガゥ」
「てんめぇ!!頭来た!おい!魔法で奴の足を止めろ!」
「ちょっとダイル!本気で言ってるの!?」
「いいからやれ!!」
「もう…どうなったって知らないからね!」
女の人は魔道士なのかな?
詠唱を始めると自身の周囲に魔方陣が形成され持っている杖に魔力が集中しだした
・・・
・・・
・・・
詠唱おっそ!!なに??これで全力なのかな!?あぁ~あ魔力制御も安定してないから余計に魔力を使ってるし、集中しようとして目までつぶってるよ、この隙に攻撃されたらどうするんだろ?あっ、そっか、だから女の人から離れないのかな?う~ん、こんな事やってちゃダメだな。こんな姿をばーちゃんに見られたら逆に怒られちゃうよ
「あのぉ~・・・」
「お!ビビりやがったか?はっはっは!今更謝ってももう遅いぞ!」
「いやぁそうじゃなくて、早くしてもらえない?俺もクロもお腹空いたから、早く帰ってお昼ごはん食べたいんだよね」
「ぬくくく!!どこまでも舐めやがって!!!かまわねぇ!やっちまえ!」
「ウィンドバインド!!」
風の拘束魔法ウィンドバインド
風の力を利用して相手を動けなくする魔法だ
「おっ?やっときた・・・なにこれ?これがウィンドバインド??えっ?えっ?あんなに詠唱に時間かかったのにこれ?本気で言ってるの?」
「はぁっはっは!!これで動けないだろ!!今度は俺様の番だ!一撃必殺の鉄拳を食らいやがれ!!」
ウォードはため息が出ていた
真剣にやってこれだけの威力しか出ない魔法にも、全力であろうが遅すぎる男にも、鍛錬を怠っている証拠である
「もういいか」
ウォードは体を拘束している魔法を腕の力を外側に入れるだけで破るとダイルの放った拳を指だけで止めた
「なっ?!?!」
「なっ?!?!じゃないよまったく、こっちがびっくりだよ?なにこれ?ふざけてるの?本気を出してこれなの?そこの女の人も全力であの拘束魔法なの?」
「ぁ・・・ありえねぇ!!俺の一撃必殺の拳が指一本で止められるなんて!こいつバケモn...ぶへぁ」
ひどいな、そっちから手を出して来たのにバケモノ扱いとか。このくらいグリムさんでもできるよ・・・たぶん
手刀1発でダイルを失神させ、一緒に居た女の人をひと睨みするとガクブルと尻餅をついた
「このおじさんが起きるまでに事情を知りたいんだけど、教えてくれる?」
「は、はひっ!」
噛んだ。そんなに怖がらなくてもいいんだけどね
「え、えーと、ダイルが今朝の事を気にして,,,」
「今朝の事って?ギルマスに怒られた事?」
「は、はい。そうです。それでミミルさんの前で恥をかかされたと思って、新人冒険者に鉄槌を食らわすんだって言ってこんな事に...」
「はぁ~。ギルマスが言っていた事がよくわかるわ。それで?返り討ちにあったけどこれからどうしたらいいと思う?」
「わ、私は関係ないのでこのまま帰らせてもらいたいかなぁ,,,なんて。」
「そんな訳にはいかないでしょ」
「私はやめようって言ったんです!でもダイルが!!」
「それでも新人冒険者に魔法を使うってどうなの?俺じゃ無かったら魔法によっては大怪我してたよ?」
「で...でも・・・」
「うぅ...ん?なんだ?俺はどうしたんだ?」
「もう、やっと起きたよ」
「ひっ!バケモn...ぶへぇ」
「言わせないよ?」
また気絶してしまったため、さらに起きるまで待つ
「本当!すいませんでした!!」
「すいませんでした!!」
土下座。
リアル土下座ってちょっと引くよね
「まさかウォードさんが見た目とは裏腹にこんなにお強いなんて思ってもみなかったんで」
軽くひどい事言ってね?
「はぁ...もう面倒くさくなってきた。お腹もすいたし、あとの事はギルドに帰ってから話すってことでいい?」
「そ・・・それだけはご勘弁を!!」
「問答無用」
「ゆるしてぇ~~~」
2人をロープで縛り上げ、泣き叫ぶ2人を引きずりながら街に入りギルドまでの道のりがさながら市中引き回しの刑のようだった
ギルドの中に入るとミミルが驚きすぐに駆け寄ってきたが、事情を説明するとため息を出しながらギルドマスターへ報告した
「あぁ~なんだ、災難だったな」
ギルドマスターがウォードへの一言目がそれだった。
「ギルドマスター!!これはギルドメンバーの不祥事ですよ?!そんな一言で済ませないでください!!ウォード君はまだ10歳なんですよ?そんな子を狙った暴力などあってはならないんです!もしウォード君がこれで怪我でもしていたら由々しき事態です!」
「こいつがそんなたまかよ!逆にのしちまってるじゃねーか!」
「え~ん…ミミルさん・・・こわかったよ~」
「お前も下手な演技してんじゃねーよ!!」
「あぁ~・・・これでお昼ごはん食べそびれたなぁ~おなかすいたなぁ~クロもお腹すいたよなぁ~」
「がぅ~~~。」
「あ~あ~あ~!わかったよくそ!酒場で俺のツケで好きなもん食っていいからそのうざい顔をやめろ!」
「まじで?!やった!!おいクロ!なんでも好きなだけ食っていいってさ!行こうぜ!」
「あっ!おい!好きなだけなんて言ってねぇぞ・・・ったく...」
ギロッ
ミミルがギルドマスターを視線で制する。
自分の担当冒険者を危険にさらした事に対する反抗心だ。
「お前もいい加減睨むのをやめろ!あいつらの処分は1ヵ月の無料奉仕に決まったんだ!あのガキもそれで納得したんだからいいだろうが」
「ガキじゃありません!ウォード君です!!」
「おっ?っくっくっく!やっとお前も心のつっかえが取れてきたみたいじゃねーか?」
「えっ...それはあの子がまだ子供だからで・・・」
「子供とかは関係ねぇよ、あのガキはまだまだ世間をしらねぇしっかりと面倒を見てやれや」
「はい…」
その頃ウォードとクロはというと
「おじさん!!これおかわり!」
「がう!」
「クロもか?さっきのおかわり2つにして!!」
酒場にて大食い選手権かの如く
食い散らかしていた