雪の日
ミルキーグレイの雲が
静かに静かに覆っている空を見上げて
小さな女の子が立ち尽くしていました。
女の子は
そこから落ちて来る雪、
一つとして同じ形のない
無数の緻密なモチーフを
真剣に眺めていたのでした。
あんまり夢中で眺めていたので
女の子は自分の体が凍えていることも
お腹が空いていることも
自分が誰なのかすら
すっかり忘れてしまっていたのでした。
すると
少し離れたお家のドアが開いて
お母さんが女の子の名を呼びました。
女の子はそれで
自分がこの家の女の子だったことも
お母さんが大好きだったことも
一気に思い出したのでした。
女の子のお家は
暖炉に温かな炎が燃えていて、
お鍋にはトロリと煮込んだシチューが
湯気を立て、
パイの焼けるバターの美味しそうな匂いで
いっぱいなのでした。
お母さんの「ご飯よ〜」の声で
女の子はそれを思い出すと、
くるっと回れ右をしてお家に向かって
駆け出して行きました。
女の子がお家に入ってしまった後も
ミルキーグレイの雲からは
相変わらず様々な細工の結晶が
次から次へと
静かに静かに
降り続けているのでした。
純白の地面には
小さな小さな足跡が
女の子のお家に向かって
真っ直ぐ
残されていました。