Bit.0001 「Living on my own」
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3018年4月末。キャリアを強制的に終了させられた俳優アンドロイド・デルフィーニ式762号機は、さらなる悲劇に出会う。キョビッツ市内のアンドロイド製作工場に、デルフィーニは解体作業のため運び出される。
作業員たちは彼の体を作業室に運び出し、すぐに再起動される。彼の目に映ったのは、数々のカッターや解体用の器具ばかりだ。自分の中に恐怖感が煽り、彼は脱出を試みる。だが作業員たちは彼を決して逃さない。
デルフィーニの体は解体作業室で硬く縛られている。カッターの音が余計に彼の恐怖心を増幅させる。
「嫌だ… 嫌だ…!」
カッターが自分の肌に触れると、彼の痛覚リアクターが反応を示し悲鳴を上げさせる。
「ああああああああああああああ!!!!」
この時、彼の頭には自身の思い出が過る。そこには自身の最大のパフォーマンスの記憶が。
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今から20年前の話に遡る。彼がデルフィーニ第762号機として発表されると、すぐに映画のオファーがやってきた。理由としてあるのは、彼を含めたデルフィーニ式アンドロイドの高い学習力や数えきれないほどの機能を持っている事。現代の演劇に限らず古代の演劇にも生身の人間より卓越したパフォーマンスを披露し、その飛躍した姿が国内で高い人気を得た。
デルフィーニ762号機の最大のパフォーマンスは、自身が出演した演劇『カリガリ博士』にあった。これは大昔に公開された同タイトルのドイツ映画に基づき、3013年7月に公演が行われた。デルフィーニは本作で精神異常を来したカリガリ博士によって操られた夢遊病患者・チェザーレを演じ、その演技が『怪演』と評されるほど注目を集めた。
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回想が続いている間、デルフィーニから次々と義肌が剥がされていく。
デルフィーニの脳内には自身の管理者の一人であるカミーン博士の声が響いた。
『762号、あなたは一番よ…』
それは、カミーンが生前デルフィーニ762号機に最後に贈った言葉だった。
尚、カミーンは死亡しており、現時点までデルフィーニには管理者がついていなかった。一般的なケースでは、ロボットが職に就く場合メーカーから最低2名の管理者が必ずつけられる。
その言葉を胸に、デルフィーニは自分の気持ちを落ち着かせていく。デルフィーニは自身のファームウェアを通して痛覚や感情表示機能を切ろうとしていく。
『俺は一番だ… 俺は一番だ… 俺が一番だ…』
しかし彼の感情表示機能はとどまらず、叫びはまだ部屋中に響く。解体の様子を見ていた所属事務所の代表者たちはいたためらなかった。
「無駄に高ぶってるな…」
「怯えています。恐怖も含めあらゆる感情が沸点に達しているのはお分かりになるでしょう」
「またしても機械の話か…もうそんな細かい話はいらん!」
「とにかくアイツは学習し過ぎていた」
事務所代表の一人は作業員にデルフィーニの痛覚と感情表示機能を強制解除するよう促した。そして、彼は悲鳴を上げなくなりそのまま解体が続いた。
解体作業が終わると、彼の体は機械捨て場に捨てられる。そこには数え切れぬほどのアンドロイドやロボットの残骸が山のように積んであった。
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数時間後、デルフィーニは地面に這いつくばったまま再起動した。彼が起きると視界には壊れたヒューマノイドが目の前にあった。
「うっ… 何で… 俺… 起動したんだ?」
彼の視界に入った自分の腕が自分にとっては何よりも衝撃的だった。あらゆる機械部品が露わになり、その時デルフィーニは裸体丸出しの状態だった。その事態に彼はため息を放った。
「いやー、嘘だろ…」
デルフィーニはギシギシ音を鳴らしながら立ち上がり、無気力のまま機械捨て場を出た。彼が道路を歩くと、通行人たちが彼に怯えて逃げていく。
道中の縦ガラスに映った自分の姿を見て、デルフィーニは苦い笑いをこぼした。
「はは、久しぶりだな。こんな姿。流石にこのまま歩くのもな…」
デルフィーニはたまたま歩いたビルの谷間に捨ててあったノベルティーの侍の鎧と謎の仮面を着用し、キョビッツを出る事にした。そのまま彼はバスに乗ると、中の住民の視線は彼に向き逆にデルフィーニが怪しまれる事に。
「ママー、あの人なんか変だよ」
「しーっ!」
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この頃、スケーマテリオの経済状況が非常に危ぶまれている。ロボットの台数が人間の人口の半分を上回ったため、電力供給に用いる経費が沸騰した。挙句の果てに多くのロボットが失職し、解体リストに加入された。
従業員ロボット、作家ロボット、会社員ロボット、軍用ロボット(一部を除く)など種類・職種問わず殆ど全てのロボットは同じ扱いを受けている。
芸能ロボットとして活躍するデルフィーニ式も例外ではなかった。
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数時間後、デルフィーニはパティシアにたどり着いた。彼が最初にした行動はとにかく職場を探す事だった。あちこち回るもどの職場にも受けられず、デルフィーニは街を放浪していく。
「うーん、どこ行ったら良いんだ俺は…」
デルフィーニは自分の持ち金を確認すると、100(ひゃく)scaemé(スキーメ)しか残されていない。それは一般ロボット(アンドロイド、ヒューマノイド、軍用ロボを除く)の半分量の充電料金に相当する。
「金ももうすぐなくなるし…」
悩みながら歩くと、デルフィーニの足は何らかのマシーンに当たった。突然の事でマシーンは驚き、声を上げた。
「やべっ!」
それは、道端に置いてあるキャッシュマシーンだったが、実はそのマシーンには二つ小さい腕がついており四輪走行で可動もできる。マシーンの中から小銭が沢山落ちて道路の隅々《すみずみ》まで転がっていく。
「あーなんて事してんだよ!」
「すみません…!」
落ちた小銭を拾っていくキャッシュマシーンを尻目に、デルフィーニは慌ててその場を離れて逃げていった。
「おい!待て!」
遠くへと走るデルフィーニのシルエットを見て、マシーンは何かを思い出した。
「アイツは、確か…」
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以前の場所からデルフィーニは住宅街へと移り、道もわからないまま迷子になってしまう。すると…
「おーい!話があるんだ!」
先ほど道端でぶつかられたキャッシュマシーンはデルフィーニに声をかけ、近寄ろうとする。デルフィーニは自分が相手に喧嘩を売ってしまったと勘違いし、またしても逃げようとする。
「おい!話聞けって!」
マシーンに強く止められ、デルフィーニはそのマシーンの前に土下座をする。
「ひいっ!すみません!本気で蹴ったつもりは!」
「え?何でそんなに怯えてんだよ?別に俺は無害だけど」
「ところでお前、デルフィーニ式か?」
「えっ?何で分かるんですか?」
「あの足、すげえ特徴的だからな… まあ、ゆっくり話そうぜ?タメでいいからさ」
マシーンはデルフィーニの隣に移った。変に接しようとするそのマシーンを、内心でデルフィーニは怪しむ。
「いやー、コインしか落ちなかったのは良かったよ。札まで行ったらアウトだけどな」
「悪かったよ!弁償したいけど今は…!」
「まあまあ、気にすんな。あ、そうだ。」
「俺の名はキャッシュ。ところでお前どっから来たんだ?」
「俺、この前まではキョビッツに…」
「キョビッツ!?わざわざあそこから来たのか?」
「ああ。ついこないだ仕事無くしてて…何かできないかってここへ来てみたんだが…」
「俺らロボットには厳しい時期だ。いつ壊されるか分からんし、働くチャンスも与えられてない」
「自分が人間だったら何事も上手くいくはずなのに…もうどうすればいいんだよ!?」
デルフィーニが頭を抱えると、キャッシュは一つ提案をした。
「なあ。俺と旅に出ないか?」
「えっ?いきなり旅?」
「このままじゃイヤだろ?俺たち二人で、運命を変えようぜ」
すると、キャッシュは自分の持ち金を見せた。その中身はなんと計1000万スキーメほどの大金があった。その額はデルフィーニの一ヶ月分のギャラの額に近い。
「お前!?どこからの金だよそれ!」
二人が話している途中、後ろから複数の住民が現れた。彼らはここ最近キャッシュに金を盗まれたという。
「あそこだ!」
「あの野郎…!今度は逃がさないぞ!」
「行くぞ!デル!」
「えっ!?」
デルはキャッシュと共に逃走をはじめる。
「お前!泥棒してたのかよ!?」
「悪く思うな!これも一つの生きる術だ!」
「お前のモンじゃないんだぞ!返せよ!」
「なあ!そういや名前まだだったな!俳優だったろ?」
「はあ!?ってか色々俺の事知りすぎだろ!」
「どっかのスパイかお前!?」
「探究心だよ!というか実際デルフィーニはみんな俳優さんが多いけど!」
「うーん…!芸名は昔持ってた!だが今は普通に『デルフィーニ』だ!」
「だからそれ式名だろ!他とごっちゃになんないか?」
「しょうがないだろ!もう芸名は使えないんだ!」
「なら『デル』と呼ばせてくれ!」
「はあ…!もう勝手にしろ!」
二人は街外れに来ており、移動手段がブランコ車しか残されていない。車体は上にあるレールから吊るされ、一定の速度や他の車体との距離を保ちながら淡々と進んでいく。基本的には『個人運用モノレール』だが、この国では俗にいう『ブランコ車』である。
「他に道がない…このまま乗って移動しよう!」
キャッシュはブランコ車に乗ろうとするがデルは躊躇った。
「おい!何ぼーっとしてんだ?早く乗れ!」
「悪いがここでさらばだ。アンタと一緒に犯罪者になるのはごめんだ!」
「ならどうするつもりだ?」
「無職無一文。おまけに裸体丸出しじゃあ色々大変だぞ」
デルは自分の選択が正しいと粘り、キャッシュの話を無視する。
「旅して、何かできることはないか探して、そしてお前の元の見た目を取り戻そう!」
キャッシュが最後に出した提案にデルは揺らいだ。それはすなわち自分が達していきたい目標だった。見逃せば二度とこのようなチャンスはあるかとデルは深く悩み、最終的にキャッシュからの話を鵜呑みにする。
嫌々ながらもデルフィーニはキャッシュと同行をはじめ、住民や警察の追跡を逃れパティシアを出た。
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ブランコ車をデルとキャッシュは乗車している。車体はパティシアをかなり離れて進んでいく。
「はぁ…ホント後悔するぞ俺」
「何?なんか言ったか?」
「いや、何でもない」
「で、こっからどこへ行くんだ?」
「西へ向かえ!なんっつって」
「車、逆方向だぞ。いいのか?」
車体が東の方へ向かっている事をキャッシュは今さら気づいた。この時、最寄りのホームは郊外にあり到着するのにあと3時間ほど要する。
「まあこのまま行こう!」
こうして、デルの新たな日常は始まった。
初の作品投稿です!色々と難しい設定を作中でぶっ放しましたが、最低限の解説も作中・後書きの方にも足していきますのでお付き合いいただければと。
自己紹介に関しては、自分は海外出身・在住で日本語も勉強中の身です。文法、誤字諸々の指摘など誤字報告をしていただけると有難いです。
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